今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 中野一司 ナカノ在宅医療クリニック

監修: 和田忠志 ひだまりホームクリニック

著者校正/監修レビュー済:2022/12/07
参考ガイドライン:
  1. 日本褥瘡学会:褥瘡予防・管理ガイドライン(第5版)(2022年)
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 褥瘡予防・管理ガイドラインを確認のうえ、在宅において推奨される褥瘡治療について修正・加筆を行った。

概要・推奨   

  1. 褥瘡発生の医学的要因として、①力学的要因、②栄養、③褥瘡のできる部位における身体的要因がある。
  1. 褥瘡の評価方法における重要なものとして、①NPUAP分類、②DESIGN分類、③OHスケールの3つがある。
  1. 日本褥瘡学会のガイドラインが推奨する治療内容とは異なるが、在宅での褥瘡治療においては、褥瘡と在宅での療養生活の共存、医療費削減や簡便性の観点から、ラップ療法(解放式湿潤法)がすぐれた療法である。

病態・疫学・診察 

褥瘡のできる要因およびその対応  
  1. 褥瘡が生じる要因は数多いが、ここでは在宅医療において着目すべき3つの要因、すなわち、①力学的要因、②栄養、③褥瘡のできる部位における身体的要因 について述べる。
 
①力学的要因
  1. 褥瘡の力学的要因を「圧」と「ずれ」の2つに分けて考える。この場合、「圧」は皮膚と垂直あるいはそれに近い方向での力の作用(以下この力を「圧力」と呼ぶ)、「ずれ」は、皮膚に水平あるいはそれに近い方向での力の作用である(以下この力を「ずれ力」と呼ぶ)。これらの2つの力が作用して皮膚およびその下部組織に負担を与え、創が形成される。
  1. 圧力とずれ力の発生と作用:
  1. 圧は、重力によって身体が床やマットレスなどに接するとき、身体の凸型の部分に圧が集中する性質がある。例えば、仙骨部や踵部に褥瘡ができやすいのはその部分が接地面に対して凸になっているためである。
  1. ずれは、介護を行う時に体を引きずる動作をしたり、車いすに座っているときに重力によって次第に身体が下や前にずれてきたり、ベッドをギャッジアップあるいはダウンしたときに、接地面と皮膚との間にずれ力が発生するものである。車いすに座っている人に尾骶骨に近い部分に褥瘡ができるなどが、この例である。
  1. 対応:
  1. 治療に際しては、この2つの力学的要因を除去することを目標にする必要がある。圧に対しては「体圧分散」を行う。ずれに対しては、ずれ力を除去するような操作を行う。例えば、「体圧分散」は、高性能体圧分散マットレスの使用や、隙間がないようにピローなどで創部を含めた身体の部分を支える「ポジショニング」により実現される。
  1. 体圧分散を時間軸で実現する方法として、身体の設置部分を定時的に交換していく「体位交換」があるが、在宅ケア現場においては、定時的な交換(特に夜間)は家族介護者にとって負担が重すぎるためあまり推奨されず、その目的には「高性能体圧分散マットレスの使用」が現実的である。
  1. ずれ力を除去する操作としては、ずれ力の働いている接地面と皮膚とを、一瞬でも引き離しさえすればよい。例えば、車いすでずれ力が働いているときには、(いったん腰を椅子から離して)座りなおしてもらう、でもよいし、介護者が介護グローブなどを用いて、一回身体と椅子の間に手を通すだけでもよい。患者が仰臥位臥床している場合で、ずれの力が背部や臀部に働いていると考えられるときには、「一度側臥位になってから仰臥位に戻ってもらう」「介護者が介護グローブなどを用いて、一回身体と椅子の間に手を通す」(「背抜き」)などの方法がある。
 
②栄養
  1. 栄養状態の改善は褥瘡治療においてきわめて重要である。低栄養状態にある場合は、本人の意思に沿って栄養剤(経腸成分栄養剤液 :エンシュア・リキッドやイノラス配合経腸用液)などで補助的治療を行う。詳しくは、「栄養管理(在宅医療)」を参照されたい。栄養状態の改善により、他の環境の変化がないのに褥瘡が改善することは少なくない。
  1. また、嚥下困難のある患者においては言語聴覚士(ST)へ依頼し嚥下訓練を行う。
 
③褥瘡のできる部位における身体的要因
  1. 麻痺や感覚障害、関節拘縮、浮腫、骨突出など、様々な要因が褥瘡形成の原因となるが、特に浮腫は改善可能な要素であり、意識的な治療が望ましい。浮腫は「OHスケール」においても評価項目となっている。褥瘡ができやすい部位に留意し体位変換や体圧分散機器を用いる。
褥瘡の評価方法  
  1. 褥瘡の評価方法として、重要なものとして、①NPUAP分類、②DESIGN分類、③OHスケールについて取り上げる。
 
①NPUAP 分類(NPUAP pressure ulcer staging system)
  1. 褥瘡の深達度を表す分類の1つであり、米国褥瘡諮問委員会(National Pressure Ulcer Advisory Panel;NPUAP)が1989 年に提唱したステージングシステムである。従来はステージI,II,III,IVに分類されてきた。しかし、近年は皮膚表面の損傷がなくとも深部ですでに損傷が起こっていることがあるという考え方から、deep tissue injury(DTI)という病態が追加された。これらのことから、2007年のNPUAP新分類では「深部損傷褥瘡疑い」((suspected)deep tissue injury)、ステージI,II,III,IV,さらに褥瘡の深達度IIIかIVか判断できない場合の「判定不能」(Unstageable)の6病期とした(日本褥瘡学会用語集による)。

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
中野一司 : 未申告[2024年]
監修:和田忠志 : 未申告[2024年]

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