薬剤によって引き起こされる大腸炎を薬剤性腸炎といいます。代表的なものに、抗菌薬起因性出血性腸炎、偽膜性腸炎、非ステロイド性抗炎症薬(解熱・鎮痛薬)腸炎、抗がん剤による薬剤性腸炎があります。また、近年増加の著しいものに膠原繊維性大腸炎と腸間膜静脈硬化症があります。

抗菌薬起因性出血性腸炎は、主としてペニシリン系抗生物質の副作用として発症し、激しい腹痛、血液を交えた下痢が見られます。薬をやめれば回復します。過去に多数発生した時期がありましたが、近年は減少しています。一方、偽膜性腸炎は今日でもしばしばみられ、異常増殖したクロストリジウム・ディフィシル(CD)という細菌により発症するので、CDに有効な抗菌薬の投与が必要です。軽症例では原因薬剤の中止のみで治ることもあります。

非ステロイド性抗炎症薬(解熱・鎮痛薬)腸炎は、非ステロイド性抗炎症薬(解熱鎮痛薬、アスピリン製剤)の副作用として発症し、腸の潰瘍や炎症が見られます。薬を中止すれば徐々に治ります。中止できない場合は潰瘍の進行を抑える薬を服用しますが、腸の内腔が狭くなって手術が必要になることもあります。

膠原線維性大腸炎は、ランソプラゾールや非ステロイド性抗炎症薬(解熱・鎮痛薬)などの薬剤の副作用で発症します。薬を中止すれば治ります。腸間膜静脈硬化症は、山梔子を含む漢方薬で発症することが知られ、軽症例では薬を中止すれば症状改善します。

抗がん剤による薬剤性腸炎は、抗がん剤や、白血球減少による免疫抑制によって腸内細菌叢が変化するために腸炎を起こします。腸管粘膜の障害がひどいと出血性腸炎を起こすこともありますが、薬を中止すれば回復します。

最近の新しい抗腫瘍薬である免疫チェックポイント阻害薬による腸炎は腸管免疫システムのバランスが崩れることにより発症するもので、潰瘍性大腸炎に類似した病像を呈します。薬剤を中止しても症状が改善しない場合も多く、ステロイド剤が投与され、さらには潰瘍性大腸炎で用いる免疫抑制剤の投与が必要となる場合もあります。

抗菌薬起因性出血性腸炎は、原因疾患も重篤な場合は少ないので、通常は入院の必要はありません。

非ステロイド性抗炎症薬(解熱・鎮痛薬)腸炎で、高度の貧血を伴う場合は、安静を保つためにも入院して加療します。また、少量ながら出血がある場合も入院が必要です。

細胞傷害性の抗がん剤による薬剤性腸炎は腸粘膜が壊死を起こして脱落しているので、粘膜の再生を図るためにも腸管の安静、すなわち絶食が必要です。そのために中心静脈による栄養補給を行うので入院が必要です。

免疫チェックポイント阻害薬による腸炎は急速に重症化することがあるので速やかな診断が必要で、大腸内視鏡検査も重要ですが、重症例では消化管穿孔を来すことがあるので、消化器専門医にコンサルトが必要です。