乳酸アシドーシス :トップ    
監修: 野田光彦 埼玉医科大学
栁内 秀勝 国立国際医療研究センター 国府台病院 内科

概要

所見のポイント:
  1. 乳酸アシドーシスは、乳酸が何らかの原因により蓄積して生じるアシドーシスで、致死率が約50%と高く、早急な対応が求められる病態である。ショックなどの全身状態の悪い患者、糖尿病、肝不全、腎不全、悪性腫瘍などの全身疾患を有する患者、アルコール中毒患者、ビグアナイド薬を内服中の患者が消化器症状を訴えていれば乳酸アシドーシスの発症を疑う必要がある。さらに、意識障害を伴っている場合は緊急度が高い。
  1. アニオンギャップ(Na+-Cl-HCO3; 正常値12±2mEq/L)が16以上の上昇を認める場合は、乳酸アシドーシスを認める可能性が高いため、重篤な原因疾患の評価へ移行して、みつかった疾患の治療を開始する。
 
診断: >詳細情報 
  1. 診断には血液ガス分析にて血中乳酸値、pHをみることが重要である。動脈血ガス分析でpHが7.35未満、血中乳酸濃度が5mmol/L (45mg/dL) 以上であれば乳酸アシドーシスと診断される。
 
重症度評価: >詳細情報 
  1. ポイント:
  1. 乳酸値により、治療方針が決定する
  1. 乳酸値2~5mmol/L(18~45mg/dL)以上の場合
  1. 乳酸値2~5mmol/L (18~45mg/dL)であれば、注意深い経過観察が必要であり、悪化を認めなければ定期的に検査しフォローする。乳酸値の増加、pHの低下、症状の悪化を認めれば積極的な原因検索と治療の開始が必要である。
  1. 乳酸値5mmol(45mg/dL)以上の場合
  1. 乳酸値5mmol(45mg/dL)以上であれば、大至急、乳酸値を再測定し、再度5mmol以上であれば、積極的な原因検索と早急な治療開始が求められる。
 
原因の評価 >詳細情報 
  1. 乳酸アシドーシスの原因は多岐にわたる。バイタルサインを含めた身体診察、問診による既往・薬剤内服歴などの聴取を迅速かつ丁寧に行い原因を明らかにし、原因となる病態および乳酸アシドーシスに対する治療を速やかに開始することが重要である。
  1. 日常臨床において比較的多く遭遇する循環血漿量減少性ショック、心不全、敗血症性ショック、呼吸不全は、著明な組織灌流低下や低酸素血症を引き起こし、その結果として乳酸アシドーシスをもたらす。したがって、これらの病態を鑑別するために、バイタルサイン(酸素飽和度も含む)の把握、基本的な血液・生化学検査に加えCRP、BNPの測定、胸腹部X線検査を施行する。
  1. 特に頻度の高い原因である、ショック、低酸素血症の所見を認める際には、酸素投与と点滴による治療を開始しながら原因の評価を進める。
  1. 乳酸アシドーシスの診断・治療のアルゴリズム:アルゴリズム
  1. 主な鑑別疾患:
  1. ショック・低酸素血症・呼吸不全
  1. 一酸化炭素中毒
  1. 薬剤性
  1. アルコール、ビグアナイド薬であるメトホルミン(メトグルコ)、サリチル酸、アセトアミノフェン(カロナール)、イソニアジド(イスコチン)、ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬であるサニルブジン(ゼリット)など
  1. 全身性疾患
  1. 肝不全、腎不全、悪性腫瘍、糖尿病、ビタミンB1欠乏症、けいれん発作、短腸症候群、1型糖原病、ミトコンドリア脳筋症、フルクトース1,6ジホスファターゼ欠損症、ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症など)
 
治療:  >詳細情報 
  1. ポイント:
  1. 評価中に原因が明らかになった場合は、その原因の治療が重要である。特にショックや低酸素血症への治療として輸液、酸素投与などにより全身状態の改善をはかることが肝要である。
  1. アシドーシスの補正:
  1. アシドーシスの補正のための炭酸水素ナトリウム(メイロン)の投与によって死亡率が低下したというエビデンスはなく、逆に、肺水腫、高浸透圧などを引き起こすことが知られている。したがって、メイロンは安易に使用せず、pH 7.1未満のときにpH 7.2~7.25程度を目標に投与することが薦められる。
  1. 原因の治療:
  1. 循環血漿量減少性ショックや敗血症性ショック、心不全や腎不全がない乳酸アシドーシス患者には生理食塩水の輸液がよいと考えられる。一方、心不全、腎不全を有する患者にはカリウムも乳酸も含まず、塩分の少ない輸液(KN1Aなど)が無難であると考えられる。いずれの場合も、乳酸アシドーシスの際の輸液製剤は、乳酸を含む製剤(ラクテックなど)は避け、乳酸を含まない製剤を輸液すべきである。
  1. 心不全や敗血症性ショックで昇圧薬が必要な際は、ノルアドレナリンは組織低酸素を悪化させるため使用を避け、イノバンもしくはドブトレックスを用いるほうがよい。
  1. 低栄養が疑われる患者では、ビタメジン1バイアルをメインの点滴に混注し投与する。
  1. 高血糖を伴う乳酸アシドーシスの患者には、経静脈的に生食50mLにヒューマリンR50単位を混ぜたものをシリンジポンプにて投与する。
  1. 乳酸アシドーシスの診断・治療のアルゴリズムアルゴリズム
 
