今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 梁正淵 済生会湘南平塚病院 内科・脳神経内科/順天堂大学医学部脳神経内科

監修: 高橋裕秀 昭和大学藤が丘病院 脳神経内科

著者校正/監修レビュー済:2025/04/23
参考ガイドライン:
  1. Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies Fourth consensus report of the DLB Consortium. Neurology 2017 Jul 4 89(1);88-100.
  1. Research criteria for the diagnosis of prodromal dementia with Lewy bodies. Neurology 2020 Apr 25 94(17) 743-755.
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行い、下記の点を加筆・修正した。
  1. 処方例と症例を追加した。
  1. 2024年9月24日、レキサルティ(一般名:ブレクスピプラゾール)がアルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動又は攻撃的言動の効能効果の追加承認がなされた。DLBやPDDでも使いやすくなる可能性がある。

概要・推奨   

  1. いかに早期に診断し、早期の疾病介入ができるか ということは、『軽度認知症』という概念をはじめ、アルツハイマー病(型認知症)やパーキンソン病をはじめとしたレビー小体病における自律神経障害、嗅覚障害、REM睡眠行動障害などの合併が、認知機能障害やパーキンソン症状の出現前にも観察されうる症例があり、これらの症状を確認した場合には今回、“prodromal”という言葉が使われているように、中核症状がなくともその後の経過に注視していくことが大切ある。

病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. レビー小体型認知症は進行性の認知機能障害を呈するときに疑われる疾患である。
  1. 高齢者の認知機能障害を来す疾患ではアルツハイマー型認知症に次いで多い変性性認知機能障害疾患といわれている。
  1. 物忘れが主体となるアルツハイマー型認知症に対して幻覚、特に幻視、妄想などの認知症に伴う行動・心理症状behavioral and psychological symptoms of dementia(BPSD)が前景になることがしばしば見受けられることが特徴であり、これらは患者や介護者の日常生活における負担を増大しQOL低下の原因となることが多いため、早期に、的確に当疾患を診断し患者・家族に疾患をご理解していただき、適切な時期に適切な治療を開始することが望まれる。ときとしてパーキンソン症状、錐体外路症状、運動機能障害も合併し、さらなるQOL低下の要因となり、この場合はパーキンソン症状の治療も重要である。
  1. 中核症状のみならず、他の症状(支持的臨床症状)確認時には、その後の経過を注意深く観察することが大切である。
 
レビー小体

a:黒質;HE染色。
b:黒質;抗α-synuclein抗体を用いた免疫染色でのレビー小体とα-synuclein陽性neurites (Lewy neuritisと表現されることもある)。
c:大脳皮質;HE染色。
d:大脳皮質;抗α-synuclein抗体を用いた免疫染色でのレビー小体。

