今日の臨床サポート

熱中症(小児科)

著者: 稲冨淳 帝京大学医学部附属溝口病院 小児科

著者: 黒澤照喜 帝京大学医学部附属溝口病院 小児科

監修: 渡辺博 帝京大学老人保健センター

著者校正/監修レビュー済:2020/11/19
参考ガイドライン:
患者向け説明資料

概要・推奨   

  1. 熱中症の予防のために意図的な休息と水分補給をすべきである(推奨度1)。
  1. 熱中症の予防のために暑さに身体を慣らすべきである(推奨度1)。
  1. 熱中症の治療のために身体を冷却すべきである(推奨度1)。
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薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、林太祐、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、
著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、エルゼビアジャパン編集部によって記載日時にレセプトチェックソフトなどで確認し作成しております。ただし、これらの記載は、実際の保険適用の査定において保険適用及び保険適用外と判断されることを保証するものではありません。また、検査薬、輸液、血液製剤、全身麻酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適用の記載の一部を割愛させていただいています。
(詳細はこちらを参照)
著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
稲冨淳 : 未申告[2021年]
黒澤照喜 : 特に申告事項無し[2021年]
監修:渡辺博 : 特に申告事項無し[2021年]

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行い、疫学情報を中心に加筆修正を行った。

病態・疫学・診察

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 熱中症は「暑熱環境下(heat stress)における身体の適応障害によって起こる病態の総称」と定義される。温暖化、都市のヒートアイランド現象による症例の増加が予想される。日本救急医学会の提唱する熱中症分類Ⅰ~Ⅲ度が一般的である[1]アルゴリズム 同時に労作性、非労作性の分類もすべきである。
 
日本救急医学会熱中症分類2015

  1. 「熱中症」は一連のスペクトラムであり、症状に固執して病状程度を過小評価してはならない。
  1. 暑熱環境に居る、あるいは居た後の体調不良はすべて熱中症の可能性がある。
  1. 各重症度における症状は、よく見られる症状であって、その重症度では必ずそれが起こる、あるいは起こらなければ別の重症度に分類されるというものではない。
  1. 熱中症の病態(重症度)は対処のタイミングや内容、患者側の条件により刻々変化する。特に意識障害の程度、体温(特に体表温)、発汗の程度などは、短時間で変化の程度が大きいので注意が必要である。
  1. そのため、予防が最も重要であることは論をまたないが、早期認識、早期治療で重症化を防げれば、死に至ることを回避できる。

 
  1. 子どもは成人と比べて、解剖学的・生理学的な要因により熱中症が重症化しやすく、特に乳幼児ではリスクが高い[2]。また、肥満や糖尿病もリスクとされている[3]
  1. 過度の運動や労作の継続、暑熱環境への長時間の曝露によって大量の発汗が生ずる。そこに電解質の少ない水分を補給することで低Na血症が生じ、筋肉の有痛性けいれん(いわゆる「こむら返り」)が起こる。また、末梢血管の拡張と血管内容積の減少から起立性低血圧(いわゆる立ちくらみ)の状態となる。さらに対応が遅れると、体温調節機構の破綻による高熱、高体温と循環不全から生ずる臓器障害、神経症状が生ずる。2019年夏季(5~9月)の全国における熱中症による救急搬送患者は71,317人であった。これは、これまで最多であった2018年の95,137人をに次ぐ高い水準となっている[4]。2020年夏季はそれを上回るペースで患者が増加している。
  1. 2019年の救急搬送患者の年齢区分では、高齢者(65歳以上)37,091人(52.0%)、成人(18歳以上)24,884人(34.9%)、少年(7歳以上18歳未満)8,707人(12.2%)、乳幼児(7歳未満)634人(0.9%)、新生児1人(0.0%)であった[4]。2019年の初診時の重症度は軽症45,285(63.5%)、中等症23,701(33.2%)、重症1,889(2.6%)、死亡126(0.2%)であった[4]
  1. 新型コロナウイルス対策としてマスク着用が勧められているが、科学的知見が乏しいながらも熱中症をおこすリスクがある。2歳未満のマスク着用は控えること[5]、学校の体育や部活中にはマスクをはずし十分なフィジカルディスタンスを確保すること[6]が勧められている。
 
  1. 熱中症の予防のために意図的な休息と水分補給をすべきである(推奨度1JG)。(参考文献:[1][7][8][9][10][11][12]
  1. 口渇を感じるときは脱水が相当進行している状態なので、口渇を感じる前に意図的に水分を摂るようにする。
  1. 経口補水液やスポーツドリンクなど、塩分を含むものを飲むようにする。身体負荷の重い作業では、作業前にコップ1~2杯、作業中は30分ごとにコップ半分~1杯、さらに作業後にも補給する。
  1. 喉の渇きに応じて適切な飲水ができる(自由飲水)能力を磨かせる。
  1. 子どもの顔色や汗の書き方を十分に観察し、熱中症をおこしかけているときには涼しい環境下で十分に休息させる。
  1. 暑さ指数(wet-bulb globe temperature、WBGT:湿球黒球温度)が28℃を超える環境下では、全身負荷のかかる作業は1時間以内とする。
  1. 高齢者に対しては、1日の食事以外の水分量をあらかじめ決めておき、定期的に飲ませる。
 
