アデノイド肥大、口蓋扁桃肥大による睡眠時呼吸障害
睡眠時の呼吸障害は無呼吸とは言い切れない。しかし、努力性の呼吸(陥没呼吸)は明らかであり、睡眠中のSpO2は70~100%の間で変動する。
マイクロデブリッダーと内視鏡を用いた直視下アデノイド切除術
患児が7カ月と低年齢であったため、上咽頭腔自体が非常に狭い症例。周囲組織の損傷を懸念し、内視鏡とマイクロデブリッダーを用いて直視下に手術を行った。両鼻腔から挿入したネラトンカテーテルを口腔から引き出すことにより軟口蓋を挙上し、視野を確保している。マイクロデブリッダーによるアデノイドの切除が明視下に進み、周囲組織を損傷することなく、切除を完了した。鼻中隔後端を含めて後鼻口の全貌が観察される。
アデノイド切除、口蓋扁桃摘出後の睡眠時呼吸状態
術前の動画と同一症例であることに注目。アデノイド切除、口蓋扁桃摘出後、いびきおよび努力性呼吸は消失した。
アデノイドの経鼻内視鏡画像
左鼻腔経由のアデノイド電子内視鏡像:肥大したアデノイドが後鼻孔から鼻腔内に突出している(
*
)。後鼻孔の下方は矢印に示す空間が残存しており、鼻呼吸はこのわずかな間隙を通して行われている(Parikhの分類: grade 3)。
S
:鼻中隔
IT
:下鼻甲介後端
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上咽頭側面X線検査
アデノイドの著明な肥大により、上気道の含気を示す透亮像が上咽頭で途絶している。
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滲出性中耳炎の鼓膜所見(右鼓膜)
右鼓膜所見。茶褐色の中耳貯留液が鼓膜を通して透見される。鼓膜の陥凹、ツチ骨柄の水平化、短突起の突出が観察される。成人の一側性滲出性中耳炎では必ず上咽頭癌の有無を確認する。
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上咽頭癌(成人例)
壊死と出血を伴う腫瘍が後鼻孔を閉塞している。
S
:鼻中隔
IT
:下鼻甲介後端
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口蓋扁桃肥大と鑑別を要する疾患(扁平上皮癌)
左口蓋扁桃の扁平上皮癌:
左口蓋扁桃から軟口蓋に及ぶ広い範囲に潰瘍を形成する。
潰瘍形成や壊死組織の存在で扁平上皮癌を疑い生検にて確定する。
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口蓋扁桃肥大と鑑別を要する疾患(悪性リンパ腫)
右口蓋扁桃悪性リンパ腫:
矢印
で示した部分が肥大した右口蓋扁桃。左口蓋扁桃に肥大はない。
成人の一側性口蓋扁桃肥大では悪性疾患の鑑別が重要である。
悪性リンパ腫は扁平上皮癌と比較して、潰瘍や壊死を伴うことは少ない。
*
:口蓋扁桃
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上咽頭悪性リンパ腫(成人症例)
表面が比較的平滑で壊死や出血を伴わない腫瘤を認める。
S
:鼻中隔
矢印
は左耳管咽頭口を示す。
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両側の口蓋扁桃肥大(成人例)
両側の口蓋扁桃肥大を認める(成人例):
「大きい」だけでは治療の対象とならない。睡眠時の呼吸障害やそれに伴う日中の眠気など、何らかのQOL障害を伴う場合は手術治療の対象となり得る。
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口蓋扁桃肥大の程度
口蓋扁桃肥大の程度を表現するのに便宜的に用いられる方法である。
I度肥大
:口蓋扁桃の正中方向への突出は、前口蓋弓と後口蓋弓を結ぶ面をわずかに超える。
II度肥大
:I度とIII度の間。
III度肥大
:左右の口蓋扁桃が正中でほぼ接する。
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口蓋扁桃肥大の程度
左右の前口蓋弓間を4等分し、口蓋扁桃が中咽頭に占める割合で分類
0
: 見えない
1
: <25%
2
: 25% ≦, <50%
3
: 50% ≦, <75%
4
: 75% ≦
参考文献:
Brodsky L. Modern assessment of tonsils and adenoids. Pediatr Clin North Am, 1989; 36(6): 1551-1569. PMID: 2685730
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1:
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アデノイド肥大の計測(小泉法)
小泉法:鼻咽頭溝上縁と第1頸椎前上縁を結ぶ直線からアデノイドの頂点に下ろした垂線の長さAを計測する
6 mm以下
:肥大なし~軽度肥大
7~10 mm
:中等度肥大
11~15 mm
:高度肥大
16 mm以上
:著明肥大
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アデノイド切除術前後の成長曲線
生後7カ月でアデノイドを切除後、鼻呼吸は劇的に改善し、身体発育も良好となった。
出典
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林達哉. 小児睡眠時無呼吸に対するアデノイド切除・口蓋扁桃摘出術.小児耳, 2013;34(3): 259, 図3.(改変なし)
小児のアデノイド増殖症・口蓋扁桃肥大 診断・治療アルゴリズム
診断は各症状からアデノイド肥大ならびに口蓋扁桃肥大の存在を疑うところから始まる。肥大を診察、検査にて確認したらそれぞれの症状の程度を評価する。終夜睡眠ポリグラフィー(PSG)が診断の基準となるが、実施可能施設が限られる。PSGにて無呼吸低呼吸指数(apnea hypopnea index:AHI)が5以上は手術適応とする意見が多い。しかし、小児では体動が激しく、成人と比較して検査の正確性に疑問を生じやすい。そもそも無呼吸の基準が成人と異なるため([ID0702])、成人用のアプノモニターを適用できないことが多い。家庭用ビデオカメラによる睡眠の動画記録([ID2001])は努力性呼吸の有無や程度の評価が可能であり、小児の手術適応決定に有用な情報をもたらす。点鼻ステロイド薬等の効果が得られる場合も少なくないので、手術決定前にその効果を確認することが望ましい。
出典
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小児閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断基準(ICSD-3)
出典
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