今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 大熊壮尚 学校法人聖マリアンナ医科大学 脳神経内科 特任教授/川崎市立多摩病院 神経内科部長

監修: 高橋裕秀 昭和大学藤が丘病院 脳神経内科

著者校正/監修レビュー済:2022/03/02
参考ガイドライン:
  1. 日本神経学会/日本頭痛学会/日本神経治療学会:頭痛の診療ガイドライン2021
  1. 国際頭痛学会:国際頭痛分類 第3版
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 腰椎穿刺後頭痛の予防法と腰椎穿刺後頭痛に対する薬物療法について加筆した。

概要・推奨   

  1. 腰椎穿刺後頭痛は腰椎穿刺後に起こる頭痛であることが明らかであるため、診断基準を呈示し理解しておく必要がある(推奨度1)
  1. 腰椎穿刺後頭痛と鑑別が必要な低髄液圧による頭痛を示すものに、髄液瘻性頭痛と特発性低髄液圧性頭痛が挙げられる(推奨度1)
  1. 一般的に、腰椎穿刺後頭痛は、腰椎穿刺により生じた小孔を通じて、髄液がクモ膜下腔外へ漏出することが原因であると推察されている。その発症する病態および発症機序を理解しておくことは重要である(推奨度1)

病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 腰椎穿刺後頭痛は「非血管性頭蓋内疾患による頭痛」に分類される。
  1. 腰椎穿刺後頭痛を含め「非血管性頭蓋内疾患による頭痛」の診断の確定は、原因疾患の治療による改善あるいは自然寛解後に頭痛が消失または著明に改善した場合に限られる。
  1. 腰椎穿刺後頭痛は腰椎穿刺が施行されていることが前提とされ、腰椎穿刺施行後5日以内に発現する。
  1. 腰椎穿刺後頭痛は1週間以内に自然消失するか、髄液漏出に対する治療による改善(通常、硬膜外血液パッチ)後48時間以内に消失することを特徴とする。
  1. 腰椎穿刺後頭痛の特徴は臥位で改善し立位で悪化する。
  1. 原因としては髄膜や神経、静脈が髄液を採取することで下方に牽引されたことによる。
  1. 頭痛の性状は、非拍動性の鈍痛である。
  1. 31~50歳の女性に発症頻度が高い。
  1. 約90%は穿刺後72時間以内に起こり、頭から首・肩にかけての放散痛、あるいは引っ張られるような痛みを自覚することが多い。
  1. 頭痛のほか、微熱や嘔吐を伴うこともある。
 
  1. 腰椎穿刺後頭痛の病態および発症機序について供述した。一般的に、腰椎穿刺後頭痛は、腰椎穿刺により生じた小孔を通じて、髄液がクモ膜下腔外へ漏出することが原因であると推察されている。その発症する病態および発症機序を理解しておくことは重要である(推奨度 1S)(参考文献:[1])。
  1. 腰椎穿刺で生じた小孔は、硬膜が、弾性線維が少なく密な結合組織から成り立っているために、その損傷部分が急速に回復することがないとされている。このため、脳の重量を支えている髄液の緩和作用が減少するため、髄膜や血管の痛覚感受性組織および第Ⅴ・第Ⅸ・第Ⅹ脳神経と第1~3頚神経、さらに架橋静脈が下方に牽引されて頭痛が発現する。その上、強固な頭蓋骨内で髄液が漏出することにより、脳の血管外圧の低下が起こり、2次的に静脈の拡張が引き起こされることが腰椎穿刺後頭痛の発症に関与すると報告され、「Monro-Kellieの法則」と呼ばれている。
 
