今日の臨床サポート

肺胞低換気症候群およびCO2ナルコーシス

著者: 陳和夫 京都大学 呼吸管理睡眠制御学講座

監修: 巽浩一郎 千葉大学 真菌医学研究センター 呼吸器生体制御学研究部門

著者校正/監修レビュー済:2022/02/02
患者向け説明資料

概要・推奨   

  1. 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪時に非侵襲的陽圧換気(noninvasive positive pressure、NPPV)使用のエビデンスは高い(推奨度1)
  1. NPPVは、結核後遺症、側弯症などの胸郭拘束性疾患(restrictive thoracic disease、RTD)のII型呼吸不全ではレトロスペクティブな調査を含めてすべてのコホート研究において、生命予後やQOLの改善が報告されており、ランダム化臨床試験が行うことが困難な状況である(推奨度1)
  1. 特発性中枢性肺胞低換気:呼吸刺激薬、酸素療法なども行われることもあるが、基本的にはNPPV療法が行われることが多く、最も効果がある(推奨度2)
薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、林太祐、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※同効薬・小児・妊娠および授乳中の注意事項等は、海外の情報も掲載しており、日本の医療事情に適応しない場合があります。
※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、エルゼビアジャパン編集部によって記載日時にレセプトチェックソフトなどで確認し作成しております。ただし、これらの記載は、実際の保険適応の査定において保険適応及び保険適応外と判断されることを保証するものではありません。また、検査薬、輸液、血液製剤、全身麻酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適応の記載の一部を割愛させていただいています。
(詳細はこちらを参照)
著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
陳和夫 : 未申告[2022年]
監修:巽浩一郎 : 特に申告事項無し[2022年]

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行い、一部加筆修正を行った。
  1. 患者向け説明資料(ケアのポイント)の内容を修正した。

病態・疫学・診察

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)の正常値は35~45mmHg(海外では37~43mmHgのときもある)であり、45mmHgを超えるときに肺胞低換気という。
  1. 肺機能正常例で、高二酸化炭素血症があれば特発性あるいは中枢性肺胞低換気症候群を考慮する。
  1. 肺―胸郭、神経筋疾患による肺機能低下例での高二酸化炭素血症は二次性の肺胞低換気である。
  1. 二次性低換気の原因に、肺機能障害、呼吸調節の異常、呼吸筋力の低下あるいは疲労などがある。
  1. 肺胞低換気が原因疾患の増悪、酸素投与などにより急激に進行し、代償されないとCO2ナルコーシスになり得る。
 
慢性的肺胞低換気に関連する異常の分類

慢性的な肺胞低換気の原因には、呼吸器系(呼吸調節、神経・筋、肺実質、気道系、胸部系など)全体の異常が関与する可能性がある。

 
  1. 神経筋疾患患者(推奨度1OJ)(参考文献:[1][2]
  1. 神経筋疾患に起因する拘束性換気障害がもたらす慢性呼吸不全はNPPVの最もよい適応である。慢性肺胞低換気症状を認めたとき、日中の動脈血ガス分析でPaCO2が45mmHgを超えたとき、あるいは睡眠時にSpO2<90%が5分以上続くか全モニター時間の10%以上であれば、夜間NPPVを開始する。病状、病態に応じて昼間にもNPPVを追加する。気道分泌液が換気を妨げないように適切な排痰処置を講じることがきわめて重要である。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)や筋委縮性側索硬化症(ALS)ではNPPVを行うことにより生命予後やQOLは明らかに改善する。(「NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)ガイドライン改訂第2版」より抜粋)
 
神経筋疾患におけるNPPVの適応

血液ガスの関連する日中および夜間の諸種パラメータ(SpO2、呼気終末PCO2、経皮PCO2)や、肺機能、臨床症状を考慮してNPPV導入を決定する。

 
  1. 慢性期COPD患者(推奨度2RsJ)(参考文献:[1]
  1. COPDの慢性呼吸不全患者の在宅呼吸ケアには、包括的なアプローチが必要になる。NPPVには、呼吸筋の休息効果や呼吸調節系のリセッティングの可能性が示唆されている。また、COPDに伴う睡眠時呼吸障害がNPPVで改善するという報告もあり、健康関連QOLの改善、再入院の減少や急性増悪の頻度の減少につながると考えられている。NPPVの導入にあたっては、包括的内科治療を行ったうえで、必要性を判断することが望ましい。また、症例を吟味し、導入3~4カ月後に血液ガス検査、睡眠時呼吸状態・QOL・NPPVのコンプライアンス評価を行い、継続の必要性を評価する必要がある。(「NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)ガイドライン改訂第2版」より抜粋)
 
