今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 西田康太郎 琉球大学大学院 医学研究科 整形外科学講座

監修: 酒井昭典 産業医科大学 整形外科学教室

著者校正/監修レビュー済:2024/08/21
参考ガイドライン:
  1. 日本整形外科学会/日本腰痛学会:腰痛診療ガイドライン2019 改訂第2版
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行い、以下について加筆・修正した。
  1. 前回改訂から、新たな腰痛診療ガイドラインは出版されていないが、細かな知識のアップデートを行った。また仙腸関節障害に伴う腰痛に関して加筆した。MRIやCT等、仰臥位で撮影する画像の読影に関する注意を追記した。

概要・推奨   

  1. 腰痛の原因は多種多様である。その原因検索と病態の理解、それに準じた治療をタイミングよく行うことが重要である。
  1. 重篤な疾患が腰痛の原因となることがある。その兆候、いわゆるred flagsに留意する。
  1. 進行性の下肢筋力低下や膀胱直腸障害の出現は外科的介入が必要となる可能性が高い。専門医に相談を。

病態・疫学・診察 

疫学情報・病態・注意事項  
  1. 腰痛性疾患のうち下肢症状を伴うものとしては、一般的には腰部神経根刺激症状あるいは圧迫性馬尾症状であることが多く、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄などが代表的疾患である。
  1. しかし、腫瘍性病変(原発性・転移性脊椎脊髄腫瘍)、感染(化膿性椎間板炎・脊椎炎、硬膜外膿瘍)、骨折(椎体骨折など)、硬膜外(内)血腫、解離性大動脈瘤、内臓由来などによる重篤な神経根障害や馬尾障害あるいは関連痛が原因の可能性もあり、さらに心理社会的因子が関与することもあるので鑑別診断は重要である。腰痛の病態は多種多様であり、以前は非特異的腰痛が8割以上と言われた。しかし、近年の報告では75%以上で少なくとも腰痛の臨床診断は可能とされ、椎間関節性22%、筋・筋膜性18%、椎間板性13%、狭窄症11%、椎間板ヘルニア7%、仙腸関節性6%などと報告されている[1]。今後、様々な知見の蓄積や検査の進歩により腰痛の原因が明らかになるであろう。
  1. 下腿まで痛みが出現することは稀であるが、上記の通り椎間関節や仙腸関節、時には股関節の関節症性変化等が臀部痛や大腿部痛の原因になることは知っていて良い。
  1. Mayo clinic からの14編のメタアナリシスによれば[2]、腰痛と関連があるMRI所見は椎間板膨隆(OR 7.54)、分離症(OR 5.06)、椎間板脱出(OR 4.38)、Modic Type 1変化(OR 4.01)[3]、椎間板突出(OR 7.54)、椎間板変性(OR 2.24)であった。
 
Modic changes

参考文献:
Modic MT, Steinberg PM, Ross JS, Masaryk TJ, Carter JR. Degenerative disk disease: assessment of changes in vertebral body marrow with MR imaging. Radiology. 1988 Jan;166(1 Pt 1):193-9. PubMed PMID: 3336678.

 
  1. 変性した椎間板には通常認められない神経の侵入を伴い、椎間板における神経障害性疼痛の関与が考えられている。一部の椎間板変性やModic Type 1変化には弱毒菌感染が関与していることが示されている。
  1. 椎間板ヘルニアにおける痛みには、神経組織の物理的な圧迫よりも炎症性メディエーター産生などの化学的因子の関与が強いとされる。
  1. 高齢者の脊柱変形、特に脊柱後弯に伴う矢状面バランスの破綻と、腰痛やADL障害との関連が昨今注目されている[4]
  1. 急性腰痛は自然軽快を示すことが多く、概ね予後良好である。一方、腰痛の慢性化や再燃の危険因子としては、過去の腰痛の既往、加齢や肥満、喫煙、うつ状態や認知機能障害、交通事故後の発症などが報告されている。
問診・診察のポイント  
問診:
  1. 腰痛患者に接した場合に問診は極めて重要である。問診のポイントは悪性腫瘍、感染、骨折などの重篤な脊椎疾患を見落とさないこと、神経症状の有無に留意することである。重篤な脊椎疾患を疑わせる危険信号、いわゆるred flagsを列挙する(<図表>)。神経症状を伴うか否かについては下肢のしびれや痛みの有無、脱力感の有無、膀胱直腸障害の有無にて判断する。下肢の痛みやしびれ等の神経障害の合併を疑う場合には、その発現部位などを詳しく聞くことが障害神経の特定に役立つ(<図表>)。

これより先の閲覧には個人契約のトライアルまたはお申込みが必要です。

最新のエビデンスに基づいた二次文献データベース「今日の臨床サポート」。
常時アップデートされており、最新のエビデンスを各分野のエキスパートが豊富な図表や処方・検査例を交えて分かりやすく解説。日常臨床で遭遇するほぼ全ての症状・疾患から薬剤・検査情報まで瞬時に検索可能です。

まずは15日間無料トライアル
本サイトの知的財産権は全てエルゼビアまたはコンテンツのライセンサーに帰属します。私的利用及び別途規定されている場合を除き、本サイトの利用はいかなる許諾を与えるものでもありません。 本サイト、そのコンテンツ、製品およびサービスのご利用は、お客様ご自身の責任において行ってください。本サイトの利用に基づくいかなる損害についても、エルゼビアは一切の責任及び賠償義務を負いません。 また、本サイトの利用を以て、本サイト利用者は、本サイトの利用に基づき第三者に生じるいかなる損害についても、エルゼビアを免責することに合意したことになります。  本サイトを利用される医学・医療提供者は、独自の臨床的判断を行使するべきです。本サイト利用者の判断においてリスクを正当なものとして受け入れる用意がない限り、コンテンツにおいて提案されている検査または処置がなされるべきではありません。 医学の急速な進歩に鑑み、エルゼビアは、本サイト利用者が診断方法および投与量について、独自に検証を行うことを推奨いたします。
薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※同効薬・小児・妊娠および授乳中の注意事項等は、海外の情報も掲載しており、日本の医療事情に適応しない場合があります。
※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、エルゼビアジャパン編集部によって記載日時にレセプトチェックソフトなどで確認し作成しております。ただし、これらの記載は、実際の保険適応の査定において保険適応及び保険適応外と判断されることを保証するものではありません。また、検査薬、輸液、血液製剤、全身麻酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適応の記載の一部を割愛させていただいています。
(詳細はこちらを参照)
著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
西田康太郎 : 特に申告事項無し[2025年]
監修:酒井昭典 : 講演料(旭化成ファーマ(株),帝人ヘルスケア(株))[2025年]

ページ上部に戻る

下肢症状を伴う腰痛

戻る