今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 成瀬暢也 埼玉県立精神医療センター

監修: 上島国利 昭和大学

著者校正/監修レビュー済:2023/08/16
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1.  定期レビューを行った。

概要・推奨   

  1. 薬物依存の診断は、近年、世界保健機関(WHO)のICD-10や米国精神医学会のDSM-5を用いることが推奨されている。
  1. 依存の脳内の生物学的基盤についてはこれまでに色々な角度から解析されてきた。現在では脳内の報酬系に関与するドパミン神経系機能が最も注目を浴びている。ドパミン系と、他のオピオイド系、GABA系、グルタミン酸神経系などとの相互作用により依存が形成されるとする理論が提唱されている。
  1. 薬物依存に関連するわが国での取締りの法律は、薬物5法と毒物及び劇物取締法がある。それらに基づいて、医師の守秘義務の面と、公衆衛生上の面からの通報の必要性など個別の事例によって判断することが推奨される。覚せい剤については通報の義務はなく、医師の裁量に委ねられている。麻薬や大麻に関しては、法律上、「中毒者(慢性中毒者)」と診断された場合は各都道府県への届け出義務が課せられているが、使用がわかったからといって通報するものではなく、実際に届けられる例は極めて少数に限られている。
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病態・疫学・診察 

疾患情報  
ポイント:
  1. 薬物依存とは、「精神的・身体的に薬物がやめられなくなる状態」である。大半は好奇心から始まり、初期には快感や陶酔感を求めて使用するが、次第に離脱期の不快や社会生活上の破綻から逃避するために乱用するようになり、さらに強い渇望が加わってやめられなくなっていく。
  1. 診断にはICD-10の「依存症候群」やDSM-5 の「使用障害」の基準を用いる。種々の依存性薬物があるが、WHOのICD-10によると、「依存症」とは、「精神に作用する化学物質の摂取や、ある種の快感や高揚感を伴う特定の行為を繰り返し行った結果、それらの刺激を求める抑えがたい欲求が生じ、その刺激を追い求める行動が優位となり、その刺激がないと不快な精神的・身体的症状を生じる疾患」と定義されている。また、DSM-5では、「依存」「乱用」の文言は撤廃され、「使用障害」に統一された。また、ギャンブルなどのプロセス嗜癖(行動嗜癖)が使用障害と同じセクションに分類されることになったことが特筆される。
 
精神作用物質使用による精神および行動の異常の分類(ICD-10)

参考文献:World Health Organization: The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders. Clinical Descriptions and Diagnostic Guidelines. 1992.

出典

厚生労働省:第Ⅴ章 精神及び行動の障害(F00-F99),p14-15(一部改変)
 
  1. 依存には、精神依存と身体依存がある。すべての依存性薬物には精神依存がみられるが、身体依存を形成する(中止による離脱症状が発現する)薬物は、アルコールのほかに、アヘン類(モルヒネ、コデイン、ヘロインなど)、鎮静剤(ベンゾジアゼピン系の抗不安薬と睡眠剤など)が主なものである。これらはいずれも中枢神経抑制作用を持つ物質である。
  1. アルコールは精神および身体依存を呈する代表的な依存性薬物の1つであるが、本項ではアルコール以外の依存性薬物について述べる。
 
  1. 薬物依存の診断は、近年、世界保健機関(WHO)のICD-10や米国精神医学会のDSM-5を用いることが推奨されている。各国のデータを多文化間で統計比較する際にも有益であるためである。
  1. 薬物依存はICD-10(以下ICD)では、「精神作用性物質による行動の障害」とされ、DSM-5(以下DSM)では「物質依存関連障害」とまとめられている。ICDでは薬物依存はF1でコードされ、各種依存性薬物が次の下位コードに分類される。小数点以下では、急性中毒、有害な使用、離脱症状などに下位分類される[1]。DSMでは「物質関連障害及び嗜癖性障害群」に分類され、「物質関連障害群」は「物質使用障害群」と「物質誘発性障害群」に分けられている[2]。いずれも、依存性薬物としてアルコールが含まれているが、わが国での従来の慣習から、本項ではアルコール依存とそれ以外の薬物依存という観点で述べる。また、以前より用いられてきた「乱用(abuse)」は、DSMでは撤廃されて「使用障害」に「依存」とともに吸収され、ICDでは「有害な使用(harmful use)」と変更された。タバコ依存や有機溶剤依存は、ICDではタバコ、揮発性溶剤、DSMではニコチン、吸入剤と、それぞれ表現される。米国で多くみられるフェンシクリジン(PCP)依存はDSMにおいて単独で項目立てがなされている。ICD-10における依存症候群の診断基準を表に掲載する[3]
 
ICD-10による精神作用物質依存症候群の診断基準

出典

融 道男, 中根允文, 小見山 実, 岡崎祐士, 大久保善朗監訳:ICD-10精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版). 医学書院, 2005;87.
 
