Now processing ... 
 Now searching ... 
 Now loading ... 

爪の異常のアルゴリズム

出典
img
1: 著者提供

全身性疾患による爪異常:ばち状指

病 歴:66歳、男性。3年前から全指趾爪が大きく、丸みを帯びてきた。
診 察:全指趾爪にばち状の変化を認める。
診断のためのテストとその結果:両手の拇指背面を接触させると、正常では爪根に生じる間隙が消失し、爪甲先端部に空隙を生じている。胸部X線検査で中皮腫を認めた。中皮腫によるばち状指と診断した。
治 療:外科に切除を依頼したが、切除不能であった。
転 帰:軽快しなかった。
出典
img
1: 東 禹彦:内臓障害を疑う爪の異常は? 皮膚臨床 2011;53:1553-1557.

全身疾患による爪異常:黄色爪症候群

病 歴:42歳、女性。6カ月前から、全指趾爪が伸びなくなり、次第に分厚くなり、黄色調を示すようになってきた。
診 察:爪甲はやや丸みを帯び、爪甲と側爪郭の繋がりはなく、わずかに黄色調を示し、厚くなり、一部の爪甲は混濁している。下腿には軽度に浮腫を認めた(a:初診時)。
診断のためのテストとその結果:胸部X線で胸水の貯留を認めた。副鼻腔炎を伴っていた。
治 療:エトレチナート20mg/日とジョサマイシン6錠/日の投与を行った。
転 帰:3年後には爪は正常化したが、現在も胸水は貯留している(b:3年後)。
コメント:ブシラミンの内服でも黄色爪を生じることがあるので、内服しているかどうかを確認する。
a:初診時
b:3年後
出典
img
1: 著者提供

全身疾患による爪異常:爪甲層状分裂症

病 歴:82歳、男性。2、3年来指爪の表面が薄く剝がれている。
診 察:爪甲層状分裂症
診断のためのテストとその結果:血液検査を行ったところ、ヘモグロビン値は7.7g/dlで、鉄欠乏性貧血による爪甲層状分裂症と診断した。
治 療:フェロミア2錠/日を連日投与した。
転 帰:治癒した。
コメント:爪甲層状分裂症は俗に二枚爪と呼ばれている。爪甲中の水分含量の低下に起因する。わが国では冬季に生じやすい。除光液の過度使用や洗剤を使用する水仕事が多い場合にも生じる。
出典
img
1: 著者提供

全身疾患による爪異常:爪囲紅斑

病 歴:43歳、女性。
診 察:すべての指趾爪甲周囲に発赤と腫脹を認める。
診断のためのテストとその結果:ALT、AST、CPKの上昇を認めた。婦人科を受診し、子宮癌を認めた。皮膚筋炎による爪囲紅斑と診断した。
治 療:子宮癌の切除を行った。
転 帰:爪囲紅斑は消失した。
コメント:SLEやSScでも爪囲紅斑や後爪郭部の毛細血管の拡張を認めるが、初発症状ではない。
出典
img
1: 著者提供

皮膚疾患による爪異常:爪乾癬

病 歴:45歳、男性。2、3年前からすべての指爪に点状の凹みと爪甲剝離を認めるようになり受診した。
診 察:すべての指爪の表面に鱗屑を伴う点状の凹みを認め、爪甲剝離も同時に認めた。
診断のためのテストとその結果:全身の皮膚を調べたところ、頭部に乾癬に一致する小さな病巣を認めた。爪の爪甲剝離部の角質を採取し、直接鏡検を行ったが、真菌要素は検出されなかった。以上により爪乾癬と診断した。
治 療:頭部にはリンデロンDPゾルを1日2回塗布させ、爪には後爪郭部から爪甲表面にかけてリンデロンDP軟膏を塗布させた。子どもは3人あり、4人目は希望しないということだったので、エトレチナート(10mg)を2錠/日を投与した。口唇にはワセリンを塗布させた。爪がほぼ正常化した時点でエトレチナートを1錠/日に減量した。
転 帰:6カ月後には爪甲はほぼ正常化したが、治療は継続した。
コメント:爪乾癬は外用剤では治療困難で、エトレチナートかシクロスポリンの内服が必要となることが多い。
出典
img
1: 東 禹彦:乾癬などの炎症性皮膚疾患に伴う爪の異常を教えてください.皮膚臨床 2011;53:1559-1563.

