今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 松平 浩 テーラーメイドバックペインクリニック(TMBC)

監修: 酒井昭典 産業医科大学 整形外科学教室

著者校正/監修レビュー済:2024/11/13
参考ガイドライン:
  1. 日本整形外科学会/日本腰痛学会:腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)
  1. 米国内科学会(ACP):Noninvasive Treatments for Acute, Subacute, and Chronic Low Back Pain: A Clinical Practice Guideline From the American College of Physicians.
  1. 英国国立医療技術評価機構(NICE):Managing low back pain and sciatica. NICE Pathway last updated: 29 October 2018
  1. 英国国立医療技術評価機構(NICE):Non-specific low back pain and sciatica: management. 2016
  1. J W H Luitesら:The Dutch Multidisciplinary Occupational Health Guideline to Enhance Work Participation Among Low Back Pain and Lumbosacral Radicular Syndrome Patients,2021
  1. Nadia Corpら:Evidence-based treatment recommendations for neck and low back pain across Europe: A systematic review of guidelines,2020
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行い以下の改訂を行った。
  1. 患者への指導・教育に使える動画について追記した。
  1. 患者向け説明資料に腰痛動画のURLを掲載。

概要・推奨   

  1. 癌の脊椎転移、化膿性椎間板炎、椎体骨折、急性大動脈症候群といった重篤な特異的腰痛を見逃さない意識を常に念頭に置く。
  1. 重篤な病理のない急性腰痛は、無治療であっても予後良好であり、不安を持たず通常通りの生活を維持することを指導することが強く推奨される。
  1. 腰痛は再発率が高く、その予防にはエクササイズ習慣を主軸とするセルフマネジメントが強く推奨されるが、その一手段として「これだけ体操 の習慣化が有用である。

病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 急性腰痛症とは、現在の世界標準の分類では、急性非特異的腰痛のことを指す。いわゆるぎっくり腰(産業医学的用語では災害性腰痛)もこれに含まれる。
  1. 非特異的腰痛とは、特異的腰痛が除外された腰痛という意味である。
  1. 特異的腰痛とは、腫瘍、感染、骨折、神経症状を伴う 腰椎椎間板ヘルニア や 脊柱管狭窄症 に加え、急性大動脈症候群や尿路結石といった他科疾患を含む原因疾患が明確化できるものを指す。(それぞれのコンテンツ参照)
  1. 腰部への身体的負荷が大きい作業は発症の危険因子である。加えて、職場における精神的ストレスといった心理社会的要因も発症の危険因子である。
  1. 非特異的腰痛は、不安を持たず普段の活動を制限することなく過ごせば予後良好であり、エクササイズ習慣をはじめとするセルフマネジメント(自己管理)が重要である。
  1. 予後規定因子(媒介要因)として重要視されているのは、破局的思考、恐怖回避思考・行動、抑うつといった心理的要因である。 >詳細情報 
 
