病 歴:61歳、女性。25年前から2型糖尿病に罹患しており、インスリン治療を開始される。3年前に糖尿病性腎症により血液透析導入。1カ月前から右下肢の疼痛、発赤を訴えていたが、突然右足底に斑点状の虚血性壊死が出現。歩行困難となり入院。
診 察:右足底および足趾の多発性壊死巣を認める(a)。
診断のためのテストとその結果:ABI測定、単純X線写真により動脈硬化の状態を把握。問診および透析通院時のカルテを参照するが、発症前1年間に血管内におけるカテーテル操作などの既往はない。
治 療:デブリードマンおよびフィブラストスプレー噴霧およびイントラサイトジェル塗布。疼痛コントロールとして各種鎮痛薬。また、この症例に対してはLDLアフェレーシスを10回施行した。
転 帰:入院後しばらく新生潰瘍の出現をみたが、保存的治療により半年後に完治。特に足趾切断も要せず、歩行可能となり退院(b)。
コメント:blue toe症候群とは、足趾の虚血性色調変化や潰瘍病変等を来すもので、明らかな外傷や低温誘発性損傷もしくは全身性にチアノーゼを来すような疾患を欠く一連の症状を呈するものを指す。blue toe症候群の原因は動脈血流の減少、静脈還流障害、循環血液の異常のいずれかのカテゴリーに分類される[1]。コレステロール結晶塞栓症(atheroembolism)は、blue toe症候群を生じる代表的な原因疾患であるが、同義ではない。
コレステロール結晶塞栓症はカテーテル操作の際に動脈壁に存在するコレステロールの塊を破壊してしまうことにより、偶発的に生じる疾患と捉えられがちであるが、自然発症例も存在するため、問診のみで診断を下すことは不可能である。診断は病理組織標本内にコレステロール結晶の存在が証明できれば確定されるが、虚血部位にメスを入れると新たな傷をつくることになり、治癒が困難になることから、全例で推奨できる検査ではない。むしろ、デブリードマンの際に得られた壊死組織を検体とした場合に、血管内にコレステロール結晶が塞栓形成している像を偶然捉えることができれば幸運であると考えたほうがよい。治療は、大規模臨床試験により有効性を実証されたものはなく、副腎皮質ホルモン[2][3][4][5][6][7]、iloprost[8][9]、LDLアフェレーシス[10][11][12]などを少数の患者に試した報告程度しかなく、しかも大きな効果は得られなかったとしている。したがって、実際の局所療法はこの症例のように対症療法を行うことになる。
なお、糖尿病は直接的にコレステロール結晶塞栓症を生じる原因疾患としては適当でないが、このケースのように動脈硬化を生じる背景として重要であり、症例数も多いためにここに取り上げた。
(参考文献)
1. Hirschmann JV and Raugi GJ. Blue (or purple) toe syndrome. J Am Acad Dermatol. 2009 ;60:1-20 (PMID: 19103358.)
2. Mann SJ, Sos TA. Treatment of atheroembolization with corticosteroids. Am J Hypertens 2001; 14:831. (PMID:11497203)
3. Motegi S, Abe M, Shimizu A, et al. Cholesterol crystal embolization: skin manifestation, gastrointestinal and central nervous symptom treated with corticosteroid. J Dermatol 2005; 32:295. (PMID:15863854)
4. Matsumura T, Matsumoto A, Ohno M, et al. A case of cholesterol embolism confirmed by skin biopsy and successfully treated with statins and steroids. Am J Med Sci 2006; 331:280. (PMID:16702800)
5. Koga J, Ohno M, Okamoto K, et al. Cholesterol embolization treated with corticosteroids--two case reports. Angiology 2005; 56:497. (PMID:16079936)
6. Yücel AE, Kart-Köseoglu H, Demirhan B, Ozdemir FN. Cholesterol crystal embolization mimicking vasculitis: success with corticosteroid and cyclophosphamide therapy in two cases. Rheumatol Int 2006; 26:454. (PMID:16025335)
7. Fabbian F, Catalano C, Lambertini D, et al. A possible role of corticosteroids in cholesterol crystal embolization. Nephron 1999; 83:189. (PMID:10516511)
8. Elinav E, Chajek-Shaul T, Stern M. Improvement in cholesterol emboli syndrome after iloprost therapy. BMJ 2002; 324:268. (PMID:11823357)
9. Minatohara K. Renal failure associated with blue toe syndrome: effective treatment with intravenous prostaglandin E-1. Acta Derm Venereol 2006; 86:364. (PMID:16874430)
10.Hasegawa M, Sugiyama S. Apheresis in the treatment of cholesterol embolic disease. Ther Apher Dial 2003; 7:435. (PMID:12887728)
11.Tamura K, Umemura M, Yano H, et al. Acute renal failure due to cholesterol crystal embolism treated with LDL apheresis followed by corticosteroid and candesartan. Clin Exp Nephrol 2003; 7:67. (PMID:14586747)
12.Muso E, Mune M, Fujii Y, et al. Significantly rapid relief from steroid-resistant nephrotic syndrome by LDL apheresis compared with steroid monotherapy. Nephron 2001; 89:408. (PMID:11721158)