皮膚疾患による爪異常:爪乾癬

病 歴:60歳、男性。
診 察:指爪はすべて菲薄化し、一部では爪甲を形成していない(a)、趾爪はすべて混濁、肥厚し、もろくなっている(b)。
診断のためのテストとその結果:爪部の組織検査の結果、乾癬に一致する結果を得た。
治 療:ステロイド軟膏の外用とエトレチナート20mg/日の内服を行った。
転 帰:爪は正常化した。
a:初診時指爪
b:初診時趾爪
出典
img
1: 著者提供

皮膚疾患による爪異常:爪扁平苔癬

病 歴:61歳、男性。2、3年前から一部の指爪に縦裂が目立つようになり、爪甲が薄く、割れやすくなってきた。右示指爪は一部形成されなくなってきた。
診 察:右示指爪は一部しか認められず、大部分は欠如している。中指、薬指爪には縦筋が目立ち、薬指爪には縦裂も認められる。皮疹はまったく認められない。
診断のためのテストとその結果:右示指爪の組織検査の結果、後爪郭部腹側面上皮、爪母上皮には顆粒層が認められ、上皮下にはリンパ球を主とする帯状の細胞浸潤を認め、上皮基底層には液状変性を認めた。扁平苔癬と診断した。
治 療:ステロイド軟膏の外用を行った。
転 帰:軽快しなかった。
出典
img
1: 著者提供

皮膚疾患による爪異常:扁平苔癬

病 歴:56歳、男性。5年前から手足の爪が剝がれてくる。テルビナフィンやイトラコナゾールによる治療を受けたが、変化はなかった。
診 察:ほとんどすべての爪で爪甲剝離を認め、爪甲は少し不透明となっている。
診断のためのテストとその結果:左手中指爪部で縦に爪母部から爪床を含む組織検査を行った。爪母付近では異常を認めなかったが、爪床部では、爪床部上皮に顆粒層が出現し、角質を形成していた。また、爪床部真皮上層には帯状にリンパ球を主とする密な細胞浸潤を認め、爪床部上皮基底層の一部に液状変性を認め、扁平苔癬に一致する所見であった。爪床部に生じた扁平苔癬と診断した。
治 療:ステロイド軟膏の外用を行ったが、軽快しなかった。ステロイド薬の局所注射を一部の病変に施行したが、軽度に軽快したのみであった。プロトピック軟膏の外用を行っているが、やや有効である。
転 帰:現在治療中である。
出典
img
1: 著者提供

皮膚疾患による爪異常:掌蹠膿疱症

病 歴:54歳、女性。3年前から手掌、足蹠に発赤、落屑、小膿疱を生じていたが、6カ月前から爪甲が厚くなり、混濁し、爪甲表面に点状の凹みや鱗屑を伴うようになってきた。
診 察:ほとんどすべての指趾爪の炎位部は爪甲下角質増殖を伴って厚くなり、混濁していた。爪甲の表面には点状の凹みを認める部位もみられた。手掌、足蹠には発赤と鱗屑を認め小膿疱も認められた。
診断のためのテストとその結果:爪甲下角質の直接鏡検では真菌を認めなかった。手足の臨床症状から掌蹠膿疱賞に伴う爪の変化と診断した。
治 療:リンデロンDP軟膏の外用、塩酸エピナスチン1錠/日、ジョサマイシン6錠/日 分3の内服を行った。
転 帰:1年後には掌蹠の皮疹も爪の変形も治癒した。
出典
img
1: 著者提供

色の変化:爪の着色

病 歴:25歳、女性。最近2、3カ月の間に次第に爪甲の色が褐色調を帯びるようになり、内科を受診し、精査を受けたが、原因不明といわれた。
診 察:すべての指・趾爪が軽度に褐色調を帯びている。DIP関節背面も少し褐色となっている。患者に内服している薬剤の有無を尋ねたところ、「にきび」の治療のためにミノサイクリンを内服していることが判明した。
治 療:ミノサイクリンを中止させた。
転 帰:3カ月後には着色は軽減し、その後完治した。
コメント:抗腫瘍薬の内用によりしばしば爪甲に着色を生じるが、ミノサイクリンも着色を生じる。全身疾患ではアジソン病でも爪に褐色の着色を生じるので、検査が必要になる。
出典
img
1: 著者提供

色の変化:爪の色素沈着(黒色爪)

病 歴:49歳、男性。両手の多数の指爪に黒色の色素沈着を生じるようになり受診した。
診 察:多くの指爪に縦走する黒色線条を認めた(a:初診時)。着色を生じるような薬剤の内服もなく、全身状態も良好である。
診断のためのテストとその結果:念のために爪甲下の角質を採取し直接鏡検を行ったが、真菌要素は認めなかった。臨床検査にも異常を認めなかった。
治 療:爪甲周囲にステロイド軟膏を塗布させ、トラネキサム酸の内服を行った。
転 帰:4年後には黒色線条はかなり消失し、爪甲自体も透明感が増した(b:4年後)。
コメント:多発する黒色線条では爪母に生じる炎症によることもあり、外的な刺激が影響していることもある。爪白癬や爪カンジダ症でも色素沈着を生じるし、接触皮膚炎でも生じることがある。
a:初診時
b:4年後
出典
img
1: 著者提供

