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先天性脱毛症の診断アルゴリズム

先天性脱毛症が疑われる際に最も重要なのは、症候性か非症候性かの鑑別である。また、毛髪を光学顕微鏡と走査電子顕微鏡で観察することも診断のために重要である。
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円形脱毛症(通常型の多発型)

病歴:10歳女児。3カ月前から始まった頭髪の脱毛を主訴に受診。
診察:頭部に境界明瞭な脱毛斑が複数存在。脱毛斑上には多数の感嘆符毛を認める。
診断のためのテストとその結果:診察所見、病歴から診断。血液検査でCBC、一般生化学、抗核抗体、甲状腺機能検査はすべて正常範囲内であった。
治療:ステロイド外用とセファランチン内服で治療を行った。
転帰:半年後に発毛が完了したが、2年後に再び同様の脱毛斑が出現した。
 
コメント:通常型の円形脱毛症患者の多くは、ステロイド外用またはステロイド局注治療で略治する。しかしながら、再発率が高いので、その旨を患者に十分に説明する必要がある。
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円形脱毛症(蛇行型)

病歴:22歳女性。1年前より頭部の生え際に沿って脱毛を来したために受診。
診察:頭部の生え際に沿って帯状の脱毛斑を認める。脱毛斑上には黒点も認める。
診断のためのテストとその結果:診察所見、病歴から診断。血液検査でCBC、一般生化学、抗核抗体、甲状腺機能検査はすべて正常範囲内であった。
治療:SADBE(squaric acid dibutyl ester)による局所免疫療法を1カ月に1回のペースで施行。
転帰:同治療を3年継続した結果、側頭部はかなり発毛を認めるようになったが、後頭部はほぼ不変。
 
コメント:蛇行型円形脱毛症は、ステロイドの全身投与・局所免疫療法ともに反応性が悪い場合が多い。特に、後頭部の生え際が完全に発毛することは稀である。ただし、蛇行型に対しても経口JAK阻害薬とJAK3/TECファミリーキナーゼ阻害薬が有効なことがあるので、脱毛面積が頭皮の50%以上であれば内服を検討するとよい。
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トリコチロマニア

病歴:12歳女児。1年前から右側頭部の頭髪が薄くなったことを主訴に受診。右利き。
診察:右側頭部に切れ毛を多数認める。しっかりとした終毛であり、感嘆符毛ではない。なお、右手の爪の先が粗造になっていた。
診断のためのテストとその結果:臨床所見から診断。
治療:学童に多いチックの一つであり、穏やかに様子を見ていれば必ず治ることを説明。薬剤の処方なしで経過観察。手指の爪切り指導と習慣逆転法(右手で何かを握っているように指導)を行った。
転帰:約1年後にはすべて長い終毛が生えそろった。
 
コメント:特に利き腕側の側頭部をいじることにより生じる。基本的には無治療で軽快するが、必要に応じ、精神科や小児科にコンサルトすることも考慮する。
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男性型脱毛症

病歴:28歳男性。数年前から頭頂部を中心に頭髪が薄くなってきたことを主訴に受診。高血圧や心疾患の既往なし。
診察:頭頂部から前頭部の毛髪が全体的に細く軟毛化している所見が認められた。
診断のためのテストとその結果:特に血液検査等は施行せず。
治療:リアップ(RiUP)X5の使用を勧めた。
転帰:現在、経過観察中。
 
コメント:男性型脱毛症の診断に有用な血液検査はない。ただし、他の脱毛症との鑑別が必要な場合やフィナステリドまたはデュタステリドを処方する際には血液検査を行ったほうがよい。
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梅毒性脱毛

病歴:24歳男性。10カ月前より後頭部を中心に脱毛。
診察:側頭部から後頭部にかけて虫食い状の脱毛斑を認める。鼠径リンパ節腫大あり。脱毛以外の明らかな皮膚症状は認めず。
診断のためのテストとその結果:血液検査でRPR、TPLAともに陽性。
治療:ペニシリン系抗生物質の内服で治療。
転帰:治療によって、完全に発毛した。
 
