今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 甲村英二 公立学校共済組合 近畿中央病院

監修: 甲村英二 公立学校共済組合 近畿中央病院

著者校正/監修レビュー済:2024/12/25
参考ガイドライン:
  1. ヨーロッパ脳腫瘍学会(EANO):ヨーロッパ脳腫瘍学会聴神経腫瘍ガイドライン(EANO guideline on the diagnosis and treatment of vestibular schwannoma 2020)
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行い、以下に関してシステマティックレビューなどの文献を追加し加筆した。
  1. 聴神経腫瘍の自然歴
  1. 小型腫瘍についての経過観察、定位放射線治療、手術の成績
  1. 定位放射線治療の時期、放射線治療後の手術について

概要・推奨   

  1. 中年以後の緩徐進行性の一側性難聴を訴える場合は聴神経鞘腫の可能性を考え、耳鼻科的検査、画像診断を行う。突発型難聴についても聴神経鞘腫の可能性を除外する必要がある(推奨度2)
  1. 通常のスクリーニング的なCT、MRIでは小型聴神経鞘腫は見逃されることが多い。造影MRI検査や高解像度のMRI検査(非造影)であれば、確実な診断が可能である(推奨度2)
  1. 内耳道内限局腫瘍については経過観察がまず行われる(推奨度2)
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病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 聴神経鞘腫は第Ⅷ脳神経由来の神経鞘腫である。神経鞘腫は神経細胞の軸索を包む髄鞘を形成するシュワン細胞(Schwann cell)から発生する良性腫瘍である。頭蓋内に発生する神経鞘腫のなかでは最多を占める。ほとんどが前庭神経から発生しており、近年は前庭神経鞘腫と称されることが多い。
  1. 腫瘍は内耳道内から発生し、成長につれて小脳橋角部に突出し、脳幹を圧迫するに至る。腫瘍の成長速度には個人差がある。
  1. 40歳代から60歳代に多いとされており15歳以下の小児例は非常に少なく、この場合は神経線維腫症の合併などを考えねばならない。
  1. 男女比は1:1.33でやや女性に好発する。
  1. 片側の難聴や耳鳴が初発症状として多い。緩徐進行性一側感音性難聴が本腫瘍の典型的症状といわれているが、突発型難聴として発症している症例も少なくない。近年は画像診断の普及により偶発的に発見される腫瘍も増加している。
  1. 腫瘍の増大に伴い周辺の脳神経症状、小脳症状、水頭症を来してくる。前庭神経鞘腫は良性腫瘍ではあるが、脳幹圧迫の強い巨大腫瘍では死に至る危険性がある。
 
  1. 巨大な聴神経鞘腫典型例
  1. 病歴:30歳代女性。数年前より左難聴を自覚。受診3カ月前より左顔面のしびれ、歩行時のふらつき、1週間前より早朝に頭痛、嘔気を認めた。
  1. 診察:両眼底うっ血乳頭、左三叉神経・聴神経の障害、小脳失調
  1. 診断のためのテストとその結果:聴力検査では左聴力喪失、MRIで巨大な左聴神経鞘腫を認めた。
  1. 治療:開頭腫瘍摘出術を行った。
  1. 転帰:術後一過性の顔面神経麻痺が出現したが約3カ月で回復し、術前の症状は聴力障害を除いて消失した。
  1. 巨大な聴神経鞘腫では水頭症、頭蓋内圧亢進を伴い、生命への危険性がある。速やかに開頭術により腫瘍を摘出する必要がある。
 
巨大聴神経鞘腫の造影MRI

左小脳橋角部に巨大な腫瘍を認め、脳幹は著明に圧排され第Ⅳ脳室は正中から右に強く変位し変形している(a)。冠状断では側脳室、第Ⅲ脳室の拡大を認め、閉塞性水頭症の存在が示されている(b)。

出典

著者提供
問診・診察のポイント  
  1. 初発症状として多いのは、難聴や耳鳴である。難聴の発症様式(いつからか、突発性か、緩徐発生か)、難聴の程度(電話理解が可能か)、前庭機能障害(めまい)を伴うかなどは、小型腫瘍での問診ポイントである。

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
甲村英二 : 特に申告事項無し[2024年]
監修:甲村英二 : 特に申告事項無し[2024年]

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