皮膚における真皮血管は、Chapel Hill分類の小血管レベルであるので、Chapel Hill分類小血管レベル6疾患をそのまま採用した。そして、中血管レベル(すなわち皮下脂肪織小動脈)では、結節性多発動脈炎を採用した。ただ、皮膚限局性で中血管レベルの疾患概念がないので、皮膚科では定着した疾患である皮膚動脈炎を皮膚白血球破砕性血管炎の対極として加えた。
最初にANCA、2番目にクリオグロブリン測定、3番目に蛍光抗体直接法で罹患血管IgA沈着を検査、とした。顕微鏡的多発血管炎や好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、多発血管炎性肉芽腫、クリオグロブリン血症性血管炎は、実際の皮膚科臨床の場では、ほとんど遭遇しない、と感じるので、反対に先にこれらの疾患を鑑別する。
まず、ANCA関連血管炎を意識し、ANCAを測定する。MPO-ANCA陽性なら、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症か顕微鏡的多発血管炎が相当する。しかし、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症は半分がMPO-ANCA陰性となるので注意が必要で、喘息やアレルギー性鼻炎の既往、血中好酸球増多そして病理像での好酸球混在などを参考に、診断する。顕微鏡的多発血管炎は、間質性肺炎、糸球体性腎炎を合併し、重篤な全身症状を伴う。このため、皮膚科に単独で来院することはまずない。ただ、slowly progressiveタイプ(くすぶり型)は、症状がゆっくり進行していくなかで、皮膚科を初診する場合があるので留意する[4]。MPO-ANCAは、必ずしも高値ではない。PR3-ANCA陽性で鼻、副鼻腔から肺に到る上下気道に血管炎があれば多発血管炎性肉芽腫とするが、日本人の頻度は低い。
次いで、クリオグロブリンを測定することによりクリオグロブリン血症性血管炎を診断し、そのうえでB型肝炎やC型肝炎、SLE、シェーグレン症候群等の基礎疾患の精査をする。ちなみに、クリオグロブリンは通常の測定法では、false negativeが出やすい。そこで、採血管を体温近くに保温してから、採血を行うことすらある。常温では、クリオグロブリンという温度に左右される対応抗原が採血の段階ですでに含有されていないのではないか、とみなせるからである。
3番目に蛍光抗体直接法を行い、罹患血管にIgA沈着があればIgA血管炎と診断する。ここで、臨床上のpalpable purpuraを確認する。palpable purpuraは、2006年、欧州小児リウマチ学会IgA血管炎診断基準で、必須項目に定められたのを受けて盛り込んだ[5]。最後にループスアンチコアグラントや抗ホスファチジルセリン・プロトロンビン複合体抗体を測定しつつ、壊死性血管炎像が真皮内特に上中層であれば、皮膚白血球破砕性血管炎、皮下脂肪織内、ときに真皮下層に及ぶ、であれば、皮膚動脈炎となる。
なお、特徴的皮膚臨床像をもつ蕁麻疹様血管炎、持久性隆起性紅斑、顔面肉芽腫や、膠原病、癌、感染症、薬剤に伴う二次的な血管炎は除いている。
血管炎は炎症性疾患であるので、時間の経過でさまざまに変化する。ときに、経過で症状が皮膚限局から全身へ移行する症例がある。当然、検査結果も変動するので、留意してほしい。簡易版川上アルゴリズムは、血管炎を初期の段階で意識した場合、最低限、検査しておくことを簡易に示したアルゴリズムである。
参考文献:
日本皮膚科学会編:血管炎・血管障害診療ガイドライン