DSM-5による物質使用障害の診断基準

出典

高橋三郎,大野 裕監訳:DSM-5精神疾患の分類と診断の手引き. 医学書院, 2014;262.一部改変
 
  1. 依存の脳内の生物学的基盤についてはこれまでに色々な角度から解析されてきた。現在では脳内の報酬系に関与するドパミン神経系機能が最も注目を浴びている。ドパミン系と、他のオピオイド系、GABA系、グルタミン酸神経系などとの相互作用により依存が形成されるとする理論が提唱されている。
  1. 薬物依存の形成に関する神経生物学的基盤は、まだ不明の点も多いが、依存性薬物に共通の精神依存のメカニズムや、依存性薬物の長期使用によって脳内に器質的変化をもたらす神経毒性のメカニズムも検索されている。種々の依存性薬物は、それぞれの物質によって脳内における作用部位や作用機序を異にするが、共通している点もある。薬物依存は、その報酬効果に伴う強い動機づけとともに反復摂取することによって形成されていくが、それにはいずれも「脳内報酬系」が重要な役割を担っているということである。近年、神経画像研究やモデル動物を用いた行動薬理学的研究、分子生物学的研究によって、薬物依存に共通する神経生物学的基盤が徐々に明らかになってきており、アルコールや薬物依存のみならず、後述する病的賭博や過食症などの嗜癖行動障害においても脳内報酬系が関わっている可能性が示唆されている[4][5]
  1. 依存性の薬物は、いずれも依存症者に「快感」をもたらすという共通の特徴を持つ。脳内報酬系とは、欲求が満たされたときに活性化し、その個体に快の感覚(「快感」)を与える神経系のことである。アルコールや薬物は、脳内報酬系に対して直接的あるいは間接的に作用することで、短絡的にアルコールや薬物によってもたらされる高揚感や恍惚感といった「快感」をもたらす。これらの「快感」が条件づけ刺激となり、再び「同様の快感」を得たいという欲求が生じる。そして、「さらなる快感」を得るために同じ行為を繰り返し、ついには自己制御不可能の状態、すなわち依存症に陥ると考えられる。そしてこの快感を引き出すメカニズムが「脳内報酬系」である。
 
脳内報酬系と依存物質の作用部位

出典

編集部より作成
 
  1. 嗜癖行動障害の概念
  1. 近年、依存性薬物はもとより危険ドラッグ使用の報告が増えており、薬物の種類は確実に多様化し、併せて使用者の低年齢化も進んでいる。一方では、行動そのものへの依存とも考えられる食行動異常や自傷行為、虐待などが社会問題化するようになってきている。薬物やアルコールへの嗜癖(addiction)が物質嗜癖(substance addiction)といわれるのに対して、さまざまな行動への嗜癖はプロセス嗜癖(process addiction)と呼ばれる。このように社会や時代が依存(dependence)という概念に対して柔軟さを求めてきたことにも関連して、神経科学の領域だけでなく精神医学分野においても、嗜癖という用語が用いられる頻度が増えてきた。わが国に「嗜癖行動障害」の概念を取り入れた洲脇は、ICD-10の依存症候群ガイドラインのなかの「物質」という言葉を「行動」に置き換え、さらに身体依存と関係する項目、つまり離脱と耐性に関する項を省くことで、「嗜癖行動障害」の診断基準の案として提唱している[6]。嗜癖行動障害に位置づけられるものとして、ICD-10で分類される「衝動制御の障害」に分類される、賭博癖(病的賭博)、乱買癖に加え、過食症・窃盗癖・万引癖、過度の性行動、手首切傷、虐待(幼児、配偶者、老人)を挙げている。アルコール・薬物依存のみならず、嗜癖行動障害も脳内報酬系の異常に加えて衝動制御の障害の側面を併せ持ち、それぞれドパミンの機能亢進、セロトニン神経系の機能低下という精神薬理学的背景のあることも明らかとなってきている[7]。図に嗜癖行動障害の概念を示した。
 
