今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 谷口正実 国立病院機構 相模原病院 臨床研究センター

監修: 長瀬隆英 東京大学名誉教授

著者校正/監修レビュー済:2023/05/24
参考ガイドライン:
  1. 日本アレルギー学会/喘息ガイドライン専門部会:喘息予防・管理ガイドライン2021
  1. Kowalski ML, Agache I, Bavbek S, Bakirtas A, Blanca M, Bochenek G, Bonini M, Heffler E, Klimek L, Laidlaw TM, Mullol J, Niżankowska-Mogilnicka E, Park HS, Sanak M, Sanchez-Borges M, Sanchez-Garcia S, Scadding G, Taniguchi M, Torres MJ, White AA, Wardzyńska A.:Diagnosis and management of NSAID-Exacerbated Respiratory Disease (N-ERD)-a EAACI position paper
  1. 厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル:非ステロイド性抗炎症薬による喘息発作(アスピリン喘息、解熱鎮痛薬喘息、アスピリン不耐喘息、NSAIDs 過敏喘息)平成18年11月(令和4年2月改定)
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 新規ガイドラインやそれに準ずる新論文や資料を追加した。
  1. 「概要・推奨」を追記した。
  1. ここ数年で得られた病態解明updateを追記した。
  1. 重症例に対する生物学的製剤の選択方法を追記した。
  1. 一般喘息同様に、中等症以上でトリプル製剤の選択を推奨し、その理由としてAspergillus fumigatus感作が生じやすい高用量ICSは避けることを推奨した。
  1. 他の喘息と異なり重症例では呼吸器外症状が多いことを周知した。

概要・推奨   

  1. NSAIDs過敏喘息は、国内ではアスピリン喘息、国際的にはAERD、N-ERDなどと呼ばれ、シクロオキシゲナーゼ(COX)1阻害作用のあるNSAIDsにより強度の上下気道閉塞(喘息増悪+好酸球性副鼻腔炎悪化)と特徴し、成人発症喘息の約10%を占める[1][2]
  1. 特徴的臨床像として、ほぼ全例で嗅覚低下、鼻茸を伴う好酸球性副鼻腔炎を合併する[1][2]
  1. 特徴的病態として、システィニルロイコトリエン過剰産生、マスト細胞の持続活性化などがある[2]
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  1. 非アレルギー学的機序による不耐症であるため、血液検査や皮膚検査では診断不可能であり、確定診断には内服負荷試験がゴールドスタンダードであるが、その施行は専門施設に委ねる[1][2]
  1. 閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要とな
  1. NSAIDs投与により気道閉塞が悪化した場合は時に致死的であり、十分な酸素投与と(マスト細胞活性化を抑制する)ボスミン筋注を迅速に行ったあとに、点滴ルートを確保し、補液、気管支拡張薬投与などを行うが、静注用ステロイドの急速投与は禁忌であり、点滴投与もしくは内服投与とする[1][2]
  1. 本症に安全なNSAIDsとしてセレコキシブとアセトアミノフェンがある[3][4]
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病態・疫学・診察 

疾患(疫学・病態)  
ポイント:
  1. NSAIDs過敏喘息(別名:アスピリン喘息〔AERD:aspirin-exacerbated respiratory disease , AIA:asprin intolerant asthma〕)とは、プロスタグランジン合成酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害作用、特にCOX-1阻害作用を持つアスピリンなどのNSAIDsにより、通常の気管支喘息と比較して強い気道症状(鼻閉、鼻汁、喘息増悪)を呈する薬理学的な変調体質である。以前は、アスピリン喘息の名称がよく使われていた。アスピリンの名称が入っているが、アスピリンだけに対する過敏や、またアレルギー反応でもなく、COX-1阻害作用を有するNSAIDsに対して過敏症状を呈する非アレルギー性過敏体質(不耐症)である。よって本来であれば、その名称は、NSAIDs過敏喘息、もしくはCOX-1阻害薬過敏喘息と呼ぶのが正しいと考えられる[1][2]
  1. 呼び名:最近では、欧州アレルギー学会のタスクフォースで示されたように、アスピリンだけに対する過敏症状と誤解されないために、欧州(論文)を中心にN-ERDもしくはNSAID-ERDが用いられる[5]。一方、米国(論文)では、AERDとまだ呼ばれることが多く、呼び名が混在している。
  1. 成人喘息の約5~10%を占める。家族内発症は1%程度であり、遺伝的背景は強くない。その発症頻度で人種差や地域差は確認されていない[2]
  1. NSAIDs過敏喘息は小児にはまれで、思春期以降(20歳代から50歳代、平均36歳)の女性に多く(男女比1:2)発症するが、65歳以上で発症することは少ない[6]。その発症パターンは、好酸球性副鼻腔炎(鼻茸)でまず始まり、次いで咳や喘息症状が数年以内に生じる[6]。NSAIDs過敏性獲得時期は、鼻症状や喘息が生じた時点と考えられている(すなわち喘息発症前はNSAIDs過敏性を認めない)。後天的に発症する機序や原因は不明である。
 
