今日の臨床サポート 今日の臨床サポート

著者: 堀内行雄 慶友整形外科病院

監修: 竹下克志 自治医科大学整形外科

著者校正/監修レビュー済:2024/09/18
患者向け説明資料

改訂のポイント:
  1. 定期レビューを行い、以下について加筆・修正した。
  1. 今までに25,000件以上のばね指腱鞘内注射をしてきたが、現在70歳の女性で多発性ばね指に3カ月以上の十分なインタ―バルを開けて何回か注射した患者が右中指の腱断裂を生じた。自験例では初めてであり、難治例では注射を繰り返さず、手術をすべきであることを強調した。
  1. エコーでの診断、エコー下での注射手技などは、ここでは省略している。
  1. 新たに典型的な症例と難渋の症例を追加した。

概要・推奨   

病態・疫学・診察 

疾患情報(疫学・病態)  
  1. ばね指・ドケルバン病とは、靱帯性腱鞘とそこを通過する腱との間のアンバランスによって生じる狭窄性腱鞘炎である。
  1. 狭窄性腱鞘炎のうち、手指の腱鞘炎で指の屈伸時にばね現象を生じるものをばね指と呼ぶ。ばね指は靱帯性腱鞘(A1プーリー)とそこを通過する屈筋腱との間で屈伸により繰り返す機械的刺激で生じる。
 
指屈筋腱の腱鞘(屈筋腱と指靱帯性腱鞘)

A:annular pulley(輪状滑車) C:cruciate pulley(十字滑車)は屈筋腱が浮かび上がらないために重要な役目をする靱帯性腱鞘で、屈筋腱と靱帯性腱鞘の間には、滑膜性腱鞘が存在する。
ばね指(腱鞘炎)になるのは、屈曲時に最も強い力がかかりやすいA1の中枢部である。

出典

著者提供
 
  1. ドケルバン病は、伸筋腱背側第1区画を通過する短母指伸筋腱と長母指外転筋腱の腱鞘炎である。ドケルバン病は、伸筋腱背側第1区画内に短母指伸筋腱と長母指外転筋腱の間に隔壁が存在すると狭窄性腱鞘炎を生じやすい。
  1. どちらも、女性に多く、妊娠・出産期に多くみられる。女性ホルモン(エストロゲン)が関係している。
  1. どちらも、性別に関係なく、使いすぎでも生じる。
  1. 多発性に生じるばね指は、糖尿病、関節リウマチ、透析患者に多い。ホルモンバランスの乱れにも注意。
 
  1. 指の屈筋腱靱帯性腱鞘の特徴
  1. 指の屈筋腱靱帯性腱鞘には、輪状になって腱の浮き上がりを防止しているannular pulleyとその間にあるcruciate pulleyがある。母指と2~5指の屈筋腱靱帯性腱鞘の構造は異なるが、いずれもMP関節掌側に位置し、指靱帯性腱鞘の最も近位にあるA1pulley(第1 annular pulley)の近位入口部が腱鞘炎(ばね指)の発症部位となる[1]。(<図表>
  1. 追記:手術時に腱鞘切開をするときは、A1pulley を切離した後に、その近位部のA0と呼ばれるpretendinous bandに注意する。術後の引っかかりの原因となることがある。
 
  1. 伸筋腱背側第1区画の解剖学的変異について
  1. 伸筋腱背側第1区画に解剖学的変異が存在することは少なくなく、特に短母指伸筋(EPB)腱と長母指外転筋(APL)腱の間に存在する隔壁が、ドケルバン病の主因であるEPB腱の狭窄を生じやすくし、治りにくくしている。(<図表>
  1. 著者[2][3][4][5]は日本人の解剖学的変異として、学生用解剖屍体を検索し、隔壁の有無を調査した結果、57%(100手中57手)に隔壁が存在したことから、生前の症状は不明であるが、無症状でもこの部分に隔壁が存在する人は半数以上いると考えられる。手術症例では、伸筋腱背側第1区画に隔壁が存在した症例が83%(60手中50手)にみられ圧倒的に多かった。
  1. 追記:ドケルバン病の診療上で、この解剖学的変異の知識はきわめて重要である。
 
伸筋腱背側第1区画の解剖学的変異(隔壁)

伸筋腱背側第1区画には、正常でも隔壁が存在することが多く、学生解剖学実習用のご遺体でも50%以上に隔壁が存在していた。ドケルバン病患者ではさらに高率に隔壁が存在するので、手術の際には隔壁の存在を念頭に置く必要がある。そのほかに長母指外転筋腱が数本に分かれていることが多く、短母指伸筋腱もまれではあるが、欠損などの変異もみられることがある。

