ジカ熱・ジカウイルス感染症 :トップ  
忽那賢志 国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター

概要

疾患のポイント:
  1. ジカ熱・ジカウイルス感染症とは、フラビウイルス科フラビウイルス属のジカウイルスによって起こる蚊媒介性感染症である。
 
本コンテンツの要約:
  1. 疫学:
  1. ジカ熱・ジカウイルス感染症は、主にネッタイシマカ(Aedes aegypti) とヒトスジシマカ(Aedes albopictus)で媒介し[1]、近年、急速に流行地域を拡大し、現在も中南米で400万人規模と言われる大流行を起こしている。
  1. なお、ヒトスジシマカは青森県~北海道を除いた日本全土に分布し、日本でも、今後蚊によるアウトブレイクを起こす可能性がある。
  1. 小頭症との関連:
  1. 妊婦のジカ熱感染と胎児の小頭症発症の関連が強く示唆されており[5]、2016年2月1日WHOは国際的な公衆衛生上の脅威となる緊急事態を宣言した[6]。また、CDCは、ジカ熱流行地域に渡航歴のある妊婦に対する小頭症のスクリーニング法についての推奨を発表している。
  1. ジカ熱流行地域の渡航歴のある妊婦に対する小頭症のスクリーニング法:アルゴリズム
  1.  症状・想起:
  1. 8割は不顕性感染で、残りの2割が症状を認めると推察されている[15]。また症状が出たとしても、ジカ熱の感染症状自体は、軽症で、重篤化することはまれである。
  1. 潜伏期は2~7日であり、症状を認めた場合、皮疹(90%)、微熱を含む発熱(65%)、関節痛(65%)、眼球結膜充血(55%)、筋肉痛(48%)、頭痛(45%)などの症状を呈する[4,10]
  1. 厚生労働省は、2016年2月24日の事務連絡にて以下の場合は、ジカウイルス感染症を疑う症例として扱うとした[23](ただし、ジカ熱の診断のために必ずしもこの条件を満たす必要はなく、臨床的にジカ熱が疑われた場合には保健所に相談することが望ましい)。
  1. 下記の(1)~(3)にすべて該当し、かつ、他の感染症または他の病因によることが明らかでない場合
  1. (1)「発疹」または「発熱(※1)」を認める
  1. (2)「関節痛」、「関節炎」または「結膜炎(非滲出性、充血性)」のうち少なくとも1つ以上の症状を認める
  1. (3)流行地域(中南米・カリブ海地域、オセアニア太平洋諸島など詳細は下記)の国から出国後2~13日以内に上記の症状を呈している
  1. ※1発熱は、ほとんどの症例で38.5℃以下との報告がある[24]
  1. 診断:
  1. 診断は、血液・尿等からのウイルス分離やRT-PCR法によるウイルス遺伝子検出、ペア血清によるIgM抗体あるいは中和抗体の陽転化または抗体価の有意の上昇が用いられる。
  1. 治療:
  1. ジカウイルスに有効な抗ウイルス薬はなく、また有効なワクチンもない。
  1. 感染症法・対策:
  1. 2016年2月より4類感染症および検疫感染症に指定された。ジカ熱と診断した医師はただちに管轄の保健所に届出を提出しなければならない。
  1. 特に妊婦はジカ熱流行地域(中南米)への旅行を避ける。また、流行地域に渡航の際には防蚊対策を徹底する。
 
病原体:
  1. ジカウイルスはフラビウイルス科フラビウイルス属に属する。同じくフラビウイルス科に属するウイルスとして、デングウイルス、黄熱ウイルス、日本脳炎ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルスなどがある[8]
  1. デング熱のように複数の血清型はなく、単一の血清型のみである。
 
感染経路:
  1. ジカ熱を媒介する蚊は、主にネッタイシマカ(Aedes aegypti)とヒトスジシマカ(Aedes albopictus)である[1]。日本にはネッタイシマカは生息していないが、ヒトスジシマカは青森県~北海道を除いた日本全土に分布している。このため、日本国内でも輸入例を発端とした流行が起こり得る。
  1. 性交渉によって男性から女性に感染したと思われる症例も報告されているが[17]、症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり、性交渉による感染例は全体のごく一部である。回復から2週間経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告もあり[16]、現時点ではいつまでジカウイルスが精液中に残存するのか不明である。
  1. 輸血による感染例も報告がある。
 
