今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 神田祥一郎 東京大学医学部附属病院 小児科

監修: 五十嵐隆 国立成育医療研究センター

著者校正/監修レビュー済:2025/02/26
参考ガイドライン:
  1. 一般社団法人日本間脳下垂体腫瘍学会バゾプレシン分泌過剰症(SIADH)の診断の手引き(平成22年度改訂)
  1. Clinical practice guideline on diagnosis and treatment of hyponatraemia. Nephrol Dial Transplant (2014) 29 (Suppl. 2)
  1. Diagnosis, Evaluation, and Treatment of Hyponatremia: Expert Panel Recommendations. Am J Med (2013) 126(Suppl 1)
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行った(変更なし)。

概要・推奨   

  1. 原疾患の治療を行う(推奨度1)
  1. 中等度または重度の低ナトリウム血症では、水分摂取を制限することを提案する(推奨度1)
  1. 急性、症候性の体液正常型低Na血症に対する治療において、高張食塩水投与が有効である(推奨度1)

病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. 抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone、ADH、またはarginine vasopressin、AVP)は、体内水分量の恒常性を保つための重要な働きを担うホルモンである。
  1. ADHは、血漿浸透圧の増加(浸透圧刺激)によって浸透圧受容器を介して下垂体後葉より分泌され、腎集合管に作用し水の再吸収を行う。
  1. ADHはまた、血圧低下・循環血液量の減少(非浸透圧刺激)によっても浸透圧受容器を介し分泌される。
  1. 抗利尿ホルモン不適切分泌症候群(syndrome of inappropriate secretion of ADH、SIADH)とは、ADHが恒常性を逸脱して分泌される状態のことである。
  1. ADHの作用亢進状態により水分が体内に貯留し、低浸透圧血症および希釈性低Na血症を来す。さらに循環血液量の増加による糸球体濾過の増加、レニン-アルドステロン系の抑制、心房性Na利尿ペプチドの分泌増加のため尿中Na排泄が促進され、低Na血症が進行する[1][2][3]
  1. SIADHは体液量正常型低Na血症の代表である[4]
  1. SIADHは、何らかの原因疾患(中枢神経系疾患、呼吸器系疾患、悪性腫瘍)や薬剤に由来して発症する[2][3][5][6]<図表>
  1. 小児においては中枢神経系疾患、呼吸器系疾患が問題となるだけでなく、敗血症、発熱、ストレス、疼痛、嘔吐などの血圧・有効循環血液量の低下を引き起こす病態が非浸透圧刺激となり、ADHを分泌させる(nonosmotic ADH stimuli)。これらの状態にある患児に、漫然と低張輸液を行うことによりSIADHを発症、あるいは増悪させる可能性がある(hospital-acquired hyponatremia)[7][8]
  1. 症状は、低Na血症の重症度、急性か慢性かに依存し、治療も希釈性低Na血症に対するものが柱となる。
 
  1. 小児における低張性維持輸液によるhospital-acquired hyponatremiaについて(推奨度1CS)
  1. まとめ:小児において、入院となり輸液を要する多くの疾患(肺炎、細気管支炎、喘息、中枢神経感染症、嘔吐、疼痛、ストレス、低酸素等)は、nonosmotic ADH stimuliによりSIADHの要因となりやすい。これらの患児に低張性維持輸液を行うことでhospital-acquired hyponatremiaを引き起こし、神経学的な予後不良の転帰となる報告が多くなされている[7][9][10]
  1. 代表事例の説明:これらに対し、小児入院患児の維持輸液を等張性輸液にすることでhospital-acquired hyponatremiaを予防すべきと提唱した。その後、維持輸液に等張性輸液を使用した数多くのランダム化試験や後方視的検討の報告がなされ、その有用性が示されている[9][11]
  1. 結論:Moritzらは、維持輸液に等張性輸液を使用することを提唱している[9][11]
  1. コメント:Moritzらは、以前より小児入院患児への低張性維持輸液によるhospital-acquired hyponatremiaを指摘し続けている。(医原性)SIADH(と脳障害)への進展の予防を考慮した輸液を行うことは、小児科臨床医にとって重要なことである。
問診・診察のポイント  
  1. ADHの分泌亢進が予測される病態や、脳症、髄膜炎の治療中に低Na血症を呈したときは、SIADHの可能性を念頭に置く。

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著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
神田祥一郎 : 特に申告事項無し[2024年]
監修:五十嵐隆 : 特に申告事項無し[2024年]

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SIADH(小児科)

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