色の変化:黒色斑

病 歴:5歳、女児。2歳頃から、右手拇指爪に縦走する黒色帯を生じ、次第に拡大してきた。
診 察:右手拇指爪甲全体が黒褐色となり、部分的に濃く縦走する着色部を認める。色調の変化以外に異常を認めない(a)。
治 療:半年に1回経過観察を行った。
転 帰:7年後には一部で色調は薄くなった(b)。
コメント:乳幼児期発症の縦走する黒色線条(帯)は爪母に存在する母斑によることが多い。いったん色素沈着帯が拡大しても、長期間観察すると消失することが多いと報告されている。思春期以後に1爪甲に出現する黒色線条は慎重に経過観察をする必要がある。17年後に悪性黒色腫を生じた症例もある。
a:初診時(5歳)
b:7年後(12歳時)
出典
img
1: 著者提供

感染症による爪異常:カンジダ性慢性爪郭炎

病 歴:60歳、女性。3、4カ月前から右手薬指の爪郭部に発赤腫脹を生じ、爪も変になってきた。
診 察:右手薬指の側爪郭から後爪郭部にかけて、軽度に発赤し、腫脹を認め、爪甲表面にも鱗屑を認める。
診断のためのテストとその結果:内側の側爪郭部から後爪郭部にかけて爪甲表面からメスを爪郭下に容易に挿入可能である。そのメスの刃先をサブロウ寒天培地に接種したところC. albicansを検出した。爪甲表面の鱗屑を採取し直接鏡検したところ真菌要素を認めた。カンジダ性慢性爪郭炎と診断した。
治 療:イトラコナゾール100mg/日の内服と爪郭部から爪甲表面にかけて、アデスタンクリームの外用を行った。
転 帰:6カ月後には完治した。
コメント:水仕事の多い人に生じやすい。爪甲表面と爪郭部腹側皮膚の間に隙間を生じているのが特徴である。疼痛はあまりない。
出典
img
1: 著者提供

感染症による爪異常:ひょう疽

病 歴:78歳女性。2、3日前から右手中指の後爪郭部に発赤、腫脹、疼痛を生じるようになり、昨日から一部が黄色みを帯びるようになってきた。
診 察:右手中指の後爪郭部に発赤腫脹を認め、一部は黄色調を示し、柔らかくなっている(a)。
診断のためのテストとその結果:黄色くなっている部を穿刺すると排膿した。急性細菌性爪郭炎(ひょう疽)と診断確定した。
治 療:フロモックス3カプセル/日を投与した。
転 帰:1週間後には治癒した。
コメント:爪部のブドウ球菌感染は爪郭部だけではなく指先から爪甲下に生じることもある(b)。この場合には爪甲に穿孔し排膿するか、爪甲先端から爪甲に爪切りで縦に切り目を入れて排膿する。その後、抗菌薬を投与する。
a:後爪郭部ひょう疽
b:爪甲下ひょう疽
出典
img
1: 著者提供

爪の感染症と色の変化:緑色爪

病 歴:53歳、女性。2、3カ月前から右手拇指爪甲が緑色になってきた。
診 察:右手拇指爪甲は緑色となり、爪甲剝離を伴っている。
診断のためのテストとその結果:剝離部爪甲を爪切りで除去し、爪床部角質を直接鏡検した。真菌要素を認めた。培養により緑膿菌とカンジダを分離した。カンジダ性爪甲剝離症に緑膿菌が感染したものと診断した。
治 療:イトラコナゾール100mg/日の投与を連日行った。
転 帰:6カ月後には治癒した。
コメント:緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は湿潤した環境を好む菌である。正常な爪に感染することはなく、大抵はカンジダ性爪甲剝離症に二次的に感染する。きわめてまれには爪乾癬や爪白癬に感染することもある。爪甲剝離症に緑膿菌が感染した場合には剝離部爪甲を除去し、患部の乾燥化を計る必要がある。緑膿菌に対してはアクアチムクリームが有効であるが、患部を乾燥化すれば外用しなくてもよい。本例ではカンジダに対する治療のみで治癒している。最近ではマニキュアとして行われている付け爪と自然の爪甲との間に緑膿菌の感染を生じ緑色を示す例もある。この場合には付け爪を除去し(乾燥化を計る)、アクアチムクリームを塗布する。
a:初診時
b:剝離部爪甲を除去した状態
出典
img
1: 東 禹彦:爪の緑膿菌感染症.Visual Dermatology 2002;1:880-881.

