今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 松浦誠 岩手医科大学 薬学部 臨床薬学講座 地域医療薬学分野

監修: 中原 保裕 (有)ファーマシューティカルケア研究所

著者校正/監修レビュー済:2024/09/18
参考ガイドライン:
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 『制吐薬適正使用ガイドライン2023年10月改訂 第3版』を参照に、下記の点を加筆・修正した。
  1. オランザピン(商品名:ジプレキサほか)が、2017年12月改訂で抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)の適応追加となった。

概要・推奨   

  1. 嘔気/嘔吐の原因は非常に多岐にわたる。薬理学的には、嘔吐の原因は、中枢性と末梢性に分けられる。前者は延髄にある嘔吐中枢(VC)と第四脳室底部にある化学受容器引金帯CTZ直接刺激することでVCへ刺激を伝達して生じる。後者は反射性嘔吐とも呼ばれ消化管などの末梢臓器への刺激が求心路を経て嘔吐が生じる。
  1. 制吐薬として用いられている薬剤は、末梢性ドパミン受容体拮抗薬、セロトニン受容体拮抗薬(5-HT3受容体拮抗薬)、中枢神経のニューロキニン1(NK1)受容体拮抗薬、抗ヒスタミン薬(ヒスタミンH1受容体拮抗薬)、中枢性ドパミンD2受容体拮抗薬などに分類される。
  1. 前庭の異常を示唆する嘔気には、抗ヒスタミン薬であるジフェンヒドラミン・ジプロフィリン配合(トラベルミン)、d-クロルフェニラミン(ポララミン)などを用いる。
アカウントをお持ちの方はログイン
  1. 閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧には
  1. 抗がん薬投与後24時間以降経過して発生する嘔気は、遅発性嘔吐と呼ばれ、催吐性リスクに応じて積極的に制吐薬を予防投与する。高度催吐性リスク、中等度催吐性リスクの注射薬抗がん薬に対する制吐療法として、NK1受容体拮抗薬であるアプレピタント(イメンド)もしくはホスアプレピタント(プロイメンド)に加えて半減期の長い第2世代5-HT3受容体拮抗薬(パロノセトロン)などとデキサメタゾンを併用する。
  1. 2022年に5-HT3受容体拮抗薬であるグラニセトロン、オンダンセトロンに術後の消化器症状(悪心、嘔吐)が適応追加された。
  1. 閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要と
  1. 抗がん剤投与時に制吐薬の予防投与を十分行っても生じる悪心・嘔吐は、突発性悪心・嘔吐と呼ばれ、D2受容体拮抗薬、ステロイド、ベンゾジアゼピン系抗不安薬(ロラゼパム)など作用機序の異なる制吐薬を複数、定時投与する。
  1. 閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要
  1. オピオイド投与後数時間後に起きる嘔気に関しては、オピオイドCTZに発現しているμオピオイド受容体を刺激することによりドパミンの遊離を引き起こし、嘔吐中枢が刺激されることで生じる。このことから第1選択薬として抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン・ジプロフィリン配合[トラベルミン])や中枢性D2受容体拮抗薬であるプロクロルペラジン(ノバミン)などの使用を考慮する。
  1. 閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要と なります。閲 覧には ご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります
閲覧にはご契
閲覧にはご契約が
  1. 閲覧にはご契約が必要とな ります。閲覧に
  1. 閲覧にはご契約が必要となり ます。閲覧
  1. 閲覧にはご契約が必要となり ます。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご

総論 

総論  
  1. 悪心(嘔気)は嘔吐しそうな不快な感じと定義され、嘔吐とは、胃の内容物を強制的に排出(吐き出す)させる行為である。悪心(嘔気)/嘔吐の原因は非常に多岐にわたる。薬理学的には、嘔吐の原因は、中枢性と末梢性に分けられる。
  1. 中枢性の嘔吐は、延髄にある嘔吐中枢(VC)に刺激が加わったことにより生じる嘔吐、悪心である。嘔吐中枢に対する刺激は血中の化学物質の刺激により化学受容器引金帯(CTZ)を介して起こるものと、CTZを介さずに精神的・心理的刺激、半規管からの刺激等によって生じるものがある。血中の化学物質としてはドパミンやセロトニン、サブスタンスP、ヒスタミン、アセチルコリンが有名で、受容体としてはD2受容体、5-HT3受容体、NK1受容体の関与がある。
  1. 一方、末梢性の嘔吐は、反射性嘔吐とも呼ばれるもので、胸部、腹部等の臓器に生じた刺激が原因で反射的に生じるものである。末梢においても末梢にある5-HT3受容体、NK1受容体、D2受容体等が関与している。薬物などによる消化器粘膜への刺激による副作用もこれに属する。
  1. 原因疾患は多岐にわたり、消化器(刺激、炎症、粘膜病変、閉塞)、中枢神経系・前庭神経系、代謝性・内分泌性(妊娠)、薬剤など。心筋梗塞でも嘔気を来す。ある研究の救急外来に訪れた嘔気・嘔吐患者64人の原因は、胃腸炎19%、高血糖6%、アルコール中毒5%、胃炎5%、腸閉塞35%、胆嚢炎3%、膵炎2%、腎疝痛2%、不明55%であった。
 
