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改訂のポイント:
  1. 『がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2022』『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』を参照に、下記の点を加筆・修正した。
  1. 薬物の投与設計に用いる腎機能評価法
  1. 薬剤性腎障害の対策
  1. 定期レビューを行い、腎機能低下にかかわらず通常量投与が可能な薬物とその例外、薬剤性腎障害の分類と原因薬物などについて加筆を行った。

概要・推奨   

  1. 機能低下患者では水溶性の未変化体や脂溶性薬物が代謝されて親水性になった代謝物、抱合体が蓄積しやすい。代謝物、抱合体は活性を有する場合に、有害事象などの問題が発生する。
  1. 腎機能の推算法には、血清クレアチニン値を用いたCockcroft-Gaultの式によるクレアチニンクリアランス推算式や日本人GFR推算式、シスタチンCを用いた日本人GFR推算式などがある。それぞれの推算式の特徴や欠点を理解し、投与設計に用いるのが肝要である。
  1. 患者の腎機能および薬物の尿中未変化体排泄率がわかればGiusti-Hayton法によって投与補正係数を算出し、至適投与量を求めることができる。減量するか投与間隔を延長するかは、薬物の特徴や患者の体格に応じて決定する。
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総論 

腎機能低下患者での薬物投与量設定とその理由  
機能低下患者での薬物投与設定基本原則
  1. 尿中活性体排泄率の高い薬物(ジゴキシン、ファモチジン、アシクロビル、プレガバリン、バンコマイシンなど)の常用量を腎機能低下患者に投与すると、容易に中毒性副作用が起こる。
  1. 薬物の尿中排泄率が高いほど、また腎機能が低下するほど、1回投与量を減量するか、1回投与量はそのままで投与間隔を延長する必要がある。
  1. ただし、これらの尿中排泄性薬物は、腎機能が低下するほど消失半減期が延長し、血中濃度が定常状態に達する時間も延長するため、感染症などの急性疾患では初回投与量は減量せず、負荷投与することが勧められる。
 
腎排泄型薬物の投与量設定:
(1)腎排泄により消失する薬物――一般的に水溶性薬物は腎排泄型:
  1. 腎臓は異物である水溶性薬物、あるいは肝臓によって極性化(親水性化)反応を受けた薬物の代謝物を尿中に排泄する最も重要な排泄臓器であり、一般的に水溶性薬物は糸球体濾過された後でも尿細管で再吸収されないため、腎排泄型薬物が多い。また脂溶性薬物は一般的に糸球体濾過された後、近位尿細管の刷子縁膜によって速やかに再吸収されるため尿中に排泄されることはなく、再び全身循環に戻る。
  1. 脂溶性薬物は肝臓で主にチトクロームP450(CYP)による第1相反応を受け、水溶性を増した代謝物になる。さらに第2相反応によりグルクロン酸抱合、硫酸抱合などの抱合化反応を受け、非常に極性の高い抱合体となって尿中に排泄されやすくなる。脂溶性薬物は活性を持たない代謝物、抱合体として尿中排泄されるものは多いが、活性体の消失は肝代謝によるため、一般的に腎機能に応じた減量をする必要はない。機能低下患者では水溶性の未変化体や脂溶性薬物が代謝されて親水性になった代謝物、抱合体が蓄積しやすい。ただし活性のない代謝物や抱合体が蓄積しても問題にはならない。
  1. 添付文書に書かれている尿中排泄率は代謝物を含めたものを示すことがあるが、この場合の尿中排泄率は尿中総排泄率を意味するものであり、尿中排泄における未変化体・代謝物の内訳、代謝物の活性の有無および活性代謝物の親化合物に対する活性比が記載されていない場合には腎機能低下患者の投与設計に役に立たない。腎機能低下患者で減量すべきは、尿中活性体排泄率(多くは未変化体排泄率)の高い薬物である。
  1. 薬効によって水溶性や脂溶性という特徴が類似するため、同様の薬物動態を示すことも多く、腎機能が低下していても通常量投与が可能な薬物群と、その薬物群のなかの例外、として整理・記憶することを推奨する。ただし、脂溶性薬物であっても減量する必要のある薬物も例外的に存在するため、次項で解説する。
 
