たこつぼ型心筋症 :トップ    
監修: 伊藤浩 岡山大学循環器内科
渡辺昌文 山形大学医学部 内科学第一講座(循環・呼吸・腎臓内科学)

概要

疾患のポイント: >詳細情報 
  1. たこつぼ型心筋症とは、心尖部を中心とした左心室壁に一過性の無収縮領域が認められ、冠動脈には原因となる器質的な病変を認めない病態を総称する症候群である。広義には、右室や左室心基部など、無収縮領域の場所を問わず、局所的な気絶心 Myocardial Stunning に近い概念に拡張されることがある
  1. 機序として、交感神経緊張の関与・多枝攣縮・微小血管攣縮などの諸説が提唱されているが、解明されていない。複数の機序、異なる疾患を含んでいる可能性があり、ガイドラインも、概念に若干の差異がある。
  1. 疫学的には、高齢女性(男女比1;7、平均年齢60歳代)に多くみられる。発症前に、心因的ストレスや、身体的ストレスを認めることが多いのが特徴で、大震災で本症候群の患者が増加したという報告ある。
  1. 1990年に佐藤らが、初めて本症例を報告しており、左室造影像がタコを捕獲する漁で使用する蛸壺の形を連想させることが、「たこつぼ型心筋症」の名称の由来になった。Tako-Tsubo cardiomyopathy, apical ballooning syndrome, ampulla cardiomyopathyなどとも呼称される。
 
診断: >詳細情報 
  1. 日本では、河合らTakotsubo Cardiomyopathy Study GroupTCSGの診断基準が一般的で、国際的には Mayo Clinic Criteria診断基準として使用されている。TCSGでは心尖部の無収縮が必須となっているが、Mayo Clinic Criteria では、左心室中部の無収縮が重要で、心尖部の無収縮は必須とされていない。両者の除外診断にも違いがあるので、注意が必要である。
  1. たこつぼ心筋症診断のガイドラインTCSG >詳細情報 
  1. Mayo Clinic Criteria<図表>
  1. TCSGのガイドラインを基に診断する。
  1. 12誘導心電図:ST上昇、発症後48時間以内に現れるT波の陰転化
  1. 心エコー所見:左室心基部の過剰収縮と、冠動脈の支配からは1枝病変では説明できない心尖部の無収縮
  1. 血液検査所見:急性心筋梗塞と類似した時間経過で心筋逸脱酵素の低から中程度の上昇
  1. 冠動脈造影検査:有意狭窄を認めない
  1. 左室造影検査:冠動脈支配では説明できない心尖部領域に無収縮領域
  1. たこつぼ型心筋症の、症状・診断・治療の流れ:アルゴリズム
  1. たこつぼ心筋症診断のガイドラインTCSG): >詳細情報 
  1. たこつぼ心筋症の女性患者にみられた心電図変化の1例:<図表>
  1. 胸部症状と検査所見からST上昇型心筋梗塞との鑑別が重要である。本症候群に特徴的な左室造影所見が、心尖部をまわりこむタイプの左前下行枝近位部病変で発症した心筋梗塞の造影所見と区別が難しいという指摘もあるが、壁運動異常と冠動脈支配領域が一致しないのがポイントである
  1. TCSGのガイドラインでは、脳血管障害患者で生じる心尖部無収縮は、「たこつぼ様心筋障害を伴う脳血管疾患」と診断され、たこつぼ型心筋症からは区別されるMayo Clinic criteria では、これらの症例も、たこつぼ型心筋症に含まれる。
 
重症度予後: >詳細情報 
  1. 心室収縮異常や検査所見数週間から数ヶ月で、徐々に回復するもし、回復しないようであれば、たこつぼ型心筋症の診断を再検討する必要がある。
  1. 本症候群自体の予後は良好である。院内死亡は、14程度とされているが、死亡原因は基礎疾患によることが多い。心室内血栓、心破裂などの重篤な合併症が報告されている
  1. 長期予後は、健康人と差はない考えられているが、10%以下で再発するとされている
 
治療: >詳細情報 
  1. 冠動脈検査でたこつぼ心筋症と診断されるまで、原則、急性心筋梗塞に準じた初期治療を行う。
  1. たこつぼ型心筋症の、症状・診断・治療の流れ:アルゴリズム
  1. 心室収縮の改善など、本質的な治療方法は知られていないが、β遮断薬が有効と考えられている治療の基本は Supportive Therapy合併症の管理である。心筋障害自然軽快を、診察、心エコー血液検査、心電図、心筋逸脱酵素で経過観察する。
  1. 鬱血心不全が存在すれば、利尿薬有用なことが多い。
  1. 心室内血栓の報告もあり、心尖部の無収縮が明らかな場合は、抗凝固療法の検討必要である。
  1. 心基部左室内に圧格差を生じる症例が報告されており、そういった症例では、強心薬や利尿剤の使用は慎重にすることが望ましく、脱水があれば補正を考慮する。
  1. 慢性期の治療薬としては、β遮断薬やACE阻害薬が考慮されているが、その効果は明らかではない。
 
専門医相談のタイミング >詳細情報 
  1. 基本的に全症例を、循環器内科医にコンサルトする。
  1. 心室内血栓が確認されれば、心臓外科医へのコンサルトを考慮する必要があるかもしれない。
 
入院の決定: >詳細情報 
  1. 基本的に入院して、加療する。
  1. 入院中の発症も、認められる。
 
臨床のポイント:
  1. 急性心筋梗塞によく似た病態を示すため、その鑑別診断や治療方法が、救急の現場で問題となることがある。
  1. 心因性・身体性ストレスなどを契機とすることが多いが、確認されない症例もある。
  1. エコー検査による特徴的な心室壁運動異常で診断されることが多いが、病状が許せば、虚血性心疾患除外のための冠動脈の評価を行う。

評価・治療の進め方

※選定されている評価・治療は一例です。症状・病態に応じて適宜変更してください。

診断のための検査例
  1. 心電図や心エコー検査にて、たこつぼ型心筋症に典型的な所見を確認し、心筋逸脱酵素を測定し、診断に役立てると同時に、経過を追う。
  1. 虚血性心疾患を除外する:冠動脈危険因子を検討し、病状が許せば、冠動脈造影検査を行う。
  1. たこつぼ型心筋症の原因やきっかけとなる契機や、病態の存在を検討する。
○ すべての症例で下記の検査を行う。
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
8)
9)
10)
11)
12)
BNP[CLEIA]
13)
胸部12誘導心電図
14)
X線 胸部 正面
15)
心エコー
16)
冠動脈造影、左心室造影

追加情報ページへのリンク

薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 片山志郎 以下、林太祐、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、
著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、エルゼビアジャパン編集部によって記載日時にレセプトチェックソフトなどで確認し作成しております。ただし、これらの記載は、実際の保険適用の査定において保険適用及び保険適用外と判断されることを保証するものではありません。また、検査薬、輸液、血液製剤、全身麻酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適用の記載の一部を割愛させていただいています。
(詳細はこちらを参照)

たこつぼ型心筋症の、症状・診断・治療の流れ
Mayo Clinic Criteria
たこつぼ心筋症の女性患者にみられた心電図変化の1例
たこつぼ心筋症の女性患者、典型的な左室造影検査結果
左室内に圧較差を認めた症例
たこつぼ型心筋症の典型的な左室造影像:拡張期
たこつぼ型心筋症の典型的な左室造影像:収縮期
著者校正/監修レビュー済
2017/06/30