胸水 :トップ    
監修: 杉山幸比古 練馬光が丘病院 呼吸器内科
山沢英明 国際医療福祉大病院 呼吸器内科

概要

疾患のポイント:
  1. 胸水とは、胸腔内に異常に多量の液体が貯留した状態である。胸水が貯留する機序には、①毛細管透過性の亢進②静水圧の上昇③膠質浸透圧の低下――が存在する。
 
緊急対応: >詳細情報 
  1. 患者が明らかに呼吸促迫状態であれば、適切な量の酸素投与を開始する。
 
症状治療・診断的治療: >詳細情報 
  1. 呼吸困難を訴える場合は、適切な量の酸素投与を開始する。
  1. 胸水が急速に・大量に貯留した場合には、呼吸困難と呼吸不全状態が出現する。このような場合には、胸腔穿刺をして性状を調べるとともに、胸腔ドレナージにより胸水を除去し呼吸状態の安定を図る。
  1. 胸水に対する治療は原因疾患に応じた治療が必要となるので、確実な原因究明が最も大切である。
  1. 悪性胸水における胸膜癒着術では、タルクをはじめとする癒着剤の使用が有用であり勧められる。 エビデンス 
 
原因疾患の評価:
  1. 胸水の原因疾患は多岐にわたるが、胸腔穿刺を行い胸水の性状を調べることで、原因疾患をある程度鑑別していくことができる。
  1. Lightの基準を用いて、胸水が漏出性か滲出性かの鑑別をする。
  1. Lightの基準:以下の3項目のうち少なくとも1項目を満たせば滲出性、いずれも満たさなければ漏出性と判断する。
  1. 胸水 TP/血清TP>0.5
  1. 胸水LDH/血清LDH>0.6
  1. 胸水LDHが血清LDH上限値の2/3以上
  1. “Two test rule” “Three test rule”はLightの基準と診断精度に差を認めない滲出性・漏出性胸水鑑別基準であり、血清と胸水中のTPまたはLDHの同時測定を必要としない。 エビデンス 
  1. 滲出性胸水と判断された場合には、性状についてさらに詳細な検査を行い鑑別する。
  1. 胸水中のADAの上昇は結核性胸膜炎の診断に有用である。インターフェロンγ (IFN-γ)値による判定・核酸増幅法も有用であり、検査の特性を踏まえて判断する。 エビデンス   エビデンス   エビデンス 
  1. 胸水の原因究明が困難な場合には、胸膜生検(経皮的・胸腔鏡下)を行い、悪性疾患や結核性胸膜炎の除外に努める。 エビデンス 
  1. 滲出性および漏出性胸水鑑別のアルゴリズム:アルゴリズム
  1. 滲出性胸水鑑別のアルゴリズム:アルゴリズム
 
鑑別疾患:(鑑別疾患のリスト: 鑑別疾患 )
  1. 下記の疾患が頻度高い疾患、重篤な疾患、まれな治療可能な疾患である。
  1. 漏出性胸水の頻度が高い原因疾患: >詳細情報 
  1. うっ血性心不全、ネフローゼ症候群
  1. 滲出性胸水の頻度が高い原因疾患: >詳細情報 
  1. 悪性腫瘍、肺炎随伴性胸水、結核性胸膜炎
  1. 重篤な疾患: >詳細情報 
  1. 膿胸、血胸、乳縻胸、肺血栓塞栓症、悪性胸膜中皮腫
  1. まれな疾患: >詳細情報 
  1. 膠原病、寄生虫感染、Meigs症候群
 
