今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 滝川一晴 静岡県立こども病院 脊椎診療センター・整形外科

監修: 渡辺博 帝京大学老人保健センター

著者校正/監修レビュー済:2022/07/20
参考ガイドライン:
  1. 日本小児整形外科学会ホームページの乳児股関節健診推奨項目等の「公開資料」
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行い、以下について加筆修正を行った。
  1. X線像を初診頻度の高い4~5か月時の女児例に変更した。

概要・推奨   

  1. わが国では1歳以降の発見例が多いことが判明したため、健診体制の強化が行われている。少子化に伴い一般整形外科医が治療する機会はきわめて少なく、リーメンビューゲル装具を含めて治療は一定の頻度で骨頭傷害を生じることから、治療は小児整形外科に依頼することが望ましい[1]
  1. 生後1カ月の新生児の先天性股関節脱臼に対しては、リーメンビューゲル装具は直ちには装着しないことを推奨する(推奨度2)
  1. 生後10カ月乳児の先天性股関節脱臼に対しても、リーメンビューゲル装具を一度は装着することが勧められる(ただし、整復されなければ次の手段を考える)(推奨度2)
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病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 教科書では「先天性股関節脱臼」という診断名に代わって、「発育性股関節形成不全」という診断名が使用されている。欧米ではdevelopmental dysplasia of the hipという診断名が一般的となり、「発育性股関節形成不全」はこの英語を翻訳したものである。しかし、日本では現在も先天性股関節脱臼という診断名も使用されているが、先天性股関節脱臼ではなく発育性股関節形成不全(脱臼)を使用することが多い。
  1. 先天性股関節脱臼は、新生児、乳児に生じる股関節疾患で、脱臼しやすい状態から脱臼までの総称である。新生児期から乳児までの発育過程で、脱臼しやすい状態から脱臼までの間で病態が移行することがある。発育性股関節形成不全には、臼蓋形成不全、亜脱臼、脱臼が含まれる。先天性股関節脱臼の発生率は、出産1,000に対して1~2である。
  1. 男女比は1:5~1:9であり、女児に多い。
  1. 母が先天性股関節脱臼であると発生率が上昇すること、近親血族結婚の多い北イタリアに多いこと、臼蓋形成不全の家族内発生例を連鎖解析した研究結果[2]などから、本症には遺伝的素因が関与すると考えられている。
  1. 周産期の危険因子としては、骨盤位分娩、羊水過小症、初産がある[3]。脱臼を起こしやすい高リスクの育児法としては、日本では過去に行われた巻きおむつの習慣、アメリカインディアンのcradle board(板に乳児を股関節伸展位で縛り付けて運ぶ方法)などがある。
  1. 近年、1歳以降に発見される症例が15%にも上ることが全国調査により判明し、わが国では健診体制の見直しが行われている。3~4カ月健診時に、①股関節開排制限(開排70°以下)、②大腿皮膚溝又は鼠径皮膚溝の非対称、③家族歴、④女児、⑤骨盤位分娩(帝王切開時の肢位を含む)、の項目のうち、①が陽性又は②~⑤のうち2つ以上陽性の場合は、整形外科で精査(X線撮影等)を行うことが推奨されている(日本小児整形外科学会ホームページ「公開資料」参照)。
問診・診察のポイント  
  1. 大多数の症例は、生後1~4カ月のときの乳児健診で、股関節の開排制限あるいは大腿部の皮膚溝の非対称を指摘されて、本症の疑いといわれて医療機関(整形外科)を受診する。外傷性の脱臼とは異なり、痛みはない。また、化膿性股関節炎とは異なり、発熱もない。少数ではあるが開排制限を伴わない症例があり、乳児健診で異常を指摘されない。その場合は、生後6カ月以降に、両下肢の長さに差がある、歩き方がおかしいなどの異常に母親などの保護者が気づいて受診する。

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
滝川一晴 : 特に申告事項無し[2025年]
監修:渡辺博 : 特に申告事項無し[2025年]

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先天性股関節脱臼

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