 
  1. レビー小体型認知症に関して(推奨度1、エビデンスレベルG)
  1. レビー小体型認知症は1961年に岡崎春雄とLewis E Lipkinによる症例報告[1]に始まるが、当疾患が大きく注目されたのは1976年よりの小阪らの一連の報告による[2][3][4][5][6][7]。彼は1990年までにLewy body disease、diffuse Lewy body diseaseという疾患名で当疾患を体系づくった。
  1. この一連の報告のなかで、レビー小体病という概念から神経病理学的に3群に分類した。間脳・脳幹にはレビー小体が多数存在するが、大脳皮質や基底核にはほとんどみられない一群。大脳皮質・基底核・間脳・脳幹に広範に多数出現する一群。この2群の中間的に間脳・脳幹に多数出現し、大脳皮質・基底核にも散在する一群。この3群で間脳・脳幹にレビー小体が限局する一群がパーキンソン病とし、大脳皮質・基底核・間脳・脳幹に広範に多数出現する一群をびまん性レビー小体病と提唱した(1996年には黒質にはわずかなレビー小体の出現にもかかわらず、大脳皮質に多数のレビー小体の出現を認める症例をレビー小体病の第4のタイプとして報告している)。
  1. その後アルツハイマー型認知症の病理変化の合併をもとにcommon formとpure formに分類し、それぞれの群での臨床的特徴をまとめた。common formは病理学的に多少ともアルツハイマー型認知症の病理像を合併し、臨床的には初老期、老年期に、60%は認知機能障害で発症し、25%はパーキンソン症状や自律神経症状から発症した。30%弱には終生パーキンソン症状の出現はみなかった。pure formは病理学的にはアルツハイマー型認知症の病理学的変化が乏しく、パーキンソン症状に進行性の認知機能障害が合併する群と定義づけた。
  1. このような報告があって、1990年 RH Perryらはsenile dementia of Lewy body type[8]、L HansenらはLewy body variant of Alzheimer’s disease[9]という疾患名で同様の、類似の一群を報告した。そこで1995年Ian G McKeithらが中心となりNewcastle upon Tyne, UKで『The 1st International Workshop Dementia with Lewy Bodies』が開催され、dementia with Lewy bodies(DLB)という疾患用語・疾患単位が提唱され、第1版の臨床、病理におけるガイドラインが示された[10]。このガイドラインには小阪の報告内容が随所に取り入れられている。
  1. 以降、この診断基準の妥当性、信憑(頼)性に関して感度、特異度における報告がさまざまなグループよりなされ、2003年9月に『The 3rd International Workshop on Dementia with Lewy bodies and Parkinson’s disease dementia』が、再びNewcastle upon Tyne, UKで開催され、2005年改訂版の臨床診断基準が発表された[11]
  1. 2015年12月にフロリダで『International Dementia with Lewy Bodies Conferebce』が開催され2017年に『Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies Fourth consensus report of the DLB Consortium.』として Neurology 2017 Jul 4 89(1);88-100[12]に掲載された。変更点は、臨床的特徴と各種検査項目が『バイオマーカー』として区別・確立され、『中核的症状』と『バイオマーカー』の組み合わせで『Probable』『Possible』に診断する形式になった。臨床症状では『レム睡眠行動障害』が、諸検査項目『バイオマーカー』では『MIBG心筋シンチ』が診断における比重が高められた。
  1. 原文中、『Clinical features』の項目で、認知機能障害に対する心理検査で具体的な検査が示され、施行を推奨しており、これは、内容的にはDSM-5の改訂に準じたものと思われる。また、『Core clinical features.(中核的臨床症状)』の『Fluctuation.(変動)』や『Visual hallucinations.(幻視)』においてもスケールを用いてのスコア化を推奨しているのは同様である。『Parkinsonism.(パーキンソニズム)』では無動、安静時振戦、固縮のいずれか一つのみでも記載を必須としている。
  1. 『Supportive clinical features.(支持的臨床症状)』では、新たなものとして過眠と嗅覚障害を取り上げている。これは、国内においてもパーキンソン病や認知機能障害性疾患において話題になっていることは周知のごとくである。
  1. この『Supportive clinical features.(支持的臨床症状)』には、『重度の自律神経障害、例えば、便秘、起立性低血圧、尿失禁』が記載されている。自律神経障害に関しては前改訂(Neurology 2005 Dec 27 65(12) 1863-1872.)から記載された項目であるが、Pure autonomic failure (PAF)という観点から2017年にThe Autonomic Disorders Consortiumからは前方視的に、Mayo Clinicから後方視的の報告がされている[13][14]。それぞれ、結果は異なるものの、DLBにおいても自律神経障害は重要な症状発症前のマーカーになりうることが指摘されている。
  1. 今回は、2019年6月に米国ネバダ州ラスベガスで開催された国際レビー小体型認知症会議(The International Lewy Body Dementia Conference)が開催され、その後のリヴューを含めた報告が、『Research criteria for the diagnosis of prodromal dementia with Lewy bodiesという表題でNeurology 2020 Apr 25 94(17)[15]に掲載された。アルツハイマー病やパーキンソン病に代表される神経変性疾患、特にコンフォメーション病と呼ばれる神経変性疾患に関しては、主症状発症前にすでに異常蛋白質の沈着は始まっており、いかにこの発症段階前、前段階(“prodromal”という言葉で表現されることが多い)で診断し、早期の介入に結び付けていくか ということが大きな関心事となり、注目を集めていることが反映されていると思われる。これは、『軽度認知症』という概念や、アルツハイマー病(型認知症)やパーキンソン病をはじめとしたレビー小体病における自律神経障害、嗅覚障害、REM睡眠行動障害などの合併が、認知機能障害やパーキンソン症状の出現前にも観察されうる症例があり、これらの症状を確認した場合には中核症状がなくともその後の経過に注視していく必要がある。今回の報告は、現状ではすぐに臨床応用できるものではないとされ、研究・リサーチ段階での使用を目的としており、今回は、あえて原文で記載するので参考にしていただきたい<図表><図表><図表><図表>
  1. ここでは、レビー小体型認知症の前駆期として、1)軽度認知症、2)せん妄発症、3)精神症状発症 の3系が示されている。
  1. “prodromal”という語は、症候前認知症期(prodromal AD)という用語は2007年 NINCDS-ADRDAの研究用改訂版でAD発症以前をpreclinical AD,MCIを含む症候性認知症期をprodromal AD明らかな認知症を呈する時期をAD dementiaとしたProdromal ADはMCI due to ADとほとんど同義であり、Prodromal LBDに対し、(1) mild cognitive impairment(MCI)、(2) delirium-onset、(3) psychiatric-onsetの分類は混乱をきさないか心配ではあるが、大切なことは、せん妄や、精神症状に遭遇した際にはDLBを鑑別に挙げることが大切なことと思われる。
  1. 日本においては『痴呆』という用語が2004年末に『認知症』と変更が促されたと同様、DSM 5では、それまでの『dementia』という用語に変わり『neurocognitive disorders』という用語が用いられ、これは『major neurocognitive disorder』、『mild neurocognitive disorder』に分類され、『mild neurocognitive disorder』は『MCI』に相当するとされている。したがってDSM 5では『Dementia with Lewy bodies』に『Dementia』という用語は外され、『Major Neurocognitive Disorder with Lewy bodies』と記されたが、日本語は『レビー小体病を伴う認知症』と訳されている。そしてこの疾患をコーディングする際、『Note:Code first 331.82 (G31.83) Lewy body disease』とも記されている。DSM 5は『Major or Mild Neurocognitive Disorder Due to Parkinson’s Disease』という項目も設けており、『パーキンソン病の認知症』とは区別し、DLB Consortiumと同様に『Neurocognitive Disorder with Lew bodies』とは区別する立場にある。『Major or Mild Neurocognitive Disorder Due to Parkinson’s Disease』にも疾患をコーディングする際の注意事項が記されているが、ここには、『Note:Code first 332.0 (G20) Parkinson’s disease』と記されている。
  1. ここで問題なのは、『Lewy body disease=レビー小体病』という用語の始まりは、先にも記した小阪憲司が1980年 精神神経学雑誌で『“Lewy小体病”の臨床神経病理学的研究』[4]で初めて用い、彼はLewy小体がその病態に何らかの影響を及ぼしている疾病の一群としてとらえ、脳幹中心に出現しているものがパーキンソン病、その出現が大脳皮質広範に及んでいるものが、その後命名された、『びまん性Lewy小体病;diffuse Lewy body disease/diffuse type of Lewy body disease』であり、この項目の『レビー小体認知症 Dementia with Lewy bodies』とほぼ同義とされている。『Lewy body disease=レビー小体病』にはパーキンソン病も含まれる。したがって、DSM 5のこの分類においても、また、日本語訳の『Lewy小体病に伴う認知症』となっていることも『Lewy body disease=レビー小体病』の概念に混乱をされる方もいるのではないかと危惧している。DLB ConsortiumはDLB/PDDの区別が困難な場合など、『Lewy body disease=レビー小体病』を用いることを推奨している。筆者は、『Lewy body disease=レビー小体病』という用語は、あくまでも小阪が命名したもので用いるべきと考えている。
病歴・診察のポイント  
  1. どのような認知機能障害に関係する症状の出現なのか。中核症状か、いわゆる周辺症状 BPSDか。また、それらの症状はいつから、どのようなときに出現しているのかを具体的に聞きとる。