臨床のポイント:
  1. 胸水中の細胞分画で、おおよそのプロファイルが示される。
  1. 原因疾患の最終的確定診断には、胸腔鏡を用いた生検が有用である。

評価・治療の進め方

※選定されている評価・治療は一例です。症状・病態に応じて適宜変更してください。

初診時に胸水の原因疾患を鑑別するための検査
  1. Lightの基準を用いて、胸水が漏出性か滲出性かの鑑別をする。胸水の肉眼所見より血胸や乳縻胸を鑑別する。滲出性胸水と判断された場合には、さらに詳細な検査を行い鑑別する。
  1. 血液検査:総蛋白、LDH
  1. 胸水検査:蛋白、LDH、グルコース、pH、細胞分画、細胞診。想定される原因疾患に応じて、細菌検査(グラム染色、培養)、抗酸菌検査(塗抹・培養・PCR)、ADA、ヒアルロン酸などを追加する。
○ 心不全など明らかな原因疾患が存在する場合以外では、1)2)の血液検査と3)~7)の胸水ルーチン検査を行う。8)~11)は想定される原因疾患に応じて適宜追加する。
1)
2)
3)
胸水検査(蛋白、LDH)
4)
胸水検査(グルコース)
5)
胸水検査(pH)
6)
胸水検査(細胞分画)
7)
胸水検査(細胞診)
8)
胸水検査(グラム染色、培養)
9)
胸水検査(抗酸菌塗抹・培養・PCR)  エビデンス 
10)
胸水検査(ADA)  エビデンス 
11)
胸水検査(ヒアルロン酸)

漏出性胸水の追加評価例
  1. 胸水が漏出性と診断されれば、胸水の発生原因は胸膜病変によるものではない。うっ血性心不全、腎不全、ネフローゼ症候群、肝硬変などの原因疾患についての検査を行う。
○ 原因疾患として心不全を疑う場合1)4)、腎不全を疑う場合2)、肝硬変を疑う場合3)5)を追加する。
1)
BNP[CLEIA]
2)
3)
4)
心エコー
5)
腹部CT・腹部エコー

滲出性胸水の追加評価例
  1. 胸水が滲出性であれば、まず胸水細胞診を検査する。悪性疾患の場合は、細胞診が陽性となれば確定診断に至る。陽性率は腺癌では高いが、扁平上皮癌、悪性中皮腫、悪性リンパ腫、肉腫では低くなる。
  1. 胸水細胞診が陰性であれば、細胞分画に基づき評価する。好中球優位の場合は肺炎随伴性胸水、肺血栓塞栓症、消化器疾患などを疑い、喀痰・胸水細菌検査、腹部CT、胸部造影CTなどを必要に応じて検査する。
  1. リンパ球優位の場合は悪性胸水、結核性胸膜炎、肺血栓塞栓症などを疑う。結核性胸膜炎では胸水ADAの上昇が診断に有用である。
  1. 好酸球優位の場合は寄生虫疾患、気胸、良性石綿胸水、薬剤性胸水を疑う。
  1. 胸水の原因究明が困難な場合には、経皮的あるいは胸腔鏡下での胸膜生検を検討し、悪性疾患や結核性胸膜炎の除外に努める。
○ 滲出性胸水の場合、滲出性胸水鑑別のアルゴリズムに基づき下記の検査を追加する。
1)
胸水検査(アミラーゼ)
2)
腹部CT・腹部エコー
3)
胸部造影CT
4)
胸腔鏡検査  エビデンス 

血胸の追加評価例
  1. 胸水が肉眼的に血性であれば胸水中ヘマトクリットを測定する。胸水中ヘマトクリットは、胸水の肉眼所見から推測されるものよりしばしば低値である。
  1. 胸水ヘマトクリット値が1%以下の場合、胸水中に有意な血液成分はあるとはいえず、1%以上であれば、胸膜悪性疾患、肺血栓塞栓症、外傷による胸水の可能性が高い。
  1. 胸水/血液ヘマトクリット比が0.5以上であれば血胸と診断される。
1)
胸水検査(ヘマトクリット)

