Now processing ... 
 Now searching ... 
 Now loading ... 

梅毒治療アルゴリズム

顕症梅毒は病期に応じて、無症候性梅毒は罹患からの期間を推定し、適切に治療を行う。
出典
img
1: 著者提供

梅毒報告数の年次推移(男女総計:2010~2019年)

国立感染症研究所:発生動向調査年別報告数一覧(全数把握)より作成
https://www.niid.go.jp/niid/ja/ydata/10410-report-ja2020-30
出典
img
1: 著者提供

冠状溝部に生じた硬性下疳

病歴:54歳、男性。初診の約3週間前から陰茎から冠状溝にかけて紅色丘疹が出現し、徐々に増大。潰瘍となったため当科を受診。
診察:冠状溝付近に弾性硬の潰瘍を認める(a)。
診断のためのテストとその結果:ベーチェット病、硬性下疳などを疑い、血算、一般生化学、梅毒抗体検査、局所の細菌培養を行った。他に皮膚症状や眼症状もなく、採血結果より硬性下疳と診断した。
治療:アモキシシリン(サワシリン)の内服を4週間行った。
転帰:内服1週間後から上皮化傾向がみられ、内服終了時には、陥凹を伴うが完全に上皮化している(b)。
出典
img
1: 著者提供

陰茎部に生じた硬性下疳

病歴:42歳、男性。初診の2週間前から、陰茎部の紅色丘疹に気付き、徐々に潰瘍化してきた。口腔性交を行う風俗店にはよく通っている。
診察:陰茎部に潰瘍を認める。疼痛は強くない。
診断のためのテストとその結果:性器ヘルペス、硬性下疳などを疑い、HSV- IgG、HSV-IgM、梅毒抗体検査を行った。HSV抗体価の上昇はみられず、STS 3+、TPHA 1.6とTPHAの上昇が軽度であることより、梅毒第1期の硬性下疳と診断した。
治療:アモキシシリン(サワシリン)の内服を4週間行った。
転帰:2週間後には潰瘍は上皮化した。
コメント:初期硬結、硬性下疳の初期には、自験例のようにTPHAの上昇が軽度の症例、さらにはSTSも上昇していないことがある。その場合は、局所からのPCR法、もしくは時間をおいて再度、抗体価を測定する。
出典
img
1: 著者提供

HIV感染症患者に生じた丘疹性梅毒疹

病歴:31歳、男性。初診の2カ月前から血便を認めた。アメーバ腸炎と診断されメトロニダゾール(フラジール)を1カ月前から内服している。3週間前にはHIV感染症も判明し、2週間前より自覚症状のない紅色丘疹が出現してきた。
診察:躯幹、四肢に自覚症状の少ない紅褐色丘疹が散在性にみられる(a)。
診断のためのテストとその結果: 薬剤内服歴から薬疹を、またHIV感染症を伴うことから、梅毒2期疹も疑い血算、一般生化学、梅毒抗体検査、皮膚生検を施行した。RPR 2+、TPHA +、生検した病理組織においてWarthin- Starry染色により表皮、真皮のT.p.を確認し(画像b、褐色の屈曲した線状に染色されている部分がT.p.)、丘疹性梅毒疹と診断した。
治療:アモキシシリン(サワシリン)の内服を8週間行った。
転帰:2週後には軽度の色素沈着を残して皮疹は軽快した。
出典
img
1: 著者提供

手掌に生じた乾癬性梅毒

病歴:36歳、男性。初診の1カ月前より、躯幹、四肢に自覚症状のない紅斑、紅色局面が出現してきた。
診察:躯幹、四肢の紅斑局面を認め、手掌、足底部の紅色局面は一部に角化傾向がみられる(a, b)。
診断のためのテストとその結果:薬剤内服歴はなく、躯幹の皮疹も尋常性乾癬とは異なるため、梅毒を疑い、梅毒抗体検査を行った。RPRカードテスト64倍、TPHA 1280倍であり梅毒2期疹の丘疹性梅毒疹と乾癬性梅毒を合併した症例と診断した。
治療:スルタミシリン(ユナシン)の内服を8週間行った。
転帰:皮疹は2週間程で軽快した。
出典
img
1: 著者提供

