今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 木下光雄 西宮協立脳神経外科病院

監修: 酒井昭典 産業医科大学 整形外科学教室

著者校正/監修レビュー済:2022/03/02
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 成人期の症候性扁平足について、新たに提唱されたPCFD分類(Consensus Group Classification of Progressive Collapsing Foot Deformity)に基づいて解説した。
  1. 成人期扁平足の病因として頻度の高い後脛骨筋腱機能不全については、Bluemanらの、PTTD分類を参考として載せた。

概要・推奨   

  1. 成人期になり徐々に足アーチが低下し症候性となった扁平足の病態は、PCFD分類により正確に把握することができる。これは、前足部、中足部、後足部と足関節の4部位における変形と可撓性の有無を、臨床および画像所見を含めて病型分類したものである。PCFD分類により病型を決め、病態に応じて適切な治療法を選択することができる[1]

病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 成人期になり徐々に足アーチが低下し扁平足になると足痛や歩行障害をきたす。成人期扁平足(AAFD: Adult Acquired Flatfoot Deformity)は増加の傾向にあり、病因・病態の解明と適切な治療方法の開発が進められている。
  1. 本記事では、新たに提唱されたPCFD分類(Evidence Level V、Consensus Group Classification of Progressive Collapsing Foot Deformity[1]) <図表>に基づいて解説する。
 
  1. 成人期扁平足の診察
  1. 足立位の状態を背側、内側、外側、後方から視診する。
  1. 足を前足部(足根中足関節以遠)、中足部(足根中足関節と横足根関節の間)、後足部(横足根関節後方の距・踵骨)と足関節の4部位に分け、それぞれの部位の変形と可撓性の有無を診察する。
  1. 成人期扁平足の変形要素
 
右扁平足(61歳、女性、PCFD分類:ⅠABCD)

出典

著者提供
 
3DCT

距骨頭は踵骨載距突起上にない。

出典

著者提供
 
3DCT

踵骨は底屈外反し距骨頭は載距突起から足底に落ち込んでいる。

出典

著者提供
 
  1. 外反変形:後足部は下腿長軸の外側へ偏位している。
  1. 外転変形:前・中足部は後足部に対して外側へ偏位し、距舟関節で舟状骨が外反方向に回旋する、あるいは楔舟関節や足根中足関節で外側へ偏位する。下腿の外側に小趾側の足趾がみえる(too many toes sign陽性)。
  1. 回内変形:後足部は外反し(距骨下関節で距骨は底屈、踵骨は外反)、前・中足部は外転(距舟関節で舟状骨が回旋)している。 
  1. 前足部内反変形:外反している後足部を中間位にあるように見立て前足部をみると、母趾側が小趾側より挙上された位置にある。 前・中足部を回内方向に動かし、内反が矯正されるか可撓性の有無をチェックする<図表>
  1. 成人期扁平足の病因
  1. 成人期扁平足)[2][3]は、腱・靭帯など軟部組織病変に起因するものと骨関節病変によるものに分けられる。
  1. 前者の代表的なものは後脛骨筋腱機能不全(PTTD: Posterior Tibial Tendon Dysfunction)であり、PTTDの病態に応じて分類されている<図表>[4]。PTTDの進行に伴いばね靭帯(底側踵舟靭帯、Spring ligament)や足関節内側の三角靱帯(Deltoid ligament)が損傷され変形が増悪する。
  1. 後者は関節リウマチや神経病性関節症などによるものであり、距舟関節や距骨下関節が破壊され扁平足となる。
  1. 後脛骨筋腱機能不全(Posterior Tibial Tendon Dysfunction、PTTD)<図表>
  1. 後脛骨筋腱の炎症や断裂に起因する成人期の扁平足障害をいう[5]。成人女性の片側発症が特徴的とされているが、両側例や男性例もある。
  1. 解剖:後脛骨筋は脛骨後面・腓骨内側面・下腿骨間膜から起こり、舟状骨粗面に付着した後、楔状骨・立方骨・第2,3,4中足骨底側に付着する<図表>
  1. 作用:後脛骨筋腱は足関節軸の後方かつ距骨下関節軸の内側を走行しており、足関節は底屈、距骨下関節は回外し前足部は内転する。足の内側縦アーチを挙上させ、立脚後期には足の内側縦アーチのスタビライザーとして働く。
  1. 後脛骨筋腱の血行:舟状骨結節付着部より約4cm近位部(内果後方部分)では血流が乏しく障害を起こしやすい。
  1. 発症のリスク因子:肥満、高血圧、糖尿病、足の手術歴、関節リウマチ、ステロイド注射などが挙げられる。
  1. 診断テスト:後脛骨筋腱にそう腫脹と圧痛、too many toes sign陽性<図表>、片脚立位つま先立ち不能(single heel rise test陽性<図表>
  1. 成人期扁平足の立位X線計測[2]
  1. Hind foot moment arm : 下腿長軸と踵骨隆起最下短までの距離( Coby後足部撮影 正常平均値 3.2mm in varus) <図表>
  1. talonavicular coverage angle : 距骨頭の内外側関節縁を結ぶ線と舟状骨関節面の内外側縁を結ぶ線とのなす角度(立位背底像、正常値 <7°) <図表>
  1. talo-first metatarsal(Meary) angle : 距骨長軸と第1中足骨長軸とのなす角度(立位側面像normal: 0±4°) <図表>
  1. 距骨外反変形:PCFD分類Class E, PTTD分類Stage Ⅳでは距腿関節で距骨が外反する(立位足関節正面像)<図表>
  1. 成人期扁平足の治療法[6]
  1. 1)保存療法: 運動療法、マッサージ<図表>、装具療法(足底装具)<図表>
  1. 2)軟部組織手術:骨関節手術に併用されることが多い。
  1. 腱鞘滑膜切除術PTTDⅠ(PCFD分類には含まれない扁平足の前駆病変)に対して施行される。
  1. ばね靭帯、三角靱帯の修復術。
  1. 長趾屈筋腱移行術<図表>
  1. 3)骨関節手術
  1. 踵骨隆起内側移動骨切り術(MDCO: medial displacement calcaneal osteotomy)<図表><図表>
  1. 外側支柱延長術(LCL: lateral column lengthening 踵立方関節延長固定術)<図表> <図表>
  1. 関節固定術<図表>:病態に応じて距舟関節、距骨下関節や足関節を固定する。MDCOやLCL手術と組み合わせてもよい。
 