  1. 腰椎穿刺後頭痛の頻度と危険因子について、日本からの報告を紹介する(推奨度 1S)(参考文献:[2])。
  1. 腰椎穿刺を施行した340症例について検討を行った論文である。頭痛の出現頻度、出現時間、持続日数の検討、また腰椎穿刺後に頭痛を起こした群と起こさなかった群に分け、年齢、性、BMI(body mass index、体重kg/(身長)2)、頭痛歴、穿刺針の太さ、髄液細胞数、腰椎穿刺時の初圧・終圧・圧の変化、髄液採取量、髄液細胞数、蛋白の差違について検討しているうえに、持続日数を、1日を軽症、2日を中等症、3日以上を重症とし、その重症度も検討した報告である。結果として、軽症例21.8%、中等症例19.2%、重症例59.0%であり、平均持続期間は4.10±2.77日であった。また、太い穿刺針(19G)を使用したほうが有意に頭痛の出現頻度は高く、また女性に多く、さらには年齢が若く、BMIが小さいやせ型の症例にその出現頻度が高いと報告されている。ただし、それぞれの穿刺針の太さの違いによる頭痛の持続日数や重症度の割合に変化はないとしている。また腰椎穿刺後頭痛発症例では、穿刺時の初圧と終圧が低く、髄液採取量が多く髄液蛋白濃度が低い症例に出現頻度が高い傾向が認められている。ただし、腰椎穿刺の施行回数や頭痛の既往歴には関与しないとしている。このことから、腰椎穿刺施行時には細い穿刺針(21Gが最適)を使用し、髄液採取量を最小限にして施行するのが望ましいと考えられる。
 
  1. 予防は
  1. 22ゲージより細いペンシルポイント針(25-27ゲージ)で行う方が発生予防に効果がある。
  1. 穿刺針が脊髄腔へ到達後はできる限り針先を回転させないこと。
  1. 針を抜くときに内筒を入れてから抜くこと
などを心がける。
  1. 腰椎穿刺後にベッド上安静を行っても安静を解除してもその発生に差はないとされる。
  1. 水分摂取の有無による発生予防にも差はない。
 
  1. 腰椎穿刺後頭痛の予防方法について、穿刺針のサイズや種類および抜針時の手技の相違からその発症頻度を文献的に検討した。(推奨度 2M)(参考文献:[3][4][5][6]
  1. 穿刺針のサイズについて、100症例を26ゲージおよび22ゲージのstandard needleを使用した群に分けて比較検討を行った報告によれば、腰椎穿刺後頭痛の発症率は前者では12%、後者では36%と、26ゲージを使用した群においてその発症率は有意に低かったとされている。ただし、小口径の穿刺針は弯曲するため挿入しにくいうえに、挿入後も髄液漏出に時間がかかるという欠点が指摘されている。別名pencil-point needleと呼ばれる非外傷性脊椎穿刺針とstandard needleで腰椎穿刺を施行した場合における腰椎穿刺後頭痛の発症率は、前者で施行した場合のほうが少ないという結果が得られているが、非外傷性脊椎穿刺針はわが国では一般的な穿刺針ではない。
  1. 600症例を対象とし、21ゲージの非外傷性脊椎穿刺針を使用し、スタイレット(内筒)を再挿入してから穿刺針を抜去する群と再挿入せずに抜去する群との腰椎穿刺後頭痛の発症率を検討した報告では、前者の発症率が5%、後者の発症率が16%で、スタイレットを再挿入して穿刺針を抜去するほうが、より腰椎穿刺後頭痛を予防できるとの結果が得られた。これは髄液検査中に、クモ膜線維が髄液流出に伴い穿刺針内に侵入し、穿刺針を抜去する際にそのクモ膜線維が硬膜よりも引き出されて髄液の漏出が助長されるのを、スタイレットを再挿入することにより、クモ膜線維が押し戻された形となり、結果的に腰椎穿刺後頭痛が予防されるためと推測されている。
 