  1. 2019年に改訂された日本の腰痛診療ガイドライン[1]からの抜粋および欧米の主要ガイドラインの情報等を参照(エビデンスレベルおよび推奨度の強い主な項目の抜粋)
  1. 腰痛の定義と病態:
  1. 腰痛の定義で確立されたものはない。しかし、主に疼痛部位、発症からの有症期間、原因などにより定義される。
  1. 一般的には、第12肋骨と殿溝下端の間の領域に位置する疼痛と定義される。
  1. 少なくとも1日以上継続する痛み、片側、または両側の下肢に放散する痛みを伴う場合も、伴わない場合もある。
  1. 有症期間別では、急性腰痛は発症からの期間が4週間未満と定義される。
  1. 原因としては、脊椎由来、神経由来、内臓由来、血管由来、心因性(ただし心因性というtermは患者に用いることは勧められない)、その他に定義され、重篤な基礎疾患(悪性腫瘍、感染、骨折など)、下肢の神経症状を併発する疾患(腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症など)、および各種脊椎構成体(椎間板、椎間関節、仙腸関節、付着部を含む筋・筋膜など)に発痛源があることが疑われるものの重篤な病理はなく、不安を与えなければ予後良好な腰痛に大別される。前者2つを特異的腰痛、最後を非特異的と総称することがグローバルには一般的である。
  1. 一方、腰痛は腰椎から脳にいたるまで、言い換えれば末梢から中枢(中枢性感作、下行性疼痛制御系の機能不全など)まで様々な病態が関与しうるため、非特異的腰痛は未確立の疾患群を詰め込んだ症候群であるともいえ、いまだ検討の余地は残っている。なお、非器質的疼痛など分類・名称が曖昧であった中枢性の疼痛機構をnociplastic pain[2]と呼ぶことが2017年に国際疼痛学会によって提案され、2021年秋に日本痛み関連学会連合が日本語名を「痛覚変調性疼痛」定めた。
  1. 疫学(自然経過、生活習慣との関連を含む):
  1. 急性腰痛患者の自然経過は、自然軽快を示すことが多く、おおむね良好である。なお、ここでの急性腰痛は前述した脊椎構成体に起源があると想定される非特異的腰痛の範疇のものを指す。
  1. 一方、腰痛は一度発症すると繰り返しやすく、腰痛既往は腰痛再発のbest predictorであるといえる。
  1. 心理社会的要因(症状回復に対するマイナス思考など)は、腰痛を遷延させる。
  1. 身体的・精神的に健康な生活習慣は、腰痛の予後によい。
  1. 標準体重(BMI:18.5~25.0)より肥満、あるいは低体重の両者とも腰痛発症リスクと弱い関連があり、健康的な体重管理は腰痛予防に役立つ可能性がある。
  1. 喫煙と飲酒は、腰痛発症リスクや有病率に関連が指摘されている。
  1. 日常的な運動実施群に比べ、普段運動していない群に腰痛発症リスクは増大する。
  1. 腰痛の予防には健康的な生活習慣と穏やかで心理的ストレスが強まらない生活スタイルが推奨される。
  1. 腰部への身体的負荷が大きい作業(重労働)は、腰痛発症の危険因子であるとともに、仕事や職場における心理社会的因子(人間関係のストレス、仕事の不満足度など)は、腰痛発症や予後に関連する。
  1. 診断:
  1. 注意深い問診と身体検査により、red flags(危険信号)を示し、腫瘍、炎症、骨折などの重篤な脊椎疾患が疑われる腰痛、神経症状を伴う腰痛、それ以外の心配な病理のない腰痛(非特異的腰痛)をトリアージとする。
  1. 非特異的腰痛と考えられる患者に対する受診後早期の段階でのX線撮影検査は、疼痛起源の同定に役立つ場合もあるが予後に好影響を与えるとはいえず、必ずしも必要とされない。一方、高齢者や低学歴者は、単純X線検査を必要と考える傾向にあることに留意する必要がある。
  1. 危険信号の合併が疑われる腰痛、神経症状を伴う腰痛、または保存的治療にもかかわらず腰痛が軽快しない場合には、画像検査を推奨する。
  1. 神経症状がある持続性の腰痛に対しては、MRIでの評価を推奨する。
  1. 危険信号を持つ腰痛患者および神経根症状を合併する腰痛患者の画像検査としてMRIは推奨される。
  1. 治療:
  1. 急性腰痛に対して、痛みに応じた活動性維持は、ベッド上安静よりも疼痛を軽減し、機能を回復させるのに有用である。
  1. 職業性腰痛に対しても、痛みに応じた活動性維持は、より早い痛みの改善につながり、休業期間の短縮とその後の再発予防にも効果的である。
  1. 強く推奨される薬物は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)である。一方、特に消化管潰瘍や腎不全への配慮から、筋弛緩薬(特に筋緊張が強い患者)、アセトアミノフェン(特に高齢患者)、弱オピオイド、さらにはワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液が、2019年に改訂された本邦のガイドラインでは推奨薬である。
  1. 打撲を主とした外傷を伴う腰痛には、治打撲一方が役立つ場合がある。
  1. 温熱療法は急性および亜急性腰痛に対して短期的に有効である。
  1. 米国内科学会(ACP)ガイドライン(2017)[3]では、温熱療法のみならず鍼灸治療、脊椎マニュピレーションといった非薬物療法を先に試すことを推奨している。
  1. 英国NICEガイドライン(2018)[4]では、適切な情報提供と患者のニーズ・能力に応じたセルフマネジメントのサポートを重要視している。
  1. オランダからの学際的労働衛生ガイドライン(2021)[5]では、腰痛が発生してからの期間ごとに、必要な支援を段階的に提示した「ステップケアストラテジー」が紹介されている。それによると、発症から1~2週では、適切な情報提供および痛みや障害があっても活動し続けるよう助言(第1ステップ)、3~4週では、Time-contingent approach(その時 の調子に合わせて痛いからこの作業や活動は控えるのではなく、無理のない範囲で課題を定め、時間で区切って課題を実施させる方法)と腰痛に伴う回避行動を減らすための指導(第2ステップ)、そして6週では、集中的な運動療法(IPCP:intense physical conditioning program)を週2回、5回以上実施することを検討(第3ステップ)と提示された。
  1. 欧州の頚部痛・腰痛ガイドライン[6]でも、早期の職場復帰のためのリハビリテーション実施が推奨されている。
  1. 海外主要ガイドラインからは、急性の非特異的腰痛が発生した場合、①安心感を与える適切な教育 ②身体活動の維持 ③回避行動を助長せず、可及的早期に仕事に参加できるようサポートする、つまり、“ゼロ腰痛でなくwith腰痛”での社会的活動の維持や早期復帰の推進 を重要視し、掲げていることがうかがえる。
問診・診察のポイント  
  1. 特異的腰痛を除外する。注意深い問診と身体検査により、red flags(危険信号)があり、腫瘍、感染、骨折などの重篤な疾患が疑われる腰痛、神経症状を伴う腰痛、そして除外的な非特異的腰痛(心配する病理のない青信号:green lightの腰痛)をトリアージとする。

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薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
松平 浩 : 特に申告事項無し[2024年]
監修:酒井昭典 : 講演料(旭化成ファーマ(株),日本臓器製薬(株),帝人ヘルスケア(株))[2024年]

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急性腰痛症(治療含む)

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