典型的なNSAIDs過敏喘息症例の臨床経過 37歳、女性

出典

著者提供
 
特徴的臨床像と特徴的病態
  1. 本症の臨床像で特徴的なのは、90%以上で好酸球性鼻茸副鼻腔炎(鼻茸)を合併し、それによる嗅覚低下を伴いやすい。また好酸球性中耳炎を60%以上で、好酸球性胃腸炎や瘙痒を伴う四肢の小紅斑を30%に、異型狭心痛(好酸球性冠動脈炎と推定されている)を10~20%に合併する。そのため、通常の喘息よりも末梢血好酸球増多が目立ちやすい。
  1. 今まで、国際的に狭心痛や皮疹、消化管症状に関しては報告がなかったが、ハーバードグループから相次いで日本人同様の症状[1][2]があることが報告された[7][8]。これらの呼吸器外症状は、喘息や好酸球性副鼻腔炎が重症であるほど、併存しやすいことが経験的に知られている。またこの多種の臓器病変を呈する例では、下記のCysLT過剰産生とマスト細胞活性化がその主原因と推定されている[1][9][10]
  1. 一般的な喘息と異なるNSAIDs過敏喘息の特徴的病態として、CysLT過剰産生[1]、マスト持続活性化[1][9][10]、血小板活性化[11][12]がある。特に前2者は、本症が重症であるほど顕在化する。さらに同時にILC2の活性化が生じている可能性もある[1][13]
  1. 安定期は非NSAIDs過敏喘息の3~4倍、NSAIDs誘発時は、その数倍から数10倍に、システィニルロイコトリエン(CysLT)の安定代謝産物である尿中LTE4は著増する[1]
  1. COX-2阻害薬(セレコキシブなど)は安全に使用できることが多くの報告で確認され、本症の本態は、COX-1阻害薬過敏と考えられている[5][1][3][4]。このように本症ではアラキドン酸代謝系のアンバランスがあるが、すでにNSAIDs過敏喘息の気道組織などで報告されている基本病態として、COX-2発現低下に伴うPGE2産生低下、LTC4合成酵素過剰発現によるCysLT産生亢進、CysLT1受容体発現亢進などがある[14]。ただし、これらを再現できる動物モデルやin vitroの反応はない。
 
NSAIDs過敏喘息におけるアラキドン代謝異常(推論)

出典

著者提供
 
  1. AERD患者の末梢血と気道局所での血小板の特異的な血小板活性化とそれに伴う顆粒球と血小板の高頻度の付着が報告されている[11][12]。この活性化した血小板はPセレクチンなどの接着因子を発現し顆粒球や気道上皮などと付着し、両者の相互作用でさらなるCysLT過剰産生や強い好酸球性炎症につながっているが、なぜ血小板が本症で特異的に活性化しているのかは不明である。
病歴・診察のポイント  
  1. NSAIDs過敏喘息は、通常のアレルギー学的検査(皮膚検査や血液検査)では診断不能で、確定診断は負荷試験、特に慣れた専門医が行える内服試験がゴールドスタンダードである[15]。しかしこの負荷試験は、手順をふめば安全であるが、増悪対応に習熟した医師のもとで行う。
  1. まずNSAIDs過敏喘息に認めやすい臨床背景や、逆に認めにくい背景を知っておくと役立つ[2][16]
 
 
 
  1. NSAIDs過敏喘息の診断の実際は、の手順で行うとよい。まず成人の喘息患者に、ここ数年のNSAIDs使用歴を、具体名(バファリン、イブ、ロキソニンなど)を挙げて問診し、まず使用歴があるか、副反応がなかったかどうか確認する。

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薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
谷口正実 : 講演料(GSK,サノフィ(株),アストラゼネカ(株)),研究費・助成金など(英国GSK)[2024年]
監修:長瀬隆英 : 特に申告事項無し[2024年]

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NSAIDs過敏喘息(アスピリン喘息)

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