感染症による爪異常:爪白癬

病 歴:53歳、男性。5年前から右第1、2趾爪に混濁、肥厚を生じている。
診 察:右第1、2趾爪の遠位部に混濁と肥厚を認める。
診断のためのテストとその結果:爪甲の混濁部で爪床に近い部位から角質を採取し、10%苛性カリ液あるいはクロラゾール真菌染色液を用いて直接鏡検を行い真菌要素の有無を調べる。真菌要素を認めたので、爪白癬と診断した。
治 療:イトラコナゾール400mg/日のパルス療法あるいはテルビナフィン125mg/日の連日投与6カ月間を行う。本例ではテルビナフィン125mg/日を24週間投与した。
転 帰:6カ月後には爪甲基部から6割以上が正常化し、1年後には完治した。内服中は定期的に肝機能検査、末梢血液所見の検査を行った。
コメント:爪白癬に対して従来の抗真菌薬の外用は無効である。テルビナフィンかホスラブコナゾールまたはイトラコナゾールの内服を行う。エフィコナゾール10%爪外用液やルリコナゾール5%爪外用液の使用は軽症の爪白癬には有効である。
出典
img
1: 著者提供

感染症による爪異常:爪カンジダ症

病 歴:59歳、男性。平成21年2月6日初診。平成16年ごろから指爪の肥厚、褐色の着色があり、足爪の混濁、変形も認められた。某皮膚科にてテルビナフィンの内服を3カ月間行い、足爪は軽快したが、指爪の変化は持続した。平成19年8月に某病院皮膚科に紹介され、カンジダが培養され、ルリコン液を処方され、外用したが軽快せず、当院に紹介された。
診 察:両手の拇指、示指、中指、薬指爪はいずれも混濁し、右中指爪、左薬指爪は爪甲剝離を伴い、右示指爪、中指爪、左示指爪には縦走する暗褐色、帯状の着色を認めた。
診断のためのテストとその結果:爪甲下角質を採取し、直接鏡検を行ったところ、真菌要素を認め、角質を培養したところC. albicansを検出した。爪カンジダ症と診断した。
治 療:イトラコナゾール100mg/日を連日投与した。
転 帰:1年後には左示指爪以外は治癒した。左示指爪は2年後に治癒した。治癒した時点では色素沈着も消失した。
コメント:爪カンジダ症は指爪に多く、指爪の混濁で、直接鏡検で真菌を認める場合にはカンジダ感染も考慮する。テルビナフィンはカンジダに対して無効なので、イトラコナゾールを投与する。なお、爪カンジダ症に対してのパルス療法は認められていない。
出典
img
1: 著者提供

外的刺激による爪異常:爪噛み癖

病 歴:24歳、女性。平成16年10月21日初診。指先の形が不格好なのが気になるといって受診した。小さいときから爪を噛む癖があるという。
診 察:すべての指爪が刃物で切れないほど短縮し、爪甲の先端には歯形を認めた。指先も少し膨らんでいた。
診断のためのテストとその結果:短すぎる爪甲と、爪甲の先端の歯形の存在により爪噛み癖による変形と診断した。
治 療:爪を噛まないようにすると、指先の形も美しくなると説明した。
転 帰:1年半後に他の疾患で受診したときには完治していた。本人の努力で治癒した珍しい症例である。
コメント:爪を噛む癖は長期間続いているので、本人の努力で止めるのは困難である。現在はマニキュア製品の1つで苦み成分(安息香酸デナトニウム)を含むトップコート(バイターストップ、MAVALA STOP、スイス製)が市販されているので、それを購入し、毎日爪に塗布することを勧めている。大抵治癒する。
出典
img
1: 著者提供

外的刺激による爪異常:スプーンネイル

病 歴:55歳、女性。1年前から両手の示指爪、中指爪の中央が凹んできた。
診 察:両手の示指および中指の爪甲の中央が凹み、爪甲の両側縁は反り返り、スプーン状となっている。爪の色はすべて少し白っぽくなっている。
診断のためのテストとその結果: 末梢血液所見ではヘモグロビン値が9.8mg/dlと低値を示した。
治 療:スプーンネイルは指腹に加わる力が爪甲の支える力よりも大きい場合に生じる現象なので、手指を使う仕事では道具を利用するように指導し、低色素性貧血に対しては鉄剤の内服を行った。
転 帰:3カ月後には貧血は改善し、6カ月後にはスプーンネイルも改善し始めた。
コメント:スプーンネイルは貧血の有無にかかわらず、指の掌側に力の加わる仕事を行うと生じるものなので、職業性に起きることが多い。低色素性貧血では爪甲が菲薄なために生じやすくなる。
a:末節骨と爪甲の位置を示す
b:末節骨のない部では爪甲が外力を支えている
c:スプーンネイルの臨床像。示指爪甲では側縁が短く切られている
出典
img
1: 東 禹彦:匙状爪の発生機序.皮膚 1975;27:29-34.