COPD(慢性期)におけるNPPV導入基準

臨床症状、徴候、日中の血液ガス、夜間の睡眠呼吸障害の程度、高二酸化炭素血症を伴う急性増悪入院回数などを考慮して導入を決定する。

 
  1. 肥満低換気症候群
  1. 国際的には、BMI≧30 kg/m2で覚醒中の動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)値>45 Torr 、PaCO2値の上昇をきたす他疾患がない場合を肥満低換気症候群(OHS)という。ほとんどが重症の閉塞性睡眠時無呼吸を呈するが、睡眠中の低換気のみを呈する例もある[3][4]
    ICSD3による睡眠中の低換気の定義:以下のいずれかを満たした場合に低換気と判定する。
  1. A. 動脈血PCO2 (代替PCO2;経皮PCO2、呼気終末PCO2)が55mmHgを超えて10分以上持続する。
  1. b. 動脈血PCO2 (代替PCO2)が覚醒時仰臥位と比較して睡眠中に10mmHg以上上昇し、50mmHgを超える値が10分以上持続する。
 
  1. CO2ナルコーシス(参考文献:[5][6]
  1. CO2ナルコーシスとは、高二酸化炭素血症により重度の呼吸性アシドーシスとなり中枢神経系の異常(意識障害)を呈することであり、主要な原因は肺胞低換気である。従来、意識障害の原因としてPaCO2の中枢神経への作用が考えられていたが、近年むしろ脳組織のpH値およびその低下速度の重要性が強調されるようになった。
  1. 人の呼吸(換気量)の調節は、覚醒中は大脳からの行動調節(例えば息こらえ、発語中の呼吸調節など)とPaO2やPaCO2によって調節される化学調節がある。PaCO2の調節は延髄の化学受容体で行われ、PaO2の調節は主に頚動脈体で行われる。PaCO2値が正常の人の呼吸は通常PaCO2によって制御されているがPaCO2値が高値の人は、二酸化炭素に対する反応が鈍くなり、呼吸はPaO2(SaO2)値(低酸素換気応答:hypoxic ventilatory response、HCV)に依存する傾向が大きくなる。例えば、SpO2 60%の患者が来院し、酸素投与してSpO2が90%になったとすると、低酸素に関しての換気刺激が消失し、換気量の低下が起こる。健常人であれば、換気量の低下が起こると肺胞換気式よりPaCO2値の上昇が起こり、高二酸化炭素換気応答(hypercapnic ventilatory response:HCVR)により患者の換気量は増加し、PaCO2値は正常値の方向に向かうが、高二酸化炭素血症患者において、HCVRが低下あるいは消失していれば換気の増加はほとんど起こらずPaCO2が上昇したままの状態になり、ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式により呼吸性アシドーシスになる。低流量式の酸素投与では換気量が低下すると、患者の吸入する酸素濃度は高くなり、SpO2が上昇し、同じ機序でPaCO2はさらに上昇し、呼吸性アシドーシスも進行する。脳血管関門を通過したCO2は水と反応して水素イオン(H+)と重炭酸イオン(HCO3-)になる。PaCO2の上昇は、このH+増加による脳脊髄液中のpH低下によって意識障害を起こすと考えられている。脳脊髄液中のpH値と変化速度の速さが重要と考えられている。
  1. したがって、高二酸化炭素血症患者の急性増悪時には、酸素濃度が患者の換気量に依存せず一定の高流量式酸素投与のほうが、PaCO2高値に対する呼吸管理が行いやすい。高流量式酸素投与においても、目標となる酸素化(SpO2 85~90%)が困難で、増悪以前よりPaCO2が高度に上昇し、動脈血pHの低下も著しいときには、適応があれば非侵襲的換気療法、挿管人工呼吸などを考慮する。
問診・診察のポイント  
  1. 高二酸化炭素血症になる基礎疾患の有無を検討する。

