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著者: 大貫幸二 宮城県立がんセンター 乳腺外科

監修: 中村清吾 昭和大学医学部外科学講座乳腺外科学部門

著者校正/監修レビュー済:2022/05/25
参考ガイドライン:
  1. 国立がん研究センター:有効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン2013年度版
  1. 日本乳癌検診学会:乳癌診療ガイドライン2018年度版
  1. 日本医学放射線学会・日本放射線技術学会:マンモグラフィガイドライン第4版
  1. 日本乳腺甲状腺超音波医学会:乳房超音波検査診断ガイドライン改訂第4版
  1. 日本乳癌検診学会:マンモグラフィと超音波検査の総合判定マニュアル
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行い、いくつかの項目の修正とBreast awarenessに関する記述を加筆した。

概要・推奨   

  1. 40歳以上の無症状の女性には、2年に1回のマンモグラフィによる乳がん検診が推奨される(推奨度2)
  1. 乳房にしこりなどの自覚症状がある場合は速やかに医療機関を受診することが推奨される(推奨度1)
  1. 女性自身が乳房の状態に日頃から関心をもち、乳房を意識して生活すること(Breast awareness)が推奨される(推奨度2)

まとめ 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 日本人女性の乳癌罹患率は、30歳代後半から急増し40歳代後半から70歳代はほぼ同率で、80歳以降緩やかに減少する。
  1. 日本の対策型検診は、40歳以上に対して問診およびマンモグラフィによる隔年検診が推奨されている。欧米に比べて受診率が低いことが問題となっている。
  1. 40歳代もしくは乳腺組織が多い受診者に対して、マンモグラフィの精度はやや低い。
  1. 日本で、40歳代に対してマンモグラフィに超音波検査を上乗せするRCTが行われているが、まだ死亡率減少効果は証明されていない。
  1. 死亡率減少効果が証明されていない検診を任意型検診として行うに際しては、利益と不利益を受診者に十分説明する必要がある。
 
  1. マンモグラフィにおける乳房構成(J)(参考文献:[1]
  1. 乳房は個人差や経年変化により、乳腺組織(fibroglandular tissueと同義)および脂肪組織の量とその割合は多様であり、乳腺疾患の診断には、この多様性を考慮する必要がある。
  1. 日本のマンモグラフィガイドラインでは、米国のガイドライン(BI-RADS)に準じて、乳房構成を脂肪性(ほぼ脂肪組織)、乳腺散在(脂肪組織の中に乳腺組織が散在)、不均一高濃度(乳腺組織の中に脂肪組織が混在)、極めて高濃度(乳腺組織の中に脂肪組織はほとんどない)の4型に定義している。
 
  1. 高濃度乳房問題(O)(参考文献:[2]
  1. マンモグラフィの乳房の構成のうち、不均一高濃度と極めて高濃度は合わせて高濃度乳房(dense breast)と定義される。高濃度乳房は検診の精度が低いとともに、乳癌のハイリスクであることもわかっており、米国の多くの州において検診機関はマンモグラフィ検診受診者に乳房構成を通知することが義務づけられている。現在、全米で乳房構成を通知することが検討されている。法制化には「Are you dense?」というNPO法人の活動が大きく寄与している。
  1. 2016年10月に、日本でも患者団体から厚生労働省に乳房の構成を通知する要望書が提出され、日本乳癌学会、日本乳癌検診学会、日本乳がん検診精度管理中央機構(精中機構)が中心となってワーキンググループが設置され日本における対応について検討したところ、対象者への対応が明示できる体制にないことから、2017年3月に「対策型検診において乳房の構成を一律に通知することは現時点では時期尚早である」という提言をまとめた。その後、厚生労働省研究班(笠原班)でマンモグラフィ検診における乳房構成の通知方法についての検討が行われ、検診従事者が受診者に説明する際の助けとなるQ&A集が作成された[3]
  1. 任意型検診においては、可能な限り乳房構成を受診者に伝えて、高濃度乳房の場合には超音波検査の上乗せなどの情報を提供するべきであろう。
  1. ただし、マンモグラフィの乳房構成は目視による定性的評価であり精度管理が難しいこと、日本人の乳高濃度乳房は脂肪組織が少ないために相対的に高濃度に見えているなど、いくつかの検討すべき課題がある。
  1. 笠原班と精中機構で検討が重ねられ、乳房構成の評価方法がより細かく定義された[4]。その基準はマンモグラフィガイドライン第4版にも取り入れられている。
 
  1. マンモグラフィ検診の年代別・乳房の構成別に検討した感度(O)(参考文献:[5]
  1. 日本におけるマンモグラフィ検診(視触診併用)の年代別の感度は、40歳代71%、50歳代86%、60歳代88%であった。そのなかで、マンモグラフィ単独の感度を乳房の構成別に検討したところ、脂肪性91%、乳腺散在79%、不均一高濃度68%、極めて高濃度51%であった。不均一高濃度ないし極めて高濃度乳房の割合は40歳代76%、60歳代24%であり、年代別の感度はその乳房の構成に依存していた。
 
  1. 50歳以上に対するマンモグラフィ検診の死亡率減少効果(推奨度1SJG)(参考文献:[6]
  1. 欧米では50歳以上のマンモグラフィを用いたランダム化比較試験が7試験行われており、いくつかのSystematic reviewがある。
  1. 米国予防医療専門委員会の報告書では、50~59歳の相対危険度は0.86(95%信頼区間:0.75-0.99)、60~69歳は0.68(95%信頼区間:0.68-0.87)であった。つまり、マンモグラフィ検診を受診することによって50歳代では14%、60歳代では32%乳癌死亡を回避できることになる。また、1人の乳癌死亡を防ぐのに何人の検診が必要かを示すNNI(Number Needed to Invite for screening)は、50~59歳で1,339人、60~69歳で377人であり、利益が不利益を確実に上回ることからこの年代の隔年のマンモグラフィ検診を推奨している。
 
  1. 40歳代に対するマンモグラフィ検診の死亡率減少効果(推奨度1SJG(2SG)(参考文献:[6]
  1. 欧米では40歳代のマンモグラフィを用いたランダム化比較試験が8試験行われており、いくつかのSystematic reviewがある。
  1. 米国予防医療専門委員会の報告書では、40~49歳の相対危険度は0.85(95%信頼区間:0.75-0.96)、NNIは1,904人であったことから、この年代は利益と不利益が近接しており、定期的なマンモグラフィ検診を推奨しないと結論づけた。これに対して多くの団体がコメントを寄せている。日本乳癌検診学会は当面40歳代のマンモグラフィ検診を推奨するとしている(http://www.jabcs.jp/pages/uspfts.html)。
問診・診察のポイント  
 
  1. 乳がん検診は無症状者が対象である。症状がある場合は、検診には偽陰性が発生することを説明し医療機関で診察を受けるように指導する。

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
大貫幸二 : 特に申告事項無し[2025年]
監修:中村清吾 : 特に申告事項無し[2024年]

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