これより先の閲覧には個人契約のトライアルまたはお申込みが必要です。

最新のエビデンスに基づいた二次文献データベース「今日の臨床サポート」。
常時アップデートされており、最新のエビデンスを各分野のエキスパートが豊富な図表や処方・検査例を交えて分かりやすく解説。日常臨床で遭遇するほぼ全ての症状・疾患から薬剤・検査情報まで瞬時に検索可能です。

まずは15日間無料トライアル
本サイトの知的財産権は全てエルゼビアまたはコンテンツのライセンサーに帰属します。私的利用及び別途規定されている場合を除き、本サイトの利用はいかなる許諾を与えるものでもありません。 本サイト、そのコンテンツ、製品およびサービスのご利用は、お客様ご自身の責任において行ってください。本サイトの利用に基づくいかなる損害についても、エルゼビアは一切の責任及び賠償義務を負いません。 また、本サイトの利用を以て、本サイト利用者は、本サイトの利用に基づき第三者に生じるいかなる損害についても、エルゼビアを免責することに合意したことになります。  本サイトを利用される医学・医療提供者は、独自の臨床的判断を行使するべきです。本サイト利用者の判断においてリスクを正当なものとして受け入れる用意がない限り、コンテンツにおいて提案されている検査または処置がなされるべきではありません。 医学の急速な進歩に鑑み、エルゼビアは、本サイト利用者が診断方法および投与量について、独自に検証を行うことを推奨いたします。
薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※同効薬・小児・妊娠および授乳中の注意事項等は、海外の情報も掲載しており、日本の医療事情に適応しない場合があります。
※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、エルゼビアジャパン編集部によって記載日時にレセプトチェックソフトなどで確認し作成しております。ただし、これらの記載は、実際の保険適応の査定において保険適応及び保険適応外と判断されることを保証するものではありません。また、検査薬、輸液、血液製剤、全身麻酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適応の記載の一部を割愛させていただいています。
(詳細はこちらを参照)
著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
梁正淵 : 特に申告事項無し[2025年]
監修:高橋裕秀 : 特に申告事項無し[2025年]

ページ上部に戻る

レビー小体型認知症

戻る