嗜癖行動障害とそれに関連する精神障害との位置づけ

出典

編集部より作成
 
麻薬の定義・依存・離脱症状:
  1. 医学の分野で通常、麻薬の定義は、「麻薬及び向精神薬取締法」にて、麻薬として定められた物質である。具体的には、オピオイド(モルヒネ、ジアモルフィン[ヘロイン]、メチルモルヒネ[コデイン])、コカイン、合成麻薬(メチレンジオキシメタンフェタミン[MDMA]、リゼルグ酸ジエチルアミド[LSD]、4-メチルチオアンフェタミン[4MTA])、幻覚剤(マジックマッシュルーム、5-メトキシ-N、N-ジイソプロピルトリプタミン[5MeO-DIPT])、ケタミン、ジヒドロコデインなどが麻薬と呼ばれる物質である。
  1. なお、純度100%のジヒドロコデインやコデインは“麻薬”と判断されるが、含有量が1,000分の10(1%)以下の場合には、“家庭麻薬”と判断され「麻薬及び向精神薬取締法」の対象からは外れる。
  1. 日常用語では“麻薬”は定義が必ずしも明確でない場合もある。例として、オピオイドのことを麻薬と同義として用いることもあり、また、大麻(カンナビノイド)を含めて法律で規制されている薬剤そのものを呼称する言葉として用いられることがあるため、注意が必要である。
  1. LSDは、アシッド、ペーパー、タブレット、ドラゴンなどの別称が、MDMAはエクスタシーという別称が、コカインはコーク、コーラ、スノウ、ノーズキャンディなどの別称がある。また、ヘロインはモルヒネの一種で、物質名はジアセチルモルヒネであるが、別称としてスマック、ジャンク、ホース、ダスト、チャイナホワイトなどと呼ばれることもある。
  1. なお、アヘン(阿片)とは、ケシの実から生産され、モルヒネを含有する。したがって、モルヒネのことをアヘンアルカロイド(アヘンに含まれる天然由来の有機化合物の意)と呼ぶこともある。
  1. オピオイドは身体的・精神的依存を来す薬物である。また、オピオイド離脱症状として、下痢、鼻漏、発汗、身震いを含む自律神経症状と、中枢神経症状などが起こる。
 
覚せい剤の定義・依存・離脱症状:
  1. 覚せい剤の定義は、「覚せい剤取締法」にて、覚せい剤と定められた物質である。具体的には、アンフェタミン、メタアンフェタミンまたはこれらの誘導化学物質が覚せい剤と呼ばれる。俗称で、ヒロポン、アイス、ハーツ、ホワイト、スピード、エス、クリスタル、シャブなどと呼ばれることもある。
  1. 覚せい剤依存に関する診断・治療は、「アルコール・薬物関連障害の診断・治療ガイドライン」にまとめられており推奨される[8]。さらに、急性期や慢性期の病態についても、逆耐性現象や自然再燃(フラッシュバック)の観点からの詳細な研究がなされ、特徴的な病態、特に再燃機序の理解が推奨されている。覚せい剤の摂取時は、急性期症状として一過性の幻覚妄想症状が出現するが、反復投与により徐々に再燃準備性が高まり、中断後に少量の使用によっても幻覚妄想症状が発現する逆耐性現象といわれる症状が生じる。また、飲酒や疲労・不眠によっても自然再燃が生じる。さらに年単位の長期使用になると、幻覚妄想が持続していわゆる「(慢性)覚せい剤精神病」といわれる病態になり治療抵抗性となる[9]。この病態は統合失調症の妄想型に類似し、覚せい剤投与動物が統合失調症モデルとなり得ることも示された。
 
