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クラゲ刺傷

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救急・集中治療外傷・整形

著者: 山上浩湘南鎌倉総合病院救急総合診療科

監修: 志賀隆国際医療福祉大学医学部救急医学/国際医療福祉大学成田病院救急科

著者校正/監修レビュー済：2022/05/11

参考ガイドライン：

Australian Resuscitation Council Guideline 9.4.5 Envenomation-Jellyfish Stings

患者向け説明資料

改訂のポイント：

定期レビューを行い、治療（食酢、真水、尿の使用）について追記した

概要・推奨

一般的に市販されているクラゲ刺傷予防クリームは、一定の効果は期待できるが、完全に予防できるものではない（推奨度2）。

鎮痛のために、患部を40℃程度のお湯に20分間浸すことを勧める（推奨度1）。

ある種のクラゲ刺傷に対して、食酢は刺胞を不活化する可能性があるが、クラゲの種類が同定できない場合は使用は勧められない（推奨度2）。

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病態・疫学・診察

疾患情報（疫学・病態）

クラゲ刺傷とは、世界中で最も多くみられる海洋危険生物刺傷である。

日本各地沿岸において、アンドンクラゲ、カツオノエボシによる被害が多く、7～9月に多発する。

沖縄近海では、ハブクラゲという毒性の強いクラゲが多くみられ、死亡事故も報告されている。

カツオノエボシ

出典

Auerbach: Wilderness Medicine, 6th ed.FIGURE 80-31, Mosby, 2011 (From Norbert Wu, with permission.http://www.norbertwu.com.)

クラゲは刺胞動物であり、触手に刺胞と呼ばれるカプセル状の毒があり、それに触れると毒が注入される。

その後、皮膚より注入されたクラゲ毒が、皮膚症状時には全身血流に入り全身症状を引き起こす。

クラゲ刺傷のメカニズム

皮膚に触れることで刺胞が刺激され毒が注入される。

a：皮膚からの刺激が刺胞放出プロセスを開始させる。

b：刺傷被膜内に150 atmの高い内圧が生じる。

c：重力の40,000倍の加速により、柄が皮膚内部に穴を開ける。

d：小管が柄に従って体内に毒物を注入する。

クラゲ刺傷の多くは、刺傷部位のズキズキ・ヒリヒリとした痛み・痒みであるが、ときには全身症状が出現し、致死的になることもある。例えば、イルカンジクラゲ刺傷による発生の報告が多い。イルカンジ症候群とは、刺傷後30分前後から生じる強い全身症状を来すものである^[1]。

オーストラリアウンバチクラゲ刺傷は、オーストラリアにおいて70例以上の報告がある。抗毒素血清があり、循環動態の不安定な場合と心肺停止症例で適応となる^[2]。

オーストラリアウンバチクラゲ抗毒素血清

出典

Auerbach: Wilderness Medicine, 6th ed.FIGURE 80-52, Mosby, 2011

エチゼンクラゲ刺傷では、韓国で死亡例も報告されている。

一般的に市販されているクラゲ刺傷予防クリームは、一定の効果は期待できるが、完全に予防できるものではない（推奨度2、Rs）。

まとめ：2つの小規模RCTで、クラゲ刺傷予防クリームの効果が示されている^[3][4]。

代表事例：Chrysaora fuscescensとChiropsalmus quadrumanusに対するクラゲ刺傷予防クリームの効果を研究した小規模スタディ^[3]。24人の被験者に、Safe Seaを左前腕（治療群）に、従来の日焼けクリーム（プラセボ群）を右前腕に塗り、その上に上記クラゲの触手を12人ずつのせて、ペインスケールと、皮膚科医による所見を比較した。

結果はChrysaora fuscescensにおいては、プラセボ群で12人全員が皮疹を認めたのに対し、治療群では皮疹出現はなかった（p＜.01）。また、痛みに関しても、プラセボ群で全員が痛みを訴えたのに対し、治療群では、2人が痛みを訴えたが、プラセボ群に比較し程度は軽かった（p＜.01）。

反応の重症度（疼痛と反応の臨床徴候の双方を含む）および触角接触後の反応に至るまでの時間をインヒビター投与群とプラセボ投与群で比較したC. fuscescens群の結果

C. fuscescensというクラゲ刺傷におけるSafe sea群とプラセボ塗布群の比較。Safe sea塗布群が痛み・皮疹の出現ともに少なかった。

出典

Alexa Boer Kimball, Karina Zuelma Arambula, Arlen Ray Stauffer, Valeh Levy, Valerie Weaver Davis, Michael Liu, Wingfield Ellis Rehmus, Amit Lotan, Paul S Auerbach
Efficacy of a jellyfish sting inhibitor in preventing jellyfish stings in normal volunteers.
Wilderness Environ Med. 2004 Summer;15(2):102-8.

