今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 中川種昭 慶應義塾大学医学部 歯科・口腔外科学教室

監修: 近津大地 東京医科大学

著者校正/監修レビュー済:2024/01/24
参考ガイドライン:
  1. 日本歯周病学会:歯周病の検査・診断・治療計画の指針2008
  1. 日本歯周病学会:歯周病患者における抗菌薬適正使用のガイドライン2020
  1. 日本歯周病学会:歯周治療の指針2022
  1. 日本歯周病学会:糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 改訂第3版2023
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行った。糖尿病患者に対する歯周治療ガイドラインが改定されたため、医科との関連性が強い項目について加筆した。

概要・推奨   

  1. 歯周病は、歯肉、歯槽骨、セメント質、歯根膜からなる歯周組織に起こる疾患で、炎症が歯肉に限局する歯肉炎と、歯槽骨と呼ばれる支持骨の吸収を伴う歯周炎に定義される。
  1. 歯周炎の急性症状に対しては、抗菌薬を投与するが、最近のガイドラインではアモキシシリンが第1選択となっている。
  1. 歯周炎と糖尿病、関節リウマチ、循環器疾患、呼吸器疾患、大腸がん、アルツハイマー病などとの関連が注目されている。特に、糖尿病との関連性についての報告が増加しており、糖尿病患者では歯周病の発症頻度が増加すること、歯周病症状が悪化しやすいこと、高齢者では重症化しやすいこと、HbA1cが7%以下にコントロールされていれば、良好な治療効果が期待できることが示されている。

病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 歯周病は、歯肉、歯槽骨、セメント質、歯根膜からなる歯周組織に起こる疾患で、炎症が歯肉に限局する歯肉炎と、歯槽骨と呼ばれる支持骨の吸収を伴う歯周炎に定義される。
  1. 年齢が高くなるにつれ、歯肉に所見のあるものが増え、30歳以上では80%以上に認められる。
  1. 頻度は高くないが、若年者の歯周病は重症化しやすい。
 
歯周炎患者初診時(14歳女性)

前歯部と第1大臼歯部に限局して組織破壊を認める、若年者にみられる歯周炎。

出典

著者提供
 
  1. 抜歯の原因の40%程度を占め、歯を失う原因のトップである。
  1. 臨床症状は、初期の段階ではブラッシング時の出血などであり、顕著なものはない。
  1. 歯周炎が進行すると、歯肉の腫脹、歯肉からの出血、排膿、歯の動揺、口臭などが患者の訴えとなり、来院動機になる。
  1. 医師が処方する抗てんかん薬、免疫抑制薬、降圧薬(カルシウム拮抗薬)などで歯肉増殖を伴うことがある。
  1. 天疱瘡、類天疱瘡といった典型的な歯周病とは異なる病態も歯周組織に生じる。
 
  1. 歯肉増殖を伴うケース(推奨度2)
  1. 抗てんかん薬のフェニトインや降圧薬のニフェジピンでは歯肉増殖が見られるケースがある。薬剤の変更により、増殖が収まることもあるが、歯肉を切除するケースも多い。切除手術により元に戻った組織は再増殖を認めることがあるが、口腔内を清潔に保つことで増殖しにくくなることも経験する。
 
歯肉増殖を伴うケース

a:フェニトイン服用患者(重症例)
b:ニフェジピン服用患者(重症例)
薬剤の副作用により歯肉の増殖を認める。
カルシウム拮抗作用の降圧薬(ニフェジピン)
抗てんかん剤(フェニトイン)
免疫抑制薬(シクロスポリン)

出典

著者提供
 
  1. 高齢者の増加、歯周病といくつかの疾患との関連性が報告されるようになり、医科歯科連携の重要性が増している。例えば、フェニトイン(抗てんかん薬)、ニフェジピン(降圧薬、Ca拮抗薬)、シクロスポリン(免疫抑制薬)などによる薬物性の歯肉増殖の所見を認める場合は処方薬の変更の可能性など医科への照会が必要になる。また、顎骨壊死の引き金になり得るビスホスホネート(BP)製剤や抗RANKL抗体製剤などを骨粗鬆症やがん治療の際に使用している場合には顎骨壊死の可能性もあるために、治療前に確認が必要となる。また、歯周病治療は観血処置を伴うことが多いため、抗凝固薬、抗血小板薬の使用の有無に関しても確認する必要がある。現在では可能な限り当該薬は中止せずに観血処置を行うことが一般的になっている。
  1. 糖尿病患者に対して歯周病治療を行うことで、血糖コントロールが改善されることが期待されるが、治療前にある程度血糖コントロールをなされていることが感染予防の観点からも重要である。
  1. 歯科全般に言えることであるが、歯周病治療においても局所麻酔を使用することが多いため、高血圧患者の場合には、事前に医科に状況を確認し、当日の血圧のモニタリングが重要になる。歯周外科を行う際には抜歯と同様に最高血圧が160mmHgを超える際には中止を考える。
問診・診察のポイント  
問診:
  1. 症状の経過の確認(歯肉からの出血、排膿、動揺、歯の移動など)

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文献 

日本歯周病学会編:歯周病患者における抗菌薬適正使用のガイドライン2020.
深谷千絵、穂坂康朗、中川種昭:1型糖尿病を伴った広汎型慢性歯周炎患者の一症例 日本歯周病学会会誌2012:54:175-182.
薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※同効薬・小児・妊娠および授乳中の注意事項等は、海外の情報も掲載しており、日本の医療事情に適応しない場合があります。
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(詳細はこちらを参照)
著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
中川種昭 : 未申告[2024年]
監修:近津大地 : 特に申告事項無し[2024年]

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歯周病(歯肉炎・歯周炎)

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