今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 黒澤照喜 両国キッズクリニック

監修: 渡辺博 帝京大学老人保健センター

著者校正/監修レビュー済:2025/01/15
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 『熱中症診療ガイドライン 2024』を参照に、下記の点を加筆・修正した。
  1. 何らかの方法で熱中症患者の身体を冷却することを「Active Cooling」として包括的な記載に統一されたことを受けて、記載を修正した。
  1. これまでIII度としてきた重症群の中にさらに注意を要する最重症群があり、この最重症群を「IV度」として同定しActive Cooling を含めた集学的治療を早急に開始することが提唱された。また、表面体温だけでも迅速に対応するきっかけとなるような qIV度も併せて提唱された。これを踏まえて記載を修正した。
  1. 労作性熱中症に対してアイスバスが有効との記載があり、これを反映した(清水敬樹. 熱中症. 日本医事新報. 2021;5062:73-74.)。

概要・推奨   

  1. 熱中症の予防のために意図的な休息と水分補給をすべきである(推奨度1)
  1. 熱中症の予防のために暑さに身体を慣らすべきである(推奨度1)
  1. 熱中症の治療のために身体を冷却すべきである(推奨度1)
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病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 熱中症の診断基準は「暑熱環境に居る、あるいは居た後」の症状として、めまい、失神(立ちくらみ)、生あくび、大量の発汗、強い口渇感、筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)、頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、意識障害、痙攣、せん妄、小脳失調、高体温等の諸症状を呈するもの[1]である。
  1. 熱中症の病態は「熱そのものによる暑熱障害(以後暑熱障害)」と水分摂取不足や発汗過多による「脱水」に大別される。高体温の遷延による神経細胞障害に伴う「暑熱障害」は高体温の遷延による神経細胞障害、「脱水」は水分摂取不足や発汗過多による循環血液量減少による影響である[1][2]
  1. 温暖化、都市のヒートアイランド現象による症例の増加が予想される。日本救急医学会の提唱する熱中症分類I~IV度が一般的である[1]アルゴリズム 同時に労作性、非労作性の分類もすべきである。
 
日本救急医学会熱中症分類2024

  1. 「熱中症」は一連のスペクトラムであり、症状に固執して病状程度を過小評価してはならない。
  1. 暑熱環境に居る、あるいは居た後の体調不良はすべて熱中症の可能性がある。
  1. 各重症度における症状は、よく見られる症状であって、その重症度では必ずそれが起こる、あるいは起こらなければ別の重症度に分類されるというものではない。
  1. 熱中症の病態(重症度)は対処のタイミングや内容、患者側の条件により刻々変化する。特に意識障害の程度、体温(特に体表温)、発汗の程度などは、短時間で変化の程度が大きいので注意が必要である。
  1. そのため、予防が最も重要であることは論をまたないが、早期認識、早期治療で重症化を防げれば、死に至ることを回避できる。
 
参考文献:日本救急医学会編. 熱中症診療ガイドライン2015. https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/heatstroke2015.pdf (2024年10月閲覧) p7. を作図に参考

出典

日本救急医学会熱中症診療ガイドライン2024タスクフォース編. 熱中症診療ガイドライン 2024. https://www.jaam.jp/info/2024/files/20240725_2024.pdf(2024年10月閲覧) p7. より一部改変
 
  1. 子どもは成人と比べて、解剖学的・生理学的な要因により熱中症が重症化しやすく、特に乳幼児ではリスクが高い[3]。また、肥満や糖尿病もリスクとされている[4]
  1. 過度の運動や労作の継続、暑熱環境への長時間の曝露によって大量の発汗が生ずる。そこに電解質の少ない水分を補給することで低Na血症が生じ、筋肉の有痛性けいれん(いわゆる「こむら返り」)が起こる。また、末梢血管の拡張と血管内容積の減少から起立性低血圧(いわゆる立ちくらみ)の状態となる。さらに対応が遅れると、体温調節機構の破綻による高熱、高体温と循環不全から生ずる臓器障害、神経症状が生ずる。2023年夏季(5~9月)の全国における熱中症による救急搬送患者は91,467人であった。これは、これまで最多であった2018年の95,137人に迫る高い水準となっている[5]
  1. 2023年の救急搬送患者の年齢区分では、高齢者(満 65 歳以上)が最も多く 50,173 人(54.9%)、次いで成人(満 18 歳以上満 65 歳未満)30,910 人(33.8%)、少年(満7歳以上満 18 歳未満)9,583 人(10.5%)、乳幼児(生後 28 日以上満7歳未満)796 人(0.9%)の順であった[5]。2023年の初診時の重症度は軽症(外来診療)が最も多く 61,456 人(67.2%)、次いで中等症(入院診療)27,545 人(30.1%)、重症(長期入院)1,889 人(2.1%)、死亡 107 人(0.1%)の順であった[5]
  1. 新型コロナウイルス対策としてマスク着用が勧められているが、科学的知見が乏しいながらも熱中症をおこすリスクがある。2歳未満のマスク着用は控えること[6]、学校の体育や部活中にはマスクを外し十分なフィジカルディスタンスを確保すること、熱中症リスクが高い夏場においては、登下校時にマスクを外すよう指導するなど熱中症対策を優先しマスクの着用は必要ではない[7]とされている。
 