  1. 典型症例(PCFD分類:ⅡABCD, PTTD分類:Stage ⅢB)
  1. 症例:61歳、女性、主婦
  1. 主訴:(右)足部痛
  1. 現病歴
  1. 10年ほど前から誘因と思われるものなく右足が扁平化し、徐々に足痛を起こすようになった。放置していたが3年前ほど前から足変形が目立つようになり、足部痛が増悪し短時間の歩行も困難になった。
  1. 既往歴、家族歴には特記すべきことなし。
  1. 初診時所見 <図表> (右足)
  1. 右足の底内側に距骨頭が触れ、前・中足部は距舟関節で外転・内反し、後足部は外反している。
  1. 足関節の変形はない。
  1. 足関節内果後下方から舟状骨結節まで、後期骨筋腱の走行に一致して腫脹と圧痛を認める。
  1. too many toes sign陽性、片脚つま先立ちは不能。
  1. 主たる臨床検査結果とその解釈:
  1. 血液生化学検査は異常なし。
  1. X線像<図表> (術前):
  1. talonavicular coverage angle 46°。
  1. talo-first metatarsal(Meary) angle 47°。
  1. 上記から推定できる病態とその根拠:
  1. 身体所見、画像所見から後脛骨筋腱機能不全による重度扁平足と診断。
  1. PCFD分類:ⅡABCD、PTTD分類Stage ⅢB。
  1. 治療計画とinformed consent:
  1. 扁平足の矯正手術が必要であることを説明し、同意を得た。
  1. 実施した手術的治療<図表> (術後):
  1. 距舟関節と踵立方関節の2関節固定術とアキレス腱延長術を施行。
  1. 実施したリハビリテーション:
  1. 術後4週間の短下肢ギプス固定を行い、免荷歩行をさせた。
  1. ギプス除去後は、足底挿板を装着下に部分荷重歩行を始め、3週間後に全荷重歩行を許可した。
  1. また、足部、足関節の関節可動域訓練と下肢筋力強化訓練などのリハビリテーションを行った。
  1. 治療経過と成績:
  1. 変形は矯正され、症状は消失した。
 
問診・診察のポイント  
問診:
  1. 誘因と思われるものなく長い経過をへて足部痛をきたし、徐々に増悪してくることが多いという疾患の特殊性を認識しておく。

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
木下光雄 : 特に申告事項無し[2025年]
監修:酒井昭典 : 講演料(旭化成ファーマ(株),帝人ヘルスケア(株))[2025年]

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