今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 鎌田一宏 福島県立医科大学 会津医療センター 総合内科

監修: 山中克郎 諏訪中央病院 総合診療科

著者校正済:2024/12/25
現在監修レビュー中
参考ガイドライン:
  1. 日本消化管学会:便通異常症診療ガイドライン2023―慢性下痢症
  1. 米国家庭医療学会(AAFP):成人における慢性下痢症 (2020年)
  1. 米国消化器病学会(AGA):成人における機能性下痢症および下痢型過敏性腸症候群の検査評価に関する診療ガイドライン(2019年)
  1. 英国消化器病学会(BSG):成人慢性下痢症ガイドライン 第3版 (2018年)
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 上記参考ガイドライン、特に2023年に日本消化管学会より発行された『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性下痢症』をもとに、現在の臨床現場に即して内容を大幅に加筆・修正した。

概要・推奨   

  1. 慢性下痢症は、4週間以上続くまたは反復する、軟便あるいは水様便と定義される(G/J)。
  1. 慢性下痢症は便形状や病態、病因に基づいて、水様性(浸透圧性、分泌性)、脂肪性(消化不良性、吸収不良性)、血性・膿性(炎症性)に分類される(G/J)。
  1. 慢性下痢症はQOLや労働生産性を低下させる可能性がある(G/J)。
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定義・疫学など 

定義・疫学・病態・分類・予後  
定義:
  1. 慢性下痢症は、「下痢が4週間以上持続、または反復する病態」と定義される(G/J)[1][2]
  1. 下痢は「軟便あるいは水様便(Bristol Stool Form Scale 6または7)、かつ(3回/日以上に)排便回数が増加する状態」と定義され、排便頻度の増加のみでは下痢症とは診断しない(G/J)[1][3][4]、(Bristol Stool Form Scale 5を入れるガイドラインもある[3])。
  1. 慢性下痢症(狭義):機能性下痢症を日常臨床に即して拡大解釈したもの。日本消化管学会が定義している。具体的には、慢性下痢症のなかで、器質的疾患などの明らかな原因が除外された「機能性消化管疾患」のうち、積極的に下痢型過敏性腸症候群を含むものではないが、下痢型過敏性腸症候群と確定診断される前の患者や、経過中に下痢主体へ移行した下痢型過敏性腸症候群患者を含む(J)[1]
 
疫学:
  1. 海外の報告では有病率は 1.0~6.6%程度と報告されている[3][5][6][7][8]
  1. 日本人の慢性下痢症(狭義)の有病率は3~5%, 男性に多い傾向があると推定される(J)[1][9]
  1. 年齢と下痢の関係については、若年であることが慢性下痢症の危険因子のひとつである、とするわが国からの報告もある[9]一方で、高齢者であることが慢性下痢症と正の相関を示したとの報告もある[7][10]
 
病態:
  1. 慢性下痢症(狭義)に関する病態は明らかではない(J)。
  1. しかし慢性下痢症(狭義)と連続したスペクトラムと考えられる下痢型過敏性腸症候群については以下のような原因が知られている(J)[1][11][12]
  1. 水吸収機構の異常
  1. 腸管の微小炎症
  1. 粘膜のバリア機能の障害
  1. ホルモン・アミン・ペプチドの異常
  1. 胆汁酸の吸収障害
  1. 短鎖脂肪酸の異常
  1. 腸管運動の異常
  1. 食物成分の吸収障害
  1. 自律神経の異常
  1. 遺伝的要因
  1. 心理的異常
  1. うつ病や不安症は過敏性腸症候群発症のリスク要因である(O)[13][14]
  1. →なお過敏性腸症候群患者とうつ病患者の腸内細菌叢は類似しているとの報告もある(O)[7]
  1. 過敏性腸症候群患者において双極性障害の有病率が⾼い(S)[15]
  1. 過敏性腸症候群患者において睡眠障害を伴うことが多い(S)[16]
  1. 生活習慣
  1. 果糖が含まれるジュース、コーヒーやエナジードリンクなどのカフェイン⼊り飲料、キシリトールが含まれるガムや飴、FODMAPを含有する⾷品の過剰摂取は下痢を悪化させる原因になる[17][18][19]
  1. Fermentable(発酵性)、Oligosaccharides(オリゴ糖類)、Disaccharides (⼆糖類)、Monosaccharides(単糖類)、Polyols(ポリオール類)
  1. 逆に、低FODMAP食は、下痢型過敏性腸症候群患者の下痢症状を改善する(R)[20]
  1. 不規則な⾷習慣、運動不⾜が機能性下痢症と関連していたとの報告がある[21]一方で、喫煙や飲酒は機能性下痢症と有意な関連性はないとする報告もある[22]
  1. 腸内細菌の異常
  1. プロバイオティクスが下痢型過敏性腸症候群患者の便性状を改善させる(R)[23]
  1. 低 FODMAP⾷による下痢症状改善効果は治療前の腸内細菌叢によって異なる(R)[24]
  1. 下痢型過敏性腸症候群患者に対する糞便移植がその症状改善に有効である(S)[25]
 
