蛋白漏出性胃腸症 :トップ    
監修: 上村直実 国立国際医療研究センター 国府台病院
篠村恭久 市立池田病院

概要

疾患のポイント:
  1. 蛋白漏出性胃腸症とは、消化管内腔へ蛋白が異常に漏出し、低蛋白血症や浮腫を来す症候群である。
 
診断:
  1. ポイント:
  1. 吸収不良症候群やネフローゼ症候群、慢性消耗性疾患などを除外し、α1アンチトリプシンクリアランス検査や蛋白漏出シンチグラフィなどを行って、蛋白漏出性胃腸症を診断する。
  1. 蛋白漏出性胃腸症の診断アルゴリズム:アルゴリズム
  1. α1アンチトリプシンクリアランス:
  1. α1アンチトリプシンクリアランスは以下で求められる。簡便法として、1回便を採取してα1アンチトリプシン濃度を測定する場合もある。
  1. α1アンチトリプシンクリアランス=V X F/P (正常値 13mL/日以下)
  1. V:糞便量 (mL/日)、F:糞便中のα1アンチトリプシン濃度(mg/mL)、P:血清中のα1アンチトリプシン濃度(mg/mL)
 
原因疾患の評価:
  1. ポイント:
  1. 蛋白漏出性胃腸症を来す種々の疾患があり、原因疾患の診断が必要である。漏出の機序には、リンパ系の異常、毛細血管の透過性亢進、胃腸粘膜上皮の異常などがある。蛋白漏出性胃腸症の原因となる心疾患、炎症性腸疾患、悪性腫瘍、膠原病、結核などの病歴の有無を問診で確かめる。また、蛋白漏出性胃腸症を来す代表的疾患に腸リンパ管拡張症やMénétrier病、Cronkhite-Canada症候群がある。α1アンチトリプシンクリアランス検査により蛋白漏出性胃腸症と診断された場合は、原因検索のために以下の検査を考慮する。
  1. 上部および下部消化管内視鏡検査:
  1. Crohn病や潰瘍性大腸炎、消化管腫瘍、Ménétrier病、Cronkhite-Canada症候群などの胃腸粘膜上皮の異常による疾患の鑑別には、消化管内視鏡検査が有用である。これらの疾患の多くは特徴的な内視鏡所見を呈する。消化管病変からの生検病理組織検査は確定診断に有用である。
  1. 消化管粘膜生検:
  1. 腸リンパ管拡張症やアミロイドーシスの診断には消化管粘膜生検が有用である。
  1. 血液検査:
  1. アレルギー性胃腸症や好酸球性胃腸症などのアレルギー疾患の診断には血液中の好酸球数やIgEの検査が、全身性エリテマトーデスなど膠原病では抗核抗体、抗DNA抗体など自己抗体の検査が有用である。
  1. 造影CT検査:
  1. 造影CT検査による胸水、腹水、腸管壁肥厚、リンパ節腫脹、血管閉塞の有無の評価は、原因疾患の鑑別に有用である。
  1. その他の検査:
  1. 収縮性心外膜炎やうっ血性心不全を疑う場合は、胸部X線、心電図、心超音波検査による評価を考慮する必要である。
 
重症度・予後: >詳細情報 
  1. 原因疾患により異なるが、低栄養状態が持続すると免疫能が低下し、感染症や悪性疾患にかかりやすくなる。
 
治療: >詳細情報 
  1. 蛋白漏出性胃腸症を来す原因疾患の治療を行う。
  1. 浮腫あるいは低蛋白血症が著明な場合には利尿薬やアルブミン製剤を投与する。
  1. 栄養障害が高度な症例には、経腸栄養や完全静脈栄養などの栄養療法を行う。
 
原因疾患の治療:
  1. 腸リンパ管拡張症:
  1. リンパ管の障害により腸管のリンパ流が停滞して腸管から蛋白が漏出する疾患で、先天性と後天性がある。
  1. 治療として、低脂肪食とし、中鎖脂肪酸(medium-chain triglyceride)を補充する。 エビデンス 
  1. Ménétrier病:
  1. 胃の巨大皺襞症と無酸症、胃からの蛋白漏出による低蛋白血症を呈する疾患で、小児ではサイトメガロウイルス感染、成人ではHelicobacter pyloriH. pylori)感染が病因に関与することが示されているが、原因不明のものもある。
  1. 治療として、H. pylori除菌あるいはプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor、PPI)を試みる。 エビデンス  エビデンス 
  1. Cronkhite-Canada症候群:
  1. 脱毛や爪の萎縮、皮膚色素沈着、下痢、消化管からの蛋白漏出による低蛋白血症を呈する原因不明の疾患である。
  1. 治療として、ステロイドの投与を試みる。 エビデンス 

手術・専門医相談のタイミング:
  1. 通常、内科的治療で効果がない場合に外科手術を考慮する。
  1. 収縮性心膜炎に伴う蛋白漏出性胃腸症では、心膜切除術を行う。 エビデンス 
 