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文献 

Dominique Robert, Laurent Argaud
Clinical review: long-term noninvasive ventilation.
Crit Care. 2007;11(2):210. doi: 10.1186/cc5714.
Abstract/Text Noninvasive positive ventilation has undergone a remarkable evolution over the past decades and is assuming an important role in the management of both acute and chronic respiratory failure. Long-term ventilatory support should be considered a standard of care to treat selected patients following an intensive care unit (ICU) stay. In this setting, appropriate use of noninvasive ventilation can be expected to improve patient outcomes, reduce ICU admission, enhance patient comfort, and increase the efficiency of health care resource utilization. Current literature indicates that noninvasive ventilation improves and stabilizes the clinical course of many patients with chronic ventilatory failure. Noninvasive ventilation also permits long-term mechanical ventilation to be an acceptable option for patients who otherwise would not have been treated if tracheostomy were the only alternative. Nevertheless, these results appear to be better in patients with neuromuscular/-parietal disorders than in chronic obstructive pulmonary disease. This clinical review will address the use of noninvasive ventilation (not including continuous positive airway pressure) mainly in diseases responsible for chronic hypoventilation (that is, restrictive disorders, including neuromuscular disease and lung disease) and incidentally in others such as obstructive sleep apnea or problems of central drive.

PMID 17419882
Abstract/Text OBJECTIVES: To determine the effectiveness of non-invasive positive pressure ventilation (NPPV) in the management of respiratory failure secondary to acute exacerbation of chronic obstructive pulmonary disease.
DESIGN: Systematic review of randomised controlled trials that compared NPPV and usual medical care with usual medical care alone in patients admitted to hospital with respiratory failure resulting from an exacerbation of chronic obstructive pulmonary disease and with PaCO2 >6 kPa.
RESULTS: The eight studies included in the review showed that, compared with usual care alone, NPPV as an adjunct to usual care was associated with a lower mortality (relative risk 0.41 (95% confidence interval 0.26 to 0.64)), a lower need for intubation (relative risk 0.42 (0.31 to 0.59)), lower likelihood of treatment failure (relative risk 0.51 (0.38 to 0.67)), and greater improvements at 1 hour in pH (weighted mean difference 0.03 (0.02 to 0.04)), PaCO2 (weighted mean difference -0.40 kPa (-0.78 to -0.03)), and respiratory rate (weighted mean difference -3.08 breaths per minute (-4.26 to -1.89)). NPPV resulted in fewer complications associated with treatment (relative risk 0.32 (0.18 to 0.56)) and shorter duration of stay in hospital (weighted mean difference -3.24 days (-4.42 to -2.06)).
CONCLUSIONS: NPPV should be the first line intervention in addition to usual medical care to manage respiratory failure secondary to an acute exacerbation of chronic obstructive pulmonary disease in all suitable patients. NPPV should be tried early in the course of respiratory failure and before severe acidosis, to reduce mortality, avoid endotracheal intubation, and decrease treatment failure.

PMID 12543832
Abstract/Text BACKGROUND: Over the past decade, noninvasive positive-pressure ventilation (NPPV) in the setting of acute exacerbations of chronic obstructive pulmonary disease (COPD) has increased in popularity. Although several trials have been published on the relative effectiveness of this treatment, apparent inconsistencies in study results remain.
PURPOSE: To assess the effect of NPPV on rate of endotracheal intubation, length of hospital stay, and in-hospital mortality rate in patients with an acute exacerbation of COPD and to determine the effect of exacerbation severity on these outcomes.
DATA SOURCES: MEDLINE (1966 to 2002) and EMBASE (1990 to 2002). Additional data sources included the Cochrane Library, personal files, abstract proceedings, reference lists of selected articles, and expert contact. There were no language restrictions.
STUDY SELECTION: The researchers selected randomized, controlled trials that 1) examined patients with acute exacerbation of COPD; 2) compared noninvasive ventilation and standard therapy with standard therapy alone; and 3) included need for endotracheal intubation, length of hospital stay, or hospital survival as an outcome.
DATA EXTRACTION: Methodologic quality and results were abstracted independently and in duplicate.
DATA SYNTHESIS: The addition of NPPV to standard care in patients with an acute exacerbation of COPD decreased the rate of endotracheal intubation (risk reduction, 28% [95% CI, 15% to 40%]), length of hospital stay (absolute reduction, 4.57 days [CI, 2.30 to 6.83 days]), and in-hospital mortality rate (risk reduction, 10% [CI, 5% to 15%]). However, subgroup analysis showed that these beneficial effects occurred only in patients with severe exacerbations, not in those with milder exacerbations.
CONCLUSIONS: Patients with severe exacerbations of COPD benefit from the addition of NPPV to standard therapy. However, NPPV has not been shown to benefit hospitalized patients with milder COPD exacerbations.

PMID 12779296

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