制吐薬の種類:
  1. 上記のように嘔吐は中枢性と末梢性に分かれ、また、中枢性の嘔吐は、受容体としてはD2受容体、5-HT3受容体の関与などが示唆されている。これらの作用機序を基に、制吐薬として用いられている薬剤は、末梢性ドパミン受容体拮抗薬、5-HT3受容体拮抗型制吐剤(5-HT3受容体拮抗薬)、中枢神経の選択的NK1受容体拮抗型制吐薬(NK1受容体拮抗薬)、抗ヒスタミン薬、中枢性D2受容体拮抗薬などに分類される。
 
制吐薬の作用点

出典

中原保裕:処方がわかる医療薬理学2024-2025.Gakken、2024.p72 図1(改変あり)
 
  1. 例えば、頭を動かしたときに吐き気が起きる場合は、前庭の異常を示唆する。そのような嘔気には、抗ヒスタミン薬であるジフェンヒドラミン・ジプロフィリン配合(トラベルミン)、d-クロルフェニラミン(ポララミン)などを用いる。
  1. 小腸粘膜の細胞にある腸クロム親和性細胞からのセロトニンの放出による嘔気には、抗ヒスタミン薬の効果がある。
  1. 抗悪性腫瘍薬(抗がん薬)投与初期(24時間以内)に起こる嘔気は、抗がん薬が小腸粘膜の細胞を刺激しセロトニンを放出することにより起きるものであり、5-HT3受容体拮抗薬であるパロノセトロン(アロキシ)などに効果がある。また、腸炎による嘔気も同様の作用が働いており、5-HT3受容体拮抗薬の効果があるが、日本では保険適用ではない。
  1. 抗がん薬投与後24時間以降経過して発生する嘔気は、遅発性嘔吐と呼ばれ、NK1受容体拮抗薬であるアプレピタント(イメンド)に効果がある。パロノセトロン(アロキシ)を除く5-HT3受容体拮抗薬はこの遅発性嘔吐にはあまり効果がないことが知られている。
  1. 抗がん薬を投与する前に起きる嘔吐は、予測性嘔吐と呼ばれるが、不安などの背景が影響を与えており、ベンゾジアゼピン系抗不安薬(ロラゼパム)などを抗がん薬投与前に内服することで対応をする。
  1. 食後などに起きる吐き気や妊娠悪阻には、胃や腸の停留などの作用機序が考えられており、末梢性ドパミン受容体拮抗薬であるドンペリドン(ナウゼリン)、メトクロプラミド(プリンペラン)を用いることが多い。ただし、妊婦にはドンペリドン(ナウゼリン)は催奇形性の関係で禁忌であり、メトクロプラミド(プリンペラン)を用いる。
  1. オピオイドによる悪心・嘔吐[1]には、オピオイド投与初期に出現するものと、増量時に出現するもの、体動時に突然起こるものがある。これらはオピオイドCTZに発現しているμオピオイド受容体を刺激することによりドパミンの遊離を引き起こし、嘔吐中枢が刺激されることで生じると考えられている。また、前庭器に発現しているμ受容体を刺激することにより、ヒスタミンが遊離しCTZや嘔吐中枢を刺激することで引き起こされる。対策として抗ヒスタミン薬(トラベルミン)やD2受容体拮抗薬(プロクロルペラジン)が用いられる。
  1. ほかに、作用機序が不明であるが、抗がん薬投与時に5-HT3受容体拮抗薬とステロイドを併用することで効果が増強することが知られている。
  1. 術後の悪心・嘔吐をPONV(postoperative nausea and vomiting)と言い、欧米において入院期間延長や再入院の原因となることからエビデンスに基づいたガイドラインがある。
 