臨床のポイント:
  1. 低蛋白血症の際には、ネフローゼ症候群など以外に本疾患を念頭に置く。
  1. 胃や腸管への蛋白漏出の診断には、α1アンチトリプシンクリアランス検査などが必要となる。
  1. 治療方針は原因および重篤度により異なる。

評価・治療の進め方

※選定されている評価・治療は一例です。症状・病態に応じて適宜変更してください。

診断のためのα1アンチトリプシンクリアランス検査方法
  1. 糞便を1日単位で3日間採取し、攪拌・希釈し遠心分離した上清と、蓄便中に採血した血清のα1アンチトリプシンを測定する。
  1. α1アンチトリプシンは酵素分解を受けずに糞便中に排泄されるため、腸管への蛋白漏出の証明に有用である。血清および糞便中のα1アンチトリプシンを測定して、クリアランスを算出する。
○ 胃や腸管への蛋白漏出の診断には、α1アンチトリプシンクリアランス検査が必要となる。
1)
便中α1アンチトリプシンクリアランス

Crohn病を診断するための評価例
  1. 消化管内視鏡検査や注腸X線造影検査、小腸X線造影検査、上部消化管内視鏡検査などを行って縦走潰瘍や敷石像など特徴的な所見を検索する。
  1. 消化管病変の生検材料を用いた病理組織検査で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を検索する。
  1. 便培養その他の検査で感染性腸炎を除外する。
○ 診断のために下記の検査を考慮する。
1)
下部消化管内視鏡検査
2)
注腸X線造影検査
3)
小腸X線造影検査
4)
カプセル内視鏡検査
5)
上部消化管内視鏡検査
6)
消化管病変の生検材料を用いた病理組織検査
7)
便培養

Ménétrier病を診断するための評価
  1. 胃内視鏡検査や胃X線検査で胃体部大彎を中心に蛇行した巨大皺襞を確認し、スキルス胃癌や胃悪性リンパ腫などの胃巨大皺襞を来す腫瘍性疾患を鑑別する。
  1. 胃病変部の生検材料を用いた病理組織検査を行い、腺窩上皮の過形成など本疾患に特徴的な所見を確認する。
  1. Helicobacter pylori (H. pylori )の検査により感染の有無を評価する。H. pylori検査には、培養法や組織鏡検法、迅速ウレアーゼ試験などの胃内視鏡生検材料を用いた検査と血清、尿中抗体測定法や尿素呼気試験などの胃内視鏡検査によらない検査がある。
○ 診断のために下記の検査1)と2), 3) を考慮する。ピロリ菌感染の判定には下記の検査4) と5) が頻用される。
1)
上部消化管内視鏡検査
2)
消化管病変の生検材料を用いた病理組織検査
3)
胃液pH測定
4)
胃生検材料を用いた迅速ウレアーゼ試験  エビデンス 
5)
13C尿素呼気試験

Cronkhite-Canada症候群を診断するための評価例
  1. 爪の萎縮や脱毛、皮膚色素沈着を確認し、症状がみられる場合は診断のために以下の検査を考慮する。
  1. 本症候群では、全消化管にポリープが発生し得るので、上部消化管内視鏡検査や下部消化管内視鏡検査、小腸カプセル内視鏡検査、小腸X線造影検査などを行い、全消化管の病変を評価する。
  1. 消化管病変の生検材料を用いた病理組織検査を行い、他のポリポーシス症候群や悪性腫瘍などの鑑別診断を行う。
○ 診断のために下記の検査を考慮する。
1)
上部消化管内視鏡検査
2)
下部消化管内視鏡検査
3)
カプセル内視鏡検査
4)
小腸X線造影検査
5)
消化管病変の生検材料を用いた病理組織検査

腸リンパ管拡張症を診断するための評価例
  1. 腸リンパ管拡張症などリンパ管の異常による蛋白漏出性胃腸症では、小腸粘膜生検によりリンパ管の拡張を証明することが診断に有用である。
  1. 血液検査によりリンパ球の減少の有無を評価する。
  1. 上部消化管内視鏡検査、下部消化管内視鏡検査、小腸カプセル内視鏡検査を行い、他の原因疾患の鑑別を行うとともに、腸リンパ管拡張症にみられるKerckring襞の肥厚や白斑の有無について評価する。
  1. 腹部造影CT検査を行い、腸管壁肥厚や腹水の有無を評価するとともに、血管の閉塞の有無を同定し腸間膜静脈血栓症との鑑別を行う。
○ 診断のために下記の検査を考慮する。
1)
小腸生検材料を用いた病理組織検査
2)
上部消化管内視鏡検査
3)
下部消化管内視鏡検査
4)
カプセル内視鏡検査
5)
CT造影検査

