今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 山根隆史 医療法人浩明会 生駒泌尿器科

監修: 中川昌之 公益財団法人 慈愛会 今村総合病院 泌尿器科顧問

著者校正/監修レビュー済:2025/02/26
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行った(変更なし)。
 

概要・推奨   

  1. 出血性膀胱炎とは、膀胱粘膜の炎症により肉眼的血尿を認める疾患である。肉眼的血尿に加え、頻尿・排尿時痛や残尿感などの症状を伴うことがある。
  1. 原因として、ウイルス、細菌、薬剤、放射線治療後などが挙げられ、小児ではアデノウイルスによる頻度が高い。薬剤性では、抗がん薬(シクロホスファミド、イホスファミド)、免疫抑制剤、抗アレルギー薬などが有名であるが、抗生物質、漢方薬(小柴胡湯出血性膀胱炎など)などでも報告がある[1]
  1. 治療は原因の除去および治療である。原因の除去により症状が改善することが多いが、改善しない場合は点滴による利尿、血尿が強く持続する場合は持続膀胱洗浄を行う。また放射線治療による場合は、高圧酸素療法が有効である(推奨度2)[1]
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病態・疫学・診察 

疫学情報・病態・注意事項  
出血性膀胱炎の発生機序
  1. アルキル化剤ナイトロジェンマスタード類のシクロホスファミドやイホスファミドは、肝で代謝されその活性代謝産物であるacroleinが腎から尿中に排泄され、それが直接的に尿路上皮細胞を障害する。尿中に排泄されたacroleinは尿路上皮細胞に取り込まれ、細胞質内で活性酸素物質を誘導し核内に取り込まれ、それが DNA を損傷して尿路上皮細胞を障害するとされている[2][3]。また、イホスファミドはシクロホスファミドよりも出血性膀胱炎の頻度が高いとされ、それはイホスファミドの代謝物クロロアセトアルデヒドも尿路上皮細胞を障害するためと考えられている。さらにクロロアセトアルデヒドは急性、慢性に、腎毒性があり、糸球体や尿細管にも障害を及ぼす。
  1. 発症時期については、シクロホスファミド投与中、投与数日後、投与数年後とさまざまであり、低用量の内服でも長期にわたれば遅発性に発症するといわれている。 ペニシリン系抗菌薬による出血性膀胱炎では、膀胱組織に IgG、IgM、C3 などの沈着が確認されており、何らかの免疫反応によるものとされている。 漢方薬による出血性膀胱炎では、膀胱組織に好酸球の浸潤が確認されており、これも何らかの免疫反応によるものとされている。 ニボルマブ、ペムブロリズマブなどの免疫チェックポイント阻害薬による出血性膀胱炎については、まだ詳しい知見はないが、薬剤の機序から考えても、他の臓器障害と同様に自己免疫の関与が考えられる。
 
出血性膀胱炎の原因
 
出血性膀胱炎の原因

参考文献:
厚生労働省. 重篤副作用疾患別対応マニュアル 出血性膀胱炎 平成23年3月(令和3年4月改定). https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1n05-r03.pdf (2024年9月閲覧) p10. 表1

出典

著者提供
患者側のリスク因子
  1. (高リスク)
  1. がん化学療法中の患者、移植後の患者、骨盤部に放射線照射を受けた患者
  1. (補足事項)
  1. 高齢者 2.抗凝固剤服用・肝硬変・血小板数低下等などの出血性素因 3.慢性膀胱炎 4.神経因性膀胱による残尿過多 5.糖尿病の合併 6.副腎皮質ステロイド薬使用 7.抗がん薬の累積投与量および投与期間 8.尿路結石・水腎症・膀胱尿管逆流症
 
発生頻度
  1. シクロホスファミドの点滴静注では投与翌日から数日以内に血尿を主体とした激しい膀胱炎様の症状で発症することが多い。一方経口投与では、1日100~175 mg の投与で20~30カ月で発現した症例が多いと報告されている。頻尿、排尿困難、灼熱感、尿失禁などの症状が投与中止後に 2~8年間続いた症例や投与中止後 10年経過した後に出血性膀胱炎をくり返した症例も報告されている。 ペニシリン系抗菌薬、漢方薬、トラニラストによる出血性膀胱炎は、原因薬剤の中止によって治癒するとされている。 ニボルマブ、ペムブロリズマブなどの免疫チェックポイント阻害薬による出血性膀胱炎では、他の臓器障害と同様にグレードに応じた休薬・ステ ロイド投与を検討すべきと考えられる。実際に休薬、およびステロイドパ ルス療法により症状が改善した症例も報告されている。
  1. シクロホスファミドが使用され始めた頃は、出血性膀胱炎の頻度は 40~68%であったが、その代謝産物acroleinの中和剤であるメスナ(Mesna: sodium 2-mercaptoethanesulfonate, a sulfhydryl compound)を併用するようになってからは、出血性膀胱炎の発症頻度は 2%程度まで減少している。現在までのところ、出血性膀胱炎を予測する因子はなく、化学療法開始後短時間でも発症しうるが、シクロホスファミドの経口投与による出血は晩期に発生することもある。
  1. ペニシリン系抗菌薬による出血性膀胱炎は非常にまれであるが、嚢胞性線維症をペニシリン系抗菌薬で治療した既往のある患者で出血性膀胱炎を引き起こしたとの報告もある。
  1. ニボルマブ、ペムブロリズマブなどの免疫チェックポイント阻害薬による膀胱炎や血尿は 1%未満とされており、出血性膀胱炎はまれな副作用と考えられる。しかし、投薬終了後 3カ月以上経過してから発症することもあり、長期経過した症例での遅発性の発症により頻度が今後上昇してくる可能性もある。
 
症状
  1. 肉眼的血尿、排尿痛、残尿感、頻尿、尿意切迫感などの膀胱刺激症状。
  1. 血尿の程度
  1. (軽症)顕微鏡的血尿
  1. (中等症)肉眼的血尿と時々、排尿時に凝血塊の排出が見られる
  1. (重症)膀胱内の凝血塊により膀胱タンポナーデ・尿閉の状態となり、常時、膀胱痛と強い尿意に襲われる。尿閉に伴う腎後性腎不全の状 態となる。
問診のポイント  
問診のポイント
  1. 症状として肉眼的血尿・頻尿・排尿時痛などの確認。無症候性の肉眼的血尿もある

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
山根隆史 : 特に申告事項無し[2024年]
監修:中川昌之 : 特に申告事項無し[2024年]

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出血性膀胱炎

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