今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 大江隆史 NTT関東病院整形外科

監修: 落合直之 キッコーマン総合病院外科系センター

著者校正/監修レビュー済:2021/08/18
参考ガイドライン:
  1. 日本整形外科学会日本運動器科学会 監修:ロコモティブシンドローム診療ガイド 2021
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 2020年に日本整形外科学会から発表されたロコモの新基準に基づき、ロコモの臨床判断値について改訂した。

概要・推奨   

  1. ロコモの基準にロコモ度3が加わり、ロコモ度3である場合には整形外科専門医による診療が推奨される(推奨度2 

病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
歴史的背景
  1. ロコモティブシンドロームとは、運動器の障害によって移動能力の低下を来し、介護が必要となる危険の高まっている状態、または要介護になっている状態に新しい名前を付けて、人々の注意を喚起したり、運動器科学を総合的に考えられるようにしようとして、日本整形外科学会が2007年に提唱した概念、新語である。そのためには一般の人々に使ってもらえる言葉であることがまず必要であった。
  1. 認知症が痴呆症と呼ばれていたそう遠くない昔、認知症に関する認知度も関心も低かった。認知症はいうまでもなく、認知能力障害であるが、認知不全症でもなく認知機能障害でもなく認知症と命名したところが一般の人々にも受け入れられた理由であろう。そうであれば移動能力障害に命名するに当たっても、否定的な表現をまじえない工夫が必要である。
  1. 移動、移動能力、歩行能力のことを英語でロコモーション(locomotion)といい、移動能力を有することをロコモティブ(locomotive)というので、認知症に倣って障害や不全を省略して移動能力障害を来す危険の高い状態をロコモティブシンドロームと命名した。
  1. ロコモティブ(locomotive)には機関車という意味もあるので(蒸気機関車はsteam locomotive、SLである)、前に進むたくましい雰囲気もある。
  1. そして何より、略してロコモと呼んでもらえるようにした。
 
ポイント:
  1. 日整会は、2013年から「ロコモティブシンドロームとは運動器の障害のため、移動機能の低下を来した状態で、進行すると介護が必要となるリスクが高まる」と定義している。
  1. 日整会は2013年からロコモの概念を図(アルゴリズム)のように整理した。運動器を構成する骨、関節、神経、筋などに高齢者でのcommon diseaseである骨粗鬆症、変形性関節症、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症、サルコペニアなどの運動器疾患が起こるとそれらが連鎖、複合して運動器の痛みや、機能低下を来し、また機能低下が運動器疾患をさらに悪化させたりしつつ、移動機能低下(歩行障害)に進展し、さらに悪化すると最後には介護状態に至るというものである。
 
ロコモティブシンドローム構成概念

日本整形外科学会がロコモティブシンドローム(ロコモ)の概念としてまとめた図である。これらの要因にそって疾患、機能低下の有無を点検していくことでロコモの状態を判別できる。

出典

著者提供
 
  1. 機能低下のうちバランス能力は開眼片脚起立時間で測定できる。
 
  1. ロコモの3大要因のうちのバランス能力、筋力に関係する運動機能検査法:開眼片脚起立(One Leg Balance、OLB)時間の測定法とその意義
  1. 開眼片脚起立時間(以下OLB時間)の測定法
    両手を腰に当て、片方の足を上げ持続時間を測定する。原則、素足で行う。足を高く上げる必要はなく、軽く地面より離れた程度でよく、測定する前に1回練習させたあとで測定する。テスト終了は上げた足が立っている足や床に触れるか、立っている足の位置がずれるか、腰に当てた手が離れた場合である。
  1. OLB時間の意義
    バランス能力の指標である。阪本らの調査によればOLB時間は年齢、性により大きく変化し、最長180秒で左右の平均を測定した場合、65~69歳では男性がおよそ70秒、女性50秒、70~74歳では男性35秒、女性30秒、75~79歳では男性30秒、女性25秒、80~84歳では男性18秒、女性15秒となる[2]。坂田はOLB時間と他の体力との相関を検討し[4]、OLB時間の測定は体力チェックのなかでも、器具もいらず、家庭で容易に行える検査法で、関節、筋力、脊髄神経系などの運動器病変を早期にみつけ出すための補助診断の1つになり得ると述べている。
  1. OLB時間と転倒との関係
    転倒発生をアウトカムとしたコホート研究では、Vellasらが316人の高齢者の3年間のコホート研究から、OLB時間が5秒未満であることが転倒の危険因子になると報告している[20]。過去に転倒の既往があった群となかった群を比較した研究では、坂田が年齢ごとの非転倒群と転倒群のOLB時間の比較から、65~69歳では40秒、70~74歳では30秒、75~79歳では20秒、80~84歳では10秒を転倒予防の基準値とすることを提案している[4]

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
大江隆史 : 未申告[2024年]
監修:落合直之 : 未申告[2024年]

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