乳糜胸水の追加評価例
  1. 胸水が混濁あるいは乳白色の場合には、遠心後の上清における混濁の残存の有無をみる。
  1. 膿胸では混濁の原因は浮遊した白血球であるので、遠心後に上清は透明になる。乳糜胸あるいは偽性乳糜胸の場合は、遠心後も混濁したままである。
  1. 胸水中トリグリセリドが110mg/dL以上かつ胸水中コレステロールが血性コレステロールより低い、または胸水中カイロミクロンの存在が証明されれば診断できる。
  1. 胸水中のコレステロール値が250mg/dL以上の場合は、偽性乳糜胸を示唆する。
○ 1)2)を評価する。
1)
胸水検査(コレステロール)
2)
胸水検査(トリグリセリド)

胸膜癒着術の方法
  1. 胸膜癒着術の適応疾患は、悪性胸水が代表的である。乳縻胸、肝性胸水などの良性疾患でも、胸水が繰り返し貯留する場合には施行される場合がある。
  1. 胸腔内に投与される薬剤には、生体反応修飾物質(OK-432、タルク)や抗菌薬(ミノサイクリン)、抗癌薬(シスプラチン、ブレオマイシン)などがある。
  1. 16~28Frの胸腔ドレーン(ダブルルーメンカテーテルが望ましい)を挿入し、十分な胸腔ドレナージを行い肺を再膨張させる。1日排液量が200mL以下になっていることが望ましい。
  1. 疼痛を抑制する目的で1~2%キシロカイン5~10mLをあらかじめドレーンから胸腔内に投与し、その後薬剤を緩徐に注入する。
  1. 薬剤投与後ドレーンをクランプし、背臥位、左右側臥位、腹臥位など、約15分ごとに全体で約2時間の体位変換を行い、胸膜全体に薬剤が接触するようにする。その後、クランプを解除し-10~15cmH2Oで持続吸引を行う。
  1. 1日の胸水の排液量が100mL以下になれば胸腔ドレーンを抜去する。減少の程度が乏しければ数日間隔で薬剤投与を繰り返す。
○ 胸膜癒着剤として胸腔内に投与する場合、通常、下記のいずれか1つを用いる。
1)
ピシバニール注射用[5KE] 5~10KEを生理食塩水50~100mLで懸濁溶解し胸腔内投与  エビデンス  [用量内/㊜肺癌]
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薬理情報 抗癌薬・抗癌薬関連薬 >非特異的免疫賦活薬
要注意情報
腎注 肝可 不明 不明 児量無
2)
ミノマイシン点滴静注用[100mg] 200~300mgを生理食塩水50~100mLで溶解し胸腔内投与  エビデンス  [別単位/㊜肺炎]
薬剤情報を見る
薬理情報 抗菌薬 >抗菌薬(テトラサイクリン系)
同効薬一覧
要注意情報
腎注 肝注 妊D 乳注 児量無
3)
ユニタルク胸膜腔内注入用懸濁剤[4g] 4gを生理食塩水50mLで懸濁し胸膜内投与 [用量内/㊜癌性胸水]
薬剤情報を見る
薬理情報 呼吸器用治療薬(その他) >悪性胸水治療剤
同効薬一覧
  • ユニタルク胸膜腔内注入用懸濁剤4gなど(タルク
要注意情報
腎可 肝可 妊B 不明 児量無

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薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 片山志郎 以下、林太祐、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、
著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、エルゼビアジャパン編集部によって記載日時にレセプトチェックソフトなどで確認し作成しております。ただし、これらの記載は、実際の保険適用の査定において保険適用及び保険適用外と判断されることを保証するものではありません。また、検査薬、輸液、血液製剤、全身麻酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適用の記載の一部を割愛させていただいています。
(詳細はこちらを参照)

滲出性および漏出性胸水鑑別のアルゴリズム
滲出性胸水鑑別のアルゴリズム
正常状態における胸水のターンオーバー
悪性胸膜中皮腫患者の胸腔鏡所見
結核性胸膜炎患者の胸腔鏡所見
肺炎随伴性胸水のカテゴリー分類による予後不良リスク
うっ血性心不全による胸水
細菌性肺炎による肺炎随伴性胸水
原発性肺癌による癌性胸水
著者校正/監修レビュー済
2017/04/27

編集部編集コンテンツ:
 
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