今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 加藤良太朗 板橋中央総合病院 総合診療科

監修: 徳田安春 一般社団法人 群星沖縄臨床研修センター

著者校正/監修レビュー済:2023/12/06
参考ガイドライン:
  1. 米国心臓病学会(ACC)・米国心臓協会(AHA):非心臓手術患者の周術期の心血管疾患の評価および管理に関するガイドライン 2014年版
  1. 欧州心臓学会(ESC): 非心臓手術患者の心血管評価及び管理に関するガイドライン2022年版
  1. 米国胸部疾患学会(ACCP): 周術期の抗血栓治療に関するガイドライン2022年版
  1. 米国麻酔科学会(ASA)と米国麻酔患者安全財団(APSF):COVID-19感染後の患者に対する待機的手術及び手技と麻酔に関する共同声明
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行い、以下について主に加筆した。
  1. パンデミックが終息したとはいえ、依然として後を絶たないCOVID-19患者の周術期リスク評価および管理に関する注意点を追記した。COVID-19の発症時期、重症度、合併症などに加えて、罹患後の身体機能評価などの情報収集が不可欠である。
  1. 英国のデータによると、手術を受けたCOVID-19患者の術後30日死亡率は、非COVID-19患者と比較して有意に高くその差は感染後7週間まで続いていたことから(COVIDSurg Collaborative, et al. Anaesthesia. 2021 Jun;76(6):748-758.)、米国麻酔科学会(ASA)および麻酔患者安全財団(APSF)による共同声明では、COVID-19罹患後は最低2週間、可能であれば、患者のリスクおよび手術のリスクなどを評価したうえで7週間、待機的手術を延期することが推奨されている。また、COVID-19患者では術後も深部静脈血栓症のリスクが高く(COVIDSurg Collaborative, et al. Anaesthesia. 2022 Jan;77(1):28-39.)、心筋炎を合併している場合や、頻度が高いCOVID-19罹患後症状(後遺症)なども予後に影響を与えることが予測されている(Guzik TJ,et al. Cardiovasc Res. 2020 Aug 1;116(10):1666-1687.、Carfì A, et al. JAMA. 2020 Aug 11;324(6):603-605.)。
  1. 患者の高齢化に伴い、がん患者が増加していることより、がん患者の周術期リスク評価及び管理に関する注意点を追記した。がん患者に特有の問題を把握しておくことが重要である。
  1. 欧州心臓学会のガイドライン(2022)では、がんそのものによるリスクだけではなく、がんの治療によるリスクも把握しておく必要があることを強調している(Halvorsen S, et al. Eur Heart J. 2022 Oct 14;43(39):3826-3924.)。例えば、がん患者では血栓症のリスクが高まるため、抗凝固治療は通常よりも長期間行う、あるいは低分子ヘパリンを選択する方が良い場合などがある。一方で、抗がん剤の心筋毒性による心筋症や、放射線治療による若年層の冠動脈疾患、あるいは術後心房細動が増加するリスクなどもある((Halvorsen S, et al. Eur Heart J. 2022 Oct 14;43(39):3826-3924.)。
  1. 抗血小板薬二剤併用療法(DAPT)や直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の使用拡大により抗血栓治療の全体像が大きく変化したため、周術期の抗血栓治療について加筆および修正した。
  1. 抗血小板薬:米国胸部疾患学会(ACCP)のガイドライン(2022)では、待機的な非心臓手術の場合にはアスピリンの中止は一般的には不要とされており、もし中止する場合には手術前7日以内の中止を推奨している。P2Y12阻害薬も同様で、中止する場合は手術前3~5日(チカグレロル)、5日(クロピドグレル)、7日(プラスグレル)の中止が推奨されている(Douketis JD, et al. Chest. 2022 Nov;162(5):1127-1139)。
    また、同ガイドラインでは、冠動脈ステント治療を術前6~12週間前に受けているためにDAPTを内服している患者については、周術期もDAPTを継続するか、片方を術前7~10日前に中止する。もし冠動脈ステント治療を術前3~12カ月前に受けている場合は、必要であればP2Y12阻害薬の方を中止する。ただし、いずれもエビデンスレベルは低い(Douketis JD, et al. Chest. 2022 Nov;162(5):1127-1139.)。
  1. 抗凝固薬: ACCPガイドライン(2022)ではDOACに関しても同様に一般的にはブリッジング療法は不要としている(Douketis JD, et al. Chest. 2022 Nov;162(5):1127-1139.)。DOACの中止および再開方法については、DOACの種類や患者の腎機能などにもよる。米国胸部疾患学会の「DOACの周術期管理表」を参考とされたい。

