今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 松本嘉寛1) 福島県立医科大学 整形外科学講座

著者: 岩本幸英2) 九州大学 整形外科学教室

監修: 竹下克志 自治医科大学整形外科

著者校正済:2025/05/29
現在監修レビュー中
参考ガイドライン:
  1. 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会、軟部腫瘍診療ガイドライン策定委員会編:軟部腫瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版)
  1. 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会、原発性悪性骨腫瘍診療ガイドライン策定委員会編:原発性悪性骨腫瘍診療ガイドライン2022
  1. 日本整形外科学会日本病理学会:悪性軟部腫瘍取扱い規約 第4版
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 21年ぶりに改訂された『悪性軟部腫瘍取扱い規約 第4版』を基にレビューを行った。
  1. 定期レビューを行い、日本で行われた、転移のない骨肉腫に対する化学療法のランダム化比較試験である、JCOG0905試験の結果が新たに報告されたため追記した。
  1. 本試験では、シスプラチン(cisplatin)、メソトレキサート(MTX)大量療法、アドリアマイシン(ADR)の3剤を用いた術前化学療法が無効であった症例に対する、イホスファミド(IFO)追加の有効性が検討された。解析の結果、IFOの追加による生存期間の延長は証明できなかった。そのため、転移のない骨肉腫に対する化学療法として、現時点では術前、術後ともにMTX、ADR、cisplatinの3剤を用いるプロトコールが標準治療と考えられる(H. Hiraga, et al. Ann Oncol. 2022;33(Supplement 7):S1225.)。

概要・推奨   

まとめ 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 運動器を構成する骨、軟部組織には多数の種類の腫瘍が発生し、悪性腫瘍の場合は肉腫と呼称される。
  1. 頻度の高い悪性骨腫瘍として骨肉腫、Ewing肉腫、軟骨肉腫などが、良性骨腫瘍では骨軟骨腫、内軟骨腫、骨巨細胞腫などがある[1][2]
  1. 頻度の高い悪性軟部腫瘍として脂肪肉腫、悪性線維性組織球腫、平滑筋肉腫が、良性軟部腫瘍として脂肪腫、神経鞘腫、血管腫がある[3]
  1. 局所の腫瘤、疼痛などを主訴に受診することが多い[4]
  1. 肉腫は希少悪性腫瘍であるが、正確かつ適切な初期診断、治療が良好な予後を得るために必須である[4]
  1. 疼痛や機能障害を伴う良性腫瘍、および悪性骨軟部腫瘍に対しては手術療法が治療の中心となるが、組織診断(骨肉腫、Ewing肉腫、横紋筋肉腫など)に応じて、化学療法も追加した集学的治療を行う[5]
  1. 近年新しい放射線治療として粒子線治療(重粒子線、陽子線)が導入され、脊索腫などに対して特に有用であることこが示されている[6]
  1. 原発性悪性軟部骨腫瘍の遠隔転移の診断においてはCTが有用である[3][6]
 
  1. 骨肉腫の典型症例
  1. 現病歴
  1. 12歳 女性
  1. 主訴:左下腿の腫脹と疼痛
  1. 病歴:特に誘因なく左下腿の疼痛と腫脹が出現し、近医を受診。単純X線にて骨腫瘍を疑われ紹介受診となる。
  1. 既往歴、家族歴:特記事項なし
  1. 初診時理学所見
  1. 左下腿近位外側に圧痛、局所熱感、腫脹を認める。
  1. 主たる臨床検査結果
  1. CRP 0.2 mg/dL、赤沈値 12 mm/h、ALP 650 IU/L、LDH 280 IU/L
  1. 画像診断結果
  1. 単純X線:脛骨近位骨幹端に著明な骨形成像を示し、骨膜反応としてCodman三角を認める。<図表>
  1. MRI:腫瘍は外側の骨皮質を破壊し骨外へ進展している。
  1. 胸部CT: 明らかな肺転移病巣なし。
  1. 骨シンチ:明らかな骨転移病巣なし。
  1. 上記から推定できる病態
  1. 臨床所見、画像所見から典型的な骨肉腫と考えられる。
  1. 治療計画
  1. 初診後ただちに切開生検を行った。本症例のように腫瘍が深部に存在する場合や骨外病変が小さい場合には、切開生検が有用である[6]
  1. 組織標本(HE染色):異型の強い紡錘形細胞および類骨の形成を認め、骨肉腫と診断確定。術前化学療法、手術、術後化学療法という順序で治療を行う。化学療法にはわが国での代表的なプロトコールであるNECO-95Jを用いた。
  1. 実施した手術的治療
  1. 腫瘍広範切除+腫瘍用人工関節による再建を行い患肢を温存した。本症例のように、小児の原発性悪性骨腫瘍には患肢温存手術を行う事が推奨されている[6]
  1. 治療経過と成績
  1. 初診時転移のない、四肢原発骨肉腫症例であり、治療開始後約5年経過、無病生存中である。
 