専門医相談のタイミング: >詳細情報 
  1. 乳酸アシドーシスの原因は多岐にわたるため、乳酸アシドーシスの診断が下るか、もしくは疑われれば救急救命処置のできる総合病院への転送が望ましい。

評価・治療の進め方

※選定されている評価・治療は一例です。症状・病態に応じて適宜変更してください。

乳酸アシドーシスの確定診断のための評価例
  1. 診断には血液ガス分析にて血中乳酸値、pHをみることが重要である。動脈血ガス分析でpHが7.35未満、血中乳酸濃度が5mmol/L (45mg/dL) 以上であれば乳酸アシドーシスと診断される。
  1. 乳酸値により、治療方針が決定する。
  1. 乳酸値2~5mmol/L (18~45mg/dL)であれば、注意深い経過観察が必要であり、悪化を認めなければ定期的に検査しフォローする。乳酸値の増加、pHの低下、症状の悪化を認めれば積極的な原因検索と治療の開始が必要である。
  1. 乳酸アシドーシスの診断・治療のアルゴリズムアルゴリズム
  1. 乳酸値5mmol(45mg/dL)以上であれば、大至急、乳酸値を再測定し、再度5mmol以上であれば、積極的な原因検索と早急な治療開始が求められる。
  1. 乳酸値5mmol/L以上、pH 7.25未満で、予後不良といわれる。
○ 初診時の検査として、1)を考慮する。必要に応じて2)を追加することもある。
1)
血液ガス分析
2)

初期原因評価方法例
  1. 乳酸アシドーシスの原因は多岐にわたる。バイタルサインを含めた身体診察、問診による既往・薬剤内服歴などの聴取を迅速かつ丁寧に行い原因を明らかにし、原因となる病態および乳酸アシドーシスに対する治療を速やかに開始することが重要である。
  1. 鑑別疾患: 鑑別疾患 
  1. まずは以下のような順で評価をするとよい。
  1. バイタルサインが安定しているか否かを評価する。
  1. ショック、腎不全、肝不全、DICなどの合併症の評価をする。
  1. ショック、一酸化炭素中毒、糖尿病、肝不全、腎不全、アルコール中毒、ビグアナイド薬などによる薬剤性などの原因疾患の鑑別を行う。
  1. うっ血性心不全、呼吸不全を疑った場合は、胸部X線、心エコー、BNP、血液ガス分析などを評価する。
  1. 低血糖・糖尿病を疑った場合は、血糖値、HbA1c、尿中ケトン体、血中C-ペプチド、血中ケトン体分画などを評価する。
  1. 肝不全、腎不全を疑った場合は、AST、 ALT、alb、ChE、PT、BUN、Crなどを評価する。
  1. アルコール中毒が原因であればアルコール中毒の治療施設にフォローを依頼する。
  1. ビグアナイド薬によるものならば糖尿病専門医、イソニアジド(イスコチン)、サニルブジン(ゼリット)が原因であれば感染症専門医にフォローの依頼および治療薬の変更を行う。
○ 上記のステップを参考にしながら治療と並行しながら評価を行う。
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
8)
9)
10)
11)
BNP[CLEIA]
12)
胸部X線

追加評価例
  1. 上記の評価にて鑑別疾患を絞った後で、追加でいくつかの検査を行う。
  1. 心不全を認める場合は、CKMB、心筋トロポニンT、心エコーを評価する。
  1. 肝不全を認める場合は、PT、APTT、アンモニア、HCV抗体、HBs抗原、A型肝炎抗体、腹部エコーを評価する。
  1. DICなどの多臓器不全を疑う場合はFDP、PT、APTT等を評価する。
  1. 低栄養を疑う場合は、ビタミンB1、ピルビン酸値を評価する。
  1. 敗血症など細菌感染症を疑う場合は、エンドトキシン定量、血液培養を評価する。
  1. 意識障害・けいれんを認める患者では、頭部CT・MRI、脳波を評価する。
  1. 低血糖・高血糖患者、アルコール中毒を認める患者では、血清ケトン体の分画を評価する。
○ 上記のステップに基づいて検査を追加する。
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
8)
9)
10)
11)
血液培養
12)
HCV抗体[CLEIA]
13)
HBs抗原[CLIA]
14)
15)
心エコー
16)
腹部エコー
17)
頭部CT・MRI
18)
脳波

