今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 山中俊祐 福井大学医学部附属病院 救急部

監修: 林寛之 福井大学医学部附属病院

著者校正/監修レビュー済:2021/02/17
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行い、厚生労働省発表の数値を追加した。

概要・推奨   

  1. 虐待されている高齢者はその心理的、財政的、社会的な状況により、虐待の事実を否定する傾向がある。また虐待に対する自覚は当てにならない。
  1. 身体的、性的な虐待以外にも、ネグレクト、経済的、心理的虐待の可能性も考える。
  1. 高齢者虐待に典型的な皮膚所見を知っておく。

まとめ 

まとめ  
  1. 高齢者虐待とは「養護者や養介護施設の従事者による65歳以上の者に対する虐待」であり、
  1. 身体的虐待
  1. ネグレクト(著しい減食・放置、養護者以外の同居人による虐待行為の放置を含む)
  1. 心理的虐待
  1. 性的虐待
  1. 経済的虐待(親族らによる高齢者の財産を不当に処分し、財産上の利益を得ること)
からなる。
  1. 多くの医師がその重要性にもかかわらず、高齢者虐待に関して知識が不足し、過小評価し、適切な評価、対処の仕方がわからないでいる。
  1. 日本における高齢者虐待の構成割合は身体的虐待(74.8%)心理的虐待(37.1%)ネグレクト(10.6%)性的虐待(4.0%)経済的虐待(2.6%)となっている[1]
  1. 先進国の疫学調査では7.6~10.0%の高齢者が虐待され、認知症を患っている高齢者では身体的虐待が11%、心理的虐待が19%との報告があり、高齢者虐待は全世界的な問題となっている[2]
  1. 高齢者虐待は医学的、社会的、倫理的、法律的そして財政的なサポートなどの多様な援助が必要であり、医師1人で対処するのは困難であることが多い。医師、看護師、ソーシャルワーカー、公的機関の専門家、弁護士、介護士などの多種にわたる専門チームを作って個別に対処するのが望ましい。
  1. 高齢者虐待は適切な対処をせずに放置すると3年以内の死亡率が3.1倍上昇する予後が悪い進行性の急性疾患である(13年間の追跡調査では虐待されていないお年寄りの生存率が41%であったのに対して、虐待を受けていたお年寄りの生存率はわずか9%であったとの報告もある)[3]
  1. 2011 年度の養護者による高齢者虐待に関する相談・通報件数は、25,636 件であり、養介護施設従事者などによる高齢者虐待に関する相談・通報件数は、687 件であり、養護者による被養護者の虐待(ネグレクトなどすべての虐待形態を含む)は21件であった。2017年には養護者による高齢者虐待に関する相談・通報件数が26,668件、養介護施設従事者などによる高齢者虐待に関する相談・通報件数も1,640 件と増加傾向にあり、それ以後も増加していると思われる。
  1. 有病率が4~10%程度とされる一般的な疾患であると認識すべきであり、市町村への通報まで至るものは非常に限られた数でしかない[4][5]
  1. 75歳以上、女性、認知症、うつ、精神病、アルコール中毒、要介護3以上などは高齢者虐待のリスクである。
  1. 身体的虐待で最も多い部位は顔面(32%)、首(15%)、顎(11%)であり、頚部より上部の外傷では常に念頭におく[6]
  1. 高齢者虐待に及ぶ者のほとんどが一緒に住んでいる家族であり、医療機関のスタッフが唯一の虐待に関与していない第三者である場合がある。
  1. 虐待されている高齢者はその典型的な心理状況により、虐待の事実を否定する傾向もある。虐待に対する自覚は当てにならない。
  1. 虐待されている高齢者を発見した場合は、その安全と保護を第一に対応すべきであり、できる限り公的な関係機関との連携を行う。高齢者虐待を認めた場合は2006年4月1日に施行された「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に定めるところにより速やかに市町村に報告するよう努めなくてはならない。
  1. 救急外来は高齢者虐待を拾い上げる貴重な機会となり得るが、多くの臨床医は高齢者虐待への知識不足、訓練不足、忙しさ、また高齢者虐待と判明した時の追加の業務への懸念などから、高齢者虐待診断へのハードルは高い。多職種連携が必須となる[7]
  1. 地域包括支援センターが構築する「高齢者虐待防止ネットワーク」を活用することが有効である。
  1. 虐待に対する患者の「自覚」は必要ではない。
  1. 高齢者の安全確保が最優先。
  1. 組織として、チームとして行動し個人で問題に当たらない。
  1. 素早い対応を心がける。
  1. 適切に権限を行使することを躊躇しない。
  1. 認知症の重症度が軽度に収まるなら、虐待の医療者などへの自己申告は可能であり、軽視すべきでない[8]

これより先の閲覧には個人契約のトライアルまたはお申込みが必要です。

最新のエビデンスに基づいた二次文献データベース「今日の臨床サポート」。
常時アップデートされており、最新のエビデンスを各分野のエキスパートが豊富な図表や処方・検査例を交えて分かりやすく解説。日常臨床で遭遇するほぼ全ての症状・疾患から薬剤・検査情報まで瞬時に検索可能です。

まずは15日間無料トライアル
本サイトの知的財産権は全てエルゼビアまたはコンテンツのライセンサーに帰属します。私的利用及び別途規定されている場合を除き、本サイトの利用はいかなる許諾を与えるものでもありません。 本サイト、そのコンテンツ、製品およびサービスのご利用は、お客様ご自身の責任において行ってください。本サイトの利用に基づくいかなる損害についても、エルゼビアは一切の責任及び賠償義務を負いません。 また、本サイトの利用を以て、本サイト利用者は、本サイトの利用に基づき第三者に生じるいかなる損害についても、エルゼビアを免責することに合意したことになります。  本サイトを利用される医学・医療提供者は、独自の臨床的判断を行使するべきです。本サイト利用者の判断においてリスクを正当なものとして受け入れる用意がない限り、コンテンツにおいて提案されている検査または処置がなされるべきではありません。 医学の急速な進歩に鑑み、エルゼビアは、本サイト利用者が診断方法および投与量について、独自に検証を行うことを推奨いたします。
薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※同効薬・小児・妊娠および授乳中の注意事項等は、海外の情報も掲載しており、日本の医療事情に適応しない場合があります。
※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、エルゼビアジャパン編集部によって記載日時にレセプトチェックソフトなどで確認し作成しております。ただし、これらの記載は、実際の保険適応の査定において保険適応及び保険適応外と判断されることを保証するものではありません。また、検査薬、輸液、血液製剤、全身麻酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適応の記載の一部を割愛させていただいています。
(詳細はこちらを参照)
著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
山中俊祐 : 未申告[2024年]
監修:林寛之 : 原稿料((株)羊土社)[2025年]

ページ上部に戻る

高齢者虐待

戻る