外的刺激による爪異常:爪甲層状分裂症

病 歴:82歳、男性。2、3年前から爪甲遠位部の表面が薄く剝がれるといって受診した。
診 察:両手の示指および中指の爪甲遠位部の表面が薄く剝がれている。
診断のためのテストとその結果:末梢血液所見でヘモグロビン値が7.7mg/dlと低値を示した。
治 療:鉄剤の投与を行い2カ月後にはヘモグロビン値は12.1mg/dlと回復した。
転 帰:4カ月後には治癒した。
コメント:爪甲層状分裂症は爪甲の水分含量の低下に伴って生じるものである。外界の湿度が低下する冬季に起きやすい。また、マニキュアでの除光液の過度使用は爪甲の水分含量を低下させるので、本症を生じやすくする。洗剤を使用して、長時間洗い物をする場合も爪甲の水分含量を低下させるので、仕事を終えた後に爪甲の表面に保湿クリームを外用して予防をするのがよい。鉄欠乏性貧血でも生じやすい。
出典
img
1: 著者提供

爪甲剝離症

病 歴:25歳、女性。
診 察:右中指、薬指、左示指、中指爪甲の遠位部に爪甲剝離を認める(a)。
診断のためのテストとその結果:爪甲下の角質を採取し、直接鏡検を行ったところマラセチアの菌要素を認めた。マラセチアによる爪甲剝離症と診断した。
治 療:剝離部爪甲をできるだけ切り取り、アトラントクリームを1日1回外用させた。
転 帰:6カ月後には治癒した(b)。
コメント:爪甲剝離症の原因はいろいろである。剝離起始部付近の爪甲下の角質を採取し、直接鏡検を行う。真菌が認められる場合にはカンジダを検出することが多い。カンジダを検出した場合にはイトラコナゾールの内服を行う。マラセチアの場合は有効な抗真菌薬の外用でよい。真菌が検出されない場合にはステロイド含有外用剤を爪甲下に外用させて、ときどき真菌の有無をチェックする。
a:初診時
b:6カ月後
出典
img
1: 著者提供

外的刺激による爪異常:陥入爪

病 歴:19歳、男性。1年前から両第1趾に疼痛があり、爪甲の周囲が湿潤し、いくつかの医院を受診したが、軽快しないといって、受診した。一部の医院では爪甲の外側縁を切られたという。
診 察:右第1趾爪甲は短く切られ、側爪溝には肉芽を生じている。左第1趾では爪甲の両側が短く切られ、側爪溝からは爪甲を覆うように大きな易出血性の肉芽を生じている(a)。
診断のためのテストとその結果:臨床所見から陥入爪と診断した。
治 療:リンデロンVG軟膏を肉芽部に塗布させ、抗菌薬を投与した。1週間後に肉芽が縮小した状態で、爪甲を長くするアクリル人工爪療法を行った。3カ月ごとに人工爪を付け替えた。
転 帰:1年後には治癒した。
コメント:陥入爪や巻き爪の治療法として多くの方法がある。世界的には爪母の両端を切除したり、フェノールを用いて腐食させたりして、爪甲の側縁を生えなくする手術がよく行われている。これらの方法を爪母の両端に行うと、再生した爪甲は後に必ず醜悪な変形を生じ、趾先端に疼痛を生じるなど、患者にとってはよい結果とはならない。決して行ってはならない方法である。爪甲側縁の先端を短く切る治療もよく行われているが、陥入爪は深爪で起きる疾患なので、結果的には症状が一層悪化することになる。爪甲の両側縁にフックを掛け、そこからワイヤーで中央に引っぱり爪甲の弯彎曲を矯正し、陥入爪を治そうとするVHOという方法も行われている。この方法はかなり有効であるが、爪甲側縁が短すぎると実施できない。超弾性ワイヤーを爪甲先端に付ける方法は陥入爪には無効である。アクリル人工爪療法は短くなった爪甲を人工爪で長くする方法なので、理論的にも優れた方法である。
 
a:陥入爪
b:人工爪の作製方法
出典
img
1: 東 禹彦:陥入爪、巻き爪に対するアクリル人工爪療法.MB Derma 2011;184:126-132.
img
2: 東 禹彦:陥入爪と巻き爪の治療法.皮膚病診療 2001;24:1325-1332.