  1. 熱中症の予防のために暑さに身体を慣らすべきである(推奨度1G)。(参考文献:[11][12][13][14]
  1. 汗の原料は血漿であるが、血漿が分泌管を通って皮膚表面に分泌される過程で電解質が再吸収される。暑熱環境に馴化していない者は、この再吸収が発汗に追いつかず塩分濃度の高い、ベトッとした汗をかく。暑熱馴化した者は、塩分濃度の低いさらっとした汗をかくため、塩分を失いにくく、比較的身体の不調を起こしにくい。
  1. 熱中症の発症は真夏ばかりでなく、梅雨の晴れ間、梅雨明け時の急に暑くなる時期に多い。また、暑熱環境下での作業開始後、熱中症の発症は初日に多く、最初の3日間で約2/3が発症しているという調査がある。
  1. 本格的な暑さ到来前の5~6月に「ややきつい」と感じる運動を30分程度、1~4週間実施するのが有効である。
  1. スポーツにおける熱中症は新入生や低学年に多い。また、運動に慣れていない者が冬の校内マラソンに厚着で参加して発症するケースもある。
 
  1. 熱中症発症のリスクとして、暑さ指数(WBGT)が有用である(推奨度1JG)。(参考文献:[12][15][16][17]
  1. WBGT(wet-bulb globe temperature、湿球黒球温度)は、次の式で定義される。
  1. WBGT=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度
  1. 気温、相対湿度からWBGTを簡単に推定できる、日本生気象学会による図もある。
  1. 東京23区、名古屋市、新潟市、大阪府について、日最高気温別と日最高WBGTとの熱中症患者発生率を比較した研究がある。日最高気温では、30℃以上の温度帯で4都市の発生率に大きな違いがみられ、日最高WBGTが有用な指標となることが示された。
 
WBGTと気温、湿度との関係

WBGTは気温が低くても湿度が高ければ高値を示す。天気予報では気温と湿度が発表されるので、簡易にWBGTが推定できるように、気温、湿度とWBGTの関係を示す。

問診・診察のポイント  
  1. まず病歴から本症を疑う。原因不明の意識障害のときは必ず鑑別診断の1つに挙げる。代表的な発生状況として、①スポーツ中の若年男女、②肉体労働中の中年男性、③日常生活中の高齢者の3つがある。①、②を労作性熱中症、③を非労作性熱中症という。後者のほうが、重症度が高い傾向にある。
  1. 問診内容としては、①様子がおかしくなるまでの状況(食事や飲水の摂取状況、活動場所や内容、服装)、②症状、③最近の状況(暑熱馴化できているか、体調)などを聴取する[12]
  1. 体温は、必ず深部体温を測定する。汗で濡れていると検温は不正確になる。搬送中に冷却されていることもあり、腋窩温だけでは病態を正確にあらわせない。小児の体温の正常値は36.5~37.5℃であり、37.5~37.9℃を微熱、38.0~38.9℃を中等熱、39℃以上を高熱とする。
  1. Ⅰ度の熱中症(熱けいれん)は、腹痛、嘔気、嘔吐のほか、筋の痙縮、四肢の痛みなどがある。ときに一過性の立ちくらみを来す。体温は通常38℃以下である。
  1. Ⅱ度の熱中症(熱疲労)は、全身倦怠感、頭痛、めまいなどを伴う。体温は40℃以下のことが多い。
  1. Ⅲ度の熱中症(熱射病)は、高温多湿下の長時間かつ過度の運動、労作や、乳幼児の車内閉じ込め事故などで起こる。けいれん、昏睡などの中枢神経症状を来す。「受け答えがおかしい」「視線が合わない」「まっすぐ歩けない」などの症状は神経症状の出現と考え、速やかに集中治療が可能な施設へ搬送すべきである。

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文献 

著者: A Bouchama, A Cafege, E B Devol, O Labdi, K el-Assil, M Seraj
雑誌名: Crit Care Med. 1991 Feb;19(2):176-80.
Abstract/Text STUDY OBJECTIVE: To determine the efficacy of dantrolene sodium in the treatment of heatstroke.
DESIGN: Randomized, double-blind, placebo-controlled trial.
SETTING: Heatstroke center in Makkah, Saudi Arabia.
PATIENTS: Fifty-two adult patients with heatstroke.
INTERVENTIONS: Patients were assigned to receive either dantrolene sodium (2 mg/kg body weight iv) or placebo. Conventional cooling therapy was initiated in all.
MEASUREMENTS AND MAIN RESULTS: There was no significant difference in the mean cooling times for the treatment and control groups (67.9 vs. 69 min). There was only one death in the control group. Complications were seen in six (23%) patients receiving dantrolene sodium and seven (27%) patients receiving placebo; the difference was not statistically significant. There was no significant difference in the mean number of hospital days (4.7 +/- 2.0 vs. 2.9 +/- 0.9 days).
CONCLUSION: Treatment with dantrolene sodium at the dose used, did not prove beneficial to patients with heatstroke.

PMID 1989755  Crit Care Med. 1991 Feb;19(2):176-80.

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