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著者: 竹野幸夫 広島大学大学院 耳鼻咽喉科学・頭頸部外科学

監修: 森山寛1) 東京慈恵会医科大学附属病院

監修: 小島博己2) 東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科

著者校正/監修レビュー済:2025/03/12
参考ガイドライン:
  1. 日本医真菌学会:希少深在性真菌症の診断・治療ガイドライン(2024年)
  1. 日本鼻科学会:第6章 真菌性鼻副鼻腔炎. 鼻副鼻腔炎診療の手引き. 日鼻誌, 63(1): 61-65, 2024.
  1. Fadda GL, Allevi F, Rosso C, et. Treatment of Paranasal Sinus Fungus Ball: A Systematic Review and Meta-Analysis. Ann Otol Rhinol Laryngol, 2021; 130(11): 1302-10. PMID: 33733891
  1. Walsh TJ, Anaissie EJ, Denning DW, et al. Treatment of aspergillosis: clinical practice guidelines of the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis, 2008; 46(3): 327–60. PMID: 18177225
  1. 深在性真菌症のガイドライン作成委員会:深在性真菌症の診断・治療ガイドライン 2014. 協和企画, 2014; p88-90.
 
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 日本鼻科学会『鼻副鼻腔炎診療の手引き』と日本医真菌学会『希少深在性真菌症の診断・治療ガイドライン(2024年)』を基づき内容を改訂した。
  1. 『鼻副鼻腔炎診療の手引き』からの追記としては、以下が主なものとなる。
  1. 名称の変更を行いタイトルについても「真菌性鼻副鼻腔炎(副鼻腔真菌症)」とした。
  1. 治療において、非浸潤型では内視鏡下鼻副鼻腔手術により罹患洞を開放するのが原則であることを追記した。
  1. 保存療法において、アスペルギルスに対してはボリコナゾール,ムーコルに対してはアムホテリシンBリポソーム製剤が第1選択であることを追記した。
  1. 『希少深在性真菌症の診断・治療ガイドライン(2024年)』からの追記としては、以下が主なものとなる。
  1. ムーコルによる深在性真菌症の病型は5 つに大別され、浸潤型副鼻腔真菌症は鼻眼窩脳型に分類されることを追記した。
  1. 鼻眼窩脳型はムーコル症全体の1/3~1/2 を占めることを追記した。
  1. ムコール症の治療期間については明確な基準はないが、ガイドラインでは画像所見の消失、発症リスク因子の消失などを参考に、少なくとも6~8 週間の治療が推奨されることを追記した。

概要・推奨   

  1. 非浸潤型には内視鏡下鼻内手術が有用である。成功率98.4%と良好な成績[1]。抗真菌薬の術後投与は原則不要であった(推奨度1)
  1. 浸潤性の場合は手術による病巣の清掃と抗真菌薬の全身投与が推奨されている。抗真菌薬としては、ボリコナゾール(ブイフェンド)、イトラコナゾール(イトリゾール)、リポソーム封入アムホテリシンB(アムビゾーム)、の点滴静注での使用が提唱されている(推奨度C1)
 

病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 耳鼻咽喉科領域においても日常の外来診察において真菌症に遭遇する機会は増加しつつある[2][3]
  1. 背景として、抗菌薬の使用による菌交代現象としての真菌感染症といった感染側の要因がある。
  1. また免疫機能の低下した患者の増加(副腎皮質ホルモン、免疫抑制薬など)、糖尿病罹患率の増加、患者の高齢化など宿主側の要因もある[3]
  1. CTやMRIの発達と普及による副鼻腔内部の診断技術の向上、といった医療技術の進歩も要因である。
  1. 副鼻腔真菌症は病態的に、重篤な症状を呈する浸潤型(破壊型)と、限局した病変を呈する非浸潤型(寄生型)に大別される。浸潤型はさらに急性(電撃性)と慢性に分けられる。
  1. 浸潤型は、糖尿病や造血器悪性腫瘍、免疫抑制薬やステロイド薬の使用などで免疫能が低下した患者に発症することが多い。
 
副鼻腔真菌症の分類

真菌性鼻副鼻腔炎(鼻副鼻腔真菌症)は、粘膜内への浸潤の有無により、非浸潤型と浸潤型に分類され、非浸潤型は真菌に対する免疫応答の違いにより、慢性非浸潤型(寄生型、fungus ball、fungal colonization)とアレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎(allergic fungal rhinosinusitis:AFRS)に、浸潤型(invasive fungal rhinosinusitis)は数日から4週間以内に病態が進行する「急性浸潤型」と、4週間以上かけて進行する「慢性浸潤型」に分類される。

出典

著者提供
 
  1. 真菌の抗原性によって発症するアレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎(allergic fungal rhinosinusitis:AFRS)が、新たな疾患カテゴリーとして注目されている。(→好酸球性鼻副鼻腔炎)
  1. 発症の誘因としては、副鼻腔自然口周囲の狭小化が大気中に浮遊している真菌の繁殖しやすい嫌気性環境を醸成し、換気不全を来す。さらに真菌塊形成(fungus ball)が物理的に副鼻腔の排泄機能と粘液線毛クリアランスの障害を引き起こし、真菌増殖を容易にするという悪循環サイクルが考えられている。
  1. 臨床で経験する副鼻腔真菌症のほとんどは非浸潤型であり、年齢分布では60歳代にピークが存在する。性差については女性のほうが、男性より多いとされている。
  1. 原因真菌としてはAspergillus属が過半数を占めており、次いでCandidaMucor属もそれぞれ約10%程度を占めている。浸潤型ではAspergillusfumigatus, flavusMucorales目のRhizopus属などによる報告が多い。
  1. ムーコルによる深在性真菌症の病型は肺型、鼻眼窩脳型、消化管型、皮膚型、播種型の5つに大別され、浸潤型副鼻腔真菌症は鼻眼窩脳型に分類される。
  1. 鼻眼窩脳型(rhino-orbital-cerebral mucormycosis:ROCM)はムーコル症全体の1/3~1/2 を占める[4]。鼻眼窩脳型の約70%がコントロール不良の糖尿病患者に発症する。その他、血液悪性腫瘍患者、細胞・臓器移植患者にもみられる。
問診・診察のポイント  
ポイント:
  1. 鼻閉、鼻漏(粘膿性、血性)などの鼻症状の有無、その経緯

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
竹野幸夫 : 特に申告事項無し[2025年]
監修:森山寛 : 特に申告事項無し[2025年]
監修:小島博己 : 特に申告事項無し[2025年]

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真菌性鼻副鼻腔炎(副鼻腔真菌症)

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