今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 林繁和 元名古屋掖済会病院消化器科

監修: 上村直実 国立健康危機管理研究機構 国府台医療センター

著者校正/監修レビュー済:2023/04/19
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行い、抗腫瘍薬による腸炎のうち、従来の細胞傷害性抗腫瘍薬とは発症機序の異なる免疫チェックポイント阻害薬による腸炎を加筆した。

概要・推奨   

  1. 下痢、血便、腹痛など腸炎を疑う場合はもちろん軽度の下痢の場合でも、薬剤性腸炎を念頭に置いて本トピックを参照していただきたい。
  1. 薬剤性腸炎を起こしうる薬剤を熟知していただくことにより、重症に至る前に対処できます。
 
*2016年のアメリカの感染症学会においてクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)は表現型、化学分類学、系統発生学による分類に基づいて、新しい属としてクロストリディオイデス属(Clostridioides spp.)が提案され、日本化学療法学会・日本感染症学会のClostridioides (Clostridium) difficile感染症ガイドラインでもこの用語が用いられている。

病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 薬剤性腸炎とは、文字通り薬剤によって誘発される腸炎のことであり、下痢、腹痛などの症状を来す疾患である。
  1. 薬剤性腸炎といえば、かつては抗菌薬投与後に起こる抗菌薬起因性腸炎が大半を占めていたが、これには偽膜性腸炎と出血性腸炎(非偽膜性)がある。
  1. 偽膜性腸炎の大部分はClostridioides (Clostridium) difficile(CD)の異常増殖により発症し、今日でも院内感染が問題になるなどしばしばみられるが、出血性腸炎は1980年代前半をピークに今日では激減した[1][2]
  1. そのほかに腸炎を引き起こす薬剤として非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)、金製剤、抗腫瘍薬、経口避妊薬、大腸検査前処置の下剤、漢方薬(山梔子)、ステロイド薬、免疫抑制薬、ランソプラゾール(タケプロン)、オルメサルタンなどが知られている。
  1. NSAIDs腸炎[3]は高齢化に伴う使用頻度の増加と、小腸・大腸内視鏡や小腸カプセル内視鏡(capsule endoscopy以下CE)の普及に伴って近年多数の報告がみられる。小腸CEを用いた検討としてはボランティアにジクロフェナク(ボルタレン)を服用させ、68%に小腸潰瘍を認めた報告[4]や、リウマチで3カ月以上NSAIDsを服用している患者で16例中13例に小腸にびらんないし潰瘍を認めたという報告[5]、3カ月以上NSAIDs内服の関節炎患者の71%に小腸粘膜障害を認め、コントロール群の10%に対し有意に高率であった報告[6]などがある。なお、小腸CEは比較的侵襲の少ない検査であり、ボランティアや健常者における治験も比較的行いやすいが、保険診療においては「上部消化内視鏡検査および大腸内視鏡検査で出血の原因が不明の場合」という制限がある。
  1. 病理組織学的特徴から診断されるcollagenous colitisのなかに、NSAIDsやランソプラゾールなどの薬剤が関与する例が近年多数報告されている(薬剤起因性collagenous colitis[7])。
  1. 抗腫瘍薬のうち細胞傷害性薬による腸炎では消化管粘膜の直接障害の結果みられる下痢症状は投与量や投与方法にもよるが、フルオロウラシル系抗腫瘍薬で60%を超えるとの報告もある。しかし血便を伴うような重症例の報告[8]は、使用頻度の増加の割には増えていない。
  1. 近年開発された免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor 以下ICI、抗PD-1抗体ニボルマブ(オプジーボ)や抗CTLA-4抗体イピリムマブ(ヤーボイ)など)による腸炎はさまざまな臓器で報告されている免疫関連の副作用の一つであり、腸管免疫システムのバランスが崩れることにより発症する。その頻度はニボルマブ投与の5.52%、イピリムマブ投与の5.8~12.9%、両者併用で28.6%と報告されている[9]
  1. 金製剤による腸炎はリウマチの治療薬として強力な内服薬や生物学的製剤が出現して金製剤の使用頻度が低下したこともあり、筆者の報告[10]以後は報告されていない。
  1. 経口避妊薬[11]、大腸検査前処置の下剤で発症する虚血性大腸炎[12]はよく知られている。
  1. 腸間膜静脈硬化症は、かつては原因不明とされていたが、近年漢方薬の原料の1つ、山梔子を服用していた症例が、多数報告されている。山梔子に含まれるゲニポシドは回盲部、特に盲腸で腸内細菌のβグルコシダーゼにより加水分解されてゲニピンとなり、これがアミノ酸やタンパク質などと反応すると青色を呈する。これが大腸の着色および腸間膜静脈の線維化・石灰化を起こすと考えられている[13]
  1. オルメサルタン関連スプルー様腸疾患は2012年米国で降圧剤オルメサルタンが関与したと思われる吸収不良症候群22例を解析、報告された新しい疑念である。わが国でも最近報告が散見されている[14][15]
問診・診察のポイント  
  1. 薬剤投与歴を聴取する。前医で投与され、薬剤を持参していない場合には前医に薬剤名、投与期間を問い合わせる。抗菌薬の場合は投与経路(経口か非経口)を知ることも重要である。

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薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※同効薬・小児・妊娠および授乳中の注意事項等は、海外の情報も掲載しており、日本の医療事情に適応しない場合があります。
※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、エルゼビアジャパン編集部によって記載日時にレセプトチェックソフトなどで確認し作成しております。ただし、これらの記載は、実際の保険適応の査定において保険適応及び保険適応外と判断されることを保証するものではありません。また、検査薬、輸液、血液製剤、全身麻酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適応の記載の一部を割愛させていただいています。
(詳細はこちらを参照)
著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
林繁和 : 特に申告事項無し[2024年]
監修:上村直実 : 講演料(武田薬品工業(株),大塚製薬(株))[2024年]

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薬剤性腸炎(含む 偽膜性腸炎、NSAIDs腸炎、薬剤起因性collagenous colitis等)

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