薬物の腎排泄過程

出典

平田純生先生よりご提供
 
薬物の消失経路

出典

平田純生先生よりご提供
 
腎機能低下にかかわらず通常量投与が可能な薬物とその例外

*有機カオチン輸送系を介して腎排泄される
水色の薬効に入る薬剤はすべて減量の必要がない。

出典

著者提供
 
(2)脂溶性薬物でも腎機能低下で減量が必要なものもある:
  1. 前項に示したように一般的に水溶性薬物は腎排泄型であるが、脂溶性薬物がすべて肝代謝型とは限らない。薬物の再吸収と異なり、薬物が尿細管分泌される場合には血管側から尿細管腔側へと濃度勾配に逆らって能動的に輸送される必要がある。そのため尿細管分泌には必ず特殊な輸送系が関与している。尿細管に存在する輸送系(トランスポーター)には有機アニオン輸送系、有機カチオン輸送系およびP糖蛋白質があり、これらは不要な代謝産物や薬物などの生体異物の尿中排泄に重要な役割を果たしている。水溶性薬物は腎臓から排泄されやすいと前述したが、尿細管(特に近位尿細管で)分泌されやすい薬物は必ずしも水溶性の薬物とは限らない。近位尿細管上皮細胞に分布する排泄トランスポーターの基質になる薬物は脂溶性薬物であっても、また蛋白結合率が高い薬物であっても尿中排泄率が高くなることがあるため、要注意である。
  1. 例えばパーキンソン病や脳卒中後遺症のために用いられるため、血液脳関門を通過しやすく脂溶性が高いアマンタジン(シンメトレル)や、同様にパーキンソン病に用いられるプラミペキソール(ビ・シフロール)の尿中未変化体排泄率が各々90%、72%以上といずれも高いのは、これらの薬物が尿細管分泌を促す有機カチオントランスポーター(OCT1~3)の基質であるためである<図表>
  1. 生体に不必要、あるいは過剰な物質は、近位尿細管の有機アニオン輸送系・カチオン輸送系を介して尿中へ分泌される。有機アニオン輸送系は尿酸や有機カルボン酸など、有機カチオン輸送系はコリンなどの排泄のために用いられる。また、近位尿細管には排泄トランスポーターのP糖蛋白質が発現し、ジゴキシンなどの分泌に関与している。
 
(3)正確な腎機能と尿中活性体排泄率がわかれば腎機能に応じた用量設定が可能:
  1. 腎臓からの排泄率が高い薬物では腎機能低下により排泄が遅延し、正常腎機能者と同じ量・同じ間隔で投与すると、薬物の蓄積により思わぬ副作用を起こすことがある。
  1. ジゴキシンによる食欲不振・視覚異常、イミペネム(チエナム)やファモチジン(ガスター)、アシクロビル(ゾビラックス)による精神錯乱・意識障害、プレガバリン(リリカ)による意識消失、シベンゾリン(シベノール)による低血糖、ベザフィブラート(ベザトールSR)による横紋筋融解症などは、未変化体あるいは活性代謝物の尿中排泄率が高いために活性体が蓄積して発現する、腎機能低下患者に特有な中毒性の副作用といえる。
  1. 腎排泄によって消失する薬物では、投与量が同じでも血漿薬物濃度に個人差が生じることがあるが、これは腎機能の個人差によって説明できる。
  1. 例えば加齢によって主に呼吸器機能、心機能とともに、腎血流量が低下し、腎の動脈硬化も進行するため、腎機能は低下し、小柄で虚弱な80歳以上の高齢者では健常青年の1/2程度に腎機能(糸球体濾過値[GFR])が低下するといわれている。GFRを表す優れたマーカーとしてはイヌリンクリアランス(GFR)、実測クレアチニンクリアランス(CCr)があるが、クレアチニンは尿細管分泌されるため、CCrはGFRよりも20~30%程度高めの値になる。
  1. また、たとえGFRやCCrが測定できなくても、筋肉量の少ないフレイル患者を除けば、血清クレアチニン値がわかれば推算GFR(eGFR)や推算CCr(eCCr)は予測可能である。
 
腎機能の推算法:
  1. 腎機能の推算には日本腎臓病薬物療法学会web site内のeGFR-CCrの計算が使いやすい。各種の腎機能が推算できるだけでなく体表面積、理想体重も計算可能である。
  1. 計算式:eGFR:推定糸球体ろ過量(日本腎臓学会計算式)

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薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
浦田元樹 : 特に申告事項無し[2025年]
監修:浦田元樹 : 特に申告事項無し[2025年]

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腎障害と薬剤投与量

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