甲状腺乳頭がんは、甲状腺がんの約90%を占めるがんです。若い人から高齢者まで幅広く発症し、ゆっくりと発育するおとなしい性格のがんです。

首のリンパ節への転移はよくみられますが、肺や骨への転移の頻度は高くありません。

進行すると声帯を動かす神経(反回神経)を侵し、声帯麻痺を生じることがあります。さらに進行すると、甲状腺の後ろにある気管や食道を侵し、呼吸困難や嚥下(えんげ)障害をきたすことがあります。

若い人は転移があっても予後がよく直ちに命にかかわることはありません。高齢の場合は、たちの悪いものが多くなるので注意が必要です。

診断は、超音波検査と穿刺吸引細胞診により確定し、ついで転移が起こりやすい頸部リンパ節と肺の超音波検査、さらに頭部CT、胸部CT検査などを行います。

大きさが1cm以下の乳頭がんを微小乳頭がんと言います。たまたま行った超音波検査やCT検査で発見されることが多くなりました。微小乳頭がんの大部分は増大進行しません。そこで、手術をしないで経過観察することが勧められるようになりました。ただし、気管や反回神経に浸潤のリスクがある場合、経過中に腫瘍が増大・進行した場合には手術が勧められます。

治療の第一は手術です。甲状腺を半分または全部摘出して同時に首のリンパ節を郭清します。大きさが1㎝未満の微小がんの場合は、手術をせずに、年1~2回の経過観察をするのも選択の一つです。

手術の合併症として、かすれ声、指先のしびれ感(低カルシウム血症)、リンパ液の漏れ、術後出血などがみられることがあります。しびれ感は手術後のストレッチ体操によって軽減できます。

術後出血は、稀な合併症(1%程度)ですが、窒息につながる危険があり緊急に再手術などで対処する必要があります。

甲状腺を全摘した場合は生涯、1日1回の甲状腺ホルモン薬を服用します。副作用はほとんどありません。副甲状腺機能低下症から低カルシウム血症になった場合には、カルシウム薬やビタミンを服用します。

再発のリスクに応じて、手術後放射性ヨウ素内用療法(カプセルを飲む)を行うことがあります。特殊な場合以外は、放射線照射や抗がん剤治療は行いません。