静脈血栓症とは、各臓器を巡って心臓へ戻る通り道である静脈に、血栓といわれる血のかたまりが生じ、血液還流障害(血行の障害)を起こす病気です。

血栓により静脈がせき止められると、閉塞部位より手前の静脈圧が高まり、血管外に水分が漏れてむくみが生じたり、皮膚の色が変色したり、患部に痛みを生じたりします。

静脈壁からはがれた血栓が静脈血流にのって肺動脈に入り、肺動脈を閉塞して急性肺血栓塞栓症(きゅうせいはいけっせんそくせんしょう)を発症することがあります。この場合は、息切れ、呼吸困難、胸痛、動悸、血痰などの症状が見られ、血栓が大きいとショック症状を起こし、心停止を来す恐れもあります。

診断は、静脈超音波検査、造影CT、MRI、静脈造影などの検査によって確定します。

治療の基本は抗凝固療法です。静脈血栓が大きくなったりはがれたりするのを防ぐために、血液が固まるのを阻止する抗凝固薬を使用します。

病態(病状の様子)によっては、積極的に血栓を溶かす血栓溶解療法を行うこともあります。

治療の副作用として問題になるのは出血性合併症です。急性肺血栓塞栓症を生じる可能性がある場合には、お腹の太い静脈に下大静脈フィルターという器具を留置して、心臓や肺動脈に静脈血栓が流れないように予防します。

慢性期の静脈血栓再発予防のために経口抗凝固薬を一定期間継続することが必要です。

静脈血栓に伴う炎症で静脈内の逆流防止弁が破壊されると、慢性期に弁逆流が生じ、むくみ、痛み、皮疹、皮膚潰瘍などの血栓後症候群が生じることがあります。

下肢のむくみなど症状が持続する場合には弾性ストッキングを着用します。