蛋白漏出性腸症を伴う膠原病を診断するための評価例
  1. 関節炎や顔面紅斑、皮膚硬化、筋力低下、目や口の乾燥症状の有無を確認し、症状がみられる場合には膠原病を診断するために以下の検査を考慮する。
  1. 血液検査により抗核抗体、抗2本鎖DNA抗体、抗SS-A抗体、抗SS-B抗体、抗U1RNP抗体などを評価する。
  1. 上部消化管内視鏡検査や下部消化管内視鏡検査、小腸カプセル内視鏡検査を行い、他の蛋白漏出性胃腸症の原因疾患を鑑別する。
  1. 胸腹部造影CT検査を施行して、腸管壁肥厚や胸水、腹水、リンパ節腫大の有無を評価する。
○ 診断のため下記の検査を考慮する。
1)
抗核抗体[FA] ,抗2本鎖DNA抗体, 抗SS-A/Ro抗体[ELISA], SS-B抗体, 抗U1RNP抗体
2)
上部消化管内視鏡検査
3)
下部消化管内視鏡検査
4)
カプセル内視鏡検査
5)
CT造影検査

蛋白漏出性胃腸症の栄養治療例
  1. 蛋白漏出性胃腸症の治療は、栄養障害に対する栄養治療と原因疾患の治療からなる。
  1. 栄養治療の基本は、低脂肪食である。
  1. 低脂肪食で栄養維持が困難な場合は、不足するカロリー量および栄養素を補うために経腸栄養剤を投与する。
  1. 腸リンパ管拡張症では、門脈を介して吸収される中鎖脂肪酸を投与する。
  1. 経口あるいは経腸による栄養維持が困難な場合には、不足するカロリー量および栄養素を静脈栄養により補う。静脈栄養には、末梢静脈栄養と中心静脈栄養がある。1,000kcal以上の静脈栄養が2週間以上必要と判断される場合には中心静脈栄養を行う。
  1. 浮腫が著明な場合には利尿薬やアルブミン製剤を考慮する。投与量の算定には計算式(必要投与量(g)= 期待上昇濃度(g/dL)× 循環血漿量(dL)×2.5)を用いる。このようにして得られたアルブミン量を患者の病状に応じて、通常2~3日で分割投与する。
○ 栄養障害の程度に応じて下記の治療を考慮する。
1)
食事指導(低脂肪食)
2)
エレンタール配合内用剤 通常、エレンタール配合内用剤80gを300mLとなるような割合で常水または微温湯に溶かし(1kcal/mL)、鼻腔ゾンデ、胃瘻、または腸瘻から、十二指腸あるいは空腸内に1日24時間持続的に注入する(注入速度は75~100mL/時間)。また、必要により本溶液を1回または数回に分けて経口投与もできる。標準量として成人1日480~640g(1,800~2,400kcal)を投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。  エビデンス 
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薬理情報 電解質・輸液・栄養製剤 >成分栄養剤
要注意情報
3)
ラコールNF配合経腸用液 標準量として1日1,200~2,000mL(1,200~2,000kcal)を経鼻チューブ、胃瘻または腸瘻より胃、十二指腸または空腸に1日12~24時間かけて投与する。投与速度は75~125mL/時間とする。経口摂取可能な場合は1日1回または数回に分けて経口投与することもできる。また、投与開始時は、1日当たり400mL(400kcal)を水で希釈(0.5kcal/mL程度)して、低速度(約100mL/時間以下)で投与し、臨床症状に注意しながら増量して3~7日で標準量に達するようにする。なお、年齢、体重、症状により投与量、投与濃度、投与速度を適宜増減する。  エビデンス 
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薬理情報 電解質・輸液・栄養製剤 >成分栄養剤
要注意情報
腎注 肝注 不明 不明 児量無
4)
フィジオゾール3号輸液[500mL] 通常成人、1回500~1,000mLを点滴静注する。投与速度は、通常成人ブドウ糖として1時間当たり0.5/kg体重以下とする。なお、年齢、症状、体重により適宜増減する。
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薬理情報 電解質・輸液・栄養製剤 >輸液
要注意情報
腎注 肝注 不明 不明 児量無
5)
フルカリック1号輸液[903mL] 通常、成人には1日1,806mLを24時間かけて中心静脈内に持続点滴注入する。なお、年齢、症状、体重により適宜増減する。
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薬理情報 電解質・輸液・栄養製剤 >高カロリー輸液
要注意情報
腎注 肝注 不明 不明 児量無
6)
献血アルブミン“化血研” [25%50mL] 1日20~50mLを緩徐に静注または点滴静注
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薬理情報 血液成分製剤 >血漿分画製剤
要注意情報
腎可 肝注 不明 不明 児量無

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薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 片山志郎 以下、林太祐、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、
著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、エルゼビアジャパン編集部によって記載日時にレセプトチェックソフトなどで確認し作成しております。ただし、これらの記載は、実際の保険適用の査定において保険適用及び保険適用外と判断されることを保証するものではありません。また、検査薬、輸液、血液製剤、全身麻酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適用の記載の一部を割愛させていただいています。
(詳細はこちらを参照)

蛋白漏出性胃腸症の診断アルゴリズム
著者校正/監修レビュー済
2016/12/28