今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 佐藤卓1) 藤沢IVFクリニック、慶應義塾大学医学部 産婦人科学教室

著者: 内田志穂2) 慶應義塾大学医学部 産婦人科学教室

著者: 末岡浩3) 静岡社会健康医学大学院大学、慶應義塾大学医学部 臨床遺伝学センター

監修: 金山尚裕 静岡医療科学専門大学校

著者校正/監修レビュー済:2025/03/12
参考ガイドライン:
  1. 日本医学会医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン.2022.
  1. 厚生科学審議会先端医療技術評価部会・出生前診断に関する専門委員会:母体血清マーカー検査に関する見解.1999.
  1. 日本産科婦人科学会倫理委員会母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)に関する指針. 2019.
  1. 米国産科婦人科学会(ACOG):American College of Obstetricians and Gynecologists’Committee on Practice Bulletins—Obstetrics; Committee on Genetics; Society for Maternal–Fetal Medicine. Practice Bulletin No. 162: Prenatal Diagnostic Testing for Genetic Disorders.2016.
  1. 日本産科婦人科学会出生前に行われる遺伝学的検査に関する見解. 2023.
患者向け説明資料

  1. 『医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン (2022年3月改訂)』に基づき、修正を行った。
  1. 『日本産科婦人科学会編:出生前に行われる検査および診断に関する見解 (2023年5月改訂)』に基づき、修正を行った。
  1. American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG)による『NIPT/NIPSに関するガイドライン改訂 (2022年)』に基づき、 修正を行った。

概要・推奨   

  1. 出生前遺伝学的検査の実施に先立って、利用可能な選択肢の提示とそれぞれの意義と特徴に関する遺伝カウンセリングを行う[1]。実施には文書による同意が必要である(推奨度1)
  1. 母体血清マーカー検査の実施にあたっては、非確定検査であること、高い陰性的中率(99%程度)を有する一方で陽性的中率がやや低いこと(1%程度であること)等を説明し、その性質に関して十分な理解を得る必要がある。検査陽性の事例にも、胎児が必ずしもダウン症候群に罹患しているとは限らないこと・診断には羊水検査等の実施が必要であることを十分に説明する必要がある[2](推奨度1)
  1. Nuchal translucency(NT)を含む妊娠初期の超音波スクリーニング検査は、正確な計測のための十分な時間や機会が確保出来ない妊婦健診においてルーティンに実施されるべきではない。わが国における検査は欧米における計測のためのライセンス制度に則り実施され、一部の医療施設において検査の適正な提供が試みられている (推奨なし)。
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  1. 母体血を用いた非侵襲的出生前遺伝学的検査(non-invasive prenatal testing/screening:NIPT)は、2013年の導入以来、わが国においては依然として臨床研究としての位置づけで13・18・21番染色体のコピー数異常を対象として実施されており、日本医学会による実施施設の審査・登録制度が整備されている。一方、近年は、22q欠失症候群とその他の染色体微細欠失症候群や、陽性所見が稀にしか認められない、13・18・21番染色体以外の全ての常染色体に対する解析における技術開発も進み、海外では一部実施に及んでいる[3]
  1. NIPTの実施に先立っては、検査の高い精度(感度および特異度)にもかかわらず、ダウン症候群に対する陽性的中率が90%程度に留まることや、検査で陽性となった際に、確定診断のためには羊水検査を実施する必要があることについて、十分な理解を得ることが望ましい[4](推奨度1)
  1. 羊水染色体検査の実施時期は、検査の安全性の観点からは妊娠15週以降の実施が望ましい。解析法には、従来のG分染法に加えて、マイクロアレイ法による解析が利用可能である。マイクロアレイ解析の不用意な実施により、臨床的意義の明らかでない染色体コピー数変化(variant of unknown significance:VUS)や、浸透率の低い/表現型に差異のある染色体コピー数変化(susceptibility copy number variants or CNVs)が検出される事があり、胎児の表現型の解釈に難渋する事例が存在する。したがって、現時点では妊娠初期の超音波検査にて胎児構造異常が指摘されている事例や、原因不明の胎児死亡の事例が良い適応となる[5][6](推奨度1)

病態・疫学・診察 

まとめ  
  1. 出生前遺伝学的検査は、妊娠中の比較的早い時期に胎児の情報を知ることで、その状態を把握し、分娩後の胎児の最もよい養育環境を整備することを目的として行う[7]
  1. 検査の実施に先立って、十分な専門知識を持った医師などで構成される、適正な遺伝カウンセリング体制が必要である[7]。検査を希望する夫婦に対し、あらかじめそれぞれの検査の意義・実施方法・検査の限界と危険性・かかる費用などについて、所定の説明要領に基づいて十分な説明を行い、文書に基づく同意を得る必要がある。
  1. 検査の実施時期や検体採取の方法と解析法との組み合わせ等に基づき、様々な選択肢が利用可能である。大別すると、非確定的検査である非侵襲的検査および確定診断のための侵襲的検査に分類可能である。非侵襲的検査には、母体血清マーカー検査・胎児後頸部透亮像 (Nuchal Translucency:NT)等を測定する妊娠初期胎児超音波検査および母体血を用いた非侵襲的出生前遺伝学的検査等が含まれ、検査結果に基づき胎児がなんらかの疾患に罹患している可能性の高いハイリスク群を抽出し、確定診断のための検査へ導く役割も果たす。侵襲的検査には羊水検査・絨毛検査が含まれる。
  1. 結果の開示にあたっては、特に胎児に陽性所見を認めるとされた際には、確立された医学的知見と生命倫理に基づく慎重な検査後カウンセリングを行い、夫婦の意思を最大限に尊重した上で、その自己決定がなされるように支援することが大切である。
 
出生前診断における非確定検査と確定検査

出典

著者提供

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
佐藤卓 : 特に申告事項無し[2025年]
内田志穂 : 特に申告事項無し[2025年]
末岡浩 : 特に申告事項無し[2025年]
監修:金山尚裕 : 特に申告事項無し[2025年]

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妊娠初期の染色体・遺伝子検査

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