  1. 熱中症の予防のために意図的な休息と水分補給をすべきである(推奨度1JG)(参考文献:[8][9][10][11][12][13][14]
  1. 口渇を感じるときは脱水が相当進行している状態なので、口渇を感じる前に意図的に水分を摂るようにする。
  1. 経口補水液やスポーツドリンクなど、塩分を含むものを飲むようにする。身体負荷の重い作業では、作業前にコップ1~2杯、作業中は30分ごとにコップ半分~1杯、さらに作業後にも補給する。
  1. 喉の渇きに応じて適切な飲水ができる(自由飲水)能力を磨かせる。
  1. 子どもの顔色や汗のかき方を十分に観察し、熱中症を起こしかけているときには涼しい環境下で十分に休息させる。
  1. 暑さ指数(wet-bulb globe temperature、WBGT:湿球黒球温度)が28℃を超える環境下では、全身負荷のかかる作業は1時間以内とする。
  1. 高齢者に対しては、1日の食事以外の水分量をあらかじめ決めておき、定期的に飲ませる。
 
  1. 熱中症の予防のために暑さに身体を慣らすべきである(推奨度1G)(参考文献:[13][14][15][16]
  1. 汗の原料は血漿であるが、血漿が分泌管を通って皮膚表面に分泌される過程で電解質が再吸収される。暑熱環境に馴化していない者は、この再吸収が発汗に追いつかず塩分濃度の高い、ベトッとした汗をかく。暑熱馴化した者は、塩分濃度の低いさらっとした汗をかくため、塩分を失いにくく、比較的身体の不調を起こしにくい。
  1. 熱中症の発症は真夏ばかりでなく、梅雨の晴れ間、梅雨明け時の急に暑くなる時期に多い。また、暑熱環境下での作業開始後、熱中症の発症は初日に多く、最初の3日間で約2/3が発症しているという調査がある。
  1. 本格的な暑さ到来前の5~6月に「ややきつい」と感じる運動を30分程度、1~4週間実施するのが有効である。
  1. スポーツにおける熱中症は新入生や低学年に多い。また、運動に慣れていない者が冬の校内マラソンに厚着で参加して発症するケースもある。
 
  1. 熱中症発症のリスクとして、暑さ指数(WBGT)が有用である(推奨度1JG)(参考文献:[14][17][18][19]
  1. WBGT(wet-bulb globe temperature、湿球黒球温度)は、次の式で定義される。
  1. WBGT=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度
  1. 気温、相対湿度からWBGTを簡単に推定できる、日本生気象学会による図もある。
  1. 東京23区、名古屋市、新潟市、大阪府について、日最高気温別と日最高WBGTとの熱中症患者発生率を比較した研究がある。日最高気温では、30℃以上の温度帯で4都市の発生率に大きな違いがみられ、日最高WBGTが有用な指標となることが示された。
 
WBGTと気温、湿度との関係

WBGTは気温が低くても湿度が高ければ高値を示す。天気予報では気温と湿度が発表されるので、簡易にWBGTが推定できるように、気温、湿度とWBGTの関係を示す。

出典

日本生気象学会:日常生活における熱中症予防指針(Ver.3).日本生気象学会雑誌2013.50;49-50
問診・診察のポイント  
  1. まず病歴から本症を疑う。原因不明の意識障害のときは必ず鑑別診断の1つに挙げる。代表的な発生状況として、①スポーツ中の若年男女、②肉体労働中の中年男性、③日常生活中の高齢者の3つがある。①、②を労作性熱中症、③を非労作性熱中症という。後者のほうが、重症度が高い傾向にある。
  1. 問診内容としては、①様子がおかしくなるまでの状況(食事や飲水の摂取状況、活動場所や内容、服装)、②症状、③最近の状況(暑熱馴化できているか、体調)などを聴取する[14]
  1. 体温は、必ず深部体温を測定する。汗で濡れていると検温は不正確になる。搬送中に冷却されていることもあり、腋窩温だけでは病態を正確にあらわせない。小児の体温の正常値は36.5~37.5℃であり、37.5~37.9℃を微熱、38.0~38.9℃を中等熱、39℃以上を高熱とする。
  1. I度の熱中症(熱けいれん)は、腹痛、嘔気、嘔吐のほか、筋の痙縮、四肢の痛みなどがある。ときに一過性の立ちくらみを来す。体温は通常38℃以下である。
  1. II度の熱中症(熱疲労)は、全身倦怠感、頭痛、めまいなどを伴う。体温は40℃以下のことが多い。
  1. III度以上の熱中症(熱射病)は、高温多湿下の長時間かつ過度の運動、労作や、乳幼児の車内閉じ込め事故などで起こる。けいれん、昏睡などの中枢神経症状を来す。「受け答えがおかしい」「視線が合わない」「まっすぐ歩けない」などの症状は神経症状の出現と考え、速やかに集中治療が可能な施設へ搬送すべきである。

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熱中症(小児科)

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