疫学:
  1. ジカウイルスは、1947年にウガンダのジカ森林のアカゲザルから初めて分離され、ヒトからは1968年にナイジェリアで分離された[9]。実際のジカ熱症例はこれまでにウガンダ、ナイジェリア、カンボジア、マレーシア、インドネシアからの報告があった。また、2007年ミクロネシア連邦のヤップ島でジカ熱の最初の大規模なアウトブレイクがあり、約300名の感染者が出ている[10]
  1. 2013年9月より仏領ポリネシアで始まったジカ熱の大流行は、ニューカレドニア、クック諸島にも波及し、感染者は3万人以上にも上ると推計されている[2]
  1. 2015年6月にブラジルで渡航歴のないジカ熱症例が報告された[11]。その後、急激に中南米で流行が広がり、2016年1月26日現在ではバルバドス、ボリビア、ブラジル、カーボベルデ、コロンビア、ドミニカ共和国、エクアドル、エルサルバドル、仏領ギアナ、グアドループ、グアテマラ、ガイアナ、ハイチ、ホンジュラス、マルティニーク、メキシコ、パナマ、パラグアイ、セント・マーティン島、サモア、スリナム、ベネズエラで国内感染例が報告されている[12]
  1. 日本ではこれまでに4例の輸入例が報告されている。2013年12月および2014年1月の症例は仏領ポリネシアから帰国後の症例[13]であり、2014年8月の症例はタイのサムイ島から帰国後の症例であった[14]。また、2016年2月26日はブラジルからの帰国後の症例であった。
  1. また、これまでにタイ、インドネシア、マレーシア、モルディブ、カンボジアから帰国した後にジカ熱と診断された症例も報告されており、これらの南アジア・東南アジアの地域にもジカウイルスが潜在しているものと考えられる。
 
臨床症状:
  1. ポイント:
  1. ジカウイルスに感染した者のうち、約20%の患者が2~7日の潜伏期間を経て症状を呈する[15]。また、残りの約80%が不顕性感染で症状を認めない[15]
  1. ジカ熱の臨床症状として頻度が高いのは、微熱を含む発熱、関節痛、皮疹(紅斑・紅丘疹)、眼球結膜充血である[10]。これ以外にも頭痛、筋肉痛、後眼窩痛などの症状がみられることもある。ジカ熱という疾患名ではあるが、発熱は微熱程度のことが多く、まったく発熱を呈さないここともあり、発熱がないからといってジカ熱を除外することはできない点に注意が必要である。
  1. 一般的に軽症例が多く、入院を要することはまれである。これまでにジカ熱が原因で死亡した例は報告されていない。またデング熱のように重症化して出血症状を呈することもない。
  1. ジカ熱の症状は通常1週間以内に消失する。
  1. まれにジカ熱罹患後にギラン・バレー症候群を発症することがある[7]。
  1. ジカ熱患者の皮疹:<図表>
  1. ジカ熱患者の眼球結膜充血:<図表>
  1. ジカウイルス感染症を疑う症例の要件(厚生労働省):
  1. 厚生労働省は、2016年2月24日の事務連絡にて以下の場合は、ジカウイルス感染症を疑う症例として扱うとした[23]
  1. 下記の(1)~(3)にすべて該当し、かつ、他の感染症または他の病因によることが明らかでない場合
  1. (1)「発疹」または「発熱(※1)」を認める
  1. (2)「関節痛」、「関節炎」または「結膜炎(非滲出性、充血性)」のうち少なくとも1つ以上の症状を認める
  1. (3)流行地域(中南米・カリブ海地域、オセアニア太平洋諸島など詳細は下記)の国から出国後2~13日以内に上記の症状を呈している
  1. ※1発熱は、ほとんどの症例で38.5℃以下との報告がある[24]
  1. ただし、実臨床の現場では、症状のバリエーションは広く、臨床的に疑う場合には、必ずしも上記条件を満たさなくてもジカウイルスの検査を躊躇しないことは大事である。
 