Abstract/Text OBJECTIVE: To evaluate the protective effects of a jellyfish sting inhibitor formulated in sunscreen lotion vs conventional sunscreen against Chrysaora fuscescens and Chiropsalmus quadrumanus jellyfish.
METHODS: Twenty-four healthy subjects at 2 research sites were randomly assigned to receive the jellyfish sting inhibitor (Nidaria Technology Ltd, Jordan Valley, Israel) to one forearm and conventional sunscreen to the other arm in a blinded fashion. Subjects were stung with jellyfish tentacles on each forearm for up to 60 seconds. Erythema and pain were assessed at 15-minute intervals over a 2-hour period.
RESULTS: In the C. fuscescens group, all 12 arms pretreated with conventional sunscreen demonstrated erythema, and all subjects noted subjective discomfort. In contrast, no arm pretreated with the jellyfish sting inhibitor had objective skin changes (P < .01). Two subjects noted minimal discomfort in the arm treated with the sting inhibitor (P < .01). In the C. quadrumanus group, discomfort was reported in 3 of the 12 inhibitor-treated arms compared with 10 of the 12 placebo-treated arms (P < .05). Erythema was noted on 1 arm treated with the inhibitor and 9 arms treated with the placebo (P < .01).
CONCLUSIONS: The jellyfish sting inhibitor prevented sting symptoms of C. fuscescens jellyfish in 10 of 12 subjects and diminished the pain of the jellyfish sting in the remaining 2 subjects. The jellyfish sting inhibitor also inhibited the more severe sting of the C. quadrumanus jellyfish in the majority of subjects. The jellyfish sting inhibitor does not eliminate the sting from C. fuscescens or C. quadrumanus jellyfish but significantly reduces the frequency and severity of stings.

PMID 15228063

Chiropsalmus quadrumanusにおいても、プラセボ群では10人が痛みを訴えたのに対し、治療群では3人。またペインスケールの中央値と平均も、プラセボ群でそれぞれ0.83と1で、治療群では0.3と0であった（p＜0.05）。

反応の重症度（疼痛と反応の臨床徴候の双方を含む）および触角接触後の反応に至るまでの時間をインヒビター投与群とプラセボ投与群で比較したC. quadrumanus群の結果

C. quadrumanus刺傷においても、Safe sea塗布群において、痛み・皮疹の出現ともに少なかった。

出典

David R Boulware
A randomized, controlled field trial for the prevention of jellyfish stings with a topical sting inhibitor.
J Travel Med. 2006 May-Jun;13(3):166-71. doi: 10.1111/j.1708-8305.2006.00036.x.

Abstract/Text BACKGROUND: Jellyfish stings are a common occurrence among ocean goers worldwide with an estimated 150 million envenomations annually. Fatalities and hospitalizations occur annually, particularly in the Indo-Pacific regions. A new topical jellyfish sting inhibitor based on the mucous coating of the clown fish prevents 85% of jellyfish stings in laboratory settings. The field effectiveness is unknown. The objective is to evaluate the field efficacy of the jellyfish sting inhibitor, Safe Sea.
METHODS: A double-blind, randomized, placebo-controlled trial occurred at the Dry Tortugas National Park, FL, USA and Sapodilla Cayes, Belize. Participants were healthy volunteers planning to snorkel for 30 to 45 minutes. Ten minutes prior to swimming, each participant was directly observed applying a blinded sample of Safe Sea (Nidaria Technology Ltd, Jordan Valley, Israel) to one side of their body and a blinded sample of Coppertone (Schering-Plough, Kenilworth, NJ, USA) to the contralateral side as placebo control. Masked 26 g samples of both Safe Sea SPF15 and Coppertone SPF15 were provided in identical containers to achieve 2 mg/cm(2) coverage. Sides were randomly chosen by participants. The incidence of jellyfish stings was the main outcome measure. This was assessed by participant interview and examination as subjects exited the water.
RESULTS: A total of 82 observed water exposures occurred. Thirteen jellyfish stings occurred during the study period for a 16% incidence. Eleven jellyfish stings occurred with placebo, two with the sting inhibitor, resulting in a relative risk reduction of 82% (95% confidence interval: 21%-96%; p= 0.02). No seabather's eruption or side effects occurred.
CONCLUSIONS: Safe Sea is a topical barrier cream effective at preventing >80% jellyfish stings under real-world conditions.

PMID 16706948

別のRCT^[4]では、82名の被験者に左右半身それぞれに、Safe Sea（治療群）とプラセボを塗り泳がせたところ、全体で13個（16％）のクラゲ刺傷が発生し、そのうち11個は治療群で、残りの2個が治療群で発生した（相対リスク比は82％であった[95％信頼区間: 21％–96％; p＝0.02]）。

結　論：市販されているクラゲ刺傷予防クリームは一定の効果を持つが、完全に予防できるものではない。

問診・診察のポイント

患者はクラゲや触手に気づいておらず、突然の痛みにより刺されたことに気づくことが多い。

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著者のCOI（Conflicts of Interest）開示:
山上浩 : 特に申告事項無し[2025年]
監修：志賀隆 : 特に申告事項無し[2025年]

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