外的刺激による爪異常:巻き爪 

病 歴:44歳、女性。2年前から第1趾の爪が次第にまき爪となってきた、3カ月前からは疼痛を伴うようになってきた。
診 察:両方の第1趾爪甲は少し厚くなり、内方に弯曲し、爪床部組織に食い込んでいる。
診断のためのテストとその結果:臨床症状から巻き爪と診断した。
治 療:アクリル人工爪による治療を行った。3カ月ごとにアクリル人工爪を付け替えて弯曲の矯正を行った。
転 帰:1年後には完治した。
コメント:巻き爪の多くは先端の窮屈な履き物を使用することにより生じる。いったん治癒しても、先端の窮屈な履き物を履けば再発するので、患者に十分説明をしておく必要がある。高齢者ではあまり歩行しないために、巻き爪となることがある。多くの治療法が報告されている。陥入爪の項で記したVHO法は巻き爪にはかなり有効である。爪甲先端に2カ所孔を開けて、超弾性ワイヤーを通す方法は弾力性のある爪甲には有効である。爪甲表面に弾力性のあるプラスチック板を貼るBS Brase法は弾力性のある爪甲では有効である。形状記憶合金クリップは爪甲先端に装着するが、やはり弾力性のある爪甲に対しては有用である。超弾性合金をコイルばねで巻いた巻き爪マイスターのUフックを両方の爪甲側縁にかけて、彎曲を矯正する方法も有用である。厚く硬い爪甲に対しては多くの方法が無効なのである。
出典
img
1: 東 禹彦:陥入爪、巻き爪に対するアクリル人工爪療法.MB Derma 2011;184:126-132.

外的刺激による爪異常:爪甲鉤弯症

病 歴:55歳、女性。3年前から両第1趾爪甲が分厚くなり、伸びなくなってきた。靴を履くと疼痛を生じるようになってきた。
診 察:両第1趾爪甲は厚くなり、不透明となり、表面には横筋を認め、階段状の外観を示している。爪甲側縁と側爪郭皮膚との連絡は認められなくなっている(a)。
診断のためのテストとその結果:爪甲剝離の状態になっていることは細い紐を爪甲先端の下に置いて、紐の両端を持って近位方向に移動すると爪甲下を容易に移動する。臨床所見と併せて、爪甲鉤弯症と診断できる。
治 療:爪甲除去術を行い、爪甲がかなり再生してきた段階で、末節骨を削って、爪床を平坦化する爪床形成術を行い、その後は趾先端が隆起しないように日中は伸縮性のない布製の絆創膏による牽引を行った。
転 帰:2年後には完治した(b)。
コメント:爪甲鉤弯症の治療法は爪甲を削る方法や爪母を破壊する方法などが欧米の成書には記されている。70歳以上の高齢者では爪甲を削る方法や剝離している爪甲を爪切りで切除するような方法(保存療法)もQOLの改善に役立つ。しかし、爪甲鉤弯症の患者は30歳代からあり、決して高齢者の疾患ではない。変形の原因は第1趾先端の隆起にある疾患なので、曲がって生えていた厚い爪甲でも、爪甲除去術を行うと、必ず正常な爪甲が再生してくる。第1趾先端の隆起を平坦化すれば、本例のように正常な爪甲に戻すことが可能なのである。高齢者では術後の絆創膏による牽引(テーピング)が不十分となる例があり、根治療法は失敗に終わることが多いので、保存療法を勧めている。
a:初診時
b:2年後
出典
img
1: 東 禹彦:爪甲鉤彎症に対する手術療法.皮膚病診療 2011;33:314-319.
img
2: 東 禹彦:爪甲鉤彎症の対処法、日本臨床皮膚科医会誌 2017;34:541-544.

外的刺激による爪異常:波板状爪(洗濯板状爪)

病 歴:57歳、女性。両手拇指爪甲に1年来変形を生じて治癒しない。
診 察:両手の拇指爪甲に横溝を多数生じ、波板状となっている。爪半月はやや大きくみえる(a)。
診断のためのテストとその結果:臨床所見から波板状爪
治 療:後爪郭部遊離縁を後退させるような外力の作用(癖)により起きるので、爪半月が大きくみえるようになる。本症の発症機序を患者に説明し、リンデロンV軟膏を後爪郭部から爪甲表面にかけて塗布させるようにした。
転 帰:2カ月後から爪甲は根元が正常化し、半年後には完治した(b)。
a:初診時
b:2カ月後
出典
img
1: 著者提供

外的刺激による爪異常:爪甲縦裂症

病 歴:7歳、男児。1年以上前から拇指爪甲に縦に割れ目を生じている。
診 察:右拇指爪甲に縦に裂隙を生じている(a)。
診断のためのテストとその結果:直接鏡検で真菌を認めない。
治 療:後爪郭部にリンデロンVG軟膏を近位部から遠位方向に向けて外用させた。
転 帰:1年後には治癒した(b)。
コメント:爪上皮に障害があると生じる変化なので、爪上皮の正常化を計るようにする。外用剤を逆方向に塗布するのは治癒を妨げる。爪甲縦裂症の原因としては爪甲下の腫瘍による場合もあるので、ステロイド軟膏を後爪郭部に2、3カ月間外用しても軽快しない場合には抜爪し、組織検査を行う必要がある。図下段(c、d)は別症例で、爪母に悪性黒色を認めた。
a:初診時
b:1年後
c:ステロイド軟膏外用後(軽快せず)
d:組織検査結果(無色素性悪性黒色腫)
出典
img
1: 著者提供