  1. CDCの指針:
  1. CDCは、中南米への渡航者のある患者が2週間以内にこれらの症状を(特に皮疹、発熱、関節痛、眼球結膜充血の2つ以上)認めた場合はジカ熱を念頭に診察に当たる必要があるとしている。
  1. ヤップ島でのアウトブレイクの際の症状の頻度:
  1. ヤップ島でのアウトブレイクの際に診断された31例のジカ熱患者の臨床像の頻度は以下のようであった[10]
  1. 皮疹 28人(90%)
  1. 発熱 20人(65%)
  1. 関節炎・関節痛 20人(65%)
  1. 眼球結膜充血 17人(55%)
  1. 筋肉痛 15人(48%)
  1. 頭痛 14人(45%)
  1. 後眼窩痛 12人(39%)
  1. 浮腫 6人(19%)
  1. 嘔吐 3人(10%)
 
流行地域:
  1. 2016年2月24日の通達にて、下記の地域を流行地域と厚生労働省が発表している[25]。ただし、タイ、インドネシア、マレーシア、モルディブ、カンボジアの渡航者で診断された症例もあり、南アジア・東南アジアの地域からの渡航者にも注意が必要である。
  1. 中南米・カリブ海地域:
  1. アルバ、バルバドス、ボリビア、ボネール、ブラジル、コロンビア、コスタリカ、キュラソー島、ドミニカ共和国、エクアドル、エルサルバドル、仏領ギアナ、グアドループ、グアテマラ、ガイアナ、ハイチ、ホンジュラス、ジャマイカ、マルティニーク、メキシコ、ニカラグア、パナマ、パラグアイ、プエルトリコ、セント・マーティン島、スリナム、トリニダード・トバゴ、米領バージン諸島、ベネズエラ
  1. オセアニア太平洋諸島:
  1. 米領サモア、マーシャル諸島、サモア、トンガ
  1. アフリカ:
  1. カーボベルデ
  1. アジア地域:
  1. タイ
 
 
鑑別診断:
  1. ポイント:
  1. ジカ熱と同じ蚊媒介感染症であるデング熱とチクングニア熱に臨床像が似ている。また近年は流行地域もこの2つの感染症と大部分が重複しており、デング熱やチクングニア熱を疑った際にはジカ熱も鑑別診断として考慮する必要がある。デング熱、チクングニア熱とジカ熱との臨床像の違いを表にまとめた[1]
  1. デング熱、チクングニア熱とジカ熱との臨床像の違い:<図表>
  1. ジカ熱は熱帯・亜熱帯で流行している感染症であることから、これらの地域で流行している以下の発熱疾患なども同様に鑑別診断として考慮すべきである。
  1. 鑑別疾患例:
  1. デング熱
  1. チクングニア熱
  1. マラリア
  1. 腸チフス
  1. リケッチア症
  1. レプトスピラ症
  1. 住血吸虫症
  1. A型肝炎
 
検査・診断:
  1. ジカ熱に特徴的な一般採血検査所見はない。わが国の輸入例3例のうち2例では軽度の白血球減少・血小板減少が確認されている[13,14]が、海外での報告は少ない。
  1. ジカ熱の確定診断はPCR法によるジカウイルス遺伝子の検出、またはペア血清によるIgM抗体あるいは中和抗体の陽転化または抗体価の有意の上昇を確認することによる。
  1. 発症早期であれば血清からのPCR法による遺伝子の検出が可能であるが、ジカ熱の発熱期間はデング熱に比べて短く血清から遺伝子が検出される期間も短いと考えられている。血清から遺伝子が消失した後も尿や精液からはより長期間遺伝子が検出されたという報告がある[13,14,16]
  1. 抗体検査は急性期と回復期のペア血清で4倍以上の上昇を確認する(ただし、他のフラビウイルス感染症に感染していた場合偽陽性となることもある)。2~3週間隔での採取が望ましい。
 
治療:
  1. 現在のところ、ジカ熱に対する特異的な治療はない。
  1. それぞれの症状に対し対症療法を行う。デング熱との鑑別ができていない時点ではNSAIDsの使用は避けたほうがよい。
 
