厚生労働省の「国民生活基礎調査」によれば、介護や支援が必要になった原因の一つとしては、「関節疾患」が1割強を占め、要支援の原因として最も多くなっています。その「関節疾患」の中で最も多い疾患が「変形性膝関節症」です。

変形性膝関節症は、関節軟骨がすり減ることにより生じる変性疾患で、高齢者の日常活動性と生活の質を落とす最も多い原因の一つであります。とりわけ女性に多く、50歳以降の年齢になるにつれて患者さんの数が増えていきます。

日本は人口の約20~30%において、潜在的に変形性膝関節症が存在し、肥満、糖尿病などのメタボリック症候群や認知障害の存在がリスク因子となります。

症状は、初期には、立ち上がる際や歩き出しの際などの動作時痛が主ですが、進行すると、階段昇降時や歩行時の痛みが出現し、さらに進行すると、動く度に苦痛を伴い、筋力も低下し、歩くことさえ困難になります。

肥満、激しい運動、外傷などにより関節に部分的に負荷がかかるようになると、関節軟骨は変性をきたし、摩耗していきます。関節軟骨が変性する過程は軟骨の欠片が飛び散ることにより炎症・水腫の原因となり、関節炎が進むと、関節軟骨は完全に退化し、骨と骨が直接触れることになります。特徴的なX線写真は、関節裂隙の狭小化、骨棘の形成、軟骨下骨の硬化像および骨嚢胞などが見られます。

X線写真でみる変形の程度と関節痛の有無や症状は、必ずしも相関しないこともあります。その場合、より詳細な評価のためMRI検査を行います。MRIでは軟骨の摩耗状態、靱帯・半月板損傷、骨髄内の浮腫性変化など多くの情報を得ることができます。

治療は、まずは減量などの生活習慣の改善を促しながら、大腿四頭筋の筋力アップの体操と有酸素運動を基本とした運動療法や薬物療法を行います。

時に装具療法も有効です。膝関節に直接装着するものとして、硬性装具および軟性装具があります。また、足底板は、大腿脛骨関節のアライメントを修正し、荷重軸を内側から外側へ、力学的負荷を軽減させることを目的とします。

薬物療法としては、非ステロイド系抗炎症薬、アセトアミノフェン、オピオイド、デュロキセチン等を用います。また、ヒアルロン酸、時にステロイドによる注射も有効です。

保存療法で改善が認められない場合、手術療法が選択されます。部分的な軟骨損傷で、若く活動性が高ければ骨切り術が、活動性が低ければ人工膝関節単顆置換術が選択されますが、軟骨損傷および変形が関節全体に及ぶ場合、人工膝関節全置換術が適応となります。特に人工膝関節全置換術は、高齢者に適応され、疼痛の原因である骨と骨がぶつかる部分を滑らかな人工の金属と軟骨の代わりをするポリエチレンに置き換える手術であり、痛みとO脚変形が劇的に改善します。