出典

著者提供
問診・診察のポイント  
問診:
  1. 発症時期を確認する。

これより先の閲覧には個人契約のトライアルまたはお申込みが必要です。

最新のエビデンスに基づいた二次文献データベース「今日の臨床サポート」。
常時アップデートされており、最新のエビデンスを各分野のエキスパートが豊富な図表や処方・検査例を交えて分かりやすく解説。日常臨床で遭遇するほぼ全ての症状・疾患から薬剤・検査情報まで瞬時に検索可能です。

まずは15日間無料トライアル
本サイトの知的財産権は全てエルゼビアまたはコンテンツのライセンサーに帰属します。私的利用及び別途規定されている場合を除き、本サイトの利用はいかなる許諾を与えるものでもありません。 本サイト、そのコンテンツ、製品およびサービスのご利用は、お客様ご自身の責任において行ってください。本サイトの利用に基づくいかなる損害についても、エルゼビアは一切の責任及び賠償義務を負いません。 また、本サイトの利用を以て、本サイト利用者は、本サイトの利用に基づき第三者に生じるいかなる損害についても、エルゼビアを免責することに合意したことになります。  本サイトを利用される医学・医療提供者は、独自の臨床的判断を行使するべきです。本サイト利用者の判断においてリスクを正当なものとして受け入れる用意がない限り、コンテンツにおいて提案されている検査または処置がなされるべきではありません。 医学の急速な進歩に鑑み、エルゼビアは、本サイト利用者が診断方法および投与量について、独自に検証を行うことを推奨いたします。

文献 

Strickland JW: Flexor tendon-acute injury. Green et al ed. Green’s Operative Hand Surgery, 4th ed. Churchill Livingstone, New York Edinburgh London Philadelphia San Francisco, 1999;1853.
堀内行雄:茎状突起痛(de Quervain病). 整・災外 1987;30;1051-1056.
堀内行雄ほか:De Quervain病手術例の検討.整形外科 1989;40;199-203.
堀内行雄ほか:ドケルバン病の保存的療法.日手会誌 2005;22(3):180-183.
堀内行雄ほか:de Quervain 病の保存的療法.臨床整形外科2006;41(2):115-121.
Finkelstein H: Stenosing tendovaginitis at the radial styloid process. JBJS 1930;12:509-540.
堀内行雄:整形外科専門医を目指すケース・メソッド・アプローチ2 手の外科.日本医事新報社,1997; 89-98.
児島忠雄:de Quervain病の診断をめぐって.日手会誌 2004; 21(5): 681-685.
堀内行雄:腱鞘炎の診断・保存療法と手術のタイミング.金谷文則編.手の外科の要点と盲点.文光堂,2007:88-97.
野末 洋ほか:De Quervain氏狭窄性腱鞘炎の保存的療法について. 整形外科 1962; 13;212-216.
平沼 晃ほか:de Quervain氏狭窄性腱鞘炎の臨床症状と解剖学的変異. 整形外科 1979;30;1741-1743.
小林明正ほか:de Quervain病における隔壁の検討. 日手会誌 1999;16;347-349.
C B Schofield, N D Citron
The natural history of adult trigger thumb.
J Hand Surg Br. 1993 Apr;18(2):247-8.
Abstract/Text 30 consecutive adult patients presenting with trigger thumb (31 thumbs) were entered prospectively into a study to determine the natural history of the condition. Five patients insisted on treatment and could not be followed to resolution, but the rest resolved spontaneously after an average duration of symptoms of 6.8 months (range 2-15). There was a small but non-functional reduction in movement of the thumb in some of the patients: six lost an average of 7 degrees of abduction and ten had an average loss of opposition of 1.4 (Kapandji grade). The remaining patients made a full recovery.

PMID 8501386
Evans RB et al: Conservative treatment of the trigger finger; a new approach. Therapy 1998; 1:59-68.
堀内行雄:de Quervain病の診断・治療指針.中村耕三編.運動器診療 最新ガイドライン.総合医学社,2012;452-454.
堀内行雄:狭窄性腱鞘炎(ばね指)の保存療法.整形・災害外科 2006:49(5):481-486.
A Freiberg, R S Mulholland, R Levine
Nonoperative treatment of trigger fingers and thumbs.
J Hand Surg Am. 1989 May;14(3):553-8. doi: 10.1016/s0363-5023(89)80024-3.
Abstract/Text This article reports our experience with the management of 93 consecutive patients with 108 trigger digits initially treated by triamcinolone acetonide injections into the flexor tendon sheath. It appears that two distinct clinical types of trigger digits exist--nodular and diffuse. Ninety-three percent (63/68) success was obtained in the nodular type compared with 48% (10/33) in the diffuse type (p less than 0.05). We conclude that the patients with the nodular type should be offered a simple cortisone injection. Those patients seen initially with the diffuse type should probably be offered surgical decompression.