  1. 文献的考察から、腰椎穿刺後頭痛を予防するには可能な限り細い穿刺針を使用することが望ましいとされるが、実際の使用については定まった基準がないのが現状である。腰椎穿刺後頭痛の予防のためには、実際の臨床の場では何ゲージを用いるのが最適なのかについて文献報告を踏まえて供述した(推奨度 2M)(参考文献:[7][8][2])。
  1. 臨床の場において実際に使用される穿刺針の使用ゲージの選択は、穿刺のしやすさ、髄液圧測定、髄液採取の3点について考慮する必要がある。腰椎穿刺後頭痛の発症率を検討した2つの文献では、1つは20ゲージ穿刺針で50~54%、22ゲージ穿刺針で26~33%、もう一方の文献では、19ゲージ穿刺針で28.6%、21ゲージ穿刺針で15.1%と報告されており、その発症頻度にはばらつきが認められるものの、細い穿刺針での腰椎穿刺後頭痛の発症が低いことは共通している。23ゲージ穿刺針の使用については、成人に対して細過ぎるため実用的ではない。先に述べたように、21ゲージ穿刺針による腰椎穿刺後頭痛の出現率は15.1%で、日常生活にその頭痛が影響するような重症症例は7.5%となっており、十分なリスクが回避されるわけではないが、穿刺のしやすさや髄液測定および髄液採取に要する時間を考慮すれば21ゲージ穿刺針を使用することが実用的であると推察する。
 
  1. 腰椎穿刺前の体位について詳細に検討している報告は少ない。最近の文献から腰椎穿刺前の体位による腰椎穿刺後頭痛の出現頻度について検討している報告があるため、供述した(推奨度 2S)(参考文献:[9])。
  1. 腰椎穿刺前の体位として坐位あるいは仰臥位を取らせて腰椎穿刺を施行した2群に分けて、頭痛の出現頻度を検討した報告である。腰椎穿刺後頭痛の出現頻度は、坐位で45.0%、仰臥位で16.6%と、仰臥位での出現頻度が有意に低い。これは坐位で腰椎穿刺を施行した場合、髄液圧が著明に上昇し(40cmH2O)、穿刺針により損傷される硬膜の小孔がより大きくなり、髄液の漏出が長期間にわたるので頭痛を誘発しやすくなるためと考察している。腰椎穿刺後頭痛を予防するときは、体位が取れない症例を除けば、仰臥位で施行することが望ましい。
 
  1. われわれの医療現場では長期間にわたり、また慣習的に腰椎穿刺後のベッド上安静が指示されてきたが、近年この安静に対しての報告がなされた。腰椎穿刺後頭痛を防ぐために行われてきた従来のベッド上安静の必要性はあるのかどうかについて、文献報告を踏まえ検討した。(推奨度 2M)(参考文献:[3][4][5][6]
  1. 穿刺針のサイズについて、100症例を26ゲージおよび22ゲージのstandard needleを使用した群に分けて比較検討を行った報告によれば、腰椎穿刺後頭痛の発症率は前者では12%、後者では36%と、26ゲージを使用した群においてその発症率は有意に低かったとされている。ただし、小口径の穿刺針は弯曲するため挿入しにくいうえに、挿入後も髄液漏出に時間がかかるという欠点が指摘されている。別名pencil-point needleと呼ばれる非外傷性脊椎穿刺針とstandard needleで腰椎穿刺を施行した場合における腰椎穿刺後頭痛の発症率は、前者で施行した場合のほうが少ないという結果が得られているが、非外傷性脊椎穿刺針はわが国では一般的な穿刺針ではない。
  1. 600症例を対象とし、21ゲージの非外傷性脊椎穿刺針を使用し、スタイレット(内筒)を再挿入してから穿刺針を抜去する群と再挿入せずに抜去する群との腰椎穿刺後頭痛の発症率を検討した報告では、前者の発症率が5%、後者の発症率が16%で、スタイレットを再挿入して穿刺針を抜去するほうが、より腰椎穿刺後頭痛を予防できるとの結果が得られた。これは髄液検査中に、クモ膜線維が髄液流出に伴い穿刺針内に侵入し、穿刺針を抜去する際にそのクモ膜線維が硬膜よりも引き出されて髄液の漏出が助長されるのを、スタイレットを再挿入することにより、クモ膜線維が押し戻された形となり、結果的に腰椎穿刺後頭痛が予防されるためと推測されている。
病歴・診察のポイント  
  1. 腰椎穿刺後頭痛は、坐位または立位を取ると15分以内に増悪し、臥位を取ると15分以内に軽快することを特徴とする。

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薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
大熊壮尚 : 特に申告事項無し[2025年]
監修:高橋裕秀 : 特に申告事項無し[2025年]

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