成人における術後悪心嘔吐(PONV:PostOperative Nausea and Vomiting)の危険因子

日本においてPONVに適応を有する制吐剤:
欧米においてはさまざまな作用機序の制吐剤が用いられているが、日本においては塩酸ペルフェナジン(ピーゼットシー筋注2 mg)、ジメンヒドリナート(ドラマミン錠50 mg)、ヒドロキシジン塩酸塩(アタラックス−P注射液)、ペルフェナジンフェンジゾ酸塩(ピーゼットシー散1%)、ペルフェナジンマレイン酸塩(ピーゼットシー糖衣錠)、ペルフェナジン(トリラホン錠)が、術前・術後の悪心・嘔吐の効能効果を有している。また、グラニセトロン塩酸塩注(カイトリル注)およびオンダンセトロン塩酸塩水和物注が術後の消化器症状(悪心、嘔吐)の適応追加予定である。(用法・用量はそれぞれの添付文書参照)
 
参考文献:
Gan TJ, Belani KG, Bergese S, et al. Fourth Consensus Guidelines for the Management of Postoperative Nausea and Vomiting. Anesth Analg. 2020 Aug;131(2):411-448. doi: 10.1213/ANE.0000000000004833. Erratum in: Anesth Analg. 2020 Nov;131(5):e241. PMID: 32467512.

出典

筆者提供
抗悪性腫瘍薬(抗がん薬)による悪心・嘔吐  
  1. 悪心・嘔吐は上部消化管に優位に存在する5-HT3受容体と第4脳室のCTZに存在するNK1受容体、D2受容体が複合的に刺激され、延髄の嘔吐中枢が興奮することで悪心を感じ、さらに遠心性に臓器の反応が起こることで嘔吐が引き起こされると考えられており、これらと拮抗する薬剤が制吐薬として用いられている。
 
 
抗がん薬の催吐リスク
  1. 高度催吐性:制吐薬を使用しないと急性期に90%以上の嘔吐事象を誘発する抗がん薬

これより先の閲覧には個人契約のトライアルまたはお申込みが必要です。

最新のエビデンスに基づいた二次文献データベース「今日の臨床サポート」。
常時アップデートされており、最新のエビデンスを各分野のエキスパートが豊富な図表や処方・検査例を交えて分かりやすく解説。日常臨床で遭遇するほぼ全ての症状・疾患から薬剤・検査情報まで瞬時に検索可能です。

まずは15日間無料トライアル
本サイトの知的財産権は全てエルゼビアまたはコンテンツのライセンサーに帰属します。私的利用及び別途規定されている場合を除き、本サイトの利用はいかなる許諾を与えるものでもありません。 本サイト、そのコンテンツ、製品およびサービスのご利用は、お客様ご自身の責任において行ってください。本サイトの利用に基づくいかなる損害についても、エルゼビアは一切の責任及び賠償義務を負いません。 また、本サイトの利用を以て、本サイト利用者は、本サイトの利用に基づき第三者に生じるいかなる損害についても、エルゼビアを免責することに合意したことになります。  本サイトを利用される医学・医療提供者は、独自の臨床的判断を行使するべきです。本サイト利用者の判断においてリスクを正当なものとして受け入れる用意がない限り、コンテンツにおいて提案されている検査または処置がなされるべきではありません。 医学の急速な進歩に鑑み、エルゼビアは、本サイト利用者が診断方法および投与量について、独自に検証を行うことを推奨いたします。
薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※同効薬・小児・妊娠および授乳中の注意事項等は、海外の情報も掲載しており、日本の医療事情に適応しない場合があります。
※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、エルゼビアジャパン編集部によって記載日時にレセプトチェックソフトなどで確認し作成しております。ただし、これらの記載は、実際の保険適応の査定において保険適応及び保険適応外と判断されることを保証するものではありません。また、検査薬、輸液、血液製剤、全身麻酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適応の記載の一部を割愛させていただいています。
(詳細はこちらを参照)
著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
松浦誠 : 特に申告事項無し[2025年]
監修:中原 保裕 : 特に申告事項無し[2025年]

ページ上部に戻る

制吐薬(薬理)

戻る