HIV陽性MSMに生じた梅毒性バラ疹

病歴:37歳、男性(men who have sex with men、MSM)。初診より6年前にHIV感染が判明し、2年前より抗HIV療法を開始している。2週間前より、躯幹、手掌、足底に自覚症状のない紅斑が出現した。
診察:躯幹、手掌に淡い紅斑が散在性に認められる(写真参照)。
診断のためのテストとその結果:発熱はなくウイルス性発疹症は否定的であった。抗HIV療法に伴う薬疹も鑑別に挙がるが、手掌にも皮疹がみられることより梅毒を疑った。RPRカードテスト1024倍、TPHA 10240倍で、皮疹は隆起を認めず梅毒性バラ疹と診断した。
治療:アモキシシリン(パセトシン)の内服を8週間行った。
転帰:皮疹は1週間後には、色素沈着を残さず軽快した。
コメント:HIV感染患者では健常人よりも薬疹が出現しやすく、全身の皮疹をみた場合必ず鑑別に挙げる必要がある。近年、梅毒感染からHIV感染症が見つかる症例、逆にHIV感染症患者に梅毒が合併する症例も多くみられる。HIV感染症がベースにあると、抗体価の異常低値や高値、再感染、不十分な治療による再活性化などの病態もみられることが多いため注意を要する。
出典
img
1: 著者提供

陰部の扁平コンジローマと乾癬性梅毒の合併例

病歴:56歳、女性。初診3カ月前の検診でSTS陽性であったが治療はされていない。1カ月前より、外陰部のびらんが出現し、同時期から躯幹、四肢、手掌、足底にも紅斑、紅色局面が出現した。
診察:外陰唇右側内側に潰瘍を伴う紅色局面(a)、足底には一部角化を伴う紅色局面を認める(b)。
診断のためのテストとその結果:皮疹より梅毒、外陰部は性器ヘルペスなどの潰瘍性病変も考え、梅毒抗体検査、潰瘍部からは細菌培養、HSV特異的モノクローナル抗原検査を行った。ガラス板法64倍、TPHA 2560倍、HSV抗原 陰性より2期梅毒、陰部は扁平コンジローマ、足底は乾癬性梅毒と診断した。
治療:ベンジルペニシリン(バイシリンG)を8週間投与した。
転帰:陰部、足底、躯幹の皮疹とも1カ月程で軽快した。
出典
img
1: 著者提供

多彩な皮疹を呈した2期梅毒

病歴:45歳、男性。初診の1カ月前より手指爪囲の紅斑が出現した。2週間前より排膿がみられ、同時期より両手掌、足底、足背に自覚症状を伴わない紅斑が出現した。
診察:両手掌の紅褐色斑に加え、爪甲の一部は変形しその周囲の紅斑もみられる(a)。足背には紫紅色局面(b)、亀頭には浸潤を伴う紅褐色局面を認める(c)。
診断のためのテストとその結果:梅毒2期疹を考え、梅毒抗体検査、爪囲からは皮膚生検を行った。ガラス板法128倍、TPHA 20625と上昇がみられた。皮膚病理組織においてはWarthin- Starry染色にて表皮内のT.p.を確認し、梅毒2期疹と診断した。また、亀頭部は初期硬結後の瘢痕と考えられた。
治療:ベンジルペニシリン(バイシリンG)を8週間投与した。
転帰:皮疹、爪病変とも1カ月後には軽快した[d:ベンジルペニシリン(バイシリンG)投与後]。
コメント:爪梅毒は稀ではあるが、2期疹の症状として銘記しておく必要がある。
出典
img
1: 著者提供

環状を呈した梅毒2期疹

病歴:27歳、女性。初診の5カ月前より躯幹、頭部に鱗屑を伴う紅斑局面が多発していた。尋常性乾癬などの炎症性角化性疾患を疑われ、ステロイド外用薬にて経過をみられていた。皮疹は一旦軽快傾向にあったものの、1カ月前より悪化したため当科を紹介された。
診察:躯幹を中心に瘙痒を伴わない環状の局面が散在性にみられる(a、b)。
診断のためのテストとその結果:ステロイド外用薬に反応しにくい皮疹であることから、肉芽腫性病変を疑い皮膚生検を施行。術前検査の梅毒抗体検査が定性で陽性であり、定量検査を行いガラス板法512倍、TPHA10240倍。皮膚病理組織ではWarthin- Starry染色により表皮内のT.p.を確認し、梅毒2期疹と診断した。
治療:アモキシシリン(サワシリン)内服を8週間行った。
転帰:診断確定前までステロイド外用を行っていたため、皮疹は遷延した。アモキシシリン(サワシリン)内服終了後に皮疹は色素沈着を残して軽快した(c:内服終了後の皮膚所見)。
コメント:このような臨床症状を呈する2期疹は非常に稀であるが、丘疹性梅毒疹のなかに環状の皮疹を呈するものがある。初期の臨床診断が尋常性乾癬とされていたことからも、梅毒の皮疹の多様性がうかがえる。ステロイド外用薬などの治療に反応しづらい皮疹を認める場合は、皮膚生検を行う必要がある。
出典
img
1: 著者提供