大麻の定義・依存・離脱症状:
  1. 通常、大麻とはマリファナのことを意味し、アサ科アサ属の植物を指す。特にアサ科アサ属の一部の品種が、陶酔作用を持つ「9-テトラヒドロカンナビノール(THC)」を含有することがあるため、日本においては、大麻取締法により、大麻の所持、栽培、譲渡などに関して規制がある。
  1. なお、日常用語で“麻”とは衣服などの繊維を示すが、第二次世界大戦の前まではカンナビノイドをほとんど含有しないアサ科アサ属の繊維を衣服などに用いていたことよりその名前が用いられている。ただし、現在日本はアサ科アサ属の直物の生育は規制されており、“麻”の名称で流通している繊維のほとんどは亜麻から作られたものでカンナビノイドを含有しない。
  1. なお、大麻(マリファナ)は呼称としてグラス、ポット、エース、ガンジャ、ハシッシュ、ブッダスティック、ハッパなどと呼ばれることもある。
  1. 精神的依存を来すが、身体依存を来すことは珍しい。
 
危険ドラッグの定義・依存・離脱症状:
  1. 「危険ドラッグ」とは、「麻薬や覚せい剤などの規制薬物の化学構造式の一部を変えることにより、法の規制を逃れる目的で製造・販売されている製品」を意味し、「合法ドラッグ」「脱法ハーブ」「脱法ドラッグ」「違法ドラッグ」とも呼ばれていた物質である。なお、「合法」とも呼称されていた理由は、以前麻薬や覚せい剤などのように法律で所持や使用を禁止されていなかったからである。ただし、これらの製品は、精神毒性や依存性が強く、薬事法などで製造、輸入、販売などが禁止され、保持、使用も規制されるようになった。今回、危険ドラッグとして出回った物質は、中枢神経抑制系の合成カンナビノイド、興奮系のカチノン系化合物に分けられるが、他にもさまざまなものが登場している。国が指定薬物として規制することにより、急激に危険で粗悪な物質に変化していった。販売されている物質は、数種類が混ぜ込まれていることが普通であり、抑制系と興奮系も同時に入っている。出現している症状を診て対症療法的に治療するしかない。
  1. 危険ドラッグには数多くの薬剤が含まれており、さまざまな問題を生じる。
  1. 東京都の危険ドラッグ対策
  1. 東京都知事指定薬物
  1. 薬事法指定薬物
 
有機溶剤の定義・依存・離脱症状:
  1. 有機溶剤とは、油やロウ、樹脂、ゴム、塗料など水に溶けないものを溶かす揮発しやすい有機化合物である。具体的にはシンナー(トルエン・キシレンの希釈物)、メタノール、トルエン、キシレン、ベンゼン、その他の各種脂肪族炭化水素などが有機溶剤と呼ばれる。
  1. 症状としては、急性期にはめまい、傾眠、不安定歩行、衝動性、興奮、易刺激性などで、その後、錯覚、幻覚、妄想が起こることがある。頻繁に使用すると、耐性と精神依存が生じるが、通常、離脱症候群はみられない。
 
有機溶剤曝露による症状

出典

柴田敬祐ら:有機溶剤依存の臨床.脳とこころのプライマリケア, 第8巻「依存」, シナジー, 2011; 342.
 
  1. 有機溶剤は揮発性のため、閉鎖空間で使用すると吸入による事故が生じることがある。また、誤飲時や胃洗浄時に誤嚥し激烈な化学性肺炎を引き起こすことがある。したがって、有機溶剤の誤飲時の胃洗浄は、誤嚥を誘発する可能性があるため原則禁忌である。
  1. これまで、有機溶剤をgateway drugとして、さらにハードな覚せい剤などへ移行していくケースも多くみられ、社会的・精神科医療的にも深刻な問題となっていた[10]が、現在、有機溶剤乱用者は激減している。急性症状として、知覚の異常を伴うため、LSD・マリファナなどの幻覚剤に類似し、物が大きくみえたり小さくみえたり(巨視、小視)、物の形が変わってみえる(変形視)と訴える。知覚異常として「体がフワーッと宙に浮く」といった身体浮遊感を認める。幻視は、色彩的でサイケデリックな内容が多く乱用者がみたい、体験したいと思う情景がみえる(夢想症)といわれる[11]
  1. 慢性的な有機溶剤吸引による性格変化として、徐々に集中力・判断力が低下し、無気力な状態になる。一方、不安・焦燥感も強くなり、これをまぎらわすためにさらに吸引を続けることになる。これらの積極性の欠如、無関心、感情の平板化、内向性、意欲の低下、集中力の欠如などを特徴とする「動因喪失症候群」については、元来マリファナの長期乱用者を対象にその性格変化として記載されたが、近年有機溶剤においてもこの症候群の概念が取り入れられている。
 
