今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 宮城悦子 横浜市立大学医学部産婦人科

監修: 青木大輔 赤坂山王メディカルセンター

著者校正/監修レビュー済:2024/05/15
参考ガイドライン:
  1. 日本産科婦人科学会日本産婦人科医会:産婦人科診療ガイドライン‐婦人科外来編2023年版
  1. 国立がん研究センター:子宮頸がんとその他のヒトパピローマウイルス (HPV) 関連がんの予防ファクトシート2023
患者向け説明資料

改訂のポンイト:
  1. 『産婦人科診療ガイドライン‐婦人科外来編2023年版』の発行に伴いレビューを行った。
  1. 2022年4月よりHPVワクチンの積極的接種勧奨が再開された。
  1. 2023年4月より9価HPVワクチン(シルガード)も12歳(小学校6年生相当)~16歳(高校1年生相当)への定期接種が開始となった。
  1. 現在、9価HPVワクチンのみが15歳未満で2回接種(標準的には6カ月間隔)が可能となっている。
  1. 2022年4月より3年間限定で、平成9年度生まれ~平成19年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2008年4月1日)の女子には、キャッチアップ無料接種が行われている。
  1. オーストラリアは男女区別のない学校接種の12~13歳男女への9価HPVワクチンの定期接種を、2023年より1回接種へと舵を切った(Department of Health and Aged Care, Australian Government. Change to single dose HPV vaccine. 2023 Feb 6)。

概要・推奨   

  1. 定期接種ワクチンとして、日本では12歳(小学校6年生相当)~16歳(高校1年生相当)が対象、平成9年度生まれ~平成19年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2008年4月1日)までは2022年度より3年間無料接種対象[1]
  1. 性交渉開始前の接種の予防効果が高い。
  1. 9価HPVワクチンの2回接種は、15歳未満のみで適応。

まとめ 

概要  
  1. HPVワクチンは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の殻(カプシド)の大部分を構成するL1タンパク質を遺伝子組み換え技術で生成した粒子(virus-like particles: VLP)を抗原として作られたサブユニットワクチンである。VLPは外観上はHPVのウイルス粒子とほぼ同様であるが、DNAを含まないので感染力も複製力もなく安全である(<図表>[2][3][4][5]。現在GSK社(サーバリックス、2価ワクチン)とMSD社(ガーダシル、4価ワクチン)の2社からHPV16型と18型に起因する子宮頸癌の予防が確実視されているL1-VLPのカクテルワクチンが世界各国で承認・販売され、広く接種されている。また最近ではMSD社から9価ワクチンが60カ国以上で承認され、米国やオーストラリアでは定期接種が始まっている。日本では、2021年2月に発売され、2023年4月より2価・4価とともに9価HPVワクチンも12歳(小学校6年生相当)~16歳(高校1年生相当)への定期接種が開始となった。日本では現在、9価HPVワクチンのみが15歳未満で2回接種(標準的には6カ月間隔)が可能となっている。また、2022年4月より3年間限定で、平成9年度生まれ~平成19年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2008年4月1日)の女子には、キャッチアップ無料接種が行われている。
 
HPV VLPの模式図

*:VLP (Virus Like Particle):ウイルス様粒子

出典

著者提供
 
  1. これらのワクチンを接種すると、自然感染で得られる数十倍もの中和抗体が産生される。免疫応答の増強により強力な血清抗体価が誘導できるため、高い抗体価が長期間にわたり持続し、性行為により侵入するHPVの子宮頸部上皮への感染をほぼ100%排除することができる[6][7]。しかしながら、これらのワクチンはすでに感染しているHPVの排除や異形成(CIN)の進行を遅らせたり、消滅させる治療ワクチンではない。したがって、最も効果的な接種時期は初交前と考えられる[6][7]
  1. 現在わが国では、サーバリックス(2価)、ガーダシル(4価)、シルガード(9価)の3つのワクチンが定期接種となっている。2009年10月にサーバリックスが承認され(ガーダシル:2011年7月承認)、まずは2009年12月には魚沼市が全額公費助成を決定するなど、地方自治体主導で接種がスタートし、その動きを受け、厚生労働省は2012年11月に公費助成を決定し、翌2013年4月から本ワクチンは定期接種ワクチンとなり、12歳になる年度初日から16歳になる年度末日までの女児(小学6年~高校1年相当:※標準的な接種年齢は13歳になる年度初日から末日、中学1年)が公費助成を受けられるようになった[8][9]。これら2つのHPVワクチンの導入プログラムが適切に実施されれば、少なくとも70%の子宮頸癌の発症を予防すると期待される[10]。4価ワクチンに含まれるHPV6/11/16/18型に加え、HPV31/33/45/52/58も予防する9価のHPVワクチン(シルガード9)は、2020年7月に日本でも承認され,9歳以上の女性のみを対象として2021年2月に任意接種ワクチンとして発売された。その後、2023年4月より定期接種ワクチンとなり、15歳未満では2回接種も適用になっている。
  1. 2013年春以降に、わが国において因果関係は不明の本ワクチン接種後に持続的な疼痛と運動障害などの有害事象報告がメディアから繰り返し報道された。これらの事例に対し、副反応に関する専門委員会(副反応検討部会)で緊急に検討された結果、定期接種の実施を中止するほどリスクが高いとは評価されなかったものの、「同副反応の発生頻度等がより明らかになり、国民に適切な情報提供ができるまでの間、定期接種を積極的に勧奨すべきではない」との判断により、定期接種化されて僅か2カ月後に厚生労働省は、本ワクチンの積極的な接種勧奨の一時中止を決定した[11]。当初は一時的な措置として早急な専門家による評価を実施する予定としていたが、2022年3月まで積極的な接種勧奨中止の状態が続いた。そのため公費助成対象である女性の70%以上が接種していた本ワクチンの接種率は急落し、現在は1%にも満たない低い接種率となっていた[12]
  1. HPVワクチンが承認されて以降、厚生労働省ではHPVワクチンの副反応について専門家の会議による分析・評価が定期的に続けられ、問題とされている副反応の発生頻度が明らかとなった[13]。一方、HPVワクチン接種後に症状を訴える女性に対する適切な初期対応の実施を目的に、日本医師会・日本医学会より「HPVワクチン接種後に生じた症状に対する手引き」が2015年8月に公表された[14]。厚生労働省は、二次医療機関が適切に対応できるよう、各都道府県に1施設以上の協力医療機関を配置し、さらに専門医療機関に相談できる診療体制の整備を行った[15]。現在、これら協力医療機関、専門医療機関の一覧が厚生労働省のホームページに公開されている[16]。また、「HPVワクチン相談窓口」を設け、HPVワクチン接種に関する電話相談ができるようになっている。このようにHPVワクチン接種に伴う不安を医療体制ならびに心理的側面からも解消できるよう体制が整いつつある[16]
  1. 一方、世界保健機関(WHO)は、2014年より現在まで、HPVワクチンの安全性について注意深い検証とモニタリングを続け、ワクチン接種とそれに伴う多様な症状もしくは慢性疼痛などの疾患との間に生物学的・疫学的なエビデンスが認められず、日本でのHPVワクチンの勧奨中止を憂慮する旨の声明を重ねて発表している[17][18][19]。日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本小児科学会、予防接種推進専門協議会などの学術団体は、積極的接種勧奨の再開を求める声明を発信した[20]
  1. その後、日本の異なる手法の2報の疫学調査結果[21][22]により、報道された多様な症状とHPVワクチンの因果関係は否定され、国際的な効果と安全性のアップデートとともに、2022年4月より積極的接種勧奨の差し控えは中止となった。

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
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