PMID 2738345
M R Marks, S F Gunther
Efficacy of cortisone injection in treatment of trigger fingers and thumbs.
J Hand Surg Am. 1989 Jul;14(4):722-7. doi: 10.1016/0363-5023(89)90199-8.
Abstract/Text One hundred eight trigger fingers and thumbs in 74 consecutive patients were treated by injections of triamcinalone and followed for an average of 3 1/2 years. Minimum follow-up was 1 year. Eighty four percent of trigger fingers and 92% of trigger thumbs were cured with a single injection, and a repeat injection for treatment of recurrent symptoms raised these figures to 91% and 97%, respectively. All injections were done by one physician. There were no complications. We conclude that intrasynovial injection of a steroid compound is the appropriate initial treatment for trigger fingers and thumbs.

PMID 2754207
内田 満ほか:トリアムシノロン注入によるばね指の治療と遠隔成績.形成外科 1992; 35:39-44.
内田 満ほか:ドケルバン病に対するステロイド剤注入療法の経験.日手会誌1996;12:822-825.
酒井直隆ほか:de Quervain病の選択的EPB腱腱鞘内注射による治療.日手会誌1999;16:358-360.
堀内行雄:15.de Quervain病の手術.石井清一ほか編.整形外科専門医をめざすための経験すべき手術28.メジカルビュー社,2001;106-111.
J S Taras, G J Iiams, M Gibbons, R W Culp
Flexor pollicis longus rupture in a trigger thumb: a case report.
J Hand Surg Am. 1995 Mar;20(2):276-7.
Abstract/Text
PMID 7775768
Brian T Fitzgerald, Eric P Hofmeister, Ryan A Fan, Michael A Thompson
Delayed flexor digitorum superficialis and profundus ruptures in a trigger finger after a steroid injection: a case report.
J Hand Surg Am. 2005 May;30(3):479-82. doi: 10.1016/j.jhsa.2004.10.011.
Abstract/Text We report a case of delayed rupture of the flexor digitorum superficialis and profundus tendons after the use of local corticosteroid injections for trigger finger. The treatment involved the exploration, debridement, and placement of a silicone rod for planned flexor digitorum profundus staged reconstruction.

PMID 15925155
日本手外科学会社会保険等委員会:「トリアムシノロンアセトニド(ケナコルト-A®)注射液の一時的供給停止が及ぼした医療経済的影響」調査.日手会誌 2010;27(2): 1-6.
堀内行雄:教育研修用ビデオ シリーズⅡ「22 ばね指、ドケルバン病の手術のコツ」.メディカルリサーチセンター.
堀内行雄:ばね指手術のコツ.山内裕雄,小野村敏信,小林晶編.整形外科治療のコツと落とし穴1 上肢.中山書店,1997; 229.
薬剤監修について:
オーダー内の薬剤用量は日本医科大学付属病院 薬剤部 部長 伊勢雄也 以下、渡邉裕次、井ノ口岳洋、梅田将光および日本医科大学多摩永山病院 副薬剤部長 林太祐による疑義照会のプロセスを実施、疑義照会の対象については著者の方による再確認を実施しております。
※薬剤中分類、用法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独自に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。
尚、用法は添付文書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※同効薬・小児・妊娠および授乳中の注意事項等は、海外の情報も掲載しており、日本の医療事情に適応しない場合があります。
※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、エルゼビアジャパン編集部によって記載日時にレセプトチェックソフトなどで確認し作成しております。ただし、これらの記載は、実際の保険適応の査定において保険適応及び保険適応外と判断されることを保証するものではありません。また、検査薬、輸液、血液製剤、全身麻酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適応の記載の一部を割愛させていただいています。
(詳細はこちらを参照)
著者のCOI(Conflicts of Interest)開示:
堀内行雄 : 特に申告事項無し[2024年]
監修:竹下克志 : 講演料(第一三共(株))[2024年]

ページ上部に戻る

手の腱鞘炎、ばね指、ドケルバン腱鞘炎

戻る