欧米ガイドラインの多くは、1cm以上の乳頭癌に対して、甲状腺全摘後のI-131を用いた放射性ヨード内用療法(アブレーション)を推奨している。術後はTSH抑制療法を行っていくことが標準的となっており、また、頸部リンパ節の予防的郭清は勧められていない[1]。利点は、再発率が低いこと、血清サイログロブリンが、術後再発のマーカーとなり得ることである。
一方で、わが国のガイドラインでは、高危険度でない限り甲状腺温存手術(腺葉切除~亜全摘)を行い、低危険度癌の生命予後は縮小手術でも変わらず良好なこと、甲状腺機能低下や副甲状腺機能低下・反回神経麻痺といった合併症の頻度が少なくてすむことを論拠に補助療法は行わないが、アブレーションを行える施設が限られることも背景にある。
乳頭癌の10年生存率は95%程度と良好であるが、一部に遠隔転移や未分化転化などのため不幸な転帰をとる例がある。甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018年版で高リスクとされるのは、以下の5つのうち少なくとも一つの因子を持つ症例で、甲状腺全摘とRAI内用療法が強く勧められる。
- 腫瘍径4cm以上のもの、すなわちT3以上
- 3cmを越える転移リンパ節
- 高度の甲状腺外進展(取り扱い規約のEx2に相当)
- 手術時に遠隔転移を有するもの
- 隣接臓器に浸潤する転移リンパ節
また、T1(2cm以下)N0M0などの明らかに低リスクのものには葉切除でよいと考えられる。その中間は各施設に判断が委ねられている。
頸部郭清については、明らかな転移がないものについては甲状腺周囲のみ郭清(D1)を行い、リンパ節転移が明らかにある場合には、個々の症例に応じて郭清範囲を決定する。
腫瘍径1cm以下の微小乳頭癌は、そのほとんどが生涯無害に経過すると考えられ、超低リスクとして経過観察も可能である。一方、リンパ節転移や遠隔転移を契機に発見される微小癌(オカルト癌)がまれにあり、これらのなかにはときに予後不良のものが含まれる。1cm以下・孤発生の甲状腺乳頭癌では、以上を説明したうえで葉切除を行うか、経過観察し腫瘍の増大やリンパ節転移、遠隔転移が認められたような場合に加療を行うか、患者のインフォームドデシジョンが求められる。
転移・再発時の治療は、原則として根治切除が可能なものは手術を行う。また遠隔転移がある場合でも、局所制御を目的に手術を行った上で追加治療を行うこともある。
根治切除不能な再発・転移がある場合には、甲状腺の補完全摘とI131ヨードによる内照射が行われる。これが無効な場合には、分子標的薬としてソラフェニブまたはレンバチニブの使用を検討する。転移再発については別項[ID0018]を参照。
参考文献:
- American Thyroid Association (ATA) Guidelines Taskforce on Thyroid Nodules and Differentiated Thyroid Cancer, Cooper DS, Doherty GM, Haugen BR, Kloos RT, Lee SL, Mandel SJ, Mazzaferri EL, McIver B, Pacini F, Schlumberger M, Sherman SI, Steward DL, Tuttle RM. Revised American Thyroid Association management guidelines for patients with thyroid nodules and differentiated thyroid cancer. Thyroid. 2009 Nov;19(11):1167-214. doi: 10.1089/thy.2009.0110. Erratum in: Thyroid. 2010 Aug;20(8):942. Hauger, Bryan R [corrected to Haugen, Bryan R]. Thyroid. 2010 Jun;20(6):674-5. PubMed PMID: 19860577.