播種状紅斑丘疹型薬疹

病歴:50歳、女性。初診3日前より瘙痒を伴わない紅斑が出現した。2週間前よりスルファメトキサゾール・トリメトプリム(バクタ)、ファモチジン(ガスター)、スクラルファート(アルサルミン)を内服している。
診察:躯幹を中心に自覚症状のない紅斑、紅色局面が認められる。
診断のためのテストとその結果:経過より、薬疹を考え3剤の内服を中止した。血算、一般生化学検査を行ったが好酸球数は正常値上限であり、他にも異常はみられなかった。
治療:抗アレルギー薬の内服、ベリーストロングクラスのステロイド外用を行った。
転帰:皮疹は2週間程で軽快した。
コメント:発熱もなく、皮疹、薬剤内服歴から薬疹であることは容易に診断できる。本型は最も頻繁にみられる紅斑丘疹型の薬疹である。手掌、足底に皮疹がみられにくいことも梅毒2期疹との鑑別となる。
出典
img
1: 著者提供

尋常性乾癬

病歴:60歳、男性。初診時の16年前から尋常性乾癬と診断されている。ステロイド、活性型ビタミンD3軟膏などの外用でも軽快しないため当科を受診。
診察:躯幹、四肢に落屑を伴う紅斑局面が散在している(a)。爪甲の白濁、肥厚も認められる(b)。
診断のためのテストとその結果:臨床症状、経過より診断は比較的容易である。
治療:抗TNFα製剤であるインフリキシマブ(レミケード)の点滴を開始。定期的に点滴を持続している。
転帰:皮疹、爪甲病変とも軽快している。
コメント:尋常性乾癬は長期の経過をとり、臨床症状からも診断は比較的容易に行える。ただし、前述した症例(環状を呈した梅毒2期疹)のような誤診例もあり、非特異的な場合は皮膚生検による診断が必要である。梅毒に比べ掌蹠の皮疹の頻度は低く、逆に爪甲の病変は尋常性乾癬に多い。
出典
img
1: 著者提供

ジベルバラ色粃糠疹

病歴:30歳、男性。初診の3週間前より、躯幹に自覚症状のない紅斑が出現。
診察:躯幹、両上腕に細かい鱗屑を伴う紅斑が散在している。
診断のためのテストとその結果:明らかなヘラルドパッチ(初発疹)は認められなかったが、楕円形の皮疹が躯幹の正中を中心に対称性に認められ典型に近い症例である。皮膚生検の所見より診断した。
治療:ステロイド[ベタメタゾン(アンテベート)軟膏:ベリーストロングクラス]の外用を開始。
転帰:3カ月程で皮疹は軽快した。
コメント:皮疹からは梅毒2期疹の梅毒性バラ疹との鑑別が困難である。ジベルバラ色粃糠疹ではヘラルドパッチと呼ばれる辺縁に襟飾り状に落屑を有する2~5 cmの大型の初発疹が出現した後、躯幹を中心に皮疹が出現する。背部の皮疹は配列がクリスマスツリー様と表現される。通常1~3カ月で自然治癒するのが特徴である。
出典
img
1: 著者提供

肛門周囲に生じた尖圭コンジローマ

病歴: 37歳、男性。初診の1年程前から肛囲に丘疹が出現した。
診察:肛囲に褐色~暗褐色の疣状丘疹が集簇して認められる。
診断のためのテストとその結果:自験例は皮疹から、診断は比較的容易である。皮膚生検にてコイロサイトーシスを認め、尖圭コンジローマと診断した。
治療:凍結療法を施行。
転帰:凍結療法にて消失しない部分はCO2レーザーによる焼灼を行い軽快している。
コメント:尖圭コンジローマはヒト乳頭腫ウイルス(HPV)6・11型により生じる感染症である。同様の臨床で子宮頸癌の原因となるHPV16・18型によるボーエン様丘疹症のことがあり、組織学的に検討を行ったほうがよい。また、男性の肛囲にみられる場合はMSMのことが多く、HIVなど他の性感染症の検索を行う。梅毒による扁平コンジローマが鑑別診断に挙がる。扁平コンジローマでは湿潤傾向が強い。
出典
img
1: 著者提供

梅毒診断アルゴリズム

わが国ではスクリーニングとして検査する場合でも、T.p.抗原法をルーチンに行っている施設が多い。
出典
img
1: 著者提供

梅毒治療アルゴリズム

顕症梅毒は病期に応じて、無症候性梅毒は罹患からの期間を推定し、適切に治療を行う。
出典
img
1: 著者提供

梅毒報告数の年次推移(男女総計:2010~2019年)

国立感染症研究所:発生動向調査年別報告数一覧(全数把握)より作成
https://www.niid.go.jp/niid/ja/ydata/10410-report-ja2020-30
出典
img
1: 著者提供