今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 宮田哲郎 都庁前血管外科・循環器内科 血管病総合治療センター 血管外科

監修: 今井靖 自治医科大学 薬理学講座臨床薬理学部門・内科学講座循環器内科学部門

著者校正/監修レビュー済:2022/03/02
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 最新の知見に基づき定期レビューを行い腹部大動脈瘤の手術適応に関し加筆した。

概要・推奨   

  1. 腹部大動脈瘤は破裂前に外科的治療で治療する。
  1. 腹部大動脈瘤の外科的治療人工血管置換術とステントグラフト内挿術ある。
  1. 膝窩動脈瘤は急性動脈閉塞や末梢動脈塞栓の危険があり、原則として、診断がついたら手術治療を行う。
アカウントをお持ちの方はログイン
  1. 閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。閲覧にはご契約が必要となります。

病態・疫学・診察 

疫学情報・病態・注意事項  
  1. 拍動性腫瘤は、血管性疾患〔動脈瘤、先天性脈管形成異常(congenital vascular malformation;CVM)、動脈硬化による蛇行など〕と動脈に接した腫瘤といった非血管性疾患に分類できるが、画像診断の進歩により鑑別は容易である。
  1. 動脈瘤は、破裂していない限り、原則として自覚症状はない。動脈瘤に圧痛を認める場合は、破裂あるいは切迫破裂を疑う。また、感染を含む炎症性動脈瘤では、破裂に関係なく瘤に圧痛を認める場合があるので留意する。
  1. 既存の動脈瘤に感染したり、感染が原因で動脈瘤が形成される場合がある。こういった感染性動脈瘤は破裂しやすく、敗血症も合併し重篤な病態となる。
  1. 腹部大動脈瘤や腸骨動脈瘤は破裂が最も重篤な合併症である。まれではあるが、血液凝固障害や末梢塞栓を生じる場合もある。
  1. 腹部大動脈瘤や腸骨動脈瘤の診断がついた時点で、手術適応がない大きさの場合は、経過観察となる。まれに動脈瘤が急速に拡張する場合があるので、拡張速度が不明の場合は必ず1カ月以内に再診し、瘤のサイズを確認する。急速に増大していないことが確認できた場合は、3~12カ月の間をおいて経過観察する。
  1. 腹部大動脈瘤や腸骨動脈瘤で、拡張速度に影響を及ぼす因子は喫煙であるため、特に瘤径を経過観察している患者には禁煙を徹底させる。
  1. 四肢動脈瘤は、壁在血栓による末梢の塞栓症や、瘤の血栓閉塞により、急性動脈閉塞を含む重篤な四肢血行障害を生じる危険がある。CVMは、血管腫や動静脈瘻を形成する場合に拍動性腫瘤となる。動静脈瘻は静脈圧上昇の結果、色素沈着、潰瘍、出血などの症状を伴い、出生時より患肢が長い場合もある。
  1. 四肢動脈瘤に伴う四肢の慢性虚血が認められる場合は、動脈閉塞疾患に準じた検査を行う。
  1. 上腕動脈や頚動脈など動脈の蛇行が著しい場合は拍動性腫瘤と認識され、動脈瘤との鑑別を要する。
  1. カテーテル検査や治療を受けた後、穿刺部に拍動性腫瘤を触知した場合は、医原性の仮性動脈瘤を疑う。
 
  1. 腹部大動脈瘤はステントグラフト内挿術で低侵襲治療可能である。
  1. 患者:87歳女性
  1. 病歴:下血で回盲部大腸癌の診断。精査時に施行したCT検査で最大短径5cmの腹部大動脈瘤の診断。
  1. 診察:腹部に拍動性腫瘤を触知するが症状なし。
  1. 診断テストと結果:造影CT検査で治療方針決定。下血が続き、大腸癌に対する緊急開腹術を先行する。
  1. 治療:術後1カ月で腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術施行。
  1. 転帰:軽快退院
  1. コメント:ステントグラフト内挿術は大腸癌術後早期でも安全に施行できる。
 
大腸癌合併腹部大動脈瘤:ステントグラフト内挿術(87歳女性)

大腸癌による下血が続いていたため、癌に対する緊急開腹術を先行した。1カ月後に腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術を施行した。術後良好に回復した。
a:術前(背面より)
b:術後(背面より)

出典

著者提供
 
  1. 腹部大動脈瘤は破裂前に治療する。
  1. 患者:85歳女性
  1. 病歴:4年前に35mmの腹部大動脈瘤を指摘されたが放置していた。他疾患の検査でCT撮影し、偶然に最大短径70mmの腹部大動脈瘤を診断された。
  1. 診察:腹部に拍動性腫瘤を触知するが症状なし。
  1. 診断テストと結果:造影CT
  1. 治療:高齢以外にリスク因子なく開腹人工血管移植術施行。
  1. 転帰:軽快退院
  1. コメント:高齢であってもリスク因子が少ないときは、開腹人工血管移植術は安全に施行できる。
 