予防:
  1. 現在のところ、ジカ熱に対するワクチンはない。
  1. ジカ熱の流行地域では、防蚊対策を徹底することが重要である。具体的には以下のような対策がある。
  1. 肌の露出が少ない服を着る(長袖・長ズボン・帽子)。
  1. 蚊が嫌う成分であるペルメトリンを含有した服を着用する。
  1. DEETを含有した忌避剤を使用する(日本にはDEET含有の忌避剤は最大で12%のものしかないため2時間ごとに塗り直す必要がある)。
  1. 宿泊時は蚊帳を使用する。
  1. 男性から女性への性交渉が起こり得ると考えられているが、どのくらいの期間精液にジカウイルスが残存するかは現時点では不明である。
  1. Public Health Englandは、女性パートナーが妊娠する可能性がある、もしくは妊娠している場合は以下のように推奨している[18]
  1. 無症状であれば流行地域から帰国後28日経過するまでは性交渉の際にコンドームを使用すること
  1. ジカ熱に合致した臨床症状がある、またはジカ熱と確定診断された場合には流行地域から帰国後6カ月経過するまでは性交渉の際にコンドームを使用すること
 
ジカ熱と小頭症との関連:
  1. 以下のことから、妊婦のジカ熱感染と胎児の小頭症発症は関連があると考えられているが、現在のところまだ結論は出ていない。
  1. 2016年1月29日時点で疑い例を含め、ジカ熱のアウトブレイクを認めているブラジル14州で計4,180例の小頭症症例(頭周囲径が標準より2SD小さい症例)(疑いを含む)が報告されている[19]。これは前年の20倍に相当する発症であった。
  1. ブラジルで小頭症の胎児が確認された妊婦2人の羊水からジカウイルスが検出された[20]。この妊婦2名は妊娠中にジカ熱に矛盾しない臨床症状を呈していた[19]。また、死亡した小頭症の新生児の組織からもジカウイルスが検出されている[19]
  1. 2013年にアウトブレイクがあった仏領ポリネシアでも、当時は少数の発症であったため気づいていなかったが、後の調査で小頭症が増加していたことが分かっている[19]
  1. Laviniaらは、ジカ熱との関連が疑われる小頭症の新生児35人の特徴について報告している[21]。この報告によると、57%は1st trimester、14%は2nd trimesterのときに妊婦がジカ熱に感染していたと考えられる。小頭症の中でも重症例(頭周囲長<-3SD)に該当する症例が71%であった。また先天性内反足(14%)、先天性関節拘縮(11%)、網膜異常(18%)などを認めたほか、半数で神経学的検査異常(49%)、全例で神経画像検査異常を認めた。
  1. ブラジルでジカ熱との関連が疑われる小頭症の新生児35人の特徴:<図表>
  1. CDCは、ジカ熱流行地域に渡航歴のある妊婦に対する小頭症のスクリーニング法についての推奨を発表している。この推奨では、状況に応じて胎児超音波検査による小頭症の評価や、羊水穿刺を行うことを推奨している[22]
  1. ジカ熱流行地域に渡航歴のある妊婦に対する小頭症のスクリーニング法についての推奨(米国CDC):アルゴリズム

追加情報ページへのリンク

  • ジカ熱・ジカウイルス感染症に関する詳細情報
  • ジカ熱・ジカウイルス感染症に関する画像 (5件)
薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 片山志郎 以下、林太祐、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、
著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、エルゼビアジャパン編集部によって記載日時にレセプトチェックソフトなどで確認し作成しております。ただし、これらの記載は、実際の保険適用の査定において保険適用及び保険適用外と判断されることを保証するものではありません。また、検査薬、輸液、血液製剤、全身麻酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適用の記載の一部を割愛させていただいています。
(詳細はこちらを参照)

ジカ熱流行地域に渡航歴のある妊婦に対する小頭症のスクリーニング法についての推奨(米国CDC)
デング熱、チクングニア熱とジカ熱との臨床像の違い
ジカ熱患者の皮疹(本邦症例)
ジカ熱患者の眼球結膜充血(本邦症例)
ブラジルでジカ熱との関連が疑われる小頭症の新生児35人の特徴
著者校正済:2016/02/15
現在監修レビュー中