骨肉腫の典型症例

a:単純X線
b:MRI T2強調画像
c:組織標本 HE染色

出典

著者提供
 
  1. Ewing肉腫の典型症例
  1. 現病歴
  1. 18歳 女性
  1. 約1カ月前より左大腿部に自発痛あり近医受診。単純X線にて異常を指摘され紹介受診となる。
  1. 初診時所見
  1. 左大腿中央外側に軽度の圧痛、局所熱感を認める。
  1. 主たる臨床検査結果
  1. 白血球数 10,200 /μL、CRP 7.1 mg/dL、赤沈値 39 mm/h、ALP 420 IU/L、LDH 350 IU/L
  1. X線像その他画像の解釈と診断結果
  1. 単純X線:大腿骨骨幹にonion peel様の骨膜反応を認める(a)。<図表>
  1. MRI:大腿骨骨髄内に広範囲にT1高信号を示す腫瘍の進展を認める(b)。
  1. 上記から推定できる病態
  1. 病変の局在が骨幹部であり、炎症反応を伴っていることよりEwing肉腫などが疑われる。
  1. 治療計画
  1. 初診後ただちに切開生検を行った。HE染色にて、小円形細胞の密な集簇を認め、間質成分をほとんど認めなかった(c)。また、Ewing肉腫に特徴的なEWS-Fli1融合遺伝子も検出されEwing肉腫と診断確定した(このように、組織型によっては原発性悪性骨腫瘍の病理診断に分子生物学的解析が有用である[6])、術前化学療法、手術、術後化学療法という順序で治療を行う。化学療法には現在世界標準と考えられているVDC-IE プロトコールを用いた。
  1. 実施した手術的治療
  1. 大腿骨近位端置換術を行った。
  1. 治療経過と成績
  1. 手術後、明らかな合併症なく、化学療法のプロトコールも完遂。
  1. 現在、治療終了後約2年、無病生存中。
  1. 本症例では切除可能であるため手術を行なったが、Ewing肉腫の場合には通常の補助放射線治療の有効性も示されている[6]
 
Ewing肉腫の典型症例

a:単純X線
b:MRI T1強調画像
c:組織標本 HE染色

出典

著者提供
 
  1. 軟骨肉腫の典型症例
  1. 現病歴
  1. 55歳 男性
  1. 約7カ月前より右上腕部に自発痛あり、徐々に右肩の可動域制限が出現し近医受診。
  1. 単純X線にて異常を指摘され紹介受診となる。
  1. 初診時所見
  1. 右肩外側に圧痛、軽度の熱感を認める。右肩の可動域は全方向にわたり低下している。
  1. 主たる臨床検査結果
  1. 特記すべき異常所見なし。
  1. 画像診断結果
  1. 単純X線: 右上腕骨近位骨端部から骨幹部にかけて骨透亮像と不規則な斑点状の石灰化像を認める。一部には骨皮質の破壊を認める(a)。<図表>
  1. MRI:T1強調像にて筋肉と等信号もしくは低信号、T2強調像では分葉状の高信号の病変を認める。
  1. 骨外腫瘤も伴っている。
  1. 骨シンチ: 病変部位に一致した取り込みを認める。
  1. 上記から推定できる病態
  1. 臨床所見、画像所見から軟骨系腫瘍、特に軟骨肉腫が疑われる。
  1. 鑑別診断としては転移性骨腫瘍がある。
  1. 治療計画
  1. 切開生検にて、異型の乏しい軟骨細胞の正常骨髄内への浸潤を認め、軟骨肉腫(通常型軟骨肉腫もしくは中心性異型軟骨腫瘍: Grade I)と確定診断 (b)、化学療法、放射線治療の適応なく手術的加療を行った。
  1. 実施した手術的治療
  1. 腫瘍広範切除+上腕骨近位端置換術
  1. 四肢に限局した中心性異型軟骨腫瘍の場合は腫瘍内切除の選択も可能である[6]
  1. 予後
  1. 外来にて経過観察、現在治療開始後約2年、局所再発、遠隔転移を認めない。
  1. 右肩の外転制限を認めるが、ADLには大きな支障はない。
 
軟骨肉腫の典型症例

a:単純X線
b:組織標本 HE染色

出典

著者提供
骨腫瘍問診・診察のポイント  
  1. 問診においては、発症様式、痛みの有無、外傷の有無、家族歴などを聴取することが重要である。

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薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
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(詳細はこちらを参照)
著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
松本嘉寛 : 特に申告事項無し[2025年]
岩本幸英 : 未申告[2024年]
監修:竹下克志 : 講演料(第一三共(株))[2025年]

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