腹部大動脈瘤:開腹人工血管置換術(85歳女性)

高齢以外にリスク因子はなかったため、開腹人工血管移植術施行を施行した。術後経過は良好であった。
a:腹部大動脈瘤の3DCT画像
b:術中の写真

出典

著者提供
 
  1. 膝窩動脈瘤は急性動脈閉塞や末梢動脈塞栓の危険があり、原則として、診断がついたら手術を行う。(参考文献:[1]
  1. 患者:35歳女性(Klippel-Trénaunay症候群)
  1. 現病歴:左膝窩部の拍動性腫瘤と疼痛を主訴に血管外科を受診した。17歳より左下肢外側の赤色母斑、30歳より左下肢外側の静脈瘤に気づいている。
  1. 診断テストと結果:造影CT、血管撮影
  1. 治療:膝窩動脈瘤切除、自家静脈グラフトを用いたバイパス術
  1. 転帰:軽快
  1. コメント:膝窩動脈瘤は、破裂よりも、動脈瘤の血栓による末梢の塞栓症、瘤の血栓閉塞の結果生じる急性動脈閉塞が問題である。高度虚血となり、診断が遅れると肢切断となる場合もある。この症例では自家静脈によるバイパス術を行った。
 
膝窩動脈瘤(35歳女性)

media/image3.pngposition:absolute;width:48101;height:39528;visibility:visible膝窩動脈瘤を切除し、自家静脈グラフトバイパス術を施行した。術後軽快であった。
a:術前
b:術後

出典

著者提供
 
  1. 先天性脈管形成異常のなかでも、動静脈瘻を主体とするタイプは、拍動性腫瘤を形成してくる場合が多い。
  1. 患者:37歳女性(Parkes Weber症候群)
  1. 病歴:生下時より右前腕から手にかけて静脈の拡張と拍動性腫瘤を触知する。
  1. 診察:右手掌の拍動性腫瘤と第1指の潰瘍
  1. 診断テストと結果:MRアンギオグラフィ
  1. 治療:保存的治療(第1指の潰瘍に対する対処療法)
  1. 転帰:不変
  1. コメント:潰瘍からの出血、動脈瘤破裂などが生じたときは止血術や塞栓術を考慮する。
 
先天性脈管形成異常(37歳女性)

右前腕から第1指にかけての拍動性腫瘤と第1指の有痛性潰瘍を主訴に受診した。MRアンギオグラフィにて先天性脈管形成異常(CVM)と診断し、保存的治療(第1指の潰瘍に対する対処療法)を施行した。
a:右前腕から第1指にかけての拍動性腫瘤
b:MRA画像

出典

著者提供
問診・診察のポイント  
 
  1. 拍動性腫瘤の部位、いつ頃から気づいたか、圧痛の有無、末梢の血行障害を評価する。

これより先の閲覧には個人契約のトライアルまたはお申込みが必要です。

最新のエビデンスに基づいた二次文献データベース「今日の臨床サポート」。
常時アップデートされており、最新のエビデンスを各分野のエキスパートが豊富な図表や処方・検査例を交えて分かりやすく解説。日常臨床で遭遇するほぼ全ての症状・疾患から薬剤・検査情報まで瞬時に検索可能です。

まずは15日間無料トライアル
本サイトの知的財産権は全てエルゼビアまたはコンテンツのライセンサーに帰属します。私的利用及び別途規定されている場合を除き、本サイトの利用はいかなる許諾を与えるものでもありません。 本サイト、そのコンテンツ、製品およびサービスのご利用は、お客様ご自身の責任において行ってください。本サイトの利用に基づくいかなる損害についても、エルゼビアは一切の責任及び賠償義務を負いません。 また、本サイトの利用を以て、本サイト利用者は、本サイトの利用に基づき第三者に生じるいかなる損害についても、エルゼビアを免責することに合意したことになります。  本サイトを利用される医学・医療提供者は、独自の臨床的判断を行使するべきです。本サイト利用者の判断においてリスクを正当なものとして受け入れる用意がない限り、コンテンツにおいて提案されている検査または処置がなされるべきではありません。 医学の急速な進歩に鑑み、エルゼビアは、本サイト利用者が診断方法および投与量について、独自に検証を行うことを推奨いたします。
薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※同効薬・小児・妊娠および授乳中の注意事項等は、海外の情報も掲載しており、日本の医療事情に適応しない場合があります。
※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、エルゼビアジャパン編集部によって記載日時にレセプトチェックソフトなどで確認し作成しております。ただし、これらの記載は、実際の保険適応の査定において保険適応及び保険適応外と判断されることを保証するものではありません。また、検査薬、輸液、血液製剤、全身麻酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適応の記載の一部を割愛させていただいています。
(詳細はこちらを参照)
著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
宮田哲郎 : 研究費・助成金など(バイエル薬品(株))[2024年]
監修:今井靖 : 未申告[2024年]

ページ上部に戻る

拍動性腫瘤

戻る