分類:
  1. 慢性下痢症は便形状や病態、病因に基づいて、水様性(浸透圧性、分泌性)、脂肪性(消化不良性、吸収不良性)、血性・膿性(炎症性)に分類される(G/J)[1][8][26][27]
 
便性状による慢性下痢症の分類

(Schiller LR. Am J Gastroenterol 2018; 113: 660-669, Sandhu DK, Surawicz C. Curr Gastroenterol Rep 2012; 14: 421-427より作成)

出典

「日本消化管学会編:便通異常症診療ガイドライン2023―慢性下痢症, p.5, 2023, 南江堂」より許諾を得て転載.
 
  1. 日本消化管学会は、日常診療に即して慢性下痢症を以下の8つに分類している(J)[1]
  1. 1. 薬剤性、2. 食物起因性、3. 症候性(全身疾患性)、4. 感染性、5. 器質性(炎症性や腫瘍性)、6. 胆汁酸性、7. 機能性、8. 下痢型過敏性腸症候群
 
慢性下痢症の分類

出典

「日本消化管学会編:便通異常症診療ガイドライン2023―慢性下痢症, p.6 図1, 2023, 南江堂」より許諾を得て転載.
 
  1. 上表「慢性下痢症の分類」内の「注2)」について:Rome IV基準では機能性下痢症の診断基準として、腹痛を主症状とする下痢型過敏性腸症候群を除外しているが、機能性下痢症は下痢型過敏性腸症候群と連続したスペクトラムと考えられている[1][28]。したがって、日本消化管学会では日常診療に則して、慢性下痢症(狭義)を下痢型過敏性腸症候群と確定診断される前の患者や、経過中に下痢主体へ移行した下痢型過敏性腸症候群患者も含み、機能性下痢症を拡大解釈して定義している。
 
予後:
  1. 慢性下痢症はQOLや労働生産性を低下させる可能性がある(J)。
  1. 慢性下痢症患者の労働⽣産性は有意に低下し、特に急な便意や便失禁を伴う場合には、⾃信喪失や便失禁の恐怖から退職を余儀なくされる患者も多数存在することが明らかとなっている。その経済的損失は、⽶国消化器病学会の疾病負担調査では、年間少なくとも1億3,600万ドル以上であると⽰されている[6]
  1. 機能性下痢症患者は(下痢型過敏性腸症候群患者と⽐較して腹痛や下痢の重症度は低いにもかかわらず)1/3 以上が不安を感じ、1/5 もの患者がうつ症状と睡眠障害を訴えたと報告されている[29]
  1. 過敏性腸症候群患者は一般人と比較してQOLが低いことが示されている(O)[30][31]
 
  1. 慢性下痢症(狭義)が長期予後に影響を与えるとする明らかなエビデンスは認められないものの、十分な文献がないためその詳細は不明である(J)。
  1. しかし、下痢症状(⼤部分は急性下痢症であるが、⼀部、慢性下痢症が含む)に関連したhemolytic uremic syndrome(HUS)の⻑期経過を評価したメタアナリシスでは約12%の死亡が確認されている[32]
 

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鎌田一宏 : 特に申告事項無し[2024年]
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