慢性有機溶剤依存患者のMRI T2強調画像

出典

福居顯二先生ご提供
 
  1. 有機溶剤精神病は、依存が長期化し乱用が数年にわたると、吸引をやめて体内に有機溶剤が残っていないにもかかわらず、意識清明下に幻覚や被害妄想を主体とした精神病症状がみられるものである。横断面での症状上では統合失調症との鑑別は困難であるが、有機溶剤精神病では感情反応が自然で疎通性の良好なケースが多いといわれる[12]
 
鎮静剤・依存・離脱症状:
  1. 鎮静薬とは、別名マイナートランキライザーとも呼ばれ、興奮性を減らすことによって鎮静をもたらす薬物である。日本にて一般的に利用される鎮静薬は、ベンゾジアゼピン系薬が中心で、チエノジアゼピン系薬(エチゾラムなど)も使われることが多い。非ベンゾジアゼピン系薬とされるゾルピデム、ゾピクロンなども作用機序はベンゾジアゼピン系薬と同様である。
  1. 臨床症状としては、鎮静、傾眠、転倒を伴う運動失調、錯乱、深睡眠、瞳孔縮小、呼吸抑制などを認める。定期的に摂取すると身体的・精神的依存が発生する。依存者は、不安・不眠、けいれんといった離脱症状を起こす。急な離脱が、致命的になることがある[13]
 
ベンゾジアゼピン系薬剤の離脱症状

出典

西村伊三男:抗不安薬・睡眠導入剤依存の治療. 依存症・衝動制御障害の治療, 専門医のための精神科臨床リュミエール26, 中山書店, 2011; 123.
 
  1. ベンゾジアゼピン系薬を長期摂取すると、ときに下肢の筋弛緩作用によるふらつきから高齢者の転倒・骨折や、中断時の離脱症状の発現をみる。また、身体依存まで形成されると耐性も生じ、1日量が増え、効果が切れると再服薬という悪循環から高用量に至るケースもみられる[14]
 
各薬物の依存性:
  1. 薬物依存症の可能性は、個々の物質ごとにそれぞれ異なる。摂取量、摂取頻度、物質、投与経路、薬物動態などが、薬物依存形成の要素である。
  1. 下記が、20の薬物についての身体的・社会的有害性、多幸感、精神的依存、身体的依存の尺度を0~3の範囲で示したものである。
 
20の薬物の薬物依存性の比較

20の薬物についての身体的依存、精神的依存、多幸感の尺度を0~3の範囲で示した。1.5 以上の値を赤く塗っている。

出典

David Nutt, Leslie A King, William Saulsbury, Colin Blakemore
Development of a rational scale to assess the harm of drugs of potential misuse.
Lancet. 2007 Mar 24;369(9566):1047-53. doi: 10.1016/S0140-6736(07)60464-4.
Abstract/Text Drug misuse and abuse are major health problems. Harmful drugs are regulated according to classification systems that purport to relate to the harms and risks of each drug. However, the methodology and processes underlying classification systems are generally neither specified nor transparent, which reduces confidence in their accuracy and undermines health education messages. We developed and explored the feasibility of the use of a nine-category matrix of harm, with an expert delphic procedure, to assess the harms of a range of illicit drugs in an evidence-based fashion. We also included five legal drugs of misuse (alcohol, khat, solvents, alkyl nitrites, and tobacco) and one that has since been classified (ketamine) for reference. The process proved practicable, and yielded roughly similar scores and rankings of drug harm when used by two separate groups of experts. The ranking of drugs produced by our assessment of harm differed from those used by current regulatory systems. Our methodology offers a systematic framework and process that could be used by national and international regulatory bodies to assess the harm of current and future drugs of abuse.

PMID 17382831
 
問診・診察のポイント  
(参考文献:[15]
  1. 薬物依存症では、気分の高揚・抑うつ、不安焦燥、幻覚妄想、精神運動興奮などの症状が、薬物の違いによって異なり、また同一の薬物でもその使用量や期間によって異なってくる。このためこれらの精神症状背景には、常に薬物による可能性が潜んでいることを念頭に置く。

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
成瀬暢也 : 特に申告事項無し[2025年]
監修:上島国利 : 特に申告事項無し[2024年]

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