治療例
  1. 乳酸アシドーシスを認める場合は、治療と原因評価をほぼ並行して行う必要がある。
  1. 低酸素血症を認める場合には酸素投与を、低血圧・ショックを認める場合は、点滴による治療を検討する。
  1. また、低栄養・アルコール中毒によるビタミンB1欠乏が疑われる患者にはビタミン剤の投与を行う。
  1. 心不全、循環不全、ショックの患者で、点滴による治療への反応が悪い場合はドパミン(イノバン)、ドブタミン(ドブトレックス)の投与を行う。
  1. 高血糖によるアシドーシスを認める場合にはインスリンによる加療を開始する。
  1. なお、アシドーシスの補正のためのメイロンの投与によって死亡率が低下したというエビデンスはなく、逆に、肺水腫、高浸透圧などを引き起こすことが知られている。したがって、メイロンは安易に使用せず、pH 7.1未満のときにpH 7.2~7.25程度を目標に投与することが薦められる。
○ 低酸素血症を認める場合には1)を行う。点滴としては、心原性以外の重篤でないショックを認める場合は2)を、心原性以外の重篤なショックを認める場合は3)を、心原性の重篤なショックを求める場合は4)を投与する。pH 7.1未満のときは5)を、低栄養・アルコール中毒によるビタミンB1欠乏が疑われる患者には6)+7)を、心不全、循環不全を認める患者には8)または9)を、高血糖を認める患者には10)を考慮する。
1)
酸素投与
2)
ヴィーンF輸液[500mL] 100~300mL/時 点滴静注
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薬理情報 電解質・輸液・栄養製剤 >輸液
要注意情報
腎注 肝可 不明 不明 児量無
3)
ヴィーンF輸液[500mL] 300~1,000mL/時 点滴静注
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薬理情報 電解質・輸液・栄養製剤 >輸液
要注意情報
腎注 肝可 不明 不明 児量無
4)
大塚糖液5%[5%500mL] 10~30mL/時 点滴静注
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薬理情報 電解質・輸液・栄養製剤 >ブドウ糖製剤
同効薬一覧
  • ブドウ糖,大塚糖液,大塚糖液など(ブドウ糖
要注意情報
腎注 肝可 不明 不明 児量[有]
5)
メイロン静注 [7%20mL] pH 7.2~7.25程度を目標にする。
7%メイロンの場合
必要量 (mL)=不足塩基量 (mEq/L) ×¼×体重 (kg) の50%をまず投与、その後、1時間ごとに検査し適宜追加投与
不足塩基量 (mEq/L)=体重 (kg)×0.5×(24-実測HCO3-値) [適用内/用量内/㊜乳酸アシドーシス](編集部注:想定する適用病名「乳酸アシドーシス」/2015年11月)
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薬理情報 電解質・輸液・栄養製剤 >炭酸水素ナトリウム
同効薬一覧
要注意情報
腎注 肝可 不明 不明 児量[有]
6)
メタボリンG注射液 50mg 30分かけて点滴 1時間後に検査し、pH、乳酸値の改善を認めるも、pH 7.35未満、血中乳酸値が5mmol/L (45mg/dL) 以上であれば、メタボリンG注射液100mgを追加投与。 エビデンス  エビデンス  エビデンス  [乳酸アシドーシスは適用外/他適用用量適宜増減2倍超/㊜ビタミンB1欠乏症]
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薬理情報 ビタミン製剤等 >ビタミンB1製剤
同効薬一覧
要注意情報
腎可 肝可 妊A 不明 児量無
7)
ビタメジン静注用 1バイアル+大塚生食注 [100mL] エビデンス  エビデンス  エビデンス 
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薬理情報 ビタミン製剤等 >複合ビタミン製剤
同効薬一覧
要注意情報
腎可 肝可 不明 不明 児量無
8)
イノバン注 [100mg] 3γから開始 エビデンス  [乳酸アシドーシスは適用外/他適用用量内/㊜急性循環不全]
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薬理情報 昇圧・心不全・冠動脈・末梢血管疾患薬 >カテコラミン
同効薬一覧
要注意情報
腎可 肝可 妊C 乳注 児量[有]
9)
ドブトレックス注射液 [100mg] 3γから開始 エビデンス  [乳酸アシドーシスは適用外/他適用用量内/㊜急性循環不全]
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薬理情報 昇圧・心不全・冠動脈・末梢血管疾患薬 >カテコラミン
同効薬一覧
要注意情報
腎可 肝可 妊B 乳注 児量[有]
10)
ヒューマリンR注 [100単位]  0.1単位/kg/時より開始 血糖値をみながら適宜投与量を調整。脱水・循環不全を認めれば静注、循環が保たれ、脱水がなければ皮下注も可 エビデンス  [乳酸アシドーシスは適用外/他適用別単位/㊜糖尿病]
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薬理情報 糖尿病治療薬 >インスリン
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要注意情報
腎注 肝注 妊B 乳可 児量[有]

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薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 片山志郎 以下、林太祐、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、
著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、エルゼビアジャパン編集部によって記載日時にレセプトチェックソフトなどで確認し作成しております。ただし、これらの記載は、実際の保険適用の査定において保険適用及び保険適用外と判断されることを保証するものではありません。また、検査薬、輸液、血液製剤、全身麻酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適用の記載の一部を割愛させていただいています。
(詳細はこちらを参照)

乳酸アシドーシスの診断・治療のアルゴリズム
ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬による乳酸アシドーシスを疑った場合のアルゴリズム
乳酸産生の代謝経路
著者校正/監修レビュー済
2017/04/27


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