外的刺激による爪異常:爪甲中央縦溝症

病 歴:10歳、男児。1年前から両拇指爪に変形を生じている。
診 察:両拇指爪甲中央に短い横溝を連続して生じ、縦に溝状に凹みを生じている。爪半月は大きくみえる。後爪郭部遊離縁が後退し、表面に鱗屑を認める。
診断のためのテストとその結果:臨床所見から爪甲中央縦溝症と診断。
治 療:ステロイド含有外用薬を後爪郭部から爪甲にかけて1日2回縁位方向に塗布するように指示した。
転 帰:6カ月後には略治した。
出典
img
1: 著者提供

外的刺激による爪異常、色の変化:爪下血腫

病 歴:76歳、女性。数日前に右手中指爪甲基部の黒色病変に気付き受診した。外傷を受けた記憶はないという。
診 察:右手中指爪甲基部に黒色の変色を認める(a)。
診断のためのテストとその結果:1カ月後に再診することにした。
治 療:1カ月後の状態を示すが、黒色斑は遠位方向に移動している(b)。爪下出血であることが確定した。
転 帰:爪甲が伸びると出血斑は遠位方向に移動し、6カ月後には消失した。
コメント:悪性黒色腫との鑑別が必要であるが、1カ月後に再診すれば出血斑は遠位方向に移動するので、簡単に鑑別できる。
a:初診時
b:1カ月後
出典
img
1: 著者提供

腫瘍による爪異常:指趾粘液嚢腫

病 歴:72歳、女性。左中指爪甲に6カ月前から凹みを生じてきた。
診 察:左手中指爪甲に縦走する凹みを認め、後爪郭部には軽度の膨らみを認める(a)。
診断のためのテストとその結果:後爪郭部の膨らんでいる部を穿刺し、指で押さえると、透明なゼリー状の粘液を排出した。粘液嚢腫と診断した。
治 療:診断確定後、嚢腫内にケナコルトA注射液0.1mlと1%キシロカイン注射液0.1mlを混合した薬剤を注入した。1カ月後に、再度上記同じ薬物を嚢腫内に注入した。
転 帰:初診6カ月後には嚢腫は消失し、爪甲の変形もほぼ認められなくなった(b)。
コメント:指趾粘液嚢腫と似た病変としてDIP関節と繋がっているガングリオンがある。ガングリオンの場合には嚢腫内にケナコルトの局所注射を行っても治癒は困難である。Heberden結節上に生じる粘液嚢腫もあり、この場合もケナコルトの局注療法は無効となることが多い。
a:初診時
b:6カ月後
出典
img
1: 東 禹彦:Digital mucous cystの機序にもとづいた治療.MB Derma 2003;81:181-185.

腫瘍による爪異常:爪囲線維腫

病 歴:20歳、女性。1年前から右足第1趾爪甲に割れ目を生じているという。
診 察:右足第1趾爪甲の内側よりに爪甲基部から皮膚色の腫瘍が生じ、爪甲表面に割れ目を生じている(a)。
診断のためのテストとその結果:臨床的に爪囲線維腫と考えられる。
治 療:爪甲除去術を行い、線維腫を切除した。
転 帰:術後2年後の状態を示すが、腫瘍の再発もなく、爪甲の変形もない。完治した(b)。
コメント:プリングル病に伴って爪周囲に線維腫を多数生じることがある。
a:初診時
b:術後2年
出典
img
1: 著者提供

腫瘍による爪異常:グロムス腫瘍

病 歴:34歳、男性。2、3年前から右手中指にときどき激痛を生じる。1年前某皮膚科で細菌感染か真菌感染ではないかといわれて、外用薬を処方されたが効果はなかった。
診 察:右手中指爪甲の中央内側に軽度の隆起を認める。その部に少し圧痛を認める。
診断のためのテストとその結果:臨床症状からグロムス腫瘍と考えられる。
治 療:爪甲除去術を行って、腫瘍の切除を行った。
転 帰:6カ月後には完治した。
コメント:爪部に激痛をときどき生じる疾患はグロムス腫瘍がほとんどである。爪母に生じることが多いが、爪床部にも生じる。全摘しないと再発する。
a:初診時
b:抜爪後(術中)
c:術後4カ月
出典
img
1: 著者提供

