今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 上田晃弘 日本赤十字社医療センター感染症科

監修: 上原由紀 順天堂大学医学部臨床検査医学科/総合診療科/微生物学

著者校正/監修レビュー済:2022/07/20
参考ガイドライン:
  1. 米国疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC): West Nile virus(2022年5月29日閲覧)
  1. 欧州疾病予防管理センター(European Centre for Disease Prevention and Control:ECDC): West Nile virus infection(2022年5月29日閲覧)
  1. Travel Health Pro: West Nile virus(2022年5月29日閲覧)
  1. 国立感染症研究所(National Institute of Infectious Diseases:NIID):ウエストナイル熱/ウエストナイル脳炎とは(2022年5月31日閲覧)
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1.  定期レビューを行い、国内の発生状況、海外での疫学についてアップデートを行った。

概要・推奨   

  1. 流行地への渡航歴がある患者の発熱、神経症状(髄膜炎、脳炎、急性弛緩性麻痺)などではウエストナイルウイルス感染症を考える(推奨度1)
  1. ウエストナイルウイルス感染症の診断は、国立感染症研究所などと連携して行う。診断にはウイルス学的検査や血清学的検査を用いるが、感度や特異度は必ずしも十分ではなく、診断は容易ではない(推奨度2)
  1. 頭部MRI検査はウエストナイルウイルス感染症に特異的ではなく、偽陰性も多いので注意が必要(推奨度2 O)
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病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. ウエストナイルウイルスは、日本脳炎ウイルスと同じフラビウイルス属に属する。鳥と蚊の間で感染サイクルが成立しているが、蚊を介して人間に感染し、脳炎などさまざまな疾患の原因となる[1]
  1. 2022年5月時点でウエストナイルウイルスは日本に存在しないとされる。2005年に1例海外からの輸入例が報告されている[2]が、それ以降、2020年10月30日までに報告例はない[3]。また、日本にいるコガタアカイエカ(Culex tritaeniorhynchus)やヤマトヤブカ(Aedes japonicus)などが媒介し得るため、ウイルスの侵入により感染が拡大、定着する可能性がある[4]。事実、米国では1999年まで存在しなかったこのウイルスが流行により全米に広がり、毎年多くの感染者を出すようになった(Culex pipiens, Cx. tarsalisとカラスなどの野鳥を介して感染拡大)[5]
  1. 臨床症状は多彩で、有症状者の多くは頭痛、倦怠感、筋肉痛や関節痛などの非特異的な急性ウイルス感染症状として表現される。消化器症状や皮疹もしばしばみられる。神経症状を発症するのは感染者の1%未満であり、典型的には発熱などの前駆症状が1‐7日程度続いたのちに神経症状を発症する。髄膜炎や脳炎、急性弛緩性麻痺などを呈する[6][7]。非特異的な発熱、頭痛、筋肉痛、皮疹といった急性ウイルス感染症状、脳炎や髄膜炎、急性弛緩性麻痺などの神経症状がみられることがある。脈絡網膜炎、肝炎、心筋炎が生じることもある。流行地からの帰国者では本疾患を鑑別に入れることが大切である。なお、80%は不顕性感染である[4]
  1. 本疾患に特異的な治療法は存在せず、対症療法となる。また、ヒトに有効なワクチンも開発されていないため、予防は流行地で蚊に刺されないことで行われる[1][7][8]
  1. 初発患者(index case)を見逃すと、日本に定着してしまうおそれがあるため、公衆衛生的にも重要な感染症である。
  1. ウエストナイル熱は感染症法上では4類感染症であり、全数報告の対象となる。
問診・診察のポイント  
  1. 流行地への渡航歴が最も重要である。流行地はアフリカ、ユーラシア大陸、オーストラリア、北米(カナダ、米国)、中米など多彩である[9][10]
  1. 米国や欧州における流行マップはそれぞれCDC、ECDCのサイトが参考になる[1][11]
  1. 熱帯など通年で蚊に刺される地域では常に感染のリスクがあり、そうでない場合は夏季が問題になる(蚊に刺されない冬などではこの疾患は鑑別には挙がらない)。蚊に刺されても覚えていないこともあるため、刺されていないという病歴は除外には用いられない。ほかにも輸血、臓器移植、母子の垂直感染などが報告されているがきわめてまれである[8]
  1. 潜伏期も重要である。2~14日といわれるが、免疫抑制者ではこれよりも長くなる可能性がある[1][6][8]
  1. 発熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感、皮疹など、急性発症の非特異的「ウイルス感染」らしい徴候があり、上記渡航歴があれば本疾患を考える。

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
上田晃弘 : 特に申告事項無し[2025年]
監修:上原由紀 : 特に申告事項無し[2025年]

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ウエストナイルウイルス感染症(脳炎など)

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