概要・推奨   

  1. コンサルタントと主治医が円滑なコミュニケーションをとりながら、効果的な併診を行っていくためには、守るべきマナーがある。
  1. 内科コンサルタントに期待される最も重要な役割の一つは周術期のリスク評価である。2014年に米国心臓病学会(American College of Cardiology、以下「ACC」)と米国心臓協会(American Heart Association、以下「AHA」)が共同で発表した「非心臓手術患者の周術期の心血管疾患の評価および管理に関するガイドライン」は熟知しておく必要がある。
  1. 周術期に起こる合併症のほとんどは内科疾患であるため、内科コンサルタントへの期待は大きく、治療方法のみならず患者のモニタリングまで幅広い役割が求められる。
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病態・疫学・診察 

コンサルタントの心得  
  1. わが国では、主治医が他科のコンサルタントと一緒に一人の患者を診ていくという文化が十分に根付いていない。それには、例えば米国のように、コンサルトそのものに対して診療報酬が支払われるような仕組みがないことも影響しているかもしれない。
  1. しかし、患者層が急速に高齢化し、慢性疾患を複数持つ患者も増え、もはや主治医一人では対応できないのが最近の医療現場である。必然的に手術患者もリスクの高い高齢患者が増え、周術期マネジメントは複雑化し、内科コンサルトの役割も増しつつある。主治医との潤滑な併診を可能にするために、コンサルタントが心得ておくべきマナーがいくつかある。ここでは、1980年代にリー・ゴールドマン等が提唱した、「コンサルタントの十戒[2]」を日本の医療に則した形で紹介する。
  1. 目的を明確にする:
  1. せっかく詳細なコンサルトを行なっても、それが主治医の質問に答えていないと全く意味がない。コンサルタントは可能な限り主治医と直接話して、コンサルトの目的を明確にするべきである。それが難しい場合には、紹介状や他科依頼、診療録等に具体的に何について知りたいのかを記載してもらう必要がある。
  1. ときに主治医が患者の状態を十分に把握できず、助けては欲しいけれど、具体的に何を質問したら良いのかということすら分かっていない場合がある。そのようなときでも、決して主治医を非難したり、コンサルトを拒否したりしてはいけない。主治医が途方にくれているときこそ、コンサルタントの出番である。
  1. なお、診療録記載をする際には、「○○で入院中の●●さん、△△の管理について主治科よりコンサルトを依頼された」というように、コンサルトの理由を明記しておくことも、後々のトラブル回避のためには重要である。
  1. 緊急性を把握する:
  1. 外来や病棟、他院など、コンサルトは様々な形で依頼される。全てのコンサルトは速やかに対応されるべきであるが、コンサルトの中には、明らかに急ぐ場合と、待っても良い場合がある。コンサルトを依頼されたら、緊急なのか、至急なのか、あるいは待機的でよいのか、まず緊急性を明確にすることが大切である。緊急や至急の場合には、主治医と直接話しておくことが極めて大事である。
  1. 緊急性が高い場合、コンサルタントを依頼する主治医も、そして依頼されたコンサルタントも、要領を得たプレゼンテーションをするべきである。効率的なコミュニケーションのためには、米国海軍が開発したSBAR法が有用である[3]。すなわち、まず主治医はコンサルトが必要となった状況(situation)を一言で述べ、次にコンサルタントにとって有用と思われる追加情報あるいは背景(background)を説明し、主治医自身の評価(assessment)を共有した上で、推奨(recommendation)を仰ぐ、というコミュニケーション様式である。例えば、主治医からは以下のような依頼を期待したい。
  1. 「救急外来担当医の○○です。胸痛で来院した55歳の男性についてコンサルトさせて下さい。もともと糖尿病と高血圧の既往があり、3時間前から前胸部に締め付けられるような痛みが出現したそうです。発汗もだいぶしております。胸痛はニトログリセリン2錠で消失しました。心電図上は変化ないのですが、私は不安定狭心症を疑っています。評価をお願いできますでしょうか?」
  1. 依頼を受けたコンサルタントも、SBAR法で答えると以下のようになる。
  1. 「先ほどの患者さんですが、急性心筋梗塞だと思いますので、これからカテーテル検査の準備をします。糖尿病と高血圧の既往がある55歳男性で、胸痛も典型的です。よく見ると心電図にも微妙な変化があり、トロポニンも上昇しています。アスピリンの投与とヘパリンの持続点滴を開始して下さい。」
  1. 百聞は一見にしかず:
  1. コンサルタントは他人の書いた診療録に依存するのではなく、可能な限り、自分自身で患者の話を聴き、診察をすることが大事である。ときには自分で他院や他施設に電話する必要もあり、自らグラム染色を再検する、画像を読影する、というような執着心が求められる。ちょっとした努力が、患者にとって大きな恩恵に繋がるからである。
  1. 可能な限り簡潔に答える:
  1. 診療録は医学的にも法的にも大変重要な記録であり、漏れのないコンサルト記載が必要である。しかし、コンサルト記載が過剰に長いと、大事な推奨事項が埋もれてしまい、主治医に伝わらないことにもなりうる。したがって、病歴や処方薬のリストなど、主治医がすでに記載していることを繰り返す必要はない。
  1. 可能な限り具体的に答える:
  1. 薬剤の用量や頻度、投与ルートなどは、できる限り詳細に伝え、診療録にも記載することが大切である。薬剤については誤解が大変多いからである。また、研修医から依頼されたコンサルテーションには教育の意味も兼ねているため、推奨の根拠となる参考文献などを記載しておくことも有用である。
  1. 不用意の用意:
  1. かつて勝海舟は、あらゆる準備をしてなお、不測の事態が起こりうることを想定した柔軟な対応をとることの重要性を説いた。コンサルテーションもしかりである。患者の容態が急変する、数日後に予期せぬ検査結果が返ってくる、ということは臨床現場では珍しくない。代替えプランを用意するなど、推奨事項は変わるかもしれないという意識を持って対応する必要がある。
  1. 身の丈を知る:
  1. コンサルタントは、決して出しゃばってはいけない。医療においては、正解が一つとは限らない場合が多い。たとえ主治医の取った選択が、自分が推奨したものでなかったとしても、そこには様々な理由が関与している場合が多い。医学的あるいは倫理的に明らかに問題がある場合を除いては、主治医の判断を尊重すべきである。逆に、主治医は患者管理をコンサルタントに丸投げしてもいけない。コンサルタントはあくまで補助的な役割に徹するべきであり、中長期的な管理は主治医の仕事である。
  1. 決して相手を辱めない:
  1. 主治医を見下したような対応、あるいは主治医に失礼な対応は絶対にしてはいけない。例えば、「こんなことも知らないのですか?」といったような発言は避けるべきであるし、勝手に検査をオーダーする、処方内容を変えてしまう、といったような行動もあってはならない。ただし、無用に主治医に忖度する必要もない。例えば、細菌感染は否定的であるにも関わらず、主治医の顔色を伺って広域抗菌薬を継続させるというような配慮は不要である。
  1. 言うは易く、効果的である:
  1. コンサルテーションを行なったら、推奨事項を診療録に記載するだけではなく、必ず主治医に電話等で直接伝えること。主治医が推奨事項を遂行してくれる可能性が増す一方、後々のトラブル回避にも繋がるからである。例えば、外科からコンサルトされた後に、主治医に相談もせずに「手術を延期すべきである」と診療録に記載してしまったとする。それに気づかずに外科医が手術をしてしまうと、患者ばかりか主治医も不利益を被る可能性がある。
  1. フォローアップを忘れずに:
  1. コンサルタントは、質問に答えて終わりではなく、推奨事項が実際に遂行されたか、そしてその結果患者がどのような転機を辿ったかをフォローする必要がある。主治医が忙しくて指示を入れ忘れることもあるかもしれないし、検査結果が出るまで数日かかることもある。丁寧なコンサルタントは、主治医が助けを求めてきた問題点が解決するまでフォローする。
  1. 以上が、リー・ゴールドマン等が提唱するコンサルタント全般についてのマナーであるが、繰り返し強調されているのはコミュニケーションの重要性である。周術期も例外ではない。コンサルタントは、「自分の専門性を期待されているのだ」と前向きに捉え、積極的に主治医と対話することによって、お互いにとって、そして何よりも患者にとって実りある診療を提供することができるのである。
周術期の疫学  
  1. 世界中で毎年2億件の手術が行われているが、そのうち100万人が周術期(術後30日以内)に死亡している[4]。全世界で行われている手術の半分に当たる1億件以上の手術は米国で行われているが、注目すべきは外来で行われる手術の件数が過去10年で3倍増加している点である。全米医療の質フォーラム(National Quality Forum、以下「NQF」)のデータによると、米国では年間約5,330万件の手術が外来患者に対して、そして約5,140万件の手術が入院患者に対して行われている[5]
  1. 全ての手術はリスクを伴う。実際、米国では術後患者の7人に1人は退院後30日以内に再入院しており、待機的手術後に退院した患者1,000人中14人以上が敗血症になっている[5]。わが国でも、毎年膨大な数の手術や手技が行われていることを考えると、周術期のリスク管理は医療全体、ひいては社会全体にとって関心の対象となるべきである。

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薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
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尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
加藤良太朗 : 特に申告事項無し[2024年]
監修:徳田安春 : 特に申告事項無し[2024年]

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周術期マネジメント/周術期内科コンサルト

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