今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 今谷潤也 岡山済生会総合病院

監修: 竹下克志 自治医科大学整形外科

著者校正/監修レビュー済:2025/01/15
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行い、肘頭脱臼骨折をolecranon fracture dislocation (OFD)に変更した。その根拠についても記載した。

概要・推奨   

  1. 受傷機転、術前の臨床所見、画像所見などから発生病態を正しく把握する。
  1. 大多数の症例で早期リハビリテーション・早期社会復帰を目的として手術的治療が行われる。
  1. 手術は正確な肘関節の適合性、十分な安定性と骨折部の強固な初期固定性の獲得が原則となる。
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  1. 直達外力による肘頭骨折と上腕三頭筋の牽引力によって起こる肘頭剝離骨折がある。
    前者に対しては観血整復内固定術が行われることが多く、tension band wiring、intramedullary screw fixation、肘頭用アナトミカルロッキングプレートによるプレート骨接合術などの選択肢がある。
    また後者に対する内固定法としては、骨片摘出+上腕三頭筋腱前進+その付着部の再縫着術が行われることが多い。
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病態・疫学・診察 

疫学情報・病態・注意事項  
  1. 肘頭骨折は肘関節周辺骨折の中でも比較的頻度の高い関節内骨折である。肘関節周辺骨折の約10%を占め、1万人に対して年間推定1.08人の頻度で発生するとの報告がある[1]
  1. 発生機序としては直達外力、介達外力のいずれでも発生する。
  1. 前者は肘頭部を直接打撲することによって起こり、頻度も高い。
  1. 後者は肘屈曲位で肘頭を中心に幅広く停止する上腕三頭筋の牽引力によって発生する。
  1. いずれの場合でも近位骨片には上腕三頭筋腱が停止しており、骨折部を離開・転位させようとする力がかかるため、大多数は不安定型骨折となる。
  1. 単純な肘頭骨折である場合、骨折部に粉砕を伴う場合(<図表>)、そしてさまざまな合併損傷(肘関節靱帯損傷、尺骨骨幹端~骨幹部骨折、鉤状突起骨折など)を伴う複合損傷の形態をとる場合(<図表>)がある。
 
肘関節側面像

骨折部の粉砕および関節面の陥没を伴う症例。

出典

著者提供
 
肘関節側面像

尺骨骨幹端部骨折および鉤状突起骨折を伴う複合損傷の形態を呈する症例。

出典

著者提供
 
  1. 本骨折の分類法としてよく用いられるColton分類[2]とMayo分類[3]を示す。またColton分類 Type 3およびMayo分類 Type IIIであるolecranon fracture dislocation (OFD)の細分類である森谷・今谷分類を示す[4]
 
Colton分類

Type 1:剝離骨折で骨折線は横走する、転位2 mm以内で肘関節90°屈曲においても転位がなく、重力に抗して肘伸展可能なもの。
Type 2:滑車切痕より背側に向かう斜骨折で転位・粉砕の程度によって4つの亜分類がある。stage a:単純な斜骨折、転位の有無は問わない、stage b:stage aに第三骨片を伴い、転位が2 mm未満の無転位骨折、stage c:stage bに転位があるもの、stage d:stage cの第三骨片が粉砕したもの。
Type 3:脱臼骨折。
Type 4:分類不能型、骨折部の粉砕が著明で、前腕近位骨幹部や上腕骨遠位部の骨折を合併することが多い。

出典

Colton C.L. Fractures of the olecranon in adults: Classification and management. Injury. 1973–1974; 5:121-129. Fig.1, Fig.4, Fig.9, Fig.12. 一部改変
 
Mayo分類

Type I:転位のないもの、Type II:転位はあるが腕尺関節は安定しているもの、Type III:腕尺関節は不安定で、脱臼もしくは亜脱臼位となるものであり、通常、内側側副靱帯損傷を伴う。各Typeを非粉砕型(a)と粉砕型(b)に分類。

出典

Redrawn from Cabanela ME, Morrey BF: Fractures of the olecranon. In Morrey BF editor: The elbow and its disorders, ed 3, Philadelphia, 2000, WB Saunders.
 
OFDの森谷・今谷分類

腕尺・腕頭関節の脱臼の方向と近位橈尺関節の損傷の有無により4つの型に分類する。
 
参考文献:
森谷史朗、今谷潤也、近藤秀則ほか:肘頭脱臼骨折の新分類. 骨折 2019: 41(3): 1181-1188, 図2. を参考に作成

出典

著者提供
 
  1. 肘頭部分は皮膚および軟部組織が薄いため開放骨折となりやすい。
  1. 高齢者における骨粗鬆症合併例や、高エネルギー外傷による高度粉砕例、関節面陥没例、鉤状突起骨折合併例などでは十分な初期固定性を得ることが困難なことがあるので注意を要する。また頻度は低いが関節リウマチや転移性腫瘍によって起こる病的骨折もある。
 
OFD:
  1. OFDは肘頭骨折による腕尺関節の破綻とともに腕尺および腕橈関節が前方もしくは後方に脱臼を生じる病態である。
  1. 2002年、Ringら[5]により、前方脱臼型のanterior OFD(AOFD)と後方脱臼型のposterior OFD(POFD)に分類された。
  1. OFDは肘頭脱臼骨折と訳されることもあった。しかし、肘頭が脱臼するという肘頭脱臼骨折という用語は不自然であり、2021年の日本肘関節学会誌(28巻2号、Letter to the Editor)には配慮が必要との意見が掲載されている。
  1. OFDの和訳については適切なものが未だない。2024年現在では、olecranon fracture dislocationという英語表記が推奨される。
問診・診察のポイント  
問診:
  1. 患者から受傷時の肢位、受傷機転、外力の種類や方向を聞き取る。これらを十分に問診することは正確な診断、治療方針にきわめて重要である。

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
今谷潤也 : 研究費・助成金など(帝人ナカシマメディカル(株))[2024年]
監修:竹下克志 : 講演料(第一三共(株))[2024年]

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