コメント:脱毛が契機となり梅毒の診断に至ることもある。
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1: Alopecia syphilitica with detection of Treponema pallidum in the hair follicle.
著者: Nam-Cha SH, Guhl G, Fernández-Peña P, Fraga J.
雑誌名: J Cutan Pathol. 2007 Dec;34 Suppl 1:37-40. doi: 10.1111/j.1600-0560.2006.00726.x.
Abstract/Text: Alopecia is one of the clinical manifestations of secondary syphilis. It is uncommon for hair loss to be the sole or predominant manifestation, as hair loss is the chief clinical and histologic differential diagnosis of alopecia areata. The main difference between these two entities is the detection of Treponema pallidum in syphilis. We present the case of a 24-year-old Hispanic man, human immunodeficiency virus seropositive in treatment, with tiny patches of non-cicatricial alopecia in the parieto-occipital regions of his scalp. The patient denied previous history of genital or other skin lesions. A biopsy from an alopecic patch was performed which showed an inflammatory non-scarring alopecia with a discrete lymphocytic type inflammatory infiltrate localized in the peribulbar region. There was lymphocyte exocytosis into the matrix, associated with vacuolar degeneration, and scattered apoptotic cells were observed. Plasma cells were scattered. Immunohistochemical studies showed the presence of T. pallidum limited to the peribulbar region and penetrating into the follicle matrix. To the authors' knowledge, this is the first time that spirochetes have been shown in the hair follicle in alopecia syphilitica, suggesting that the spirochetes may be pathogenetic and responsible for the alopecia.
J Cutan Pathol. 2007 Dec;34 Suppl 1:37-40. doi: 10.1111/j.1600-0560.20...

頭部白癬(ケルスス禿瘡)

病歴:42歳男性。5か月前より、頭部に脱毛を来し、表面がジュクジュクしてきた。犬を飼っている。
診察:頭頂部を中心に化膿性紅斑を伴う脱毛斑が散在。易脱毛あり。
診断のためのテストとその結果:抜去した毛髪の真菌検鏡陽性。真菌培養でMicrosporum canisが同定された。
治療:抗真菌剤を3カ月間内服。
転帰:頭皮に化膿性病変は消失。脱毛斑の大部分には発毛を認めたが、一部は瘢痕化した。
 
コメント:本症が疑われる場合は、ペットの有無や、どのような運動をしているか (例えば、柔道やレスリングなど)等について問診を取る。
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Frontal fibrosing alopecia

病歴:53歳女性。約1年前から始まった前頭部の脱毛を主訴に受診。45歳時に閉経。
診察:前頭部の生え際に沿って境界明瞭な脱毛を認める。脱毛部には色素沈着と色素脱失が混在し、毛孔はほとんど認められない。
診断のためのテストとその結果:診察所見、病歴から診断。血液検査でCBC、一般生化学、抗核抗体、甲状腺機能検査はすべて正常範囲内であった。
治療:ステロイド外用で治療。
転帰:治療前よりも進行は遅くなったものの、少しずつ脱毛部が拡大傾向にある。
 
コメント:本症に対する有効な治療法は存在しないが、ステロイド外用もしくは局注を行うことにより、ある程度進行を止めることはできる。
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円形脱毛症(全頭型)

病歴:16歳女性。2カ月前から始まった頭部全体の脱毛を主訴に受診。
診察:頭部全体で著明な易脱毛と黒点を認めた。体毛は正常。
診断のためのテストとその結果:診察所見、病歴から診断。血液検査でCBC、一般生化学、抗核抗体、甲状腺機能検査はすべて正常範囲内であった。心電図と胸部X線も異常なし。
治療:入院の上、ステロイドパルス療法(ソルメドロール注 500 mgの点滴を3日間)を施行した。
転帰:今後、同療法を更に2クール行う予定である。
 
コメント:若い女性の全頭型円形脱毛症の一部では、ほとんど無治療で自然に略治することもあるので、その可能性も考慮しつつ、ステロイドパルス療法を実施するかどうかを慎重に決定する必要がある。
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円形脱毛症(汎発型)

病歴:24歳男性。4年前から脱毛が始まり、3カ月ほどで全身の毛が抜け落ち、現在まで全く発毛を認めない(写真左)。
診察:全身の脱毛を認める。感嘆符毛および新生毛を全く認めない。
診断のためのテストとその結果:診察所見、病歴から診断。血液検査で特記すべき異常はなく、胸部X線検査も異常なし。
治療:経口JAK阻害薬のオルミエント錠4 mgの内服を開始した。
転帰:内服開始後40週の時点で、頭部を含む全身で順調な発毛を認めた(写真右)。
 
コメント:6か月以上症状が固定した脱毛面積が頭皮の50%以上の慢性期(固定期)の同症に対しては、経口JAK阻害薬またはJAK3/TECファミリーキナーゼ阻害薬の内服が最も推奨されている。ただし、慢性期が8年以上の患者に対する効果は低い傾向があることに留意するべきである。
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エリテマトーデスに伴う脱毛

病歴:50歳男性。6カ月前からの頭部の脱毛と頭皮の疼痛を主訴に受診。
診察:頭部の脱毛部に浸潤を触れる小紅斑が散在している(写真左)。顔面と手背にも瘢痕性の紅斑あり。
診断のためのテストとその結果:脱毛部の紅斑からの皮膚生検の組織は慢性皮膚エリテマトーデス(chronic cutaneous lupus erythematosus、CCLE)の所見。血液検査で抗核抗体は陰性で、CBC・補体も正常範囲。
治療:ヒドロキシクロロキン内服(プラケニル錠200 mgと400 mgを隔日で内服)により治療。
転帰:内服開始1か月で頭皮の紅斑が著明に改善した(写真右)。その後、徐々に発毛も認められた。
 
コメント:エリテマトーデスに伴う脱毛は浸潤性紅斑を伴うことが多く、治療が遅れると瘢痕性脱毛(永久脱毛)に陥る。
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先天性縮毛症/乏毛症

病歴:8歳女児。生下時より頭髪が細く縮れ、数cmで成長が止まってしまうことを主訴に受診。毛髪症状以外の皮膚症状なし。両親に同症なし。
診察:頭部全体に強く縮れた毛髪を認める。全体的に細く、側頭部は乏毛症も呈している。
診断のためのテストとその結果:診察所見・病歴より先天性(常染色体潜性)縮毛症/乏毛症と診断。遺伝子検査でlipase H (LIPH)遺伝子にミスセンスバリアントがホモ接合型で同定された。
 
コメント:2011年の研究で、日本人の本症の患者のほとんどが、LIPH遺伝子に共通の創始者病的バリアントを有することが判明した。日本人には本症の患者が約1万人いると推定されている。
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連珠毛

病歴:4歳男児。生下時より頭部の乏毛を認める。父と妹にも同様の症状あり。
診察:頭部の乏毛と、毛孔性紅斑を認める。毛髪は脆弱で切れやすい。
診断のためのテストとその結果:毛髪を光学顕微鏡で観察したところ、明らかな連珠毛の所見を認めた。
 
コメント:連珠毛は、その名の通り、毛髪の径が周期的に異常に細くなることが特徴の先天性毛髪疾患であり、常染色体顕性もしくは潜性遺伝形式を示す。前者は毛ケラチン遺伝子(KRT81, KRT83, KRT86, またはKRT31)の、後者はデスモグレイン4遺伝子(DSG4)の病的バリアントによって発症することが知られている。
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低汗性外胚葉形成不全症

病歴:26歳男性。生下時からの乏毛症、乏歯症、乏汗症を主訴に受診。
診察:頭髪は疎で、全身の皮膚が乾燥している。眼囲の色素沈着、前額部の突出、鞍鼻、下口唇の外反を認める。歯は少なく、円錐歯を呈している。
診断のためのテストとその結果:診察所見、病歴より診断。遺伝子検査でEDA遺伝子に病的バリアントが同定された。
治療:全身の乾燥肌に対して保湿剤を外用。乏歯症については歯科にコンサルト。
 
コメント:本症のほとんどがX連鎖性潜性遺伝だが、常染色体顕性または潜性遺伝性の家系も存在する。それぞれの原因遺伝子は過去に同定されており、いずれもEDARシグナルという外胚葉の形成に重要なシグナル伝達系の主要分子をコードしている。
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Netherton症候群

病歴:3歳男児。生下時からの全身の紅斑と乏毛症を主訴に受診。
診察:体幹、四肢に落屑を伴う紅斑が散在。頭髪は脆弱で容易に切れやすい。
診断のためのテストとその結果:体の紅斑からの皮膚生検では、表皮肥厚と角層の菲薄化、真皮上層の炎症細胞浸潤が認められた。血液検査では好酸球とIgEが高値を示した。頭髪を光学顕微鏡で観察したところ、典型的な陥入性裂毛の所見が認められた。[ID0672]遺伝子検査でSPINK5遺伝子に複合ヘテロ接合型病的バリアントが同定された。
治療:弱~中程度のステロイドと保湿剤の外用で経過観察中。
 
コメント:本症は、魚鱗癬様紅皮症、アトピー素因、陥入性裂毛を3徴候とする常染色体潜性遺伝性疾患。本症例で認められた皮疹は曲折線状魚鱗癬が主体だった。本症は、セリンプロテアーゼ阻害分子の1つであるLEKTIという蛋白質をコードしているSPINK5遺伝子の病的バリアントによって発症することが知られている。
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感嘆符毛

円形脱毛症の進行期の脱毛部に認められる(矢印)。切れ毛の頭皮に近い部位がやせ衰えて細くなるために、感嘆符のような形状を呈する。
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Netherton症候群で認められる陥入性裂毛の光学顕微鏡所見

本疾患では、毛髪の所見が診断に決定的な役割を果たす。ただし、生後1~2年は認めにくい。
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後天性脱毛症の診断アルゴリズム

トリコスコピーで頭皮を観察した際の感嘆符毛の存在は円形脱毛症の確定診断に最も決定的な役割を果たす。一方、感嘆符毛が認められなくても、断裂毛や黒点などの所見、経過や皮膚生検の組織所見から円形脱毛症と診断される場合も多々ある。さらに、プルテスト(頭髪を軽く牽引する試験)で抵抗なく抜けた頭髪を観察し、根本が細くやせ衰えている場合は、円形脱毛症の急性期に特徴的な所見である(pencil point hairまたはdystrophic anagen hairと呼ばれる)。
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先天性脱毛症の診断アルゴリズム

先天性脱毛症が疑われる際に最も重要なのは、症候性か非症候性かの鑑別である。また、毛髪を光学顕微鏡と走査電子顕微鏡で観察することも診断のために重要である。
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円形脱毛症(通常型の多発型)

病歴:10歳女児。3カ月前から始まった頭髪の脱毛を主訴に受診。
診察:頭部に境界明瞭な脱毛斑が複数存在。脱毛斑上には多数の感嘆符毛を認める。
診断のためのテストとその結果:診察所見、病歴から診断。血液検査でCBC、一般生化学、抗核抗体、甲状腺機能検査はすべて正常範囲内であった。
治療:ステロイド外用とセファランチン内服で治療を行った。
転帰:半年後に発毛が完了したが、2年後に再び同様の脱毛斑が出現した。
 
コメント:通常型の円形脱毛症患者の多くは、ステロイド外用またはステロイド局注治療で略治する。しかしながら、再発率が高いので、その旨を患者に十分に説明する必要がある。
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