腫瘍による爪異常:外骨腫 

病 歴:16歳、男性。1年前から右第1趾の爪甲が浮いてくるようになった。
診 察:右第1趾の内側が一部爪甲剝離状態を示し、その部では爪床部から硬い腫瘍を生じている(a)。
診断のためのテストとその結果:右第1趾のX線撮影を行ったところ、末節骨の内側に骨の新生を認めた(b)。外骨腫と診断した。
治 療:近くの大病院皮膚科に切除を依頼した。
転 帰:腫瘍を摘出し、治癒した。
コメント:外骨種はときに、疣贅と誤診されて治療されることもある。触診で疣贅と硬さが異なるし、X線撮影を行えば簡単に診断可能である。10歳代、20歳代に多い。
a:初診時
b:X線所見
出典
img
1: 著者提供

腫瘍による爪異常:悪性黒色腫

病 歴:72歳、女性。1年前から右第1趾爪甲に縦走する黒色の色素沈着帯を認めていた。20日前から肉芽様病変を外側に生じてきた。
診 察:右第1趾爪甲には縦走する黒色斑を2本認め、爪甲下から右半分にかけて肉芽様病変を認めた。
診断のためのテストとその結果:肉芽様病変から組織検査を行った。悪性黒色腫であった。
治 療:大学病院皮膚科に治療を依頼した。
転 帰:治癒した。
コメント:爪部の悪性黒色腫は爪甲の黒色線条で始まることが多い。無色素性悪性黒色腫もある。肉芽様病変では有棘細胞癌のこともある。とにかく、組織検査をしないと診断は不可能である。治療は専門的に行っている施設に紹介することになる。
出典
img
1: 著者提供

腫瘍による爪異常:有棘細胞癌

病 歴:54歳、男性。5、6年前から左第Ⅴ趾爪では爪甲の下より排膿がみられ、爪甲が剝離するというのを繰り返していた。近医で抜爪され、いったんは上皮化したが、爪甲が再生されると、また爪甲下より排膿するようになり、現在では爪甲が生えない状態となった。
診 察:左第Ⅴ趾には爪甲を認めず、爪床部は湿潤し、肉芽様となっている(a)。
診断のためのテストとその結果:肉芽様の部分を組織検査した。有棘細胞の大小不同、異型性、配列の乱れを認め、有棘細胞癌と診断した。
治 療:大学病院皮膚科に紹介し、根治手術を依頼した。
転 帰:治癒した。
コメント:有棘細胞癌を爪床部に生じると、爪甲剝離を生じ、爪甲下からは滲出液の排出を認める。剝離部爪甲を除去すると、肉芽様の病変を認める。そのような場合には組織検査を行うべきである。ときには爪甲を破壊して、肉芽様病変を認めることもある。やはり組織検査を行うべきである。
a:初診時
b:組織検査結果(有棘細胞癌の所見)
出典
img
1: 著者提供

原因不明の爪異常:爪異栄養症

病 歴:37歳、女性。何年も前からすべての指趾爪に変形を生じている。後爪郭部には痒みを伴っている。
診 察:すべての爪甲の表面には縦走する線条があり、鱗屑を付着している。後爪郭部は少し、腫脹している(a)。
診断のためのテストとその結果:組織検査が必要であるが、実施しなかった。臨床的には爪真菌症様爪炎に一致する所見である。
治 療:デルモベート軟膏を後爪郭部から爪甲表面にかけて塗布させ、クラリチン 1錠/日の投与を行った。
転 帰:1年半後にはかなり軽快し(b)、その後治癒したが、その後治療を中断し、再発した。
a:初診時
b:1年半後
出典
img
1: 東 禹彦、ほか:爪真菌症様爪炎の組織学的検討.皮膚 1997;39:469-474.

原因不明の爪異常:爪異栄養症

病 歴:20歳、女性。2年前からすべての指・趾爪に点状の凹みと細かい縦筋が生じるようになり受診した。
診 察:すべての爪甲表面に点状の凹みを多数認め、縦条も認めた(a)。
診断のためのテストとその結果:組織検査を行ったが、爪母に湿疹に一致する所見を認めた。
治 療:後爪郭部から爪甲にかけてリンデロンDP軟膏を1日2回塗布させた。
転 帰:3年後にはほぼ正常となった(b)。
a:初診時
b:3年後
出典
img
1: 著者提供

爪の異常のアルゴリズム

出典
img
1: 著者提供

全身性疾患による爪異常:ばち状指

病 歴:66歳、男性。3年前から全指趾爪が大きく、丸みを帯びてきた。
診 察:全指趾爪にばち状の変化を認める。
診断のためのテストとその結果:両手の拇指背面を接触させると、正常では爪根に生じる間隙が消失し、爪甲先端部に空隙を生じている。胸部X線検査で中皮腫を認めた。中皮腫によるばち状指と診断した。
治 療:外科に切除を依頼したが、切除不能であった。
転 帰:軽快しなかった。
出典
img
1: 東 禹彦:内臓障害を疑う爪の異常は? 皮膚臨床 2011;53:1553-1557.