今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 松井健太郎 帝京大学 整形外科学講座 外傷センター

監修: 箕輪良行 みさと健和病院 救急総合診療研修顧問

著者校正/監修レビュー済:2023/10/11
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行った(変更なし)。

概要・推奨   

  1. 血管損傷を伴う四肢外傷は、早期手術を要する。
  1. 自施設で治療可能であれば、早期手術に持ち込めるように最大限の努力をする。
  1. 自施設で治療できない場合は、自施設の検査などでいたずらに時間を使うことなく、治療可能な組織に早急に転送する。

病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
血管損傷を伴う四肢外傷:
  1. 血管損傷を伴う四肢外傷とは、修復が必要な主要血管損傷を伴う外傷を指す。
  1. 長管骨骨折に伴う血管損傷の発生率は1%以下とまれである[1][2][3][4]
  1. 四肢外傷の中でも、膝関節脱臼に血管損傷が伴う場合が16%と多い[5]
  1. 脛骨近位部骨折、転位が大きい骨折、開放骨折、分節性長管骨骨折の場合や、鈍的外傷、Floating joint、Crush injury、脱臼の場合には血管損傷の存在を強く疑う[6][7][8][9][10][11]
  1. 阻血時間を6時間以内にすべきである[7][12]。8時間を超えた場合、切断率が86%と高率になる[7][8]
  1. 骨折、脱臼などを合併することがほとんどであり、「いつ、どのような順番で、何をするか?」などの治療戦略が重要である。専門的治療が当初から必要な外傷である。
 
Crush injury:
  1. Crush injuryとは四肢の挫滅や長時間圧迫の結果生じる虚血性変化と、圧迫解除後の虚血再還流障害のことである。その結果、局所ではコンパートメント症候群を合併することが多い。Crush syndromeはCrush injuryの結果生じる、全身の症候群である。
  1. 重度四肢外傷における、切断か患肢温存をするかの選択には明確な基準はなく、専門的な判断を要する。
 
  1. Crush syndromeの歴史
  1. Crush syndromeは1909年のMessina地震、第1次世界大戦の際にも認識されていた。最初の報告は、ロンドン空襲で倒壊家屋の下敷きとなり、救出後に下肢の腫脹とともに急性腎不全を生じ死亡した症例である[13]
  1. 1995年の阪神淡路大震災時には372例のクラッシュ症候群が生じ、50例が死亡したとされている[14]。また、1988年のアルメニア地震[15]、1990年のイラン地震[16]での報告などがある。
 
  1. Crush injury/syndromeの病態
  1. Crush injuryは、四肢が長時間圧迫されているために生じる虚血性変化と、それに引き続く圧迫解除後に生じる虚血再還流障害のことを指す。骨格筋は4~6時間の完全虚血で壊死となる。虚血再灌流の結果、筋膜の透過性が亢進し、筋組織からミオグロビン、尿酸、カリウムなどが体循環へ漏出する。また筋組織自体へは水分が流入し腫脹する。その結果、局所的には、コンパートメント症候群が生じ、全身的には低用量性ショック、高カリウム血症、腎不全が生じる。この全身的な一連の症状をCrush syndromeという。
  1. 血圧低下の原因は多因子である。細胞外液から筋組織へ(血管内VolumeがThird spaceへ)の水分の移動、外傷による出血、筋組織から漏出物質の心機能への悪影響などが挙げられる[17]
  1. 腎不全がCrush syndromeで最も問題となる合併症である。原因は多因子である。循環血漿量の減少、筋から流出したミオグロビン、尿酸、リン酸の腎毒性が原因となり得る[18]
  1. CKのピーク値が腎不全発生と死亡率に関与していると言われている。Peak CKが75,000U/Lを超える場合、死亡率と腎不全発生率が上昇する。Peak CKは損傷を受けた筋量に比例し、一肢では5万U/Lを超えることはまれで、腎不全に陥る確率は、1肢で50%、2肢で75%、3肢で100%と報告されている[14]
問診・診察のポイント  
問診:
  1. 発症(受傷)時期を確認する。

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
松井健太郎 : 特に申告事項無し[2024